福島県川俣町でサンプル調査された牛乳の検体から、食品衛生法の暫定規制値を超える放射線量が計測された問題で、牛乳を原料として使う企業にも影響が出てきた。
川俣町から約20キロ離れた同町とは別の自治体内にある食品加工会社には、19日の政府の記者会見で問題が発表された後、注文のキャンセルの連絡が入った。
会社は乳製品の生菓子を仲介商社を通して大手企業に納入しており、この日の正午に22日以降分の注文が入ったばかりだった。これにはファクスで、「製品に使用している全ての乳製品原材料(生クリーム、牛乳、バター)は、この度の震災原発事故発生前に、乳業メーカーにて製造加工されたものです」と安全性を訴えたが、受け入れられなかった。
さて、天災の発生は防ぐことができませんが、人災の方はどうでしょうか。不要不急の物資の買い占めやデマの横行に加え、先日も取り上げたように福島から来たというだけで宿泊を拒否されたりするなど風評被害的なものも確実に広まっています。そして上で取り上げたようなケース、事故発生前に製造加工された原材料までもが、とばっちりを食らうような形でキャンセルされてしまったそうです。そもそも現状の規模の放射線量であれば、食品添加物や過剰なカロリーや食塩摂取の方を気にした方が長生きできるように思えるのですが。
放射線自体は好ましいものではないにせよ、放射線「だけ」が有害というわけではありません。天然の食材にも人を死に至らしめる毒性があったり発がん性があったりするものですし、慣れ親しんだタバコやアルコールの害は言うまでもないわけです。集合住宅の受水槽の内側を覗いてみれば、100ベクレル程度の放射線などよりも遙かに体に悪そうなものを見ることができるでしょう。まぁ、日常生活の中には自覚せずとも危険は潜んでいる、テロで殺される可能性は極限まで低くとも、普通の季節性インフルエンザで死んだり車にはねられて死んだり労災で死んだり、あまり意識されないところでこそ毎日のように人が死んでいます。放射線量が増えれば日常生活に潜むリスクは僅かながら増えるのかも知れませんが、もっと危険なものは他にいくらでもあるはずです。
<東日本大震災>ホウレンソウ出荷停止 風評被害、売れぬ野菜 他県産、対象品以外も(毎日新聞)
食品衛生法上の暫定基準を上回る放射性物質が野菜や牛乳から検出された問題で、政府が出荷停止を指示した福島、茨城など4県の対象農産物以外についても、流通業者の間で販売を見合わせる動きが広がり始めた。農林水産省は関連業界に冷静な対応を求めているが、消費者や小売業者の過剰反応を静めるには時間がかかりそうだ。
◇卸業者へ返品相次ぐ
農水省は週明けの青果取引が始まった22日朝、全国122カ所の主要な卸売市場の卸業者136社に電話で聞き取り調査をした。その結果、出荷停止となった福島、茨城、栃木、群馬4県のホウレンソウ、カキナ以外でも、同地域のレタスやチンゲンサイが小売業者から返品されるなどのケースが4割程度あった。4県以外のホウレンソウでも、買い手がつかない例が1割程度あったという。
首都圏の青果物卸最大手の東京青果(東京都大田区)では、出荷停止対象の野菜だけでなく、4県産のレタス、チンゲンサイ、ニラのほか、他県産のホウレンソウも小売り側から一部返品を求められた。同社のホウレンソウの取扱量は通常の約4分の1に激減。同社担当者は「風評被害の影響で、小売店では安くしても売れないようだ。返品は受けないことになっているが、この状況下で断りきるのは難しい」と話す。
JA全農とちぎによると、生産量日本一を誇る栃木県産イチゴの22日の市場価格も1パック220円と、17日の270円から約2割安となった。上三川町の農業、野沢一夫さん(61)は「病気なら農薬を散布すれば治るが、今回は原発問題が収まらないと」とあきらめ顔。JA栃木中央会の高橋勝泰専務理事は「風評被害の補償も求めていきたい」と話す。
そういえば、いつぞやのダイオキシン騒動の際もホウレンソウが槍玉に挙げられていたのを思い出しました。ホウレンソウは何かしら指標に使われやすい性質があるのでしょうか。まぁ基準値を超える放射線量が検出されたというのなら、ホウレンソウの出荷自体は致し方ないのかも知れません。しかるに、茨城県産のレタスやチンゲンサイまで返品されてしまう始末とのこと。おそらく今後は千葉や埼玉など4県「以外」で生産された葉物野菜にも風評被害は広まっていくことが予想されます。取りあえず放射線測定器は個人でも購入できますので「政府や東電が情報を隠している! 本当はもっと放射能で汚染されているに違いない!」と吹聴して回っている人は、実際に自分で計ってみたらどうですかね?
