トヨタ自動車は6日、09年3月期連結決算の業績予想を大幅に下方修正した。売上高が前期比12・5%減の23兆円、本業のもうけを示す営業利益は73・6%減の6000億円となる見通し。予想よりも売上高で2兆円、営業利益で1兆円減額。営業利益は米国会計基準にした98年3月期以来最低。国内の減産に伴い非正社員の削減を進める。約6000人の期間従業員を来春までに半減させる可能性がある。
ポジティヴな話題よりもネガティヴな話題の方が需要があるのですよね。「殺人事件が戦後最低を更新した~」よりも、「治安の悪化が懸念され~」の方が報道機関からも読者(視聴者)からも歓迎されますし、「日本人のモラルが低下している~」などの認識が根拠のないまま幅広く浸透するくらいですから。なるべく悲観的に、危機を煽るように語るのが日本流なのでしょう。
さて、トヨタの営業利益は7割減だそうです。これだけ聞くと、まさに非常事態、人員削減もやむを得ないような緊急時にも見えてくるのかも知れません。まぁ確かに、今回の金融危機に伴って甚大な影響を受ける企業も多いでしょう。しかしそれは、今までの好景気で貯め込んだ分を吐き出させる程度でもあるわけです。トヨタの場合、98年以来最低と言うことですが、要は98年の水準に戻るだけ、戦後最長の景気回復局面の前の段階に戻るだけ、今よりも給与所得の平均が高かった頃に戻るだけの話だとしたなら、今よりも正規雇用の比率が高かった時代の水準に戻るだけの話だとしたなら、あまり深刻な気はしませんね。
73%減とはあくまで営業利益であることに留意してください。言うまでもなくそれは、諸々の経費、支出を差し引いて残った「利益」であり、売上とは違います。個人の場合であれば、収入ではなく可処分所得に相当するものです。もし20万円の月給が6万円まで減ったとしたら事態は深刻ですが、それが可処分所得であれば、好ましいことではないにせよ危機とは考えられません。先月は20万円を貯金できた、しかし今月は収入減で6万円しか貯金に回せない、この場合はどうでしょうか? 決して嬉しいことではありませんが、貯金の増える勢いが鈍るだけで、貯金が増え続けることに変わりはないはずです。
同様にトヨタの場合も、その勢いが「鈍った」だけであり、右肩上がりであることには変わりはありません。成長の勢いは緩やかになったかも知れませんが、それでもプラスかマイナスかと言えば、紛れもない「プラス」なのです。赤字が出たわけではなく、収支がトントンになったわけでもなく、あくまで黒字、会社に蓄えられる富は増え続けているわけです。
ですから、もしポジティヴに語ることを好むメディア、広報担当者であればこう語るでしょう、「トヨタは経済の混乱の中でも収益を確保し、着実に発展を続けている」と。しかしそう語らないどころか、さも暗い未来が待っているかのように危機を大きく語るのは、従業員の削減を正当化するため、「やむを得ないもの」として世間を納得させるためでしょうか?
ほとんどの企業は、トヨタほどは儲かっていないですから、そのトヨタでさえ……という発想が広がると、非常に危険なことになりますね。少なくともトヨタは儲け幅が縮小しただけで、儲かっていることには変わりないわけですが、今回の金融不安が大きく報じられたことで賃金抑制を正当化する雰囲気作りが進められている、極論すれば財界にとっては――雇用する側と雇用される側の力関係の維持を重視する人にとっては――追い風とすら言える状況なのかも知れません。