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あの教科書検定が「適正な経緯」だったと? 

 まずはおさらいから。

 私が『高校歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の記述から「軍命」を削除した教科書検定』の異様さに、遅まきながら気がついたのは2007年6月の頃。それまでは、歴史教科書に第二次世界大戦の沖縄強制集団死は日本軍の強制である事は普通に書かれていたという。

 これまでの教科書記述は、長年にわたる沖縄戦研究の成果をふまえて、「集団自決」は日本軍の強制によっておきたものであり、日本軍による住民被害の一つの類型として説明するというものが定着してきていた。しかし、今回の検定の結果、「集団自決」を日本軍によってひきおこされた住民被害から切り離し、別の出来事として解釈できるような叙述に変えられた。このことにより、なぜ、あるいはだれが住民を「集団自決」に追いやったのかという理由がわからなくなり、教え方によっては、お国のために自ら進んで命を捧げた尊い行為であるという説明が可能になるような記述になってしまった。


『現代史研究』第53号、2007年12月「沖縄戦における「集団自決」と教科書検定(林博史)」より一部
 この、2008年度版から使用される教科書の検定は、以下のような経緯だった。


 検定を担当した教科用図書検定調査審議会(教科書審議会)の日本史小委員会において、「集団自決」の記述に関し、審議委員の話し合いはなくて意見も出なかったという。なぜなら、この日本史小委員会のメンバーには、沖縄戦を専門にしている人がいなくて議論のしようもなかったから。なのに、何故そういう検定意見が出てきたかというと、『集団自決』記述についての教科書調査官が作成した原案に沿って、「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除する検定意見が付されたのだそうだ(これらの報道へのリンクは2007/09/14付エントリに

 この日本軍強制の記述を削除すべきとする検定意見の根拠は、『近年の沖縄戦関連書籍の一部引用、大阪地裁で争われている訴訟で「自決命令はなかった」とする元座間味島守備隊長の証言など』であると、報じられている。

 では、その書籍の著者はどう語っているか。

今回の教科書検定で文部科学省は、「『集団自決』は日本軍の強制でない」と判断しましたが、その判断の参考著作物のなかに、私の著書『沖縄戦と氏衆』があげられています。
 教科書執筆者の方から聞いたのですが、文科省の教科書調査官は検定緒果を通知する場で、「『沖縄戦と民衆』を見ても、軍の命令があったというような記述はない」と、軍の関与を否定する根拠として私の本を唯一の具体例として挙げたそうです。驚くと共に、恣意的に参考資料を使っていることに怒りを覚えました。

 確かに私の本には「赤松隊長から自決せよという形の自決命令は出されていないと考えられる」(同書161頁)というような一文はあります。しかし、これは「集団自決」当日に「自決せよ」という軍命令が出ていなかったとみられるということを書いただけで、軍による強制がなかったということではありません。

 同じ本の別の頁には「いずれも日本軍の強制と誘導が大きな役割を果たしており」「日本軍の存在が決定的な役割を果たしているといっていいであろう」(共に173頁)と書いており、これが「集団自決」に対する私の基本的な考え方です。そんなことは本全体を普通に読めば分かるのに、たった1、2行を全体の文派から切り離して軍の強制性を否定する材料に便うのですから、ひどい検定としか言いようがありません。


『通販生活』No.231、2007年秋冬号、2007年11月「住民を『集団自決』に追い込んでいったのは軍でした(林博史)」より冒頭の一部
 著者の林先生本人が否定しているのだ。

 後者の大阪地裁で争われている訴訟とは、「大江・岩波沖縄戦裁判」のこと。元座間味島守備隊長らが、自決命令がなかったのにあったとして大江氏の著作に書かれたと訴えた裁判なのだが、2008年3月28日に大江氏と岩波書店の全面勝訴の地裁判決が出ている。この裁判、書籍中の記述が名誉毀損にあたるとして訴えているにもかかわらず、当の原告のご本人が肝心の書籍を読んでいないと本人尋問で答えちゃう、不思議な裁判だった。
 しかも、控訴審判決も2008年10月31日に出ているのだが、原告側(自決命令がなかったと主張する側)が新たにむしろ「自決してはならないと命じた」証言のために出した証人の主張が「明らかに虚言であると断じざるを得ず」と判決に書かれている始末で、日本軍の自決命令はなかったと主張する根拠にはとうていならない状況であったりする。

 ちなみに、この裁判。原告側(無かった側)弁論で「検定で軍命の記述が削除されたことで目的の一つ」と公言したそうで、同じ事を主張する人が当ブログにもコメントを残していったりもするので、「無かった側」にとっては公然たる目的のようだ。

 なぜこれで、それまではあった強制記述を無くす「教科書調査官が作成した原案」が出てくるのかが不思議な事態であるが、これまた不思議なことに、日本史担当の教科書調査官が「つくる会」とつながりがあると報じられていたり、、、どころか結局、教科書調査官の日本史担当者と、教科用図書検定調査審議会日本史小委員会の近現代史担当委員の計8人のうち4人(審議会に2人)が「つくる会」関係者と報じられ、それは公開された情報で確認できたり、という、とてもとても不思議な状況であるようだ。もちろん、「新しい歴史教科書をつくる会」は軍命記述削除希望の立場から積極的に申し入れなどもしている(こっちも)。とてもとてもとても、不思議な検定の経緯であるといえるだろう。


