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松岡正剛の読書術【入門】

多読術 中高生向けだが、セイゴオ・ワールドの入門書としてもうってつけ。

 タイトルに「多読術」とあるが、この「多」は本の量でも読書スピードでもない。本と向き合う姿勢が多種多様であるということ。巷に数多の多読・速読を誇る人とは完全に一線を画した松岡正剛(=セイゴオ)式読書術が明快に語られる。

 まず、読書はもっとカジュアルなものだと言い切る。別に崇高な営みでもなんでもなく、何かを着ることに似ているというのだ。「読書はファッション」という言い方もあるが、もっと日々の着るものに近いという。

 すると、面白い連想がうまれてくる。子供服、学生服、パンツもあれば、スーツもある。成長や好みに合わせて服を替えてきたし、身丈に合わないサイズに背伸びしたこともある。これを「着る=読む」に置き換えるのだ。さらに、服は必ず重ねて(組み合わせて)着ていることがポイント。同様に、本は一冊ずつ、一冊だけを読んでいるのではなく、合わせて/重ねて読めばいいという。

 そして、多様な読み方を提案している。読書中もギアチェンジするように、さまざまな読み方を試し、自分が読むときの「読中感」をイメージせよという。では、どれくらい多種多様なのか? 熟語的に言うならば、こんな感じになる。

    「感読」「耽読」「愛読」「敢読」
    「氾読」「食読」「録読」「味読」
    「雑読」「狭読」「乱読」「吟読」
    「攻読」「系読」「引読」「広読」
    「精読」「閑読」「蛮読」「散読」
    「粗読」「筋読」「熟読」「逆読」

――これらは、あくまで、とっかかりとしてのイメージ。ここから連想される「読み」を自分で感じ、その「感じ」に合うような読み方を探すのだという。「すごい読書」とはこういう読書のことを指すのだろうね。

 もっと具体的な「術」も紹介している。「千夜千冊虎の巻」と被るのだが、ここでも浚ってみよう。もっと詳しい解説は、「松岡正剛の読書術」をどうぞ。

  1. 目次読書法――必ずやるべき前戯。目次にはその本の最もよくできたアウトラインが示してある。目次をしっかり読んで、本の内容を想像する。そしてパラパラとめくり、想像と中身を照合する。
  2. マーキング読書法――本をノートとみなし、気づいたことや連想したことを書き込む。しかもそのノートは真っ白のままなのではなく、すでに(著者による)書き込みがしてあるノートなのだと考える。それを読みながら編集する、リデザインする。
  3. 読書は「自己編集」かつ「相互編集」――読書とは一種のコラボレーション。著者が書いたことを理解するためだけにあるのではなく、書いてあることと自分が感じることとが「まざる」ことが重要。
  4. 本は三冊読め――書物は書棚とワンセット。書物がメディアなら、書棚はメディアプレイヤー。本は三冊の並びでつながっている。書店で本を見るときも、めぼしい本が目に入ったら、その左右の一冊も見て計三冊にして、「三冊の並び」を感じてみる。
  5. 自己反映としての読書――免疫学によると、自己形成には一抹の「非自己」が関与していることから、ちょっとだけ「非自己」を入れてみる。つまり、「変な本」も混ぜた読書。これによって、「自己」という免疫システムを形成する。
  6. 読書の頂点「全集読書」――個人全集の場合、一人の著者がたくさんのさまざまな投球と球種を見せてくれる。どんな単行本を読むより、構造的な読書ができる。つまり、一人の著者ととことんつきあい、「密度」「集中力」「言語力」「思考力」がマッピングされる様子を連続的・立体的に見る。
 それでも、セイゴオ氏の新たな一面を知って愉快な気分になった。「読書は毒書、劇薬にもなる」という見方や、読書に効用や利便を追求する風潮にゲンナリしている様、さらには宵っぱりのヘヴィ・スモーカーであることも知った。
ぼくは活字中毒者で、かつ、断固たるタバコ中毒者です。いずれも一生、治らないビョーキでしょう。でも、これは治す気はまったくない。長年かけてせっかく身についた悪癖です(笑)。だいたい、本を読むときに一番タバコを喫ってますよ。
 深夜、独り、紫煙をくゆらせながらページに向かう… ううう、うらやましいぞ。わたしの場合、読書タイムは痛勤タイム。満員電車の天井に向かって読んでいる(唯一、混んでない空間だッ)。わたしが卒煙してずいぶんになるし、(周りを含めた)タバコの害悪はじゅうぶん承知いるつもり――だけど、それでも、「深夜・独り・紫煙」読書は、うらやましい。セイゴオ氏は、寝るのはAM3:00以降という生活を、30年間続けてきたのだという。ぜひ起床時刻を知りたいものだが、書いてなかった。

千夜千冊虎の巻 入門編とはいえ、松岡正剛の読書術、窓口広く、奥深し。応用編は「千夜千冊虎の巻」、こっちは本気モードだ。惹句の「この一冊で千冊が読める」はダテじゃないが、消化不良に気をつけて。

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コメント

>千夜千冊虎の巻
確かに良い意味で、「今」私は消化不良になっているんです。だって内容がすごすぎるゥ~。そりゃ正剛さんの全集を読みたくなりますが、図書館には無いですし、買うしかないのかも。あぁ~お金がない(汗)

「わかったふりをするのが一番つまらない読書法。読書はね、脱帽したり、投げとばされるのがいいんです。いや、読書で傷ついたほうが、世の中で他人に傷つけられたり、他人を傷つけたりしないかもしれない(千夜千冊虎の巻より)」

上記の言葉で私は救われたかも。このような目からウロコな名言も盛りだくさんの本なのです。

投稿: シュークリーム | 2009.04.29 08:24

>>シュークリームさん

「正剛さんの全集」って、本になった千夜千冊のことでしょうか?
だとすると、よほどの思い入れがない限り、避けたほうがよい気が…
同様の文章はネットで読めますし、なによりも「全集」ではないので。
千夜千冊は次のように蒸留化されています。

 千夜千冊(全7巻) → 千夜千冊 別巻 → 千夜千冊虎の巻

なので、虎の巻でアタリをつけて、「続きはウェブで」をオススメします。なお、図書館は地区をまたがってハシゴすると、ヒットするかもしれません。あるいは、他館から取り寄せてもらうとか。

投稿: Dain | 2009.05.01 01:05

今頃のコメントで申し訳ありません。
図書館にあるのがわかったので、じっくり待たされ読みました。そうしたら書き込みをしたくなる箇所がたくさんでてきたので、本日購入しました。セイゴウ氏のいうところの「本は再読」を楽しみたいと思います。次は千夜千冊をいつ借りるか時期を狙ってます。

投稿: ぺーすケ | 2009.08.17 17:39

>>ぺーすケさん

ああ、確かに書き込みしたくなる一冊ですよね。千夜千冊は別巻から読むといい感じかもしれません。

投稿: Dain | 2009.08.17 21:02

Dainさん
>>千夜千冊は別巻から読むといい感じかもしれません。
はい、そうするつもりです。図書館たのみはいつ借りれるかわかりませんので、またじっくり待つつもりです。その間はDainさんお勧めでまだ未読の本を読まさせていただきます。

投稿: ぺーすケ | 2009.08.18 11:32

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  松岡正剛 さんといえば言わずと知れた 「 千夜千冊 」 の管理人です。その松岡さんが本の味わい方について語った本が 『多読術』(ちくまプリマー新書) です。本書では読書術のことばかりではなく、松岡さんのこれまでの読書遍歴や「千夜千冊」の裏話、松...... [続きを読む]

受信: 2009.06.13 20:45

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