社会主義

生産的労働と教育の結合?

前回のエントリの続きというか、補足。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com 「生産的労働と教育の結合」は戦後の民主的(わかりやすくいうと左派的な)教育学・教育運動の一つの命題であった。そのもともとの命題は、前回見たとおり、マルクスにあるのだ。 マル…

「私学を含めた高校までの完全無償化はできるの?」

日本共産党議長の志位和夫が教育について語っている。 www.jcp.or.jp この志位のスピーチでは、共産党の大学入試論・高校入試論も触れてある。前からの政策ではあるが、知らない人は驚くかもしれない。 志位氏は、世界に例のない、基本的に全員に受験を課す…

動かない共産党——トロツキー三部作を読む2

前も書いた通り、ドイッチャーのトロツキー伝(トロツキー三部作)を読み直している。 『追放された予言者』にはトロツキーがソ連を追われてから暗殺されるまでが描かれている。 追放された予言者・トロツキー (1964年) 作者:アイザック・ドイッチャー Amazo…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(5/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を5回シリーズで書評してきたが今日はその5回目、最終回である。 批判点ばかり書いてきたが、今回は最後なので、志位の本書の積極的な意義を書いておきたい。 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書いてお…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(4/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を「学び、語り合う大運動」を共産党が「絶賛展開中!」なので、ぼくも参加させてもらおうと思って書いている。5回シリーズの、今日はその4回目。 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書いておく。 「共産…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(3/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を「学び、語り合う大運動」を共産党が「絶賛展開中!」なので、ぼくも参加させてもらおうと思って書いている。5回シリーズの、今日はその3回目。 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書いておく。 志位は…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(2/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を「学び、語り合う大運動」を共産党が「絶賛展開中!」なので、ぼくも参加させてもらおうと思って書いている。5回シリーズの、今日はその2回目。 実家ででた料理 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書い…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(1/5)

日本共産党の志位和夫がローザ・ルクセンブルク財団本部で理論交流を行い、「共産主義と自由」について、自著(『Q&A 共産主義と自由――「資本論」を導きに』、『「自由な時間」と未来社会論――マルクスの探究の足跡をたどる』)を献本し「懇談の素材を提供…

共産主義では労働時間の抜本的短縮がどうして可能なのか

どうして共産主義では労働時間の抜本的短縮が可能になるのでしょうか。 いろんな説明があります。 3つの説明 一つ目の説明。労働時間が「必要労働時間」(自分が生きるための衣食住を生産する労働)と「剰余労働時間」(それを超える分)に分かれ、「剰余労…

池辺葵『ブランチライン』6巻

共産党の志位和夫は、社会主義——生産手段の社会化によって労働(賃労働)の性格は変わるという話をマルクスを引いて語っている。 労働の性格も大きく変わるでしょう。マルクスは、1864年に、労働者の国際団体――国際労働者協会(インタナショナル)を創立…

松井暁『ここにある社会主義:今日から始めるコミュニズム入門』

社会主義は遠い将来の話なのか 左翼の集まりで社会主義や共産主義の話をすると「自分たちが死んだ後の遠い将来のこと」という目をされる。 日本共産党は最近の綱領改定で、高度な生産力、経済の社会的規制・管理のしくみ、国民の生活と権利を守るルールなど…

ジェイソン・ヒッケル『資本主義の次に来る世界』

タイトルに惹かれて手にしたのが本書である。原題は「LESS IS MORE(少ない方が豊か)」だから粋だとは思うけど、それではぼくのようなコミュニストは手に取らなかっただろうな。 資本主義の次に来る世界 作者:ジェイソン・ヒッケル 東洋経済新報社 Amazon …

アンナ・ラーリナ『夫ブハーリンの想い出』

長い休みの間、不破哲三『スターリン秘史』を読み直し、スターリンの大テロルについて関連の本をあれこれ読んでいる。 不破の本の中で紹介されているのが、本書である。 ぼくは身近にいる、ある左翼活動家の女性に「ブハーリンって知ってますか?」と聞いた…

齋藤孝『図解 資本論 未来へのヒント』と『資本論』学習の支援

最近出た『資本論』入門を紹介するシリーズの3冊目。 齋藤孝『図解 資本論 未来へのヒント』だ。 図解 資本論 未来へのヒント 作者:齋藤孝 ウェッジ Amazon これが一番正統な「入門書」だろう。『資本論』第1部の順番にだいたいそって、内容を紹介し、解説…

『マルクス「資本論」に脱成長のヒントを学ぶ』

最近でた『資本論』入門書シリーズの2つ目。 斎藤幸平+NHK「100分de名著」制作班監修『マンガでわかる! 100分de名著 マルクス「資本論」に脱成長のヒントを学ぶ』(宝島社)である。 マンガは前山三都里。「編集協力」は山神次郎、「取材・文」は乙野隆彦…

