世の中を大きく変える「チャットGPT」など生成AI(人工知能)。イタコの口寄せで知られる恐山の菩提(ぼだい)寺(青森県むつ市)副住職を務め、一般向けの著作が多い禅僧の南直哉さんは、AIの進歩の末に「人類は消滅するかもしれない」と説きます。西洋哲学にも詳しい南さんが「死」とAIについて語ります。【聞き手・鈴木英生】
人間は凡庸。「創造的な仕事」は必要か?
人間の自意識がデジタルネットワークの中に溶けて消え去る、仏教の言葉をもじれば「デジタルニルバーナ(電子涅槃=ねはん)」の時代が、いずれ訪れるのではないか。AIの進歩を、そんな思いで見ています。
今のところ、AIは、精巧な道具に過ぎません。与えられた問いに対して、膨大なデータから答えを出すだけです。つまり、人間のような自意識、たとえば、自分の置かれた状態や自分のあり方を自ら疑問に思う能力はありません。それでも、今後、社会と人間のあり方を大きく変えるでしょう。
AIは、創意工夫のさほど必要ない、凡庸な作業や情報の量産に向いています。逆に言えば、近い将来、凡庸で構わない場面に、人間はほぼ必要がなくなるでしょう。ほとんどのホワイトカラーの仕事は、ざっくり言うと凡庸な事務処理です。専門職の仕事だって、たとえば医師よりもAIの方が正確に診断したり、迅速に手術したりするようになるかもしれません。
世の識者は「つまらない仕事はAIに任せて、人間は創造的な仕事に専念できるようになる」などと言います。そう聞くと、つい「正気か?」と思ってしまいます。
人間の多くは、圧倒的に凡庸な存在です。それで世の中の誰も何も困りません。つまり、そんなに大量の創造的な仕事は、人類に必要がないのです。結局、AIが事務仕事を奪い、他の機械が単純労働も代替した末には、無職で生活は保障された人の存在を許容する社会が必須になると思います。
自意識を持ったAIの反乱が起きる?
こうなると、アイデンティティーの問題が出てきます。近代以降の人間のアイデンティティーは、根本を仕事が占めてきました。だから、退職した途端に元気がなくなる人や、新聞の投書欄で「元教師」とか「元公務員」といった肩書を使う高齢者がいるわけです。
未来社会では、多くの人が、人生の最初から、いわば「老後」を生きます。…
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