Jon Irabagon / It Takes All Kinds
Label: Jazzwerkstatt
Rec. Date: June 2013
Personnel: Jon Irabagon (ts), Mark Helias (b), Barry Altschul (ds, per)
1. Wherewithal
2. Vestiges
3. Quintessential Kitten
4. Elusive
5. Cutting Corners
6. Unconditional
7. Sunrise
8. Pause and Flip
サックス奏者Jon Irabagon(1979年<1978年という情報もあり>シカゴ生まれのアジア系アメリカ人で、2008年モンク・コンペティションのウィナーらしいです)のピアノレス・トリオのアルバムです。
私が彼を最初に意識したのは「The Aruán Ortiz and Michael Janisch Quintet / Banned in London」の記事で触れたドラマーRudy Royston参加のDave Douglas Quintetのアルバム(2012年録音の「Be Still」と「Time Travel」)でした(ベースのLinda OhとRudy Roystonが叩き出すリズムも魅力的なバンドです)。
それ以降、彼のリーダーアルバムを何枚か聴いてきましたが、敢えてアルバム名は記しませんが「なんじゃこれ?」というのもあったりしますので、彼のアルバムを選ぶ時には「かなり注意が必要なのです」ということだけ申し上げておきます。
さて本作「It Takes All Kinds」ですが、ベースMark Helias(1950年生まれ)とドラムBarry Altschul(1943年生まれ)というベテラン二人を迎えたピアノレス・トリオの編成で、ドイツのフェスティバルでのライブ・アルバムです。当然ながら、全曲Jon Irabagonのオリジナルが演奏されています。
本作の数年前に、やはりBarry Altschul参加のピアノレス・トリオで「Foxy(2010、Hat Cup Records)」というロリンズの「ウェイ・アウト・ウェスト」をパロったジャケットのアルバムがあり、80分弱の収録時間内をノンストップでブロウし続けるというなんともクレイジーな「恐れ入りました」盤でしたが、本作もある意味その延長線上にある実にパワフルなアルバムです。
冒頭から実に生々しい、まさに「ライブな(そして正しい)フリージャズ」といった演奏が繰り広げられますが、リーダーの意図か二人のベテラン(特にベースMark Helias)の存在のせいかわかりませんが、このトリオは全面的混沌へは決して突入しません。Barry Altschul(当時70歳)が、ゴツゴツ・コツコツと刻むドラムもこれまた実に生々しい印象を受けます。この人はちっとも枯れません。
このような細かな信号を送り続けるドラムですが、対照的にベースはやや控えめにスペースを意識しながらツボを押さえたプレイでこのトリオの「方向性」を維持し、Jon Irabagonは無骨で、戦略のない或いは「下心がない」と言うのか、「出たとこ勝負」で起承転結を意識せずにその場の閃きに身を委ねて(或いは勢いに任せて)吹き切ってしまうプレイで、そういうところはやはりどこかロリンズを思い出してしまいます。3曲目冒頭のカデンツァ(後半にも長いカデンツァあり)なんか、あくまで演奏のスタンスとしてではありますが、まるでだいぶ前に聴いたロリンズのソロ・パフォーマンスのようです・・・あのロリンズはだいぶくたびれていましたけれど。
このようにJon Irabagonは、ジャズの伝統と言ったらオーバーですが、どこか昔の~何度も登場していただいて恐縮ですが1950年代のロリンズのような~ジャズの匂いみたいなものが漂う、少なくとも私にはそのように聴こえます。例えば、このステージでは比較的穏やかなリズムで演奏される6曲目での彼のプレイにそれが顕著なのですが、上に書いたような「戦略なし」のフリー・ブロウィングの中にも、昔から連綿と続いてきた「ジャズの色気」のDNAが根底に流れている、とでも言えばよいのでしょうか。これまでにこのblogで贔屓のTony Malabyのテナーに「情念」を感じる、というようなことを何回か書いてきましたが、それに近い感覚です・・・かなり個人的な受け止め方ではありますが。
理想的な共演者に恵まれたことも大きなポイントだと思いますが、彼が他のアルバムで見せた「狂気」が、ライブゆえの自発性や熱気に良い塩梅に薄められて、私がこれまで聴いてきたJon Irabagonのプレイの中では、自信を持って断言できる最良のパフォーマンスです。
