箕田海道「きみの虫歯ならいいよ」&オヤジ殺し

 娘には虫歯がない。

 昨今の子どもは全然虫歯にならんのな。

 虫歯を有する子どもの割合ってどんどん減っている。

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 必ず歯を磨いている(しかも「ながら」で)、というのがまず大きい。

 甘いものにも執着がない。炭酸飲料水とか全然飲まない。いやホントに飲まないのだ。アイスは好きだけど節度がある。

 

 ぼくの子どもの頃と大違いである。

 まず、歯を磨かなかった(汚い話ですいません)。家で誰もうるさく言わなかった。そして、客相手の商売をしていたので、接客用のサイダーとか缶コーヒーとかが酒屋から仕入れたまま大量に納屋に置いてあったので、それを好き放題飲んでいた。そら、虫歯にもなるわな。

 まあ今はもちろん治療しているし、歯石もとるし、歯磨きの習慣もあるし、歯間ブラシも使うし、虫歯は今現在ぼくの口の中には、ない。

 それで育児を始めた時、育児本などで「親が噛んで、それを小さい子に食べさせるのは虫歯がうつるのでやめましょうね〜」と言われるので、昔の親が当たり前のようにやっていたそいつは一切やらなかった。

 裁判で上京した最終盤、歯が痛くなってきてどうにも我慢できずに東京の歯医者に行った。通いの治療などできないので、「大事ではないか」だけ確かめて痛み止めをもらったのである。虫歯ではなく、歯の神経が傷んで、膿がたまっていたようなのである。福岡に帰って地元の歯科医に行った時、歯医者特有のあの器具によるキョーレツに嫌な音を立てられながら歯に穴を空けられているのに何も痛くないのはなんだか新鮮だった。

 

「きみの虫歯ならいいよ」

 箕田海道「きみの虫歯ならいいよ」は、スペリオール25年1月1日号に載った短編である。

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 虫歯がキスでうつるとテレビ番組で知り、親にその場で虫歯でも死ぬらしいと脅されて以来、虫歯にならないように努力し、かつキスをしないようにしてきた主人公・直也。

 恋人(咲良)がいるけども、キスだけはしたことがない(それ以外はたくさんしている)。

 にもかかわらず歯が痛くなったので虫歯になったと思った直也に対し、咲良は「他の女とキスしたんだ」と言ってふてくされてしまう。

 やがてミサイルが落ちるという警報が鳴り、ひょっとして人生で大事なことを忘れてしまっているのではないかと急に思い直した直也は咲良とキスをするのである。

 

 ミサイルとか人生とかっていうのは、どちらかといえばとってつけたような感じがある。しかし、咲良がかわいく描けていて、二人がキスをする絵面がなんだかほどよく綺麗で、いやらしいのである(エロい、というところまで行っていない)。

 少女マンガとかじゃなくて、キスしている男女がうまく描けているのでいいなと思った作品であった。ラストのページのイチャイチャしている感じは、適度に生活感がある感じでいやらしくて見入ってしまった。

 

オヤジ殺し

 同じ号の「らーめん再遊記」は、亡くなった父親のラーメンチェーンを、隠し子・新谷研作が継ぎそれがうまくいくかどうかを確認する回だった。

 これまでコアなファン層を離れさせないようにしつつ、新たな客をつかむという難題に挑んだ結果が発表され、その謎解きがなかなか面白かった。「このままでは先細り」という課題を抱えて、「従来のやり方にしがみつき続ける」「新規客だけしか見ない」の両極に触れてしまう、というのは、あらゆる企業体——政党も含めて——に共通する問題だからである。

 

 ところで、今回の話の中で、新谷が悪役主人公・芹沢にお礼を言うコマがある。

こうして復活の見通しが立ったのも、全て芹沢さんに励ましていただいたおかげです!! 本当にありがとうございました!!

 芹沢は「いやいや…」と苦笑しながら、

こいつは本当にオヤジ殺しだな…

と感心する。もちろん父親を殺したという意味ではなく、年長者を立てて自分をかわいがられるようなポジションに積極的に下げていくというその姿勢を指してそう言っているのである。

 先日、京都に行った時に、こういう市議のポスターがあちこちに(本当にめちゃくちゃいっぱい貼られていた)貼られていて、印象に残った(ちなみに共産党ではない。このエリアに関しては共産党のはほとんど見なかったので不安になってしまったのだが)。

 「神谷」という苗字だったのと(かみたに、と読む*1)、「お〜い、かみたに君!」「はいっ!」という書き込みの「…君」と「はいっ!」、かつ、駆けつけているポーズが「かわいがられ感」=オヤジ殺し感を、短く・うまく表現しているような気がして印象的なポスターだなと思った。*2

 オヤジではない別の年齢層向けにいえば「政治家・議員だけどエラそうではない」という感じが出ている。

 つれあいに言ったら同意してくれたけど、「だけどまあ60代でこれやったら、頼りない感じが出るんじゃない?」と言われた。そうかもしれない。どうだろう。いや、実際にやってみたら(ポスターにしてみたら)意外に「腰が低い」いい感じが出るんじゃないかな。知らんけど。



 

*1:昔京都に神谷信之助・「かみたにしんのすけ」という参院議員がいたが。

*2:むろん、ポスターの見え方の話なので、この政治家の政策や行動がいいとか悪いとかそういうことは一切わからない。