子どもじゃなく大人が楽しむ「理科読をはじめよう」
「子どもの科学離れ」と言われているが、科学離れしてるのはオトナだよね?「理解できないもの=不必要なもの」と硬直思考→切捨てるシワケ人ならぬタワケ人がいるが、とうに不安を通り越している(だいじょうぶかニッポン)。とはいうものの、わたし自身が好む本は、小説をはじめとした、いわゆる「物語」だ。科学本やドキュメンタリーは、なかなか手を出さない。その影響か、わが子が手にするのは、「ゾロリ」「デルトラ」「サーティナイン・クルーズ」と見事なまでに物語ばかり。
これではいかんと思うのだが、何を読めばいいのやら皆目わからん。福音館書店の月刊「こどものとも」シリーズは素晴らしかった。ストーリー/サイエンス/ヴィジュアルとバランスの取れた配本をしていたので、大変ありがたかった―――のだが、いかんせん幼児・低学年向けなのだ。中高生になれば自分で選べる(選ぶ)ようになるだろうが、その橋渡しとなりたい。サイエンス本を読むという習慣がないままオトナになったら―――そう、わたしのようになってしまう。
そういうあがきの中で知ったのがこれ。学校の図書室や地域の図書館での「理科読み」の実践と経験が12の事例で紹介されている。はじめて出会う科学本の読み聞かせから、科学本を集団評価する試みや、「物語系の」サイエンス本を取り入れた授業など、豊富に紹介されている。その事例のなかで、わたし自身が気づかされることがあった。
たとえば、時間や日付がらせん状に進むという概念は、子どもになじみにくいということ。お昼寝から覚めて朝だと勘違いした子が、「空気には『きょう』って書いてない」と言った話は、わたしがあたりまえだと思っていた常識に揺さぶりをかける。確かに、空間ならば場所ごとに座標軸上のポイントが、地名や駅名としてある。しかし、時間にはないのだ。「5月26日」は何回も出現してきたが、2010年5月26日は一日きり。時計が円形をしているのも、わたしの「あたりまえ」を強固にしており、時間は一度きりしか「流れ」ないことを気づきにくくする。子どもがどのように世界を理解してゆくのかを、大人のわたしが識ることは、たのしいと同時に刺激になる。
別の事例として、図書室の調査で「どんなときに科学の本を借りているのか」の指摘は鋭い。いわゆる総合学習での調べ物や夏休みの自由研究のときに利用する場合が圧倒的だという。そのため、科学の本といえば、「実験や工作、飼育の手順が書いてある本」になってしまう。「科学の本=ハウツー本」という固定概念があることを懸念する。工作の体験も大切だが、因果関係を自分で考えることも重要なのだ。つまり、「なぜ」という疑問から出発し、理由を検証する方法を考えたり、結果から考察すること―――ストーリーが重要だという。
これは教科書にも現れている。日本の理科の教科書は薄い。その薄い教科書には、科学的事実がぎっしりと詰めこまれている。そのため、理科は、既に完成された法則を確かめる授業になってしまう。科学には新たな発見や発明をする余地がないように誤解されるというのだ。科学の歴史をひも解いてみれば分かる、科学とは、科学的事実が上書きされた積み重ねなのだ。アシモフを引くまでもない、科学における大発見の先触れとなる言葉は、「わかったぞ(エウレカ)!」ではなく、「こりゃおかしい……」なのだ。
この、教科書に欠けている「物語」の部分を補うのが科学読み物になる。ガリレイやニュートンなどの伝記を読ませてみよう(というか、わたしも読む)。本書では、「オックスフォード・サイエンス・ガイド」(ナイジェル・コールダー、築地書館)が紹介されている。現代人にとって必要な科学知識112項目が厳選され、誰が何を発見したか、その発見によりわたしたちの生活はどのように変化したかが書かれているそうな。さっそく読んでみる(中高生以上とあるので、与えるのはもう少し先になるが)。
ブックガイドとしても優れており、次はこのあたりをオススメしてみようと思う。というか、わたしも一緒に楽しみたい。納豆大好きっ子なので、「しょうたとなっとう」は鉄板やね。
幼児よみきかせ
「みんなうんち」(五味太郎、福音館書店)
「たんぽぽ」(平山和子、福音館書店)
「しょうたとなっとう」(星川ひろ子、ポプラ社)
小学生
「みずたまレンズ」(今森光彦、福音館書店)
「まほうのコップ」(藤田千枝、福音館書店)
「小さな小さなせかい」(かこさとし、偕成社)
「大きな大きなせかい」(かこさとし、偕成社)
「人体絵本」(ジュリアーノ・フォルナーリ、ポプラ社)
「科学あそび大図鑑」(津田妍子、大月書店)
中高生以上
「オックスフォード・サイエンス・ガイド」(ナイジェル・コールダー、築地書館)
「みんなうんち」は持っているが、再読み聞かせしよう。「みずたまレンズ」は一緒に読んだ記憶があるが、そこから実験へつなげる発想はなかった。p.43には、以下のような実験候補があげられている。参考にしよう。
- 水玉の作成・観察(もりあがる水の面を作る)
- 水玉越しの文字の見え方
- 5円玉の穴に水を入れる