的場昭弘監修『マンガでわかる資本論』

ある出版社の出している『資本論』を手に入れようと大手書店の経済書のコーナーに立ち入ったら、しばらく見ないうちにずいぶんいろんな『資本論』入門書が出ているじゃないか…!? というわけでその中から3冊ほど感想を書いてみたい。 最初は的場昭弘監修『マ…

『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』

唐鎌直義が紹介していたので読んでみた。 じゅうぶん豊かで、貧しい社会 ――理念なき資本主義の末路 (ちくま学芸文庫) 作者:ロバート・スキデルスキー,エドワード・スキデルスキー 筑摩書房 Amazon サブタイトルが「理念なき資本主義の末路」であることからも…

シーニア「最後の1時間」を理解する

『資本論』を若い人たちと読むことを続けている。 先日も合宿で読んだ。再び、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアごとに止まってその場で30分〜1時間読み合わせするという狂気のやり方。 いよいよ次は第1部8章である。 その前は、もちろん第7章…

二つの『資本論』の訳本を読んでときどき感じる当惑について

新日本出版社の『新版 資本論』を読んでいてわからない箇所が出てくる。 新版 資本論 第2分冊 作者:カール・マルクス 新日本出版社 Amazon 例えば、第2篇第4章「貨幣の資本への転化」の次の部分である。 買うために売ることの反復または更新は、この過程そ…

井上圭壯・藤原正範『日本社会福祉史』

「○○主義について話してほしい」という珍しい依頼を若い人たちから受けた。 資本主義とか社会主義とか科学的社会主義とか新自由主義とか、「主義」ばっかりいっぱい出てきてよくわからない、というわけである。 ただ、よく意図を聞いてみると、基本的には資…

アーロン・バスターニ『ラグジュアリーコミュニズム』

ぼくらが将来について話をするとき(ぼくら自身の将来でなくても子どもや孫たちの将来について話をするときでもいい)、たいていは「暗い」未来予想図で話す。 あろうことか、革命(選挙による政権獲得)をめざしているぼくの周りの左翼でさえ、「はあ…20年…

「暴力革命」宣伝のスジの悪さ

“日本共産党は現在も暴力革命を方針とする政党である”という宣伝は、現代では珍しいほどかけらも真実がない純然たるデマである。なんの根も葉もない。大昔は共産党はどうだったとか、何があったとか、そういうことを百歩譲って認めるとしても、今現在共産党…

不破哲三『激動の世界はどこに向かうか』ノート

先日『資本論』について講師を務める機会があった。 その時、社会民主主義政党の見方やヨーロッパの到達の見方について質問があった。 ぼくなりの答えをその時はしておいたけど、以下は日本共産党の幹部の一人である不破哲三はどのように見ているか、という…

斎藤幸平『人新世の「資本論」』

リモート読書会は、斎藤幸平『人新世の「資本論」』だった。 人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸平 発売日: 2020/10/16 メディア: Kindle版 その中身は、 気候変動が人の生活に与える影響はこのままいくと限界になる。 気候変動はSDGsやグリーン・…

「ラディカルであるとは、ものごとを根本からつかむことである」(マルクス)について

ある左翼組織の会議に出ていたら、報告者がマルクスの有名な章句を引用していた。報告が文書になっており、引用は次の通り。 物質的な力は物質的な力によってたおされなければならない。しかし理論もそれが大衆をつかむやいなや物質的な力となる。理論が大衆…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その6)

はい、ローマーの『これからの社会主義』の書評です。で、今度こそ本当に最後ですわ。もう前の話とか忘れている人が多いですかね。別にいいんすけど。 ローマーが『これからの社会主義』で紹介した「市場社会主義」は、「クーポン型市場社会主義」って言われ…

他人に雇われる働き方はなくなるのか?

今回、不破哲三の社会主義論にちょっと戻ります。 不破が『マルクスと友達になろう』で述べている次の箇所についてです。 「生産手段の社会化」によって、社会がどう変わるか。具体的に見てみましょう。 まず、人間の労働のあり方が根本から変わります。他人…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その5)

ローマーの『これからの社会主義』については「あと1回」と書いたけど、前回記事のコメント欄を読んでみて思うところがあり、もう1回、前回の補足をしておきます。 所有と企業の民主化についてです。 世の中の「所有」のイメージが貧しすぎる まず、所有に…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その4)

ローマーの『これからの社会主義』について引き続きコメントをします。 今日は第5章「集権的計画経済はなぜ失敗したか」と第6章「市場社会主義の現代的モデル」についてです。 第5章「集権的計画経済はなぜ失敗したか」は、旧ソ連・東欧の「社会主義」経…

ローマー『これからの社会主義 市場社会主義の可能性』(その3)

ローマーの『これからの社会主義』について引き続きコメントをします。途中から読んでもらってもわかると思います。 ローマーはソ連タイプの「社会主義」を批判し、「市場社会主義」をかかげているアメリカのアナティカル・マルクス派の人です。 さて、今回…