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「DS文学全集」レビュー

DS文学全集 ポケットに文学全集、こんなん欲しかった。

 類書、というか類ソフトはいくつか出ているが、これが決定版だな。いま夢野久作「少女地獄」が終わったところ。選書がいい感じなのと、Wi-Fiで新しい本をダウンロードできるところがツボ。

■1 操作性は良いが、満員電車に向かない

 このテの電子書籍は、おもちゃのようなガジェットが浮かんでは消えている。本書(というか、本ソフト)を読みながら、「買わなくてよかった」としみじみ。消えていったガジェット、いくつか店頭で試してみたことがあるが、「使うのにマニュアルが必要」というのが第一印象だった。

 ページをめくる、戻す、特定の箇所までパラパラ送る。今のページ数と、あと何ページあるかを見る。しおりをはさむ、しおりまでたどる。ただ本を読むのに、実にさまざまなことをやっている。

 DSでいいのは、こうした様々な操作を、タッチペンで直感的に扱えるところだろう。感覚的なスライド+タッチで全部まかなえる。もちろん、マニュアルは開いていない。

 ただ、わたしの読書タイムは混みあった電車で立った状態なので、十字キーだけで済ませている(あそこでタッチペン落としたら藁山に針になるし)。

■2 すいすい読める仕掛けいろいろ

 文字は大きめ(14ポイントぐらいかね)。持った形が文庫本のように読めるのはいいが、1ページの文量が少ないので、スラスラ読める。「これって速読?」「オレって天才?」感覚が味わえる。それこそ舐めるように読める。その分、ページ数がハンパじゃないけど。

 すいすい読みのために、「あらすじ」機能がある。全部の小説に、それぞれ「あらすじ」がついているので、横着者には読まずに済ますことも可能だ。この「あらすじ」、不要かと思うが、「ブンガク」のとっつきにくさを排して物語へ入るツールとしていいかもしれん。

 そのときの気分によってオススメを教えてくれる機能もある。いつ何を読むのかは勝手でしょ、と天邪鬼は思うのだが、いわゆる「初心者」がすいすい読むのに役に立つに違いない。

 BGMやページめくりの音、背表紙や表紙のグラフィックなど、細かいところに手を出している仕様は、人により評価が割れるだろう。わたしなんざ、「そんなデータより、もっと本を詰め込んでくれ」だね。

 Wi-Fiを使って読者ランキングやレビューに参加できる仕掛けも面白い。デスノートな「人間失格」(集英社)や、ハートカクテルな「虞美人草」(角川)など、若手を意識した表紙にすることで年齢層を押し下げるのと一緒やね。「日本文学ランキング」なら、カウントダウンTVが放っておかないだろう。

■3 二つの不満

 ラインナップ以外の不満は2つ。

 一つ目は、注釈が無いこと。読み慣れた作家ならともかく、明治の小説を初めて読むのであれば、(旧かな→新かな以外に)注釈が要るんじゃないかと。大銀杏は「いちょうの木」じゃないし、お歯黒は特定のステータスを指している。もちろん調べれば済むんだが、著作権がからむのでスルーしたんだろうね。

 二つ目は、残念なことにサイズ「小」で画数が多いと、文字がにじんでしまうこと。潰れてしまう、といったほうがいいかも。DS液晶の限界がここに。新潮文庫のクッキリとした印字が好きなわたしにこれはツラい。これは泡沫に消えていったガジェットや「モバイルPC+青空文庫」に軍配が上がる。

 この二つ目は、人によると致命的。昔の本のモノホンの活字が目に焼きつく感じが好きなので、液晶のぼんよりにじんだのが耐えられなかった。当然、読み方も変わる。一行一行を追うというよりも、液晶画「面」を舐めるような動かし方になる。同じ素材でも、調理が違うと受ける印象がガラリと変わる。たとえば、漱石の「猫」は、文庫、古書、復刻版と複数の調理で味わってきたけれど、液晶だとどう変わるか、期待半分、不安半分。

■4 きっとあなたもツッコミたくなるラインナップ

 いわゆる「定番」にとどまらない。「その作家で、あえて(?)そいつを持ってくるのかー」と思わず唸るセレクト。リスト眺めているだけでも愉しい。

 たとえば、鏡花なら「高野聖」がピカイチだろうが、究極の恋愛小説「外科室」が嬉しい。昨今のヌルい「もどき」が裸足で逃げ出すレベル。泣きたいときは芥川「奉教人の死」だし、怖がりたいなら八雲「耳なし芳一」よりも「鳥取のふとん」がガチなのにーと呟く。