- ビー玉の大中小(大きさによる見え方・倍率の違い)
- 水玉を動かして集光
- ピンホール顕微鏡
- ペットボトルの水レンズ
- 生物がもつ水をはじく性質(蝶の羽、サトイモの葉などの撥水性)
- 界面活性剤による水玉と比較
さらに、本書が縁で、すばらしいサイトを見つけたのでご紹介。宙読みの星空ブックフェアがそれで、宙読みは「そらよみ」と読む。世界天文年2009の企画で、全国の書店に専門コーナーを設け、良質の天体書籍を提供することを目的としている。リンク先にはプロフェッショナルが厳選した天文書が561冊紹介されている。本棚の一部はこんなカンジ……
「手作りロケット完全マニュアル」(久下洋一、誠文堂新光社)とか、「見えない宇宙」(ダン・フーパー、日経BP)、「宇宙ステーション入門」(東京大学出版会)など、読む前からスゴ本認定したくなるようなものばかり。腰すえて探してみよう。子どものためというよりも、自分のためになってしまったが、まぁいいか。
でもって、こっそり(堂々と?)種本を仕入れておくか→「スーパー理科事典」(受験研究社)これは読書猿さんとこの「理科:大人が本気でやり直すなら子供の本」で知ったもので、いまのわたしにちょうどいいかも。というのも、「火が"燃える"ってなに?」とか、「潮の満ち引きがあるのはどうして?」といった質問に、根源的なところで答えられていないから。酸化とか月の引力とかソレっぽいことで説明した気になっているけれど、かなりアヤシイ。学校の勉強のため、というよりも、好奇心を満たすためにやりなおそう。
| 固定リンク
コメント
うちの子(年長)は、今、ゾロリに夢中で、文系趣味なので、非常に興味深く読みました。
『しょうたとなっとう』はよくできた本でした。ただ、親が感心するのと子どもが喜ぶのはまた別なので、やはり子どものための本選びは難しいです。子どもに受けが良かったのは、数学関連だと、安野光雅さんの『はじめてであう すうがくの絵本』でしょうか。
赤木かん子さんの『自然とかがくの絵本 総解説』が、幼稚園~小学低学年までの科学本ガイドとしては、良さそうです。
投稿: pocari | 2010.05.28 01:18
初めてコメントいたします。私は逆に科学本・ドキュメンタリー・SFばかり読む方なので、こちらのおかげで知らなかった様々な本に出会うことができて感謝しています。
『スーパー理科事典』には私も1票です。これホントにおすすめです。種本ということでしたら、ほかにも板倉聖宣さんの『なぞとき物語』『科学はどのようにしてつくられてきたか』や、鈴木みそさんの『マンガ 物理に強くなる』あたりもいけてると思います。もうご存じかもしれませんが、未読でしたらおすすめです。
投稿: Y | 2010.05.28 22:13
>>pocari さん
やっぱりというか、学校の先生にとっての読書は、「物語」「小説」になるようです。朝読で理科本を開いていたら、「それは"読書"ではない」と指導されたエピソードが、「理科読をはじめよう」にあります。
「はじめてであう すうがくの絵本」は第一巻だけあります。「正解」がないので、親子でああでもないこうでもないと楽しく悩んでいます。
「自然とかがくの絵本 総解説」は、教えていただき大感謝です、まさにこんな本を探していたのです。読み聞かせは物語系ばかりだったので、これからはバリエーションが豊かになりそうです。
>>Y さん
ありがとうございます、「スーパー理科事典」は購入しました。これはすごいですね。調べ物のために開いたのに、次の項、次のページへと、ずーっと時間を忘れそうです(親が)。子どもウケは微妙で、「子供の科学」とあわせながら、好きなところをつまみ読みしています。
他のオススメもありがとうございます。わたし自身不勉強なので、子どもと一緒に楽しみながら読みますね。
投稿: Dain | 2010.05.29 10:24
補足というか訂正というか、前にあげたオススメ3冊はどれも対象年齢やや高めです…ちなみに私は公立学校の教師なんですが、昨年はじめて小学校勤務になったところなので、上で述べられている小学校の読書事情は日頃感じるそのままですね(それ以前は中学校の理科教師)
幸い現在の職場は、学校図書館の購入時に職員の意見を反映してくれるので、これからが勝負…という感じでしょうか。
またこちらで新しい本との出会いを楽しみにしています。
投稿: Y | 2010.05.29 11:30
>>Yさん
ありがとうございます、やはりそうでしたか……子どもが科学離れしているのではなく、大人がそうだからなのだと反省しているところです。まず、わたしが科学本を楽しんでみようかと考えています。「科学はどのようにしてつくられてきたか」が面白そうなので、早速図書館に予約を入れました。
投稿: Dain | 2010.05.30 12:06
理科の本もですが、歴史の本も大人になってから読むと面白いし勉強になりますよね。
宇宙の起源とかドキドキして読んでたなあ・・・
投稿: kkenji1 | 2010.05.30 19:30