「おかねのけいさん」書かせる側にも不安 自治会役員「過剰防衛」の可能性 精神科医・片田珠美さん
知的・精神障害がある大阪市内の男性(当時36歳)が自治会の役員らに障害者であることを記した書面を書くよう強要され、自殺したとして、男性の両親が自治会と役員らを提訴した問題。専門家に具体例を紹介してもらい、背景を考えるシリーズ2回目は、男性が暮らしていた地域で診療経験のある精神科医、片田珠美さんに聞きました。【浦松丈二/統合デジタル取材センター】
自治会やPTA役員選びの典型例
「男性のような知的・精神障害者だけでなく誰にでも起きうる典型例です」と片田さんは切り出し、自殺した男性と大阪市内の同じ区の市営住宅に住む女性Bさんに実際に起きた事例を紹介してくれた。
<Bさんは、うつ状態で精神科に通院しており、症状はかなり回復していた。ところが、自治会の役員を押しつけられそうになり、その不安から夜眠れなくなってしまう。そこでどうすればいいかと主治医に相談をもちかけた>
彼女を診察した片田さんは「この女性のように自治会やPTAの役員を押しつけられそうになって、不安を感じる人は多いですね」と指摘する。自殺した男性の遺族によると、男性も障害を理由に班長のくじ引きから自分を外してもらうよう役員に頼み、その際、障害者であること、できること、できないことを書面に書かされ、他の住民にも書面を見せると説明されたという。書面にはこう書かれていた。
× おかねのけいさんはできません
× かんじやかたかなはにがてです
× ごみのぶんべつができません
片田さんは「平仮名の書面を見ると、知的レベルは小学校低学年ぐらいでしょうか。知的障害のある人も診察していますが、学校や職場では、ミスを繰り返し、作業も遅いため、いつもばかにされたり、怒鳴られたりする人が大半です。当然、人が怖くなりますよね。つらい経験から対人恐怖と被害妄想の二つの症状が出てくる人が多いですね」と指摘する。
男性の書面にある<ひとがたくさんいるとこわくてにげたくなります>や、書面を書いた後に男性が兄に話したとされる<さらし者にされる>という言葉からも二つの症状があることがうかがえるという。
役員たちにもプレッシャーが…
では、くじ引きから外してもらうよう男性に求められた役員側はどう対応すべきだったのか。
片田さんは「くじ引きから外すよう求めた男性に役員らは『特別扱いはできない』と断ったそうです…
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