Satoko Fujii(藤井郷子) / Bell the Cat!
Label: ONOFF (Tokuma Japan Communications)
Rec. Date: Sept. 2001
Personnel: Satoko Fujii (p), Mark Dresser (b), Jim Black (ds)

1. Silence
2. Get Along Well With...
3. Slowly and Slowly
4. Confluence
5. Foot Step
6. Bell the Cat!
7. Champloo
藤井郷子は、私とジャスト同年代(1958年)、同郷(東京)のピアニストです。
本作は、彼女が1990年代後半から2000年代にかけてベースのMark Dresser、贔屓のドラマーJim Blackと組んだNew York Trioによるアルバムのうちの一枚です。New York Trio絡みのアルバムは、本作を含めて以下の9枚が発表されています。(カッコ内は録音年)
①Looking Out of the Window(1997)
②Kitsune-Bi(1998)
③Toward, "To West"(1998)
④Junction(2000)
⑤本作(2001)
⑥Illusion Suite(2003)
⑦Live in Japan 2004(2004)
⑧When We were There(2005)
⑨Trace a River(2006, 2007)
②は全9曲のうち3曲がこのトリオによる演奏、また④、⑦、⑧には藤井郷子の夫君のトランペット奏者田村夏樹が参加しています。
本作が上記9枚の中で最も優れているということでは必ずしもありませんが、田村夏樹のラッパが入るトラックは、演奏の「密度」みたいなものが若干低下するような気もしますし、ひとまず代表選手ということでこの「Bell the Cat!」を取り上げることとしました。
なお本作は、あの9.11の約2週間後に当地NYで録音されたものです。レンジが広く音像のバランスも良い見事な録音で、たしか国内のオーディオ雑誌の年間優秀録音になったと記憶しています。
このNew York Trioは、ピアノトリオというフォーマットとしては、私の好みのど真ん中のサウンドです。もちろんピアニストが充分に魅力的であるという前提ですが、トリオとして三者が対等のポジションで一体化している演奏であり、何よりもトリオを鼓舞するドラムが鋭いということです。
Jim Blackは、常人(普通のドラマー)では絶対に刻まないヤケクソで引っぱたいているようにも聴こえる「クレイジー」なショットを立て続けに繰り出し、ピアノ、ベースと渡り合います。彼女のHPに掲載されているこのトリオの最初のアルバム「Looking Out of the Window」に対するジェイムズ・ヘイルという人のレビュー『藤井とブラックはもうひとつ別な次元へと移り、目まぐるしいほどの速さで音楽信号を交換している。』に全く同感で、このトリオでのJim Blackは「異次元的」にキレています。
もうひとつこのトリオの演奏の特徴は、作曲と即興との関係です。どの曲もリーダーの手による非常に「書き込まれた」テーマ(と言うか譜面と言うかスコアと言うか)を演奏しています。そして間断なく(或いは気づかないうちに)即興部分へ移行するのですが、まさにコンポジションとインプロビゼーションとの融合~いささか陳腐な表現ですが~という言葉がピッタリの演奏です。ただし演奏の温度が高くなる局面にあっても全面的カオスには突入せず、ピアニストのリーダーシップでバンドには一定の「コントロール」がかかっています。本CDに彼女のインタビューが掲載されていますが、インタビュアーの『藤井さんの中では作曲と演奏はとても近いところにあるように感じられますね。』の問いに対して『そうですね、同じといってもいい。』と答えています・・・そのとおりの演奏です。
ピアニストとしての藤井郷子は「繊細」と「攻撃」の相反する二つの顔が演奏の中で交互に現れる、そういうところに魅力を感じます。理想的なメンバーと組んだこのトリオで、フリージャズのどの先人たちとも違う際立つ個性(このアルバムではどちらかと言えば「攻撃」が勝っています)が十二分に発揮されていることは間違いありません。
贔屓のドラマーJim Blackの参加アルバムは、リーダー作を含めて「玉石混交」でガッカリすることもしばしばですが、この藤井郷子のNew York Trioは、Jim Blackの「クレイジーなジャズドラマー」としての最良の部分が現れている文句なしのユニットです。
Rec. Date: Sept. 2001
Personnel: Satoko Fujii (p), Mark Dresser (b), Jim Black (ds)

