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第74期王将戦

第74期ALSOK杯王将戦の特集ぺージです。タイトル戦で4度目の顔合わせとなる藤井王将と永瀬九段、2日制では初の対戦となります。

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敵は「常識」 羽生善治という勝負師 どん底を味わった天才のいま

インタビューで王将戦七番勝負を振り返る羽生善治九段=東京都渋谷区の将棋会館で2023年3月22日、丸山博撮影
インタビューで王将戦七番勝負を振り返る羽生善治九段=東京都渋谷区の将棋会館で2023年3月22日、丸山博撮影

 40年近い棋士生活の中で、初めてどん底を味わった。中学生でデビューした1985年度以来、年間成績で負け越したことはなかった。その勝負強さから「天才」とも呼ばれたが、2021年度は勝率が4割を割り込んだ。連続29期在籍していた名人戦A級順位戦でも負け越して降級の憂き目に。将棋界ではこんな言葉がささやかれた。「もうタイトル戦で彼を見ることは難しいのでは」と。

久々だった藤井王将とのタイトル戦

 羽生善治九段(52)。歴代トップとなるタイトル通算獲得99期という輝かしい成績を誇る。だが、21年度の結果は、全盛期からほど遠い成績となった。

 それでも終盤に強い「羽生マジック」はまだ失われていなかった。22年9~11月に行われた第72期ALSOK杯王将戦リーグで強豪棋士を次々と打ち破り、全勝で挑戦権を獲得したのだ。七番勝負で臨む相手は、それまでタイトル戦を11回戦い、全てを制してきた若き王者、藤井聡太王将(20)。新旧王者の対決――。将棋界を沸かすのに十分過ぎる構図となった。

 藤井さんへの挑戦が決まった時のことを羽生さんは振り返る。「『挑戦、おめでとうございます』と、多くの知人から言われたんですよ。今まではタイトルを取ってから『おめでとう』と言われることが多かったのですが、挑戦が入った言葉をこんなにたくさん言われたのは初めて。これから始まる、と考えれば本当におめでたいのかな」。時折笑みを浮かべながら、新たな戦いに一歩踏み出すのが楽しみで仕方がない、という表情を見せた。

 タイトル戦の舞台に上がるのは、藤井さんへの挑戦で138回目になる。直近では、豊島将之竜王(当時)に挑戦した20年10~12月の竜王戦七番勝負だった。これまでの経験を踏まえて羽生さんは語る。「過去にはかなりの局数のタイトル戦をやっていますけど、時間がたってしまうと、またやり直し。ちょっとでもタイトル戦の期間が空いてしまうと(勝つための)感覚的なものは忘れてしまうもの。それなので、また体に染みつかせていくことが必要かなと思っています」

絶やさぬ笑顔、続いた苦悩

 棋士という勝負師には寡黙というイメージがあるが「平成将棋界のレジェンド」と呼ばれるようになっても羽生さんのスタイルは変わらない。インタビューの受け答えは自然体で、笑顔を絶やさない。対局地に向かう道中では、同行する将棋関係者らと長時間談笑することもしばしばある。結婚前は、対局時の寝癖がトレードマークと話題になったこともあった。「気さくな人柄と、サービス精神を見せる棋士」。羽生さんをそう評する声は多い。

 そのイメージは大舞台を前にしても変わらないように見えた。金沢市の文化ホールで1月27日夜に行われた第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第3局の前夜祭。1勝1敗で迎えた対局前だが、羽生さんはいつもと変わらない笑顔を見せていた。少女から花束を贈られた時、羽生さんはかがんで少女の視線に合わせて「ありがとう」と伝えた。子どもたちと並んでの記念撮影では「もうちょっと前に出ようか」と優しく声を掛けた。神経が高ぶっているようなそぶりを全く見せず、終始リラックスしていた。

 ただ、羽生さんがタイトルへの挑戦権を獲得するまで苦悩してきたことは確かだ。近年、将棋界の常識が激変したことに原因の一端がある。AI(人工知能)が棋士をしのぐ実力を付け、トップ棋士はAIを活用した研究が欠かせなくなっている。それに伴い、これまで「筋が悪い」と指摘されていた指し方もAIが高く評価したことで取り入れる若手棋士が増えている。これまで培った常識が通用せず、羽生さんは若手棋士との対局であっさりと負けることが増えた。「私自身も今までと違ったことをやっていくことが必要だと感じています。でも、どうやっていくかをずっと模索し続けているのです」。そんな告白をしたこともある。

「AIが絶対」という常識を疑う

 羽生さんが復調した要因は何か。そ…

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