2024-01-01から1年間の記事一覧

魯迅「藤野先生」

リモート読書会で魯迅の「藤野先生」を読む。 めちゃくちゃ短い小説である。 阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫 ロB 1) 作者:魯迅 講談社 Amazon 魯迅の自伝的な短編小説で、彼が日本に留学した時に出会った藤野厳九郎という解剖学の教師の思い出をもとに描…

瀧波ユカリ『わたしたちは無痛恋愛がしたい』5・6

組織にとって自分はどういう人間だと思われていたのか、本当のところはよくわからない。 だけれども、「都合のよい人間」だと思われていたんじゃないかと思う。 別のところですでに書いたことだからここでも書くけど、額面で月20万円台の給料で50代まで甘ん…

佐原実波『ガクサン』9

高校2年になる娘の勉強量は相対的に増えているなあと思う。居間で問題を解いている姿*1や、ぼくと一緒に英語の文法書や長文を読んだりする姿*2をよく見るようになったのだが、いかんせん絶対量が少ないなとも思う。ネットやスマホやってる時間が長いのであ…

自己批判が攻め道具になるとき——トロツキー三部作を読む3

自己批判は「自分の言動の誤りを、自分で批判すること」(大辞泉)であり、本来健全な精神の作用である。 内省と同じで、自分を絶対視せず、客観的に見つめ直すからである。 こういう作業が、自分の中でできればすばらしいと思う。 他方で、とてもデリケート…

生産的労働と教育の結合?

前回のエントリの続きというか、補足。 kamiyakenkyujo.hatenablog.com 「生産的労働と教育の結合」は戦後の民主的(わかりやすくいうと左派的な)教育学・教育運動の一つの命題であった。そのもともとの命題は、前回見たとおり、マルクスにあるのだ。 マル…

「私学を含めた高校までの完全無償化はできるの?」

日本共産党議長の志位和夫が教育について語っている。 www.jcp.or.jp この志位のスピーチでは、共産党の大学入試論・高校入試論も触れてある。前からの政策ではあるが、知らない人は驚くかもしれない。 志位氏は、世界に例のない、基本的に全員に受験を課す…

ブレイディみかこ『両手にトカレフ』

小学校の頃、学芸会で野口英世をやったことがある。 なんの役だったかはもう忘れたが…。 貧困から勉学によって脱出し成功するというのは近代草創期の人生のモデルである。それを教育の現場でもこのようにガッツリと教え込まれる。 「人生の成功譚」とか「人…

動かない共産党——トロツキー三部作を読む2

前も書いた通り、ドイッチャーのトロツキー伝(トロツキー三部作)を読み直している。 『追放された予言者』にはトロツキーがソ連を追われてから暗殺されるまでが描かれている。 追放された予言者・トロツキー (1964年) 作者:アイザック・ドイッチャー Amazo…

瀬戸めぐむ『いっそあなたがトドメを刺して』

遊んでいる*1男ってクズですか。 いや、ぼくは遊んでいるわけではないが。 ステディがいない状況で遊んでいるとしても、それはそいつの生き方じゃないのか。 何が悪いんだ。 そして、そこに一人の女が現れて「自分のことを好きになってほしい」と言ったとし…

草薙龍瞬『反応しない練習』

SNSで悪口を書かれていることがある。 とくに、こういう身の上になってしまったので、SNS(具体的にはXだけど)では自分が知らないところでいろいろ叩かれるようになった。(なぜかブログにはほとんど反応はないのだが。) SNSは、直接のリプがなければあま…

自由な討論のない党——トロツキー三部作を読みながら

アイザック・ドイッチャーはスターリン主義に反対し当時のコミンテルンの方針に逆らう主張をする中でポーランド共産党を追われた人である。『スターリン 政治的伝記』で伝記作家としてデビューし、トロツキーの伝記である「トロツキー三部作*1」(『武装せる…

共産党の労働時間短縮政策は響いたか?

総選挙が終わり、共産党の選挙結果声明を読んでいて 「賃上げと一体に労働時間短縮で『自由な時間』を」という新たな政策提起は、国民の切実な願いと響きあい、訴えが届いたところでは大きな共感がよせられました。 という一文がある。 これは本当だろうか。…

長谷川摂子によるせなけいこの絵本批評

せなけいこが亡くなった。 www.jiji.com 絵本を読む環境がほとんどなかったぼく自身は、小さい頃せなの絵本には『ねないこだれだ』にしか出会えなかった。 ねないこだれだ (いやだいやだの絵本) 作者:せなけいこ 株式会社 福音館書店 Amazon 自分に子どもが…

『南Q太傑作短編集 ぼくの友だち』

ぼく自身はこれまで外国で生活してみたいと思ったことはない。なんとなく「逃げ出す」みたいな、今の人生に負けたみたいな、そんなイメージがあったからであるが、どう考えても偏見である。そもそもつれあいは外国で暮らしていたが、何かから逃避するために…

