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都市から見た人類『都市の誕生』

都市の誕生 人類は、都市から見ると面白い。

 都市は単なるインフラや建造物の集積ではなく、人間のもっとも偉大な創造物である。人類の営みを、都市という面から捉えると、多様でありながら普遍的で、変化しながら不変的な要素をもつことが分かる。あらゆる時代、あらゆる文化の都市のあいだに、類似したところを串刺しにする───これが本書の主旨。

 歴史や習慣、マネーや余暇、未来都市といったテーマに分かれ、文学や映画、美術などの多彩なジャンルを横断しながら、どこかの都市のガイドブックのように紹介している。都市のコアな部分を見せようとしつつ、文化による差異が顕われてしまうのが面白い。

 例えば、都市の「形」。生物のコロニーのような形状になると思いきや、根底の思想がヨーロッパと中国(と日本)で異なっていることに気づかされる。古来の世界観に基づき、宇宙を模した方形となっている中国の王城とは対照的に、限られた石材と煉瓦で内側の面積を最大するために円形なのがヨーロッパの古城になる。象徴性と実用性の重心が、都市の「形」に表われている。

 「理想的な都市」という斬口でも、さまざまなバリエーションが表れてくる。例えば、ル・コルビジェが影響を与えた大規模都市ブラジリアは、完全に計画された『輝く都市』になる。建造物は素晴らしいが、人々の生活と完全に分断されており、密集性やカオスが排除されている。究極のハコモノ都市やね。

 また、プラトン『国家』で描かれた「カリポリス」は、哲人王によって統治され、厳しい階級制度が敷かれた都市国家である。住民は徹底的に監視され、管理されている。思考実験としては理想的だが、住むのは御免被りたい。

 「壁を築いたとき、人間は初めて動物ではなくなった」「壁は最も偉大な発明かもしれない」この名台詞は、ザミャーチン『われら』にある。人は名前を持たず記号で呼ばれるディストピアで、緑色の壁は有害な俗世間から守っているのではなく、人々を無慈悲な独裁国家に閉じ込めている。「ムリヤリ天国を作ろうとすると、たいてい地獄ができあがる」という言葉は、社会制度のみならず都市計画にもあてはまりそう。

 都市生活の匿名性を語るとき、ポー『モルグ街の殺人』が紹介されているのが興味深い。殺人事件を通じて、共同体の匿名性を浮き彫りにしたうえ、パリという街を“バベル”として表現している。田舎からの逃げ場として、職にありつく機会やきらびやかな消費の舞台として、あるいは自己発見をする拠り所として都市は、「誰でもない自分=あたらしい自分」になれるのだ。

 また、「舞台としての都市」を広場という断面で見せている。天安門広場やカール=マルクス広場、そして最近ならタハリール広場まで目配りしているのも新しい。大規模なデモが行われ、アラブの春の舞台として民衆の力を再発見した場が「広場」になるのだ。

 さらに、世界中から人々を引きよせる、聖都としての役割も面白い。ヴァラナシ(ベナレス)やメッカ、そしてエルサレムといった大御所のなかで、京都がしっかりと紹介されている。日本人が思っているよりも、京都は(人類レベルで)重要らしい。

 都市の未来はどうなるか?「都市の死=廃墟」というテーマも惹かれる。ウルクやアテナイやモヘンジョダロといった古代のみならず、カート・ヴォネガット『スローターハウス5』で描いた空襲後のドレスデンや、ヒロシマとナガサキが紹介されている。爆撃による荒廃のみならず、アメリカ版アクロポリスとしての、デトロイトが廃墟の代表として挙げられている。未来の廃墟は、戦争ではなく経済によって引き起こされるのかも。

 未来の都市を描くには、SFの方が上手だ。以下の作品のみならず、多くの映画や小説を引きながら、ユートピアンな奴からディストピアンな都市が出てくる。

 『スター・ウォーズ』の空中都市クラウドシティ
 『マトリックス』の地下都市ザイオン
 『月は無慈悲な夜の女王』の月都市

 中でも強烈なのは、『ブレードランナー』の冒頭シーン、2019年のロサンゼルスは、都市の未来の代表例。スモッグに覆われ、金色の焔を上げる暗黒の未来像は、今でも印象に残っている。計画停電で暗い夕暮れ、放射能雨を気にしながら電子タバコをふかしつつ、携帯端末をチェックするという、ものすごくベタなSFの時代になったものよ。「ふたつで十分ですよ!」は、今や希少種のウナギになるかもしれない。

 都市は様々な民族を抱え込んだ世界の縮図、いわば世界村とも言える。チャイナタウンやゲットーという側面から見ると、都市の民族面が語れるし、ムンバイやスモーキー・マウンテンを挙げれば、スラムとしての都市がテーマになる。電力網や地下鉄、上下水道や光ファイバーケーブルといった、インフラ網から攻めるなら、そのまま衛生学の歴史、情報網の歴史、鉄道網の歴史になる。網羅性を目指す本書をとっかかりとして、自分で深堀りするのも面白い。

 様々な斬口から都市の発達と変遷を紹介しつつ、そのまま人類の集積を読み解くことになる。「都市は人をどのように変えてきたのか?」知的好奇心をたっぷり満足させるべし。

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コメント

某掲示板のこのコピペを思い出しましたw
<引用開始>
世界的に有名なメガロポリスの中心に神聖不可侵の巨大な森がある。  
その森にはその国の最高司祭が住んでいて、国民の安寧と安らぎを祈願している。  
司祭は同時に世界最古の王家の末裔であり、世界で唯一の皇帝でもある。  
伝説の3つの宝物は『神器』と呼ばれ、それぞれが霊的な古い聖所で固く守られ表にでることはない。
司祭の住む巨大都市そのものもその成立時において、  
何重にも念入りにある呪術者が守りを固めた人工魔法防御都市である。  
空前の規模で、もはやこれほどの術を施された街は術の発祥の国にさえないのだ。  
   
というファンタジーがこの国の21世紀のリアル。
<引用終了>  
2020年のオリンピックに向けてさらに東京は変化していくのでしょうね

投稿: ラッキーマン。 | 2013.10.14 18:23

It cannot be argued that wearing trackie bums and a tshirt is very comfortable but not a smart way of dressing. It was not until finally that time did we realize the charm of a we purchased the purse we wanted and went back again immediately to the campus. Practically every reliable brand name will be copied in the broad market place. Kurt Warner, Cardinals. I had lunch with a friend today who is from Sri Lanka. Kennedy), such as AThe Mella . The level of installation these spencer delivers, you might feel like it has been exclusively for the purpose of anyone.
ryzvii http://elmouwatane.com/archives/30779

投稿: ryzvii | 2013.10.15 18:41

>>ラッキーマン。さん

おお、懐かしい。この亜流を何度も目にしたことがあります。リアルでファンタジーを続けている「変態」が褒め言葉になる国なのですね。

投稿: Dain | 2013.10.16 08:12

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