 さらに、ずっと先送りしてきたのが「これでようやく読める!」と快哉あげたのもある。

 たとえば、安吾「桜の森の満開」が嬉しい。そういや、一葉「たけくらべ・にごりえ」は旧かなづかいにつっかえたなぁ、新美南吉「花のき村と盗人たち」、林芙美子「放浪記」なんて読んでなかったよ!葉山嘉樹や北條民雄になると誰? という感じ。

 いっぽうで、「なんでこれが入ってないの?」がある。

 たとえば、川端康成・谷崎潤一郎が一切ないのが解せん。太宰の最高傑作は「満願」なのに、入ってない!中島敦は全部入りだろ。漱石は「猫」と三部作で充分じゃね? その分、寺田寅彦と内田百間を入れろよ、賢治なら「グスコーブドリの伝記」と「春と修羅」は外せねぇぇぇ…、夢野は「少女地獄」よりも「瓶詰地獄」の方を読むべし、岡本かの子「老妓抄」を入れるなら、「金魚撩乱」は欲しい。乱歩が無い!乱歩はブンガクじゃぁねぇの? 夢野がよくて乱歩はダメなの?おかしくね? 尾崎翠、石川淳、稲垣足穂、幸田文、三島由紀夫、寺山修司が無いのはなんでじゃぁぁぁ!そういや「歌」がねぇじゃん!岡本かの子と正岡子規を入れているのに「歌」じゃないし、賢治「あめゆじゆとてちてけんじや」をもっぺん見たら絶対泣くのにー、そもそも石川啄木や与謝野晶子が無いぞ、詩歌はブンガクじゃないのかーッ!?

 はぁはぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ

 おそらく、「ブンガク」といっても古典を入れると膨大になるからパス、川端・谷崎の巨人を入れるとガチガチになるので(今回は)パス、底本が青空文庫という制約もあるだろうし、「定番中の定番」をあえて外した「あそび」も欲しい…と痛し痒しの中で選書したんだろうなぁ。

 では、DS文学全集のラインナップを、どぞー

  1. 羅生門 (芥川龍之介)
  2. 地獄変 (芥川龍之介)
  3. 奉教人の死 (芥川龍之介)
  4. 杜子春 (芥川龍之介)
  5. 藪の中 (芥川龍之介)
  6. トロッコ (芥川龍之介)
  7. 河童 (芥川龍之介)
  8. 或阿呆の一生 (芥川龍之介)
  9. カインの末裔 (有島武郎)
  10. 生まれいずる悩み (有島武郎)
  11. 或る女 (有島武郎)
  12. 外科室 (泉鏡花)
  13. 高野聖 (泉鏡花)
  14. 婦系図 (泉鏡花)
  15. 夜叉ヶ池 (泉鏡花)
  16. 野菊の墓 (伊藤左千夫)
  17. 蠅男 (海野十三)
  18. 東京要塞 (海野十三)
  19. 海底軍艦 (押川春浪)
  20. 老妓抄 (岡本かの子)
  21. 玉藻の前 (岡本綺堂)
  22. 金色夜叉 (尾崎紅葉)
  23. 夫婦善哉 (織田作之助)
  24. 死者の書 (折口信夫)
  25. 子をつれて (葛西善蔵)
  26. 檸檬 (梶井基次郎)
  27. 城のある町にて (梶井基次郎)
  28. 父帰る (菊池寛)
  29. 恩讐の彼方に (菊池寛)
  30. 藤十郎の恋 (菊池寛)
  31. 俊寛 (菊池寛)
  32. 「いき」の構造 (九鬼周造)
  33. 牛若と弁慶 (楠山正雄)
  34. 武蔵野 (国木田独歩)
  35. 牛肉と馬鈴薯 (国木田独歩)
  36. 出家とその弟子 (倉田百三)
  37. 耳無芳一の話 (小泉八雲)
  38. 五重塔 (幸田露伴)
  39. 無惨 (黒岩涙香)
  40. 蟹工船 (小林多喜二)
  41. 堕落論 (坂口安吾)
  42. 桜の森の満開の下 (坂口安吾)
  43. 夜明け前 (島崎藤村)
  44. 次郎物語 (下村湖人)
  45. 古事記物語 (鈴木三重吉)
  46. 瀧口入道 (高山樗牛)
  47. 日本三文オペラ (武田麟太郎)
  48. 富嶽百景 (太宰治)
  49. 走れメロス (太宰治)
  50. 斜陽 (太宰治)
  51. 人間失格 (太宰治)
  52. オリンポスの果実 (田中英光)
  53. 蒲団 (田山花袋)
  54. 黒髪 (近松秋江)
  55. 狂乱 (近松秋江)
  56. あらくれ (徳田秋声)
  57. 縮図 (徳田秋声)
  58. 不如帰 (徳富蘆花)
  59. 山月記 (中島敦)
  60. 李陵 (中島敦)
  61. 土 (長塚節)
  62. 吾輩は猫である (夏目漱石)
  63. 坊っちゃん (夏目漱石)
  64. 草枕 (夏目漱石)
  65. 三四郎 (夏目漱石)
  66. 門 (夏目漱石)
  67. 彼岸過迄 (夏目漱石)
  68. 行人 (夏目漱石)
  69. こころ (夏目漱石)
  70. 明暗 (夏目漱石)
  71. ごん狐 (新美南吉)
  72. 手袋を買いに (新美南吉)
  73. 花のき村と盗人たち (新美南吉)
  74. 新版 放浪記 (林芙美子)
  75. セメント樽の中の手紙 (葉山嘉樹)
  76. 夏の花 (原民喜)
  77. たけくらべ (樋口一葉)
  78. にごりえ (樋口一葉)
  79. 学問のすすめ (福沢諭吉)
  80. 浮雲 (二葉亭四迷)
  81. いのちの初夜 (北條民雄)
  82. 美しい村 (堀辰雄)
  83. 風立ちぬ (堀辰雄)
  84. 病牀六尺 (正岡子規)
  85. 注文の多い料理店 (宮沢賢治)
  86. オツベルと象 (宮沢賢治)
  87. よだかの星 (宮沢賢治)
  88. 風の又三郎 (宮沢賢治)
  89. 銀河鉄道の夜 (宮沢賢治)
  90. セロ弾きのゴーシュ (宮沢賢治)
  91. 伸子 (宮本百合子)
  92. ヰタ・セクスアリス (森鴎外)
  93. 雁 (森鴎外)
  94. 阿部一族 (森鴎外)
  95. 山椒大夫 (森鴎外)
  96. 最後の一句 (森鴎外)
  97. 高瀬舟 (森鴎外)
  98. 少女地獄 (夢野久作)
  99. 蠅 (横光利一)
  100. 機械 (横光利一)

