監視強化や歯止めのかからない厳罰化に警鐘を鳴らしていると、中には頓珍漢なことを言ってくる人も出てくるわけです。典型的なのは「自分は悪いことをしていないから無関係、厳罰化を不安視する人は後ろめたいところがあるのではないか」などと宣うタイプですね。様々な点で「分かってない」発言ではありますが、どうしたものでしょうか。
何が悪いか、何が罰するに値するか、それを決めるのは他人です。自分が「悪いことをしていない」と思っていても、他人がそう判断するかどうかは別問題です。社会の変化によって、今までは「悪」とされていなかったことが「悪」にされたり、逆に従来「悪」とされていたことが許容されるようになったりするもので、自分は変わっていなくとも社会の変化によって罪に問われることもあります。
例えば「働かない」ということがそうです。かつては罪でなかったことが、徐々に非難の対象へと移り変わってきました。まだ「働かない」ことを理由に逮捕されたり処刑されたり、そんな事例はありませんが、与党の議員や自治体の首長の中には「働かない」人を強制労働に処すべきと主張する人もいますし、自立支援と称して「働かない」人を拉致した挙句、リンチにかけて殺してしまうようなケースも黙認されているわけです。そのうち、法律によって「働かない」ことが刑罰の対象になったとしても不思議ではありませんね。
それから、ある国では合法でも別の国では違法、刑事罰の対象になることもあります。例えば日本では人種差別や歴史修正主義は合法、少なくとも取り締まりの対象とはされていないわけですが、国によってはれっきとした違法行為です。レイシストや修正主義者は刑罰の対象になります。「自分は悪いことをしていない」というのはあくまで自国の現行の法律の網から逃れているだけの話で、本当に「悪いことをしていない」かどうかは怪しいもの、単に自覚がないだけの話です。
陸上自衛隊久居駐屯地創設100周年記念行事
久居駐屯地では、創設100周年を記念し、記念式典(行事)を開催します。
・・・って、記念行事は土曜日の話なのでもう終わった話ですが、それにしても何なのでしょうね、100周年って。自衛隊の創設は1954年のはずですから、どう頑張っても100年は無理のはず、いかに歴史修正主義者だって自衛隊が創設時期までは修正できないでしょうに。
何でも旧帝国陸軍が駐屯地を設置したのが1908年で、そこから100年なのだそうですが、別の組織のことを持ち出されても、ねぇ? 1908年にA社がビルを建てて、その後にA社が倒産、跡地に残ったビルにB社が入居したとしましょう。そのB社が100周年を祝ったとしたらどうでしょうか? A社が社名変更してB社に変わっただけならそれも理解できますが、A社が完全に破産、会社として消滅した後だとしたらどうよ?
これが公式行事と言うことは、これも自衛隊の公式な見解と言うことなのでしょうか、つまり自衛隊は旧日本軍をそのまま引き継いだものである、と。実態としてはそういう部分もあるかも知れませんが、建前すら失ったとしたらそれは問題だらけですね。少なくとも建前として、公式な見解としては戦前の侵略を否定して、その上での再編があったはず、その建前を捨て、戦前の軍事支配の継承を公式に宣言するような振る舞いはどうかと、そう思うわけです。
日本とドイツの戦後処理の最大の違いは、たぶんここにあるのでしょう。一方は過去の侵略行為の過ちを公式に認め、方や過去の侵略行為を美化している。内心でどう思っているかは定かではありませんが、少なくとも国家の公式見解として、どちらの方向を向いているか、それは周辺国にとっては大きな違いです。日本軍は戦前から今に至るまで絶えることなく継承されているぞと、そう宣伝しているような国がかつての被侵略国から信頼を得るのに苦労したとしても、それは自業自得ですね。
何年か前、NHKスペシャルで「自衛隊は旧帝国(海)軍の"復活"を目指して、創設の努力がなされた」みたいな番組をやってたのを見ました。また"歴史群像"(学研;http://rekigun.net/)にも「自衛隊創設裏話」みたいな記事がありました。ですので彼らの脳内はそんなもんだろうと思いますが、公式行事で「100周年」って…。
アメリカ様はなにか言わないんでしょうかね。いくら前述のような旧軍人どもを利用したとはいえ、「これはひどい」くらい言ってもよさそうなものです。
まぁ建前上も旧軍の後継であるということを表明してくれたので、議論のネタとしてはちょうどいいんじゃないでしょうか。個人的には旧陸軍の延長でも別にいいんですが。
因みに陸自の友人に聞いたところ、創設者はこの際関係なく「現有施設完成の」百周年記念だそうで。ちょっと苦しいなぁ・・・
そうですねぇ、確かに小泉は上手くやった、国内の排外主義者や修正主義者に向けたパフォーマンスは大成功でしたね。一方でそれと同じことをやったはずの安倍は大コケ。結果を計算済みで狙ってやった場合と、何も考えずにやりたいことをやっただけの場合、その辺の違いはありそうです。そうした計算の出来ない人が重用されているわけで、これはもうどうにも……
>ベースケさん
そりゃもう旧帝国軍を実質的に引き継いでいる分は色濃くあるにしても、その過去を否定したからこそ存在を許された建前があるわけですから、それを忘れちゃお終いです。その建前を授けた側のアメリカにしても、こうした振る舞いには頭を抱えるところでしょう。まぁ、ブッシュ軍団はアレですし、オバマとクリントンは日本どころじゃないのでしょうけれど。
>まにさん
現有施設完成の100周年ですか。途中に駐屯地としては使われなくなり、管轄も別の官庁に移るなど断絶は大きいですが、自衛隊側としてはそうでも言わないと正当化できないのかも知れませんね。傍目にも苦しいですが、建前を守ろうとしているだけマシ?
たとえば、つい十何年前までの南アフリカは、人種差別が「善」だったわけですよね。極端な話、そういうことです。自分は悪いことをしていないなんてことを本気で(ためにするのではなく)考えている頭の悪い人たちは、そのくらいのことは考えてほしいですね。
>久居駐屯地では、創設100周年を記念し、記念式典(行事)を開催します。
一言。「馬鹿」
どうでもいいですけど、自衛隊の中にも良識のある人は少なくないでしょう。そういう人たちは、さすがに恥ずかしくはないのですかね。戦前の軍隊は、すくなくとも戦後の価値観から考えれば、自慢するようなものではないでしょう。
そう、合法でも「悪いことをしていない」とはとても言えないようなケースは多々あるわけで、「自分は悪いことをしていない」なんてのは無自覚の証明でしかないのですが、どうにもこの手の人々は不思議と自信満々ですから困ったものです。一方で自衛隊ですが、面従腹背の人がいるのは致し方ないにせよ、堂々と戦前の軍隊を誇るようになってしまうとは呆れます。しかし今の自衛隊ですとそうした戦前的価値が隊内の主流派であり、良識派が逆に面従腹背を強いられる、前時代的なやり方に批判的でもそれを口に出来なくなっているのかも知れませんね。