今回はこちらをBGMにお読みください。
30cm怪獣を探し倉庫を発掘した時、リアルホビーの大魔神をみつけました。 原型師は今は亡きヒゲの怪人こと小澤勝三さんで、リアルホビーではバルタン、 ウルトラマン、そしてこの大魔神のヒトガタ3体を担当されてました。 私はそのうち大魔神を自分で買って組み立て、顔と手をブロンズに塗った状態で満足し、 そのまま飾ってましたが、30ウン年ぶりに再発見した訳です。 リアルホビーの最大の問題である「ゴム+プラ」の接触融解のため、腕と肩の接合部分が 少し溶けてたけど、このキットは腕と頭以外は大部分硬質プラ製で、劣化は少ない方だと思います。
せっかく見つけ出したんだから、今できる限りの仕上げをしてやろうとまず資料を探すと、 なんとアマゾンで北米版ブルーレイの三部作セットが1500円程度で買えるじゃないですか! PS3でブルーレイは見れるのでさっそく注文し、ついでに文献もあたると、 『大魔神の精神史』(小野俊太郎著角川書店)という本があって、この人の書いた モスラに関する本が悪くなかったので、読んで損はない本だと一緒に注文しました。
期待通り『大魔神の精神史』は大魔神の成立過程やその精神的背景を、日本史、映画史、 文化人類学等々のペダントリックな知識を総動員して探っていく本で、 対象が「神」そのものである大魔神だけに、モスラ以上により深く広く考えぬかれた世界観に グイグイ分け入っていきます。どんな考察がなされるか列挙するとキリがないので 興味ある人は実際に読んでみてください。新書本なんで定価でも762円しかしないし…。
参考までにいくつかあげるなら、まず大魔神の正式名称「阿羅羯磨」とは何かという疑問を、 この本では阿羅漢+阿修羅+羯磨とし、仏教最高の修行者である羅漢、戦う鬼神の代名詞である 阿修羅、人間の業であるカルマの複合イメージだと解釈しますが、それには納得です。 ただこれらは全て仏教用語で日本の古い神であるはずの大魔神にそぐわない気もしますが、 実は神道の八百万の神には本来は「像」というものが無いそうで、近年になって観光のため ナントカ神の像を作ることはあっても正式のものではないらしいです。 たしかに神棚に飾るのはお札と神鏡で、神の形をかたどった像は置きませんよね…。 つまり阿羅羯磨とは仏教系の鬼神で、1作目の巫女の祈りの所作も仏教のそれっぽいです。 『大魔神』冒頭では荒れ狂う魔神様を沈めるマツリがとり行われますが、 それは魔神を神が退治した戦いを神楽舞で再現しながら、護摩を焚いた巫女を筆頭とする民が 懸命に祈り続けるというもので、白きハニワ顔の神と、緑の鬼面の神との戦いが演じられた後、 やがて二人は一つの大きな別像と化し燃え上がる演出がされています。 この本を読む前はこの部分は前置きもいいところとして、特に注意しては見てなかったんですが、 魔神の秘密を探る重要なパートでした! ただ、これを『大魔神の精神史』は善神が悪神を退治したとのみ解釈しますが、 「巨大な別像」になったということは両者の合体を意味してないでしょうか? そして炎上はむしろ不死鳥的再生ではないでしょうか?
となると、『大魔神カノン』の最後、巨大イパダダを取り込み説得しようとしたブジン様の「戦法」は 仮面ライダーの戦う目的を「人間の自由を守る」から「仲間の笑顔を守る」に矮小化した高寺Pらしい 単なる腑抜け平和主義かと思ってましたが、原典準拠だったのかもしれません…。 ブジン様はあくまでも武神で魔神様ではないので、イパダダを取り込むことによりやがて、 大魔神となるのかもしれません…。
大イパダダを体内に取り込んだブシン様が言う 「時間はたっぷりある」とはそういうことだったのカー(゚ロ゚ノ)ノ!!
