戦争は「男の顔」をしているか ウクライナ女性兵が注目される背景は
ロシアから侵攻を受けているウクライナで、国防に参加する女性が後を絶たず、欧米メディアに注目されている。また、民間女性が武装したロシア兵に立ち向かう動画がSNS(ネット交流サービス)で拡散されている。戦争で無視されがちだった女性の「語り」が、なぜ今回は人々に響いているのか。戦争史やパブリックヒストリーに詳しい東京女子大の柳原伸洋准教授は、個々の市民の顔が見える「戦争の個人化」という新しい潮流が生まれていると指摘する。その変化から見えるものは――。【日下部元美】
女性兵3万人以上、インスタで募集も
――なぜこれだけ多くのウクライナ人女性が国防に参加しているのでしょうか。
◆歴史的背景として、第二次世界大戦での経験が、ウクライナやバルト3国に強く影響を与えている。当時、ソ連では90万~100万ぐらい女性が前線で戦い、ウクライナはソ連側やナチス・ドイツ側、そして両者に抵抗するパルチザンでも戦い、それらに女性も参加・協力した。
また、社会主義や共産主義を掲げる国は、女性の社会参画を積極的に推進する。共産主義社会においては、労働に参加することが社会に参加することであるため、女性を労働に積極的に参加させるようにする。
冷戦時代においても、実態は別として、ソ連では男女の平等がうたわれた。社会参加における男女平等という文脈で防衛にも女性が積極的に参加するようになった。戦争の記念碑を建てる時に、旧共産圏は強靱(きょうじん)な男性の銅像と一緒に強靱な女性の姿を組み込む特徴からもそのことがわかる。
戦地における女性の役割については2000年の国連安全保障理事会で、戦争で最も犠牲になる女性と子供を保護するだけでなく、解決のプロセスに女性を参加させるべきだと明記した決議の採択があった。和平プロセスにおける女性の参加の意義を唱えたものだったが、ウクライナやバルト3国では、民間防衛に参加させることも戦争から女性を外さないことであるという流れができた。
こうした背景から今回、ウクライナの女性は、兵士や街で防衛するための装備を作るなどさまざまな形で戦争に参加している。
ウクライナ軍には3万人以上の女性が所属しているとされるが、女性兵士は二つの層に分かれている。一方は、職業軍人や徴兵された兵士。もう一つの層は民間レベルでの防衛だ。クリミア半島の強制編入があった14年以降、民間レベルでの武装化の動きが強まり、「ウクライナ女性防衛隊」といった民間部隊が結成された。同隊はインスタグラムで兵士を募集しており、市民が防衛に参加できる機会が身近にある。
「戦争の個人化」と「兵士の英雄化」
だが、問題点もある。民間防衛の講習会がメディアやネットで紹介される際に、地域の女性リーダー的な立場である女性が「朝は不安だった女性が講習を受け、1日で戦士の目になった」というようなストーリーが度々紹介されるようになった。「国のために戦う女性」として発信されている部分もあり、周りが理想とする姿を女性たちが表現しようとしている。英雄視される中で、自分自身も英雄的に語り始めるようになる「内面化」の動きが実際に生まれている。
――ウクライナの女性たちが侵攻に抵抗する姿がSNSで多く見られます。
今回は兵士として参加する女性だけでなく、暴力を伴わない女性の抵抗がSNSによって非常に可視化されている。市民一人一人の姿が見えるようになり、反響が広がっていることは注目すべき点だ。第二次大戦以降、一人一人の命が重いという価値観が深まり、「戦争の個人化」が進んだ。戦争というのは人の語りを覆いつくす。戦争の中にいる個人はさまざまな事情を抱え、多様な感情を抱いている。それはロシア兵も同様で、ロシア人、ウクライナ人もそれぞれの名前がある一人一人の人間だ。
戦争における「女の顔」とは
旧来の戦争の語りというのはそういった個人を消し、戦況や兵器の使用にまつわる情報、国家の事情を伝え続けた。15年にノーベル文学賞を受賞したジャーナリスト、スベトラーナ・アレクシエービッチ氏が書いた、第二次世界大戦中に従軍した旧ソ連の女性たちの証言集「戦争は女の顔をしていない」(初版1984年)という本がある。それまで焦点が当たっていなかった、女性の姿や語りがつづられている。
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