かつてO157の集団感染が発生したとき、「容疑者」として名指しされたのがカイワレ大根でした。果たして本当にカイワレが感染経路であったのかは大いに疑わしいところですし、仮にそうであったとしても不十分な洗浄により食中毒菌が「付着」してしまっただけの話であって、別にカイワレがO157を発生させていたわけではありません。しかし、瞬く間にカイワレは市場から姿を消しました。当時の厚労省であった菅直人がメディアの前でカイワレを一気食いするという薄ら寒いパフォーマンスも虚しく、カイワレは完全に消費者から敬遠される存在となってしまったのです。カイワレ生産者の廃業も相次ぎ、中には自殺者まで出たと噂されていますが、今回名指しされた4県の農家はどうなるのか、あるいは近隣でホウレンソウなど葉物野菜を生産している農家はどうなってしまうのでしょうか。
何かしら目新しいものは国民の恐怖を駆り立てます。従来の季節性インフルエンザで死ぬ人なんて珍しくもなく、取り立てて世間を騒がすものではない一方で、それが新型インフルエンザとなるや大パニックです。とりわけ死亡災害の多い世界である林業で人が死んでも世間は一顧だにしないわけですが、原発の作業中に誰かが死亡すれば、それこそ上を下への大騒ぎが始まるであろうことは想像に難くありません。日頃は不健康な習慣を続けていながら放射線に「だけ」は敏感になっている人も多いことでしょう。喫煙やアルコール摂取で高まる発がんの可能性には無頓着でも放射線には大騒ぎ、農薬は「摂取しても問題がない範囲」と納得できても放射線は微量でも絶対ダメ、と。そうして4県や近隣の野菜類は市場から敬遠され、人災が広まっていくことになりそうです。
何というか、常日頃は完全に安全な無菌地帯にでもいるつもりの人が多いのでしょうかね。例示していただきましたBSEや異常犯罪などの、何かしら非日常的なものに対してはヒステリックな反応を示す人が相次ぐわけですが、それは平凡な日常に普通に存在するリスクが、せいぜい数%上昇したくらいのことのはずです。放射線やBSEなんかを避けたところで、もっと他の要因で死んだり健康を損ねたりすることが格段に高い確率で待っているものなのですが……
今放射線に敏感すぎる人達の中でも少なくない方々が、例えば歴史的政権交代後も「相変わらず原発推進に熱心な政権」をしっかり応援していたわけです。
そういう人達にとって、
今問われている「原子力の恐ろしさ」は、どの程度の優先事項だったのか聞いてみたいものですよ。
当然その優先順位が低かったからこそ
政権交代後も「相変わらず原発推進に熱心な政権」を応援し続けられたわけで、
その輸出までも推し進めていた政権を「よりまし」と称して大いに評価していたわけですから。
こういった方々もこの「人災」をおおいに後押ししてしまったように思えます。
事故が起こるまでは「原子力の恐ろしさ」に無頓着、あるいは目をつぶることのできる程度の事としてしか受け止めていなかったくせに、
事故後、適当な悪役にだけ責任を被せ、敏感すぎる反応を見せるのでは……少しは反省してくれよ、と言いたくもなります。
もちろん、いくら反省してもらっても、この選択ミスについては取り返しがつきません。
まさに人災そのものですね。
少なくとも民主党に票を投じたと言うからには原発推進を是認したものと見なしていいと思いますし、前のエントリでも書きましたように今回のような百年に一度でも起こるか起こらないかわからない程度の災害への備えを切り捨てることに関しては、むしろ民主党の方が積極的でもありますからね。
まぁ起こってしまったことは取り返しが付きませんが、そこからさらに脅威を煽り続けることで人災を拡大させ続けている輩もいるのですから、どうしようもありません。せめて、ありもしない脅威を妄想しては社会に不安を吹き込み、二重三重に被害を広めるような行為は慎んで欲しいところです。
事故後の世論調査によると東京都民は原発を維持する考えを持つ人が5割以上だそうですが
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2011031902100011.html
これは過去の健康被害をもたらすような問題への世論の反応からみると不自然な数字にみえます。
皮肉なことに原発事故は東京にいれば安全だということが逆に宣伝されたようなものです。都民はこれまで通りリスクは地方に負わせようということなのでしょう。
それから政府や東電が情報を隠している!
