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2020年4月15日水曜日

作詞家がコーライトソングライターになる意味〜コーライティングムーブメントが起こす音楽制作の地殻変動

 7年目になる作曲家育成プログラム「山口ゼミ」に新しい潮流が生まれています。プロの作詞家がコーライトソングライターになるために受講するというケースです。その意味を整理したいと思います。
 当たり前ですが、J-POPを創る時に歌詞はとても重要です。日本の音楽ファンは歌詞への反応度が濃いと言われています。山口ゼミ〜Co-Writing Farmを一緒にやっている伊藤涼は「作詞力」という著書もあり、「リリックラボ」という作詞家育成プログラムもやっていますので、作詞家志望者が山口ゼミに目をつけるのは不思議は無いと思われるかもしれません。ただ、僕は日本におけるコーライティングムーブメントが新しいフェーズに入ったなと感じました。具体のケースに興味のある方は本人のブログを読んでいただくとして、僕はもう少しマクロな視点を提示したいと思います。

作詞家志望者の苦闘

 自作自演以外のアーティストの場合、近年は「曲先」と言われる、楽曲を完成させてから歌詞を発注するという形が一般的です。作詞家を指名したり、作詞家事務所を経由したコンペだったり、何人かの作詞家にお願いする「指名コンペ」だったりやり方はいつからありますが、いずれにしても「歌詞は最後にハメる」というのが一般的な作り方になっています。
 音楽に限りませんが、制作工程の最後になるということは、締切までの期間が短くなるケースが増えるということです。おのずと作詞家は辛い環境での創作を強いられることが多くなります。それでも実績があって指名をされるなら頑張り甲斐もあるでしょうが、作詞コンペに参加するだけだと、消耗ばかりしていくことになるでしょう。
 僕はこだまさおりがシンガーソングライターとしてデビューして、後に作詞家に転身して成功するまでの経緯をずっと近くで見てきたので、過酷な状況で鍛えられて、元々あるセンス・才能に職人的な技が加わっていくというプロセスに必ずしも否定的な訳ではありませんが、作詞家を目指す人全員にオススメできる環境ではありません。
 古い話で恐縮ですが、作詞家阿久悠は「詞先」の依頼しか受けなかったそうです。昭和を代表するミリオンセラーを山ほど出した大先生との比較は大げさになりますが、これを僕は「作詞家は楽曲のコンセプターだ」という意味に解釈しています。J-Popにおいて歌詞を書くということは本来「楽曲のコンセプト・核を決める」ということのはずなのです。ここでコーライティングの出現です。メロディメイク、トラックメイク、楽器演奏、シンガーなど、得意技を持ったソングライターたちが集まって、一つの楽曲を作り上げる、そこに「コンセプター」としての作詞(リリックライティング)の役割は大きくあります。
 そもそも、プロの作詞家でメロディメイクが全くできないという人はいるのでしょうか?現実にはコードが決められ、アレンジして、ミックスしてと自分で完成形まで作れないと、そもそも他人に聴いてもらえない時代です。「私は鼻歌しかできない」みたいに思って、メロディはつくれないと思っている人がケースは多いのかもしれません。トップライナーとしても関わりながら、コーライティングで作品を創っていく。そこに作詞家としての経験やセンスが活かせる場面は多いでしょう。

クリエイター主導の音楽制作へのパワーシフト

 背景として指摘しておきたいのが、音楽制作においてパワーシフトが起きていることです。20年位前までは、レコード会社のディレクターは良さそうなデモがあると、プリプロダクション(事前作業)用にスタジオを使って、完成形に近づけ仮歌を入れてみるというプロセスが一般的でした。タイアップ先やアーティスト本人や事務所の社長に聴かせるためのデモを作ります。その過程でディレクターが自分のイメージする作品に寄せていく訳です。
 デジタル化の進展で自宅録音のレベルが飛躍的に向上して、プリプロダクションは無くなりました。作曲家がそのままタイアップに出せるクオリティの高いデモを作ってくれて、それがコンペで選べるなら、その方がディレクターは楽ですし、コストも掛かりません。海外作家(アメリカ、北欧、韓国など)から、非常にクオリティの高いデモの売り込みが増えたこともそれに拍車を掛けました。ドラマのプロデューサーやCMのディレクターなど、タイアップのジャッジをするのは音楽の専門家ではありません。「この曲はこういう風にアレンジして仕上げたら素晴らしくなる」と想像力を要求するのは簡単ではなく、「これカッコいい」って聴けばわかるデモが重宝されるのは当然ですね。
 最近は、クリエイター提出デモがコンペで選ばれ、歌詞もアレンジもそのまま使われるというケースが増えてきています。具体的な工程としては、「採用なのでフル尺でください」(コンペは1コーラスのデモで行われるのが普通ですが、これもそろそろ欧米のようにフル尺になっていく気がしています)→「決定なので、ボーカル録音するためのカラオケください」→「ミックスするのでパラデータ下さい」→完成という流れです。クリエイター側にミックスの能力があるメンバーがいる場合は逆にボーカルトラックを受取ミックスも行うケースも少なくありません。つまり「ボーカル録音以外は全部クリエイターが作ったものがリリースされる」ということが普通になってきているのですが、これは欧米でも増えている現象で、決定権自体はディレクターにあっても、実質的な創作、制作のイニシアティブはクリエイターサイドに移ってきている訳です。この傾向はどんどん強まっていますし、そうなっていくでしょう。
 この音楽の制作にはコーライティングというやり方が非常に有効的です。それぞれの得意なスキルを出し合いながら、一つの目標に向かって真摯に議論し、作品を仕上げていく手法。バンドで音楽を作るときに、その人たちの組合せでなければ起きなかった奇跡的な良い作品ができると「バンドマジック」と言って喜びますが、コーライティングは、1曲ごとに「バンドマジック」を起こすようにする、「ソングバイソング・コーライティングマジック」が理想形です。一曲完成したら解散するバンドみたいないことです。やりたくなったらまた再結成すればいいのです。創作の大きな敵は「煮詰まってどうすればよいかわからくなる」なのですが、コーライティングはそれも回避しやすい方法論です。

コーライティングという手法の有効性はレコーディングエンジニアにも。

 作詞家と同じことが、例えばレコーディングエンジニアにも言えます。日本は欧米のように、エンジニアからプロデューサーへとなるパターンが少なく、天才的なレコーディングエンジニアは、職人的に名人になるというパターンが多かったです。立派なプロ仕様のスタジオが音楽制作のファクトリーになって潤沢な制作予算の時はそのことの良さがありました。メジャーレーベルと契約すると新人アーティストでも一流のエンジニアと仕事ができます。その経験で成長してサウンドプロデューサーになっていく人も