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百姓の江戸時代/田中圭一

 江戸時代、百姓は武士に支配され、厳しい搾取にあっていた……というのが一般的なイメージだろう。だが、筆者がこの本で描いて見せた百姓像は全く異なるものだった。

 この本では主に幕府の直轄領であった佐渡の各村に残る資料を元に、権力者側からではなく、百姓の側から見た江戸時代の実情を書いている。それは、「厳しい身分制度に縛られ、お上にはさからわず生きてきた」なんてものではなかった。生産者として権力者側と渡り合い、理不尽な要求に対しては時には命がけで抗議する姿だ。

 例えば、江戸時代の租税法はその年の出来高を元に計算する検見制から、毎年一定額を徴収する定免制に切り替わるのだが、これはどうやら百姓側の希望によるものらしい。さらに、定免制に移る時に年貢額を決める際にも、幕府側は百姓側の意見を取り入れている。
 また、役人と名主との癒着を訴えて、勘定奉行を失脚させたり、名主の世襲制をやめさせたりと、政治的な要求をのませたりもしている。名主はもともと幕府が村の支配のために置いた存在のはずなのに、時代が下るに従って百姓側の利益の代弁者になってゆく。

 もちろん、これが幕府の直轄領という少し特殊な事情を持っていた地域の史料をもとにした話であることは気をつけないといけない。日本のすべてがこうであったとはすぐには言えないだろう。だけど、ただ支配されるだけの存在ではなかったとは言えそうだ。

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