19億円はタバコを吸う人のため? 規制強化で新たな問題も
街中に喫煙所を設営する動きが加速している。3年間で、東京都千代田区は14億円超、大阪市では19億円超を投じるという。たばこ離れが進んでいるのに、なぜスモーカーの居場所をつくるのか。【宮城裕也】
路上に流れたスモーカー
千代田区は、全域が路上喫煙禁止区域となっているが、首都高速下の路上やコインパーキングで、紫煙をくゆらす人は少なくない。灰皿代わりに小さなバケツが置かれた区画や、吸い殻が地面に散乱している場所もある。
「たばこのポイ捨て禁止」との看板が設置されたコインパーキングで、吸い殻を回収していた清掃員の女性は「駐車場の隅など、物陰で吸う人をよく見かけます」とため息をついた。
たばこに関するルールは3年前、大きく変わった。
2020年、改正健康増進法が全面施行された。学校や病院、役所の敷地内のほか、100平方メートル以下の小規模店を除く飲食店や企業の事務所も原則禁煙となり、違反者には過料が科されるようになった。諸外国に比べて遅れているたばこ対策を、東京オリンピックを機に強化する狙いがあった。
法改正に加え、自治体も独自の規制を設けた。
東京都は店の規模に限らず従業員がいる飲食店を全面禁煙とした。都内の飲食店の84%は、店内で喫煙できなくなった。大阪府でも30平方メートル以上の飲食店は禁煙とするなど法律より厳しい措置を設けた。
このため、居場所を失ったスモーカーの一部が屋外で一服するようになった。だが、そもそも千代田区では21年も前から区内の路上全域を禁煙とし、違反者には2000円の過料を科している。
取り締まりが追いついていないのか。
そんな疑問に対し、千代田区安全生活課の担当者はこう解説する。
「条例が喫煙を禁じているのは、公道など公共の場所です。このため、規制の対象外となる私有地のコインパーキングなどでたばこを吸う人が増えています」
千代田区は昼夜の人口差が17倍
企業や省庁が集中し、他の自治体からの通勤者が多い千代田区は、昼夜間人口比率が日本で最も高い自治体だ。昼の人口は夜の17・54倍で、多くのビジネスパーソンがオフィス街を行き交う。
区には、ほぼ毎日、愛煙家から「吸う場所がないのに取り締まりだけを強化するなんてひどいじゃないか」との声が寄せられるという。担当者は「区内で勤務する喫煙者は多い。ある程度の喫煙場所を設けなければ、規制が及ばない場所で吸う人が出てくる」と話す。
このため、現在81カ所の喫煙所を100カ所に増やす予定だ。09年度から始めた取り組みで、24年度までの達成を目指している。法改正後の21、22、23年度予算では計14億3439万円を計上した。
不快に思った場所の7割は「路上」
厚生労働省の調査によると習慣的に喫煙している人の割合は、10年で6・7ポイント減少し、16・7%(19年時点)となっている。また、ほとんどの人はたばこの煙を疎ましく感じている。
22年11月に公表された内閣府の世論調査結果では、周囲のたばこの煙を「不快に思う」「どちらかといえば不快に思う」と答えた人は計83・3%にのぼった。そのうち不快に思った場所は「路上」との回答が70・2%で最も多かった。
たばこを吸う人と吸わない人は、どうすれば共存できるのか。この課題に加え、もう一つ、解決しなければならない問題もあらわになってきた。
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