このトピック方面が目につくようになり別件でエントリを準備していたのだが、ここ数日、準備していたネタの斜め下方向に呆れかえる情報をいくつか見、関連情報をチェックして回っていたのでメモがてら当方でもエントリを上げておこう。
愛知県瀬戸市片草町の山林で十三日、おりにかかったツキノワグマの殺処分を決めた行政、地元住民と、処分を阻止しようとする自然保護団体「日本熊森協会」(兵庫県西宮市)が七時間にわたって対立。話し合いは平行線のまま、結局クマは瀬戸市に依頼された猟友会の会員に射殺された。
この件に関しては、この「自然保護団体」が自前のコンテンツで情報発信をしていたので見ていた。
市環境課によると、クマは九日、イノシシ用のおりの中で発見された。最初は殺さずに放すことを検討し、保護を訴える協会とも協議した。他県に移送を打診したものの受け入れを拒否され、住民の不安も高まったことから、十二日に殺処分を決めた。
12付の熊森ニュースによると11日から熊森協会員が現地入りして交渉などをしていたようなのだが、それなのに住民の不安が静まらなかったというのは、どういう活動をしていたのか実に謎めいていると言えるだろう。
十三日午前七時ごろから現地で、協会の会員と、市・県の職員、住民が“にらみ合い”。「クマはおとなしく、人と共存できる」と主張する協会側と、「ここは私たちの生活の場」「けがをしたら誰が補償するのか」と住民たち。午後二時ごろ、クマは殺処分されたが、市環境課の高木啓次課長は「放つのが基本だが万策尽きた」と苦渋の表情だった。
既にリンクを貼った
12付の熊森ニュースでも『行政の方々も、「助けられるものなら命は助けてやりたい」と言ってくださっています』とあるので、実際、行政側の努力は伺えるだろう。しかし、
13日午前の熊森ニュースでは殺処分を妨害に集まるように呼びかけがなされ、
13:30に行政による退去命令発令が出て「無理やり暴力的に引っ張られ」などと表現を使って強制排除されたと書いている。方法を模索して駄目という結論が出た訳なのだが。熊森側がそんなに殺処分の結論に納得ができないのなら、「クマはおとなしく、人と共存できる」と仰せのことだし、熊森が設備を整えて、クマ牧場を作って連れ帰ればいいのでは?と、私などは思うのだが。
少なくとも、地元の、そこで生活している人が安心して暮らせることを優先しないでどうするんだろうと思うのだが、何故か、熊森の人達は、10名ほど連れだって殺処分の妨害に訪れるにあたって、「
(地元の人たちだけは通すのは)不公平である。わたしたちは、見物に来たのではない。当事者として集まっている。この10名を通してほしい。」と主張しているのである。まぁ、確かに見物に来たのではないのは確かのようではあるので、この箇所、理屈としては間違ってない。見物に来たのではなく、妨害にやってきた、無理矢理当事者になりに来た人達である。だからこそ、どうぞお通りくださいとは言ってもらえないとは思うが。
さて、熊森協会と言えば「どんぐり運び」を活発にやってる団体として、一部では有名である。
明治神宮に来られる予定の方へ。境内では、動植物の採取は一切禁止されており、私たちNPO響は唯一の公認団体として、正式な許可の元に活動を行っています。今日も境内ではルールを無視してドングリを採取する人が多く見受けられ、神宮の職員さんが注意したところ、熊森協会へ送るための採取でした。
なんか一生懸命やっているようだが、2010年10月30日時点で「
やっとクマが、くまもりのドングリを見つけてくれた!」と喜んでいるようなので、確実に熊のみに食べさせるノウハウをもっているわけでは無い様子である(確実に熊だけがドングリを食べているとしても、それはそれで「餌付け」が成立するので問題は大きい)。しかも、これの活動って2004年時点に『
「クマにドングリ作戦」は「大失敗」である』と批判されているぐらいなので、それから6年たってもノウハウは確立していないらしい。また、この批判においても「野生動物に食べ物を与えてはいけない」と指摘されているが、『
クマやサルなど野生動物への餌付け防止について || 野生鳥獣の保護管理[環境省]』でも
昨今ツキノワグマの異常出没による人身被害など、人里や集落地におけるクマやサルなど野生動物と人とのあつれき(農林業被害、人身被害など)が大きな問題となっています。