というのはある部分で事実ともいえます。
最近徐々に出てくるデータも外圧があってようやく出してるようですから。政府や東電の隠蔽体質はいまや海外の方が有名かもしれません。
現時点で予測できるレベルの放射線被害と、電力不足が及ぼす被害の大きさを鑑みれば、その世論調査は東京都民が見せたささやかな良識として希望を感じさせるものと言えるでしょうね。ちなみにこういう事件で、積極的な情報開示によって海外からの賞賛を浴びるような事例というのはあるのでしょうか? 国内的にはハナから「情報が隠蔽されている!」と叫ぶばかりで東電や政府からの説明に耳を傾けようとすらしない人も多いですし、余計な混乱の広がりを防ぐ上では無計画な情報のバラマキというのも怖い気がします。
東京にいれば安全と書きましたが、原子炉の破壊が現状より進んだ場合は影響が出ないとはいえません。
というのは放射性物質の拡散というのは風向き次第なので、東京でも大きな影響が出る可能性はじゅうぶんあるようです。
どの程度の汚染が起こるかはそうなってみないとわからないということです。
私の私見ではなく原子力の専門家からの情報です。
現状は厳しいですから正確さを重視するために
一応書いておきます。
まぁ仮定に仮定を重ねれば何でも深刻になり得ますが、その可能性の高低や、対処のための時間の有無は無視されるべきではないでしょうね。津波であれば何はともあれ逃げなくてはなりませんが、原発内部で作業しているのでもない限り、放射線からは先を争って逃げねばならないようなものではありませんし。状況が深刻化する前に、深刻化していない地域でパニックを起こす必要性はないでしょう。
いざとなってもゆっくり避難すれば大丈夫とそういう教育はなされているでしょうか?
管理人さんは知らぬが仏をいう考えの方なのかもしれませんが、私は何も知らないでいるほうがいざという場合にパニックは起きるんじゃないかと思ってるんですが、このあたりで考え方が違うようです。
報道を見ると避難地域では事故当初に情報がなかったことで混乱がおきていたようにみえます。地元では町内放送などからの限られた情報しかなかったようですから混乱もやもうえないことだと思ってます。
>いざとなってもゆっくり避難すれば大丈夫とそういう教育はなされているでしょうか?
はい、いくらでも情報は提供されています。ただし、不安を煽るような「とにかく危ないんだ」という報道しか受け付けない人が多いだけの話です。何も知らないでいるからパニックに陥るのではありません。気に入らないことを受け入れず、「知ろうとしない」からパニックになるのであり、それは自らパニックに陥ることを選んだ結果でもあり、無駄な混乱を広げようとする悪質な行為です。
>報道を見ると避難地域では~
話をすり替えられても困ります。問題は、被災地域でもない安全なところにいる人間が恐怖を煽り立て、被災地域を孤立させていることなのですから。