踊る小児科医のblog

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大胸筋断裂は軽い怪我ではない 結果は別として稀勢の里は出場すべきではなかった(3/29)

2017å¹´03月29æ—¥ | SPORTS
以下は千秋楽の2日後の3月28日夜に書いたもので、29日のNHK番組を見てから修正しようと思いつつ放置されてました。そのまま手を加えず、最後に追加のコメントを載せておきます。

「貴乃花の『鬼の形相』がまた見られるか」などとインタビューに嬉しそうに答えていた観客。。

結果として優勝したことについては、稀勢の里の経験と技術、作戦、そしてもちろん気力や執念が勝っていたこともあったのだろう。
(照ノ富士が二番とも良い体勢になりかけながら勝ち切れなかったのは、膝の状態が相当悪化していたのかもしれない)
私も含めて多くの人が予想していなかった驚くべき結果であり、優勝そのものは讃えて良いとは思う。

ただし、それはまた別の話。


写真1枚目、上腕部に内出血がくっきりとみられる。
これを見て(…かどうかわからないが)上腕二頭筋の損傷と一部で報じられているようだが、大いに疑問がある。
この内出血は、組織の間隙を通って、上のほうから降りてきて溜まったもの。
この部位の損傷ではありません。
(整形外科医ではないので断定はできませんが ※以下同じ)


写真2枚目、負傷直後に押さえているのは、大胸筋の起始部で、上腕二頭筋とはかけ離れている。
大胸筋の損傷で、上腕に出血が流れていったのだとしたら、大胸筋の腱が上腕骨に付着する付近の断裂なのではないかと推測する。 ※

以上の推測が当たっているかどうかは別としても、これだけの出血がある(=断裂)のであれば、復帰までの道のりはそんなに簡単ではない。 ※

軟部組織(骨以外)の損傷で、関節の靭帯断裂などでなければ、自然治癒の機転が働くが、元通りの柔らかな筋肉と硬い腱に戻るわけではない。
結合組織で無理矢理くっつけたような形になるので、拘縮や可動域制限が残るかもしれないし、しばらくは痛みも残るはず。

半年程度で横綱大関と互角以上に戦えるまで戻せると甘く考えない方が良いと思う。 ※

優勝翌日のインタビューでは、すぐに治してまた来場所にでも出場したいような口ぶりだったが、本人が怪我の程度やその先の見込みを理解していない(告げられていない)可能性を否定できない。

もちろん、ここに書いたような(門外漢の小児科医が見立てたような)程度ではなく、回復力やリハビリにより早期に復帰できたのであれば、それに越したことはない。

だが、それはまた別の話。

標題に戻る。
強行出場して、二日間で三番とったことで、怪我が更に悪化したかどうかはわからない。
初期の治癒機転が二日遅れただけで、結果オーライと言えるのかもしれない。

だが、それで本当に良いのだろうか。

千秋楽で稀勢の里の優勝を願って応援していた人たちは、この一番(あるいは二番)に勝ちさえすれば、それで力士生命が終わっても構わない、それでも良いから一回の優勝のために賭けるべきと考えて応援していたのだろうか。

日本人のこういった、ある意味「幼稚」と言っても差し支えのないメンタリティが変わらない限り、高校野球で延長戦まで投げ続けていた投手も、高校駅伝で将来を嘱望されたランナーも、次々と怪我で選手生命を絶たれていくことになるでしょう。

感動の美談は、選手が練習の成果を十二分に発揮できたときに、結果としてついてくるものであり、消費社会の商品の一つとしてテレビの向こうから食い逃げするようなものではない。

例えば、卓球の平野×石川の歴史に残る一戦であり、名古屋ウィメンズでの安藤の走りがそれであったと思う。

以上の思考過程をまとめると、
稀勢の里は結果のいかんにかかわらず、出場すべきではなかった。
と書いても、大半の方には理解してもらえないのではないかと思う。

(追記)昨日(4/4)になって初めて「大胸筋損傷」という文字が報じられたが、ここで用いられている「損傷」という文字は、メルトダウン(溶融)を燃料の損傷と言い換えていたことを思い起こさせる。無論、損傷とは(程度はともあれ)断裂のことです。稀勢の里は次の巡業に参加したいようなコメントを出しているようだが、ここで問題にしているのは、怪我の程度や、本人の意志、あるいは力士生命に対する考え方ではない。これが貴乃花と同じように美談として言い伝えられ、若い力士や、他の競技のアスリート、若者、子どもたちに対して悪しき精神主義が残っていくことを危惧している。
全く関係のない事故だが、翌27日には那須の雪崩で8人が死亡した。(次のentry)
全く関係のない二つの事象だが、全く関係がないとも言い切れないような気がする。