1. Silence
2. Get Along Well With...
3. Slowly and Slowly
4. Confluence
5. Foot Step
6. Bell the Cat!
7. Champloo
藤井郷子は、私とジャスト同年代(1958年)、同郷(東京)のピアニストです。
本作は、彼女が1990年代後半から2000年代にかけてベースのMark Dresser、贔屓のドラマーJim Blackと組んだNew York Trioによるアルバムのうちの一枚です。New York Trio絡みのアルバムは、本作を含めて以下の9枚が発表されています。(カッコ内は録音年)
①Looking Out of the Window(1997)
②Kitsune-Bi(1998)
③Toward, "To West"(1998)
④Junction(2000)
⑤本作(2001)
⑥Illusion Suite(2003)
⑦Live in Japan 2004(2004)
⑧When We were There(2005)
⑨Trace a River(2006, 2007)
②は全9曲のうち3曲がこのトリオによる演奏、また④、⑦、⑧には藤井郷子の夫君のトランペット奏者田村夏樹が参加しています。
本作が上記9枚の中で最も優れているということでは必ずしもありませんが、田村夏樹のラッパが入るトラックは、演奏の「密度」みたいなものが若干低下するような気もしますし、ひとまず代表選手ということでこの「Bell the Cat!」を取り上げることとしました。
なお本作は、あの9.11の約2週間後に当地NYで録音されたものです。レンジが広く音像のバランスも良い見事な録音で、たしか国内のオーディオ雑誌の年間優秀録音になったと記憶しています。
このNew York Trioは、ピアノトリオというフォーマットとしては、私の好みのど真ん中のサウンドです。もちろんピアニストが充分に魅力的であるという前提ですが、トリオとして三者が対等のポジションで一体化している演奏であり、何よりもトリオを鼓舞するドラムが鋭いということです。
Jim Blackは、常人(普通のドラマー)では絶対に刻まないヤケクソで引っぱたいているようにも聴こえる「クレイジー」なショットを立て続けに繰り出し、ピアノ、ベースと渡り合います。彼女のHPに掲載されているこのトリオの最初のアルバム「Looking Out of the Window」に対するジェイムズ・ヘイルという人のレビュー『藤井とブラックはもうひとつ別な次元へと移り、目まぐるしいほどの速さで音楽信号を交換している。』に全く同感で、このトリオでのJim Blackは「異次元的」にキレています。
もうひとつこのトリオの演奏の特徴は、作曲と即興との関係です。どの曲もリーダーの手による非常に「書き込まれた」テーマ(と言うか譜面と言うかスコアと言うか)を演奏しています。そして間断なく(或いは気づかないうちに)即興部分へ移行するのですが、まさにコンポジションとインプロビゼーションとの融合~いささか陳腐な表現ですが~という言葉がピッタリの演奏です。ただし演奏の温度が高くなる局面にあっても全面的カオスには突入せず、ピアニストのリーダーシップでバンドには一定の「コントロール」がかかっています。本CDに彼女のインタビューが掲載されていますが、インタビュアーの『藤井さんの中では作曲と演奏はとても近いところにあるように感じられますね。』の問いに対して『そうですね、同じといってもいい。』と答えています・・・そのとおりの演奏です。
ピアニストとしての藤井郷子は「繊細」と「攻撃」の相反する二つの顔が演奏の中で交互に現れる、そういうところに魅力を感じます。理想的なメンバーと組んだこのトリオで、フリージャズのどの先人たちとも違う際立つ個性(このアルバムではどちらかと言えば「攻撃」が勝っています)が十二分に発揮されていることは間違いありません。
贔屓のドラマーJim Blackの参加アルバムは、リーダー作を含めて「玉石混交」でガッカリすることもしばしばですが、この藤井郷子のNew York Trioは、Jim Blackの「クレイジーなジャズドラマー」としての最良の部分が現れている文句なしのユニットです。