それから『大魔神』撮影前に大映スタッフが参考にした『ゴーレム』は1936年版ということが この本の指摘で解ったので、はてどのバージョンかと確かめると、
一番印象が強い小林版ジャイアントロボの原型となったオカッパ頭のじゃなく、ハゲ頭のでした。 復活後、目に光がやどり、ギョロ目で睨みつけるところと最後の10分だけ暴れるのは 大魔神と同じですが、このゴーレムは素顔にメイクで表情が出すぎていて、石像が動くというより 巨漢レスラーのコスプレにしか見えません。('A`) よくここからあの大魔神までデザインを練り上げたものだと感心しますた(笑)。
どうも『大魔神』とは『大怪獣ガメラ』のヒットで特撮モノはいけると踏んだ大映社長永田ラッパが 大映東京と京都にそれぞれ特撮モノを作るように命じ、東京は続ガメラ、京都は考えあぐねた挙句、 以前自社配給した1936年版ゴーレムの翻案を思いつき、動かす像の選定で京都撮影所長が
国宝のハニワの挂甲武人を押し、あの武神像になっただけで、企画の根幹に神道精神を織り込む という発想は無かったようです。だから武神像のまま暴れるはずが、あのお顔は怖くないので(笑)、 怖い顔に変化させ、鎧も仏教の十二神将のを埴輪に被せたような姿に落ち着いたのかも…。
あの顔ですが、顎を割ったのはカーク・ダグラスに似せたそうですが(笑)、
顔そのものはあまり似ていないし、
演じた橋本力さんの顔もちょっと違う…。
私はこれは『日本誕生』で大和武尊と素盞鳴尊を演じた三船敏郎がモデルだと思います。 神をモデルにしようにも実像は無いので、映画から借用し、東宝作品なので名言は しなかったのでは? 三船は1950年の『羅生門』で大映京都でも仕事をしてるので、 ベテランスタッフなら馴染みはあったに違いないし…。
このように『大魔神の精神史』を読んでいると、いろいろと大魔神について 深く考えるヒントが隠されているんですが、私なりにも考えてみました。 拳を顔の前にかざす「魔神变化」はいわば武神像から魔神像への変身ポーズ。 つまり、武神が一時的に去り抑えられていた魔神の本性が明らかになる瞬間。 しかし武神と魔神は一体化してるため、ひと暴れした後はまた武神に戻る。 1作目:武神により山奥に封印された炎の破壊神 2作目:八雲の湖に住む一族を見守る水の守護神 3作目:大雪・洪水等の災厄の原因として祀られた雪の祟神 と全3部作で魔神の伝承が少しづつ変化するのも、武神と魔神、どっちの記憶が その土地の民に強く残っているかにより差異が生まれたのではないでしょうか? 3作目に天から飛来した何かが一固まりになり武神像のシルエットを作る描写があります。 これと1作目で魔神登場時に飛んでくる青緑光球を考え合わせると、大魔神は暴れた後は 別の土地へ飛翔し、そこでまた武神像と化すのかも? 「戦国時代」というだけで作品ごとの明白な時代設定が無く、どのくらい時間の推移があったのかは 解らないため、そう考えることも可能です。一般に戦国時代とは「応仁の乱」のあった1467年から、 徳川家康が幕府を開き豊臣家を滅ぼした1615年までの約150年なんで、 それだけの年月があれば三箇所で伝説が生まれるには充分でしょう…。
『大魔神の精神史』にはまだまだ考察を深めるヒントは多いですが、長くなったのでそろそろ 閉めるとして最後にとりあえずの手を入れたリアルホビー大魔神をお見せします。
まずは大魔神といえばコレだって感じのヤグラなめ構図
(クリックで拡大)
次は全身素立ち
全体を何度も塗り、ドライブラシ的手法で表面を荒らし、魔神の石の質感が出るように努力しました。 あくまでも努力したで「出した」とは言いまへん(笑)。 接触融解が進んでいた腕と肩の部分を ワンクッションを置く意味も兼ねて、厚くボンドを塗り接着してます。ここ一応円形の関節はあって、 接着で動かなくなったけど、どうせ溶けて無意味なので(゚ε゚)キニシナイ!! 平手だった両手先を握らせて拳の状態で接着。魔神が平手になるのは ごく限られた瞬間だけなので、ここも気にしない(笑)。 それから紛失した刀をフルスクラッチ。ディテールはよく解らないけど大まかな形は似せてます。
テーマ:ホビー・おもちゃ - ジャンル:趣味・実用
|