このようなあつれきが生じている背景には様々な理由が考えられますが、大きな要因の一つとしてクマやサルなどの野生動物に食べ物を与えたり、意図せずゴミなどを放置することで、野生動物がそれらの食べ物に依存してしまって餌付け状態になり、その結果人里に出没し被害が発生していることが考えられます。
鳥獣保護業務室では、専門家の方々の意見を聞いて、別添のとおり餌付け防止等のために気を付けるべきことをとりまとめました。
の前置きの上で、添付資料『
「餌付け防止について』
(リンク先PDF)が呼びかけられている。中にはこんな一節がある「野生動物の生息地に餌となるものを残さない! ・ハイキングやキャンプやバーベキューなどでは、生ゴミ等は持ち帰る。 ・廃棄農作物等を山などに投棄しない。」。
一方、「日本熊森協会 石川県支部」は2010年11月11日付で『
ドンプレ報告』なるエントリを上げていた。休日に人力で運んでいる様子である。雑木林に、50キロとか20キロのどんぐりをどかどか置いて回っている様子で、猪が食べた様子だとか、実に楽しげに報告しているのである。食べ痕と称する画像もしばしば見かけるが、動物たちは残らず食べるわけではない。どんぐりは煮沸して運んでいるという話も見たことはあるが、その場合なら生ゴミだし、煮沸していないどんぐりならその土地にない植物を移入していることになるのだが。何より「人が運んだ」人の匂いの付いた食物を、熊に食べさせている状態なのである。
熊森協会は、今年はドングリが不作だからと主張する。しかし、2010年7月21日時点でこんな報道が出ていた。
『
asahi.com(朝日新聞社):ツキノワグマ被害多発 若いクマ増加・登山ブームも背景』
7月時点では、どんぐりの凶作は関係ない。
山菜採りなどで山に入った人がツキノワグマに襲われる被害が増えている。朝日新聞のまとめでは5、6月だけでツキノワグマがいない北海道、沖縄を除く全国で1人が死亡、22人がけがをした。攻撃性の高い若い熊が増えているとみられ、登山ブームで中高年の入山者が増えていることも背景にある。専門家は熊が冬眠する11月ごろまで注意するよう呼びかけている。
福島県喜多方市の山林で5月30日午後、前日から山菜採りに出かけ、行方不明になっていた同市の男性(当時70)が、仰向けに倒れて死亡しているのが見つかった。遺体にはツメで引っかかれたような跡があり、県警は熊に襲われたとみている。県内での熊による死者は2003年以来7年ぶりという。
若い熊が増えている、という事態も注目したいが、この時点で既にこれだけの被害が出ているのだ。
1992年から全国の被害事例を集めるNPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)の米田(まいた)一彦理事長は「5月だけで被害が10人を超えるのは異例」と話す。被害増加の原因について「今年は攻撃性が高い若い熊が増えているのではないか」と指摘する。
そしてもう一箇所、気になる指摘が報道されていた。
森林総合研究所(茨城県)の大井徹・鳥獣生態研究室長は「04、06年の大量出没の時に熊が人里近辺に定着し、人との危険な遭遇が増えた可能性がある」と指摘する。
…そういえば、
熊森のどんぐり運び活動は2004年時点に既に批判をされていた事を、確認しておきたい。
環境省では、「
クマ類による人身被害について [速報値]」
(リンク先PDF)を発表している。平成22年度(2010年度)は10月末暫定値だが、ツキノワグマ被害に絞らせてもらうと113件で118名。2009年は50件で62名、2008年は49件で52名、2007年は44件47名、2006年は140件145名。やはり2006年は大量出没年だったようで、2010年の勢いもそれに迫りそうだが、それはともかく、命が助かっても襲撃されれば恐ろしいことは想像に難くない。なお、
第18回マタギサミットin東京にあった情報によると、2006年11月末時点で被害者のうち3名が亡くなっているという。そして、一般にはツキノワグマは「人は喰わない」とされているが、「弘前藩国日記」に元禄8年~享保5年(1615-1720)の間に死者16名を含む計39名の人的被害や、食害されている目撃譚が記載されているとマタギサミットで報告があったそうである。
こういった生き物と生活圏をともにしている人達の安全な生活に、そこに住まない者だって思いを至らせるべきだろう。