     既読モノは再読したくなるやつ、未読モノは「おっ」というやつばかりでしょ? 「なんでコレがないんじゃー」という叫びは共咆しよう。

     上記がデフォルトで、現在のところ以下の作品がダウンロードできる(以下続々出てくる)。追加料金みたいなケチくさいことは無い。早速ダウンロードして、「半七捕物帳」にとりかかる。不思議だね、積読本があるのに、DS開いている俺ガイル…

  101. 半七捕物帳 一 (岡本綺堂)
  102. 赤外線男 (海野十三)
  103. デンマルク国の話 (内村鑑三)
  104. 夢十夜 (夏目漱石)
  105. 蜘蛛の糸 (芥川龍之介)

公式サイト : DS文学全集

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コメント

三島由紀夫さんや寺山修司さんなどは著作権がまだフリーになっていないから収録されていないのではないでしょうか。Wikiで調べたところ、収録されていないかたがたは亡くなってからまだ四十年経っていないくらいでしたから、あと10年くらいは無理かもしれません。

投稿: masato | 2007.10.25 00:29

DSを左手で縦持ちすると、ちょうど親指がRボタンの位置にくるので、
私はRボタンにページ送り機能を割り当てて読んでます。
するとタッチペンも十字ボタンもほとんど使わずにすむので、
片手でさくさく読めて便利だと思います。

投稿: shaw | 2007.10.25 01:03

> 川端康成・谷崎潤一郎が一切ないのが解せん。

これも著作権がまだ切れていない(死後50年経っていない:川端康成1972年没、谷崎潤一郎1965年没)からです。

もちろん任天堂であれば金を払って収録する手もあったんでしょうが、青空文庫と協力して出しているこのソフトのポリシー上、あえてそういうことはしなかったんだと思います。

投稿: yoosee | 2007.10.25 17:12

だってベストオブザベストで作っちゃったら、第二段が悲惨なものになるじゃんかよー。

投稿:   | 2007.10.26 00:07

>>masato さん

なるほどー、納得です…って、ナットクしちゃいけないんですけどね。「文学全集」を謳うなら、外せない作品があるんだろうけれど、底本が青空文庫ですからね…

「ネットの事情」を知らないと、似たような声があがるかもしれません。

>> shaw さん

Rボタンにページ送りを割り付けました… あら便利!左手で下からホールドするように持つと、ちょうど親指がRボタンにあたりますね。

いいこと教えていただきました、ありがとうございます。

>> yoosee さん

そ、それぐらい知ってるわよっ… でも、教えてくれてありがと…(///)

