今日の御題は『激走!5000キロ』からの2個目の赤いガム、フェラーリ・デイトナです。 この車の正式名称は365GTB/4ですが、デビュー直前の1967年デイトナ24時間耐久レースで、 フェラーリの330P4が1位から3位まで独占したことを記念して「デイトナ」の愛称がつけられました。 巨大なV12エンジンをフロントに積むフェラーリにしてはヘッドヘヴィな印象のマシンですが、 北米市場を意識して開発されたというからそれも納得で、ヘッドライトも最初は固定式でしたが、 1970年の北米向けモデルからリトラクタブルに変更し、全てその仕様で統一したところからも、 いかに当時のフェラーリが北米市場を重要視していたかがうかがえます。
普段は一般車製造をあくまでレース資金を確保するための手段と割り切り、 顧客を内心はバカにしていたという話しさえ伝わっていたエンツィオ・フェラーリですが、 いよいよ会社の経営が巧くいかなくなって、市場規模が大きい北米を 無視できなくなったというところでしょうか? 事実、このデイトナを最後としてフェラーリはフィアットの傘下に入り、 次の車からはフィアットの工場で生産されるようになったため 「このデイトナこそが最後のフェラーリだ」と言い切るシビアなフェラリスタもいるようです。
この最後の純粋フェラーリである365GTB/4、仕様によりスペックには差がありますが、 最強の4.4Lモデルは352馬力という当時の市販車では驚異的な性能を誇りました。
映画でこの車を駆るのはラウル・ジュリア扮するプロレーサーのフランコで、 女となると目のない典型的なイタリア野郎です。女とよろしくヤル時は 3人編成の楽団を引き連れて、窓辺ならぬドアの前で音楽を奏でることも忘れない、 イタリアのプレイボーイのオペラ時代からの伝統をちゃんと踏まえた「由緒正しき」男ですが、 演奏させる曲はセレナーデならぬ「サンタルチア」で自分も歌っちゃうズレた所もあります(笑)。 レース前のレセプションでは、侮辱されたと相手にピストルを突きつけ、 回りをハラハラさせるという血の気の多さを見せたし、 ゴール目前でパツキン姉ちゃんの巨乳に目がくらみ車を止めるという 極めて男マエな行動にも走ったので、跳ね馬ってよりはタネ馬なのかも知れません(笑)。
青いコブラと赤いデイトナが並んで疾走するシーンはこの映画の白眉ですが、 コブラとフェラーリとの間には、デイトナというあだ名にもまつわるレース史上の因縁あります。 空力的に劣る車高が高いオープンのコブラをより速くするために、 コルベットの開発者の一人ピート・ブロックが手がけたボディを装備したマシンが6台だけ造られ、 64年のデイトナレースがデビューだったので、コブラ・デイトナクーペと呼ばれました。 この車に65年のワールドタイトルを奪われたエンツィオは相当悔しかったのか、冒頭に書いたように 67年のデイトナレースでのフェラーリの完勝を祝って、365GTB/4を「デイトナ」と名付けたんですね。 普通ならたった3年前のライバル車と同じ名前を付けるはずないのに、 敢えてそうしたってことは、これはエンツィオの勝利宣言でしょうね。 昔の日本での「道場の看板は頂いた」みたいな(笑)。
つまりこの2台は宿命のライバルという訳で、エンスーならこの選択にニンマリさせられるはずです。 (ホントはデイトナクーペにしたかったのかもしれないけど、 あれは6台しか無いし、 公道も走れないので、せめて市販車最強の427を持ってきたんでしょう)
しかもその2台がどちらもレプリカなんかじゃないホンモノであるところもポイント高いです。 この映画の制作兼監督を勤めるチャック・ベイルは、もともとカースタント畑の人物だけに お金のかけ方をちゃんと解っているんですね。外側だけ似せたレプリカを平気で使った マイアミあたりの探偵モノとは志からして違います(笑)。 コンクリ張りのLAリバーでの2台のデッドヒートでは、川底にたまった泥のため 2台とも盛大にスピンしていますが、コブラの方には撮影後にけっこうなダメージが残ったそうです。 どっちもオープンカーだし、メカや室内の隅々に汚泥が入り込んだらシャレにならないのに、 それでも敢えてやる、そのカースタント魂に脱帽です。
今回お見せしているミニカーはフランス製のソリドの、1/43・標準スケールのモノです。 全長約10cmで、ヘッドライトが透明で見えているので前期型になります。 このミニカーはこの特集のためにヤフオクで落としたモノで、 ミント品を何と300円という超安値でGETできました。 映画で使われたのはリトラクタブルになった後期型ですが、こっちの方が車として好きだし、 また映画ではスパイダー仕様ですが、そのタイプのミニカーは非常にレアなので、 どちらも見逃して下さい。m(_ _)m
さて、前回の最後に残しておいた車の色の問題ですが、 このデイトナも宣伝素材では青にされています。コブラの赤はともかくも、 フェラーリの青というのはあまり見かけない色味。 フェラーリは、その本拠地にちなんで黄色をオフィシャルカラーにしており、 後に赤も加えたため、黄色と赤はデリバリーカラーで用意されているんですが、 それ以外の色にするには特注もしくは、後から外部で全塗装し直しになっちゃいますからね…。
さあここで、その謎を解く2枚の図版を御覧下さい。 左は、たぶん日本の劇場用パンフと思いますが、チラシと同じ図版で、 色合いからしても人工着色されたものでしょう。 1976年当時はまだまだカラー印刷は貴重で、雑誌もモノクロページが多かったため、 宣伝素材もモノクロ中心の時代でした。日本でのメインビジュアルに使われているこの図版は、 実はアメリカでは使われていません。 右のコミカルなイラストが本国でのメインビジュアルで、御覧の通り、 ここにその謎の色味が使われているのです。 赤いコブラにピンク(!)のフェラーリ、それから3台目のオレンジの車は、 車種はよく解らないけど女性がドライバーなんでポルシェのつもりなんでしょう。 このイラスト、全体がポップな色調なんで、車の色も向こうのイラストレーターが 勝手に決めちゃったんでしょうね(苦笑)。
それで日本でポスターを作る際、封切り映画の段取り的には、 まだフィルムが届かない時点で作る場合も多いので、おそらく唯一のカラー素材であっただろう このポスターを参考にしつつ、車の知識があまり無いので、コラージュする際に間違って イラストとは違う順番で並べてしまったあげく、印象的な先頭から2台は、 赤、ピンクとイラスト通りに色づけし、以降は適当に塗っちゃったんでしょう(笑)。 ね、よく見ると、コラ写真の方は2台目はピンクのベンツになってるでしょ? 銀とピンクじゃ天と地ほど印象が違うつうの!(爆) でもこのコラ写真、4台目以降のカマロ、ロールス、ポルシェ、 それからその後のコルベットはなぜか色が合ってるんですよね~。 でもレースに不参加のロールスを混ぜているあたり、やはり本編が届く前の仕事だろうから、 いち早くバラバラのカラースチルだけは届いていたのかもしれませんね。
まだ若干の謎も残しつつ、赤いガムもそろそろ味が無くなってきたようです。 この日本でのメインビジュアルにはまだまだツッコミどころもありますので、 それはまた次回の黄色いガムで味わっていただきましょう!
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