しかし、熊森協会は、前掲した熊森ニュースにこう書く。
「
地元の殺せ といっている人たちにも来てほしい。対話したい。クマという動物を完全に誤解している。クマは、本来、臆病で、控えめな平和愛好者。やさしくおとなしい動物です。」
日本大学生物資源科学部森林資源科学科森林動物学研究室内に事務局を置く「
日本クマネットワーク」は「2010年秋にクマが人家周辺に出現している理由について」としてこう述べる。
直接的な原因と,間接的な原因が考えられます。
間接的な原因として,クマの生活空間と,人の生活空間が近接してきていることがあります。里山と呼ばれる地域での過疎化や高齢化は,人とクマをはじめとした野生動物の緩衝帯としての機能を失わせています。以前は薪炭林や焼き畑として利用され開放的な景観を呈していた里山は,現在では成長した広葉樹に覆われ,クマの利用できる果実を実らせています。またそうした里山に出現するクマを追い返す活力も,多くの山村からなくなってきています。1878年と 2003年に環境省が行ったクマの分布域調査では,東日本を中心に面積が19%増加しています。
直接的な原因としては,堅果類の不作があります。特に今年のブナ,イヌブナ,ミズナラ結実については凶作の傾向が強い可能性があります。ただし比較的低標高地に分布するコナラやクリについては局所的に結実している場所もあります。そのため,クマはこうした利用可能なクリやコナラを求めて低標高地,すなわち人の生活空間周辺に移動してきている可能性があります。また生活空間周辺には,カキなどの果樹,コンポストや残飯などの人間由来の食物,養魚場や畜産場の人工飼料,飼いイヌなどのペットフードが存在します。そのためこうした魅力的で簡単に入手できる食物に気付いたクマは,そこに執着するようになっている可能性があります。一度そうした食物に執着したクマは,多少の危険を冒しても,繰り返し出現するようになります。(後略)
そして、人家周辺で人身事故が起こることに対処するための今後の方針としてこう提言する。
こうした事態を解決するための簡単な答えはありません。 しかし、次のような対処療法的も有効です。食物を探索して大きな移動を繰り返しているクマにとっては、集落、農地の中と周辺にある果樹の収穫,残飯,家畜飼料,ペットフードは、魅力的な食物であり、彼らを集落、農地に引きける要因になっています。これらの潜在的なクマの適切な管理が必要です。食物の味を覚える前であれば,電気柵設置や果樹へのトタン巻きなどの物理的なバリアも効果的です。(後略)
物理的なバリアは「食物の味を覚える前であれば」であることにも注目すべきだろう。だから、一度、人里に出てきて味をしめてしまったクマは危険になるのだ。人の行動圏で誤捕獲された小熊であっても、小熊は成長する。
クマネットワークでも分布域が増加している指摘があるが、そういった指摘は他でもみかける。
でも、近年の人里への出没増加は、ドングリの実なりの変化だけが原因ではないようです。環境省は、大型哺乳類の全国分布調査を1978年と2003年に実施しました。北海道を除く地域でツキノワグマの生息情報があった割合は、1978年の28%から2003年には34%と増加したことが明らかになりました。北陸地方でも宝達丘陵や福井県の丹生山地で分布が拡大しています。ツキノワグマの生息数を正確に求めることは難しいのですが、いくつか県での調査では個体数も増加傾向にあります。このように全国的には分布域と生息数は漸増傾向にあり、これが人里出没増加にも影響していると考えられます。また、いくつかの仮定から、今後の全国のツキノワグマ年間捕獲数を1990年代の平均に相当する1,500頭程度とすれば、2011年ごろには2006年の大量捕獲以前の生息数にまで回復すると予測され、全国的な大量出没の再発が危惧されます。
このシンポジウムは平成19年8月18日、2007年である。
また、動物カメラマンの宮崎学氏も「
ツキノワグマは増えていると思うんですが… - ツキノワグマ事件簿」初め、いくつかのエントリで同様の指摘をされておられる。それに、熊森協会はこう反論する。
写真家Mが、自動撮影カメラで、クマがうんといることを撮影したと言っているから事実じゃないかと言われるかもしれません。しかし、わたしたちは、自分の目で、クマが山にいないこと、クマの痕跡がまったく奥山にないことを確かめています。目視ほど確実なものはありません。