ツンデレ風に答えてみましたが、「文学全集」を名乗るなら、川端・谷崎は外せないでしょうに。「ネットの事情」はさておき、監修者にその矜持があるかどうか、期待するところ大です。

>> 名無しさん

 > ベストオブザベストで作っちゃったら、
 > 第二段が悲惨なものになるじゃんかよー

おおっ これは嬉しいことを。
…ということは、二匹目のドジョウを期待していいわけですね。

投稿: Dain | 2007.10.26 00:21

> 「文学全集」を名乗るなら、川端・谷崎は外せないでしょうに。

これには全く持って同意しますが、権利が切れてない本を十冊単位で入れた場合、この値段はありえなかったんじゃないかと思います。ネットの事情もですが値段の事情もあるんじゃないですかね。

今回これで「数が売れる」事が分かれば著作権使用料を下げる交渉も出来るかもしれませんから、次回はもしかしたら期待できるのかもしれません。半分願望ですけど。

投稿: yoosee | 2007.10.26 01:21

@niftyトップページ「旬の話題ブログ」コーナーにて、
本ページの記事を紹介させて頂きました。
紹介記事については、「旬の話題ブログ」バックナンバーで
半年間、ご覧いただけます。
ユーザーの意見として、是非、DSの関係者の方に
お知らせしたいですね!
きっとこれからの新しい企画に役に立てていただけると思います!
今後も旬な話題の記事を楽しみにしておりますので、
引き続き@niftyをご愛顧の程、よろしくお願い致します。
ありがとうございました。

        @nifty「旬の話題ブログ」スタッフ

投稿: 「旬の話題ブログ」スタッフ | 2007.10.26 11:34

>>yooseeさん

  > 権利が切れてない本を十冊単位で入れた場合、
  > この値段はありえなかったんじゃないかと思います

たしかにその通りですね。いくら充実させても、買ってもらえる価格でないと勝負にならないですから。かなり微妙なところで、本書(というかソフト)は成り立っているんですね…

次回に激しく期待します。

あるいは、このタッチペンインタフェースをオープン化し、ブログをDSで読む、という仕掛けができたら… (いかん妄想が暴走してる)

>> 「旬の話題ブログ」スタッフ さん

ご紹介、ありがとうございます
今後ともよろしくお願いします

投稿: Dain | 2007.10.26 23:00

面白いレビュー。真に参考になりました。
海野十三の蝿男と東京要塞というのも渋いところですよね。
次があるなら、火星兵団なども期待しています。

確かに、中島敦の名人伝、夏目の夢十夜なんかは温存している感じですね。

投稿: Debu@Jun | 2007.10.26 23:52

>> Debu@Jun さん

オススメありがとうございます。

「蝿男」はこれで初めて読みました。乱歩「緑衣の鬼」を思い出して大興奮でした。「東京要塞」は激しく期待して読みます。
「夢十夜」は追加ダウンロードで入っています。「名人伝」もきっと…

投稿: Dain | 2007.10.27 22:00

たしかに満員電車で大変苦労しましたw
最近、携帯でここ読んでいます。
携帯でたて読みできるのは満員電車でもgoo!
VGA液晶だと綺麗です。
http://gifbunko.com
DS文学全集は家でゆっくりと愛用していますw
まだ15冊ほど未読なのではやくコンプリートしたいです・・(エンディングがあるのかなぁ?)w

投稿: いっちー♪ | 2008.03.31 22:18

>> いっちー♪ さん

わたしの場合、漱石の「猫」でとまっています
コンプリートまではまだ遠いですな
「しおり」ではなく「ふせん」を貼りたい今日この頃…

投稿: Dain | 2008.04.01 01:28

まったく貴殿の仰られるとうりで、谷崎潤一郎が無いのには愕然としましたが、他も十二分に愉しめるので悪いとは言えませんが…
痴人の愛とか春琴妙は入れて欲しかったです…

投稿: かすていりゃ | 2009.03.04 15:14

>>かすていりゃさん

著作権がからむと、やっかいですものね。
「痴人の愛とか春琴妙」は激しく同意。

投稿: Dain | 2009.03.04 23:09

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