 なのに。ついこの前、2009年11月18日以降からこんな報道が出てきた。

「日本軍の関与がなかったことにしろ、という意見ではなく、誤解を招く可能性があるのではないかという有識者の判断として意見書が出された。適正な経過だと認識している」と述べ、検定意見の撤回には言及しなかった。瑞慶覧長敏氏(民主)への答弁。


 上記のような経緯である。これが「適正」ですかそうですか、と思うのは私だけでは、当然無い。

実現させる会の玉寄哲永世話人は「経過が適正でないからこそ沖縄側から要請を続けているのに、何を根拠に適正と言えるのか。座間味村や渡嘉敷村の集団自決の場にいた体験者で今まで発言してこなかった人も、軍強制があったと証言している。その声に耳を傾けてほしい」と訴えた。



 あるいは、18日分で。

 同省の高井美穂政務官も検定意見は日本軍の責任や関与を否定する趣旨ではないと説明した上で、「教科用図書検定調査審議会が軍の命令の有無は断定的な記述を避けることが適当として検定意見を出し、発行者において(記述が)削除された。(検定意見は)省としてどうこうする話ではない」との見解を示した。


…はぁ?

「どの資料を認めるか、認めないかという話は文科省としてかかわることができない。教科用図書検定調査審議会に任されている」とも発言した。これに対して、高嶋伸欣琉球大学名誉教授は「検定制度は文科省の職員である検定官が主導して、審議会が追認しているのが実態だ。文科省は関係ないと言うのは偽りだ」と指摘した。


 なんだか、文科省政務官が教科書会社のせいにしているようにも読めるが、とてもとてもとても不思議な根拠と経緯で「検定意見」が出されているのだ。2007年9月29日の県民大会で検定意見の撤回が求められたが政府はそれに応じず、教科書会社の自主的な訂正申請を承認するという形をとりながら、検定意見は撤回せずに『軍強制』記述の復活もさせなかった

 教科用図書検定調査審議会が訂正申請の審議過程で各社に示した「指針」で、「今後の調整は教科書調査官に委任する」と一任していたことも明らかになった。「指針」提示以降の文言調整は調査官が実権を握っており、恣意(しい)性が指摘された1年前の検定過程と変わらない構図が浮かび上がった。


 どれもこれも、全国紙はほとんど報じなかった話だ。県民大会で何人集まったかとかばかり報道し、なぜ、沖縄の人たちが怒ったかはほとんど伝わってなかったろう。なのに、文科相の立場にある人物が、『(現況を含め)適正に経過している』と発言した、と。

 なお、私も今回復習するまで忘れていたが、教科書調査官に「つくる会」関係者が入っていることを平成19年4月25日の「第166回国会 教育再生に関する特別委員会」の質疑で追求した川内博史議員は、民主党で今も議員のようだ。まぁ、今回、川端達夫文部科学相に質した瑞慶覧長敏議員も民主党であるわけだが。
 あなた方の党、それでいいんでしょうか?


 他にも色々。
「事業仕分け」も含めて全般的に;「Afternoon Cafe 民主党の豹変ぶりを簡単におさらい」(@2009/11/21)

ところで色々な動きのある中、雇用対策、派遣切り対策はいっこうに見えてきません。雇い止めなどは悪化する一方です。
これが新政権にまっ先に期待された焦眉の急の政策なのに遅々として進んでないのです。
このままでは年末の派遣村再開は必至。貧困問題に有効な手を打たないでいて、一体どこが「国民生活が第一」なのでしょう?


軍事植民地問題;
なごなぐ雑記: 憤怒の河を渡る」(@2009/11/20)
なごなぐ雑記: 寓話・FUTENMAの行方【追記あり】」(@2009/11/18)
なごなぐ雑記: 岡田外相は沖縄県民を恫喝するために来沖したのか?【追記あり】」(@2009/11/16)

 沖縄への「県内移設」問題は、この国の根幹に現在以上に沖縄への「差別」を深く埋め込む行為である。おそらく日本国民の大多数は、この問題について関心がなく、それでいて自らの地域に米海兵隊が駐留するなどといったら大反対するだろう。そのような「政治的事情」で、沖縄の「県内移設」が大前提となるような日米同盟は、まともな民主主義国家間の同盟たりうるだろうか。同盟の根幹に、これ以上「沖縄差別」を深く埋め込むことは、同盟を不安定にするだけであり、国家の権威や国民のunityを著しく損なう。

 在沖米軍基地は、沖縄の人たちが強制集団死他で苦しめられた沖縄戦の後、アメリカ軍が住民を収容所に収容している間に造った基地。…の代わりにトラックバックを。

参考;
2007-11-03  「世界の片隅でニュースを読む : 沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題の資料」

沖縄タイムス 2007年12月27日朝刊社会26面「軍強制認めず・教科書検定緊急インタビュー(1) 沖縄戦「集団自決」問題

歴史学研究会 「沖縄戦での日本軍による「集団自決」強制の事実を歪める教科書検定に抗議する(20070511)

マガジン9条~この人に聞きたい『林博史さんに聞いた その1』~

「軍命あった」 沖縄戦専門家の林教授が講演-JanJanニュース(2007/12/18)』
ユーザータグ:  沖縄「集団自決」
[ 2009/11/22 23:09 ] 自爆史観 | TB(3) | CM(0)

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