『“町内会”は義務ですか?』8刷です

拙著『“町内会”は義務ですか?〜コミュニティーと自由の実践〜』(小学館新書)が8刷となり、本日我が家に届きました。担当の編集の方からも「もう書店に並んでいると思います」と言われました。 8刷のオビです! 2014年に刊行して10年経ち、今だに読み継…

鈴木謙次『ある日本共産党地区委員長の日記(一九七七年〜一九八四年)』

鈴木謙次様。 ご著作『ある日本共産党地区委員長の日記(一九七七年〜一九八四年)』をご恵投いただきありがとうございました。私は鈴木さんには一度もお会いしたことはなく、この贈呈を通じてが初めての連絡であり、鈴木さんに、よほどの思いがあったのでは…

坂井恵理『逃げるA』

セックスに責任があるだろうか。*1 避妊していても失敗する危険性はあって、そのリスクは女性が負うんだから、それで子どもができれば責任が生じるだろ。 じゃあもし挿入しないセックス(性行為)を楽しんでいたら、それは責任がないってことだろうか。 AとB…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(5/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を5回シリーズで書評してきたが今日はその5回目、最終回である。 批判点ばかり書いてきたが、今回は最後なので、志位の本書の積極的な意義を書いておきたい。 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書いてお…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(4/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を「学び、語り合う大運動」を共産党が「絶賛展開中!」なので、ぼくも参加させてもらおうと思って書いている。5回シリーズの、今日はその4回目。 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書いておく。 「共産…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(3/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を「学び、語り合う大運動」を共産党が「絶賛展開中!」なので、ぼくも参加させてもらおうと思って書いている。5回シリーズの、今日はその3回目。 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書いておく。 志位は…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(2/5)

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』を「学び、語り合う大運動」を共産党が「絶賛展開中!」なので、ぼくも参加させてもらおうと思って書いている。5回シリーズの、今日はその2回目。 実家ででた料理 今回の記事の要旨 今回も要旨を先に書い…

志位和夫『Q&A 共産主義と自由──『資本論』を導きに』(1/5)

日本共産党の志位和夫がローザ・ルクセンブルク財団本部で理論交流を行い、「共産主義と自由」について、自著(『Q&A 共産主義と自由――「資本論」を導きに』、『「自由な時間」と未来社会論――マルクスの探究の足跡をたどる』)を献本し「懇談の素材を提供…

8月15日午後8時の戦死

西日本新聞は「うちにも戦争があった あなたの家族の軌跡」シリーズが掲載されている。8月16日付同紙夕刊では「終戦あと1日早ければ 記者の大伯父 旧満州で地雷の犠牲 秘めた無念 祖母切々」として1945年8月15日における満州での戦死の記事が掲載されていた…

藤原道長『御堂関白記』

吉田戦車のエッセイコミック『出かけ親』を読んでいたら、こういうシーンがあって、うむ、我が家と同じではないかと思った。 吉田戦車「出かけ親」/小学館「ビッグコミックオリジナル」 2024年11号より 「虎に翼」と「光る君へ」をどちらも一家で見ているが…

玉野和志『町内会——コミュニティからみる日本近代』

町内会の本を出したことがあるので、住民団体の講演会などに招かれることがある。その時に「町内会ってそもそもどういう歴史を持っているんですか?」と聞かれることがある。 あるいは「戦争の時の『隣組』が起源ですよねえ」と同意を求められることもある。…

天沢アキ『ハマる男に蹴りたい女』

ぼくが職場をクビになって放り出されたことを、ネットニュースで、しかも自分が作った会社の後継社長経由で知らされた父が、びっくりしてぼくに電話をかけてきた。 電話で簡単に経過を説明すると、「そうか。わかった。お前のやることだから信じてる」と言っ…

小池定路『キラキラしても、しなくても』

親しい人が死んだ直後、その親しい人が自分の生活圏や労働圏の中にいて突然いなくなったような場合は、そこに生々しい残り香のようなものがある。言葉通りに「香り」であることもあれば、記憶や思い出のような何らかの痕跡を象徴的にそう呼ぶ場合もある。 上…

カズオ・イシグロ『日の名残』

オンライン読書会で読むことに。 日の名残り (ハヤカワepi文庫) 作者:カズオ・イシグロ,土屋 政雄 早川書房 Amazon カズオ・イシグロを読んだのはこれが初めてである。 1956年のイギリスが舞台。主人公はダーリントン卿の屋敷であったダーリントンホールの執…

ぼくの中で佐々木蔵之介の株が爆上がり

NHK大河ドラマ「光る君へ」を観ているが、ぼくの中で佐々木蔵之介の株が爆上がり。藤原宣孝が、ではなく? あ、いや、どっちなのかもう区別つかねえんだよ。 www.youtube.com 女遊びがすぎて、いい加減な対応に終始して、まひろに灰を投げつけられた時には、…

宇仁田ゆみ『縁もゆかりも』

公益財団日本財団が「こども1万人意識調査」という10歳から18歳までの子どもを対象にした国内最大規模の意識調査を2023年9月に報告書として発表している。 その中で「学校で不安・不満に感じる点」のトップが「ランドセル・カバンが重い(持っていく荷物が重…