Rec. Date: June 2013
Personnel: Jon Irabagon (ts), Mark Helias (b), Barry Altschul (ds, per)
1. Wherewithal
2. Vestiges
3. Quintessential Kitten
4. Elusive
5. Cutting Corners
6. Unconditional
7. Sunrise
8. Pause and Flip
サックス奏者Jon Irabagon(1979年<1978年という情報もあり>シカゴ生まれのアジア系アメリカ人で、2008年モンク・コンペティションのウィナーらしいです)のピアノレス・トリオのアルバムです。
私が彼を最初に意識したのは「The Aruán Ortiz and Michael Janisch Quintet / Banned in London」の記事で触れたドラマーRudy Royston参加のDave Douglas Quintetのアルバム(2012年録音の「Be Still」と「Time Travel」)でした(ベースのLinda OhとRudy Roystonが叩き出すリズムも魅力的なバンドです)。
それ以降、彼のリーダーアルバムを何枚か聴いてきましたが、敢えてアルバム名は記しませんが「なんじゃこれ?」というのもあったりしますので、彼のアルバムを選ぶ時には「かなり注意が必要なのです」ということだけ申し上げておきます。
さて本作「It Takes All Kinds」ですが、ベースMark Helias(1950年生まれ)とドラムBarry Altschul(1943年生まれ)というベテラン二人を迎えたピアノレス・トリオの編成で、ドイツのフェスティバルでのライブ・アルバムです。当然ながら、全曲Jon Irabagonのオリジナルが演奏されています。
本作の数年前に、やはりBarry Altschul参加のピアノレス・トリオで「Foxy(2010、Hat Cup Records)」というロリンズの「ウェイ・アウト・ウェスト」をパロったジャケットのアルバムがあり、80分弱の収録時間内をノンストップでブロウし続けるというなんともクレイジーな「恐れ入りました」盤でしたが、本作もある意味その延長線上にある実にパワフルなアルバムです。
冒頭から実に生々しい、まさに「ライブな(そして正しい)フリージャズ」といった演奏が繰り広げられますが、リーダーの意図か二人のベテラン(特にベースMark Helias)の存在のせいかわかりませんが、このトリオは全面的混沌へは決して突入しません。Barry Altschul(当時70歳)が、ゴツゴツ・コツコツと刻むドラムもこれまた実に生々しい印象を受けます。この人はちっとも枯れません。
このような細かな信号を送り続けるドラムですが、対照的にベースはやや控えめにスペースを意識しながらツボを押さえたプレイでこのトリオの「方向性」を維持し、Jon Irabagonは無骨で、戦略のない或いは「下心がない」と言うのか、「出たとこ勝負」で起承転結を意識せずにその場の閃きに身を委ねて(或いは勢いに任せて)吹き切ってしまうプレイで、そういうところはやはりどこかロリンズを思い出してしまいます。3曲目冒頭のカデンツァ(後半にも長いカデンツァあり)なんか、あくまで演奏のスタンスとしてではありますが、まるでだいぶ前に聴いたロリンズのソロ・パフォーマンスのようです・・・あのロリンズはだいぶくたびれていましたけれど。
このようにJon Irabagonは、ジャズの伝統と言ったらオーバーですが、どこか昔の~何度も登場していただいて恐縮ですが1950年代のロリンズのような~ジャズの匂いみたいなものが漂う、少なくとも私にはそのように聴こえます。例えば、このステージでは比較的穏やかなリズムで演奏される6曲目での彼のプレイにそれが顕著なのですが、上に書いたような「戦略なし」のフリー・ブロウィングの中にも、昔から連綿と続いてきた「ジャズの色気」のDNAが根底に流れている、とでも言えばよいのでしょうか。これまでにこのblogで贔屓のTony Malabyのテナーに「情念」を感じる、というようなことを何回か書いてきましたが、それに近い感覚です・・・かなり個人的な受け止め方ではありますが。
理想的な共演者に恵まれたことも大きなポイントだと思いますが、彼が他のアルバムで見せた「狂気」が、ライブゆえの自発性や熱気に良い塩梅に薄められて、私がこれまで聴いてきたJon Irabagonのプレイの中では、自信を持って断言できる最良のパフォーマンスです。