この人達の目視による証言があてになるとは、とうてい考えられないのだが。
また、熊森協会はこのようなどんぐり運び批判批判も展開する。
学識経験者といわれる人の中には、「餌付けをしてはいけない」と、言う人もいます。しかし、生きられなくなっている動物に、まして絶滅しようとしている動物に食料を提供することは、決して餌付けなんかではありません。
これまであまりこのような活動を公表してこなかったのは、対案も示さず、「餌付けをやめろ」「生態系を撹乱させるな」などと、日本の山の生態系に対する無知ゆえに批判する無責任な人たちが一部いるからです。わたしたちの大事な活動を、この人たちに邪魔されたくありません。こういう人たちに限って、自分は部屋の中にいて、何もしないのです。人のあげあしとりをすることに生きがいを感じている恥ずかしい人たちです。
対象の生息数に限らず、餌付けは餌付けである。
こういう事を堂々と書いてしまえるようなので、日本ツキノワグマ研究所が2010.11/04付でだしていた声明「
当所は堅果類凶作年に山にドングリをまく行為に反対する」もお持ち帰りさせていただこう。
以前から、このように態度を明確にして来ているが当所へドングリを撒くように
強要する例が後を絶たず、今回、以下の理由により表明する。
1. これまで動植物学研究者が各種理由により反対してきたことに賛同する。
2. 当所独自の理由
(1)クマは一回に最大5kgほど採食でき一日2回採食のピークがあるものとして10㎏とした場合。
クマは、その時期、あるものを、無くなるか、自分が殺されるまで食い続ける、ほぼ単一食的採食するので300㎏を山中に置くとすると30日間食い続けることになりリンゴ、ドングリ類の餌付けは駆除される危険性を高める行為だ。
(2) 第一、置いたドングリなどクマは食わない。
クマは一義的には未熟の青いドングリを好食する。
これは渋皮に含まれるサポニン、タンニンが含まれるのを嫌うためと思われる。
(3)紀伊半島のクマ以外、シイ、カシの実に慣れていない。
西中国のクマでさえシイ、カシ木にクマ棚を作らない。
3. 皆さんへ
(1)10月12日に福井県の病院施設でクマに襲われ、その後、施設内に居座ったクマを射殺した際に被害者を非難する電話、メールが殺到した件につき、突然に襲われ、なんら落ち度の無い被害者に二重被害を与える行為だ。
(2)都会の良心的な市民の熱意を受け入れて被害地の放棄カキもぎ(味を覚えさせてはならない)、草刈、放棄果樹木の伐採、登れなくするトタン板巻きに参加させるクマと農家に役立つ活動を行政、研究者、自然系NPOは起こさなくてはならない。
確かに、一箇所に20-50kgもおいてあるドングリを食べる行動は、普通に考えて、本来の、野生クマのどんぐりの食べ方ではない。
ちなみに、私なら
これだけの活動実績を上げている研究所を「自分は部屋の中にいて、何もしない」「人のあげあしとりをすることに生きがいを感じている恥ずかしい人たち」呼ばわりする度胸は無い。
まぁ、
行動範囲が20~123平方キロメートルと報告されているクマが、人里近くで捕獲された際に「
現場は民家から1キロ離れたところで、放獣場所にぴったりの良いところ」と、謎の発言をする人達のことではあるが。。。
こういう人達の呼びかける運動に協力して、ヒトとクマの共存の道が探れるとは考えられないのだが、私には。むしろ、不幸な結末を迎えるクマを増やすことになりかねないだろう。
盛り込めなかった参考;
よく里に近づくクマは、観光客による餌やりや道ばたに捨てられたゴミ類(ジュースの残りなど)に端を発していると言われる。甘くてうまい味を覚えてしまうのである。そうなってしまうと、多くの場合悲しい結果に終わる。心ない人の餌やりは、クマを殺し、多くの住民を危険に陥らせる。
『
H22年度におけるクマ類の捕獲数(許可捕獲数)について [速報値]』(PDF)
『
今日は「実践的自然保護」: pokoponにっき』
『
これはおかしいよ熊森協会 まとめ - ならなしとり』
『
COMPLEX CAT : 秋来(しゅうらい) #3』
『
野生のクマをなんとか助けたいと考える皆さんへ - 紺色のひと』
『
くまともりとひと』
『
おすすめしません野生動物への餌付け - エゾリスの会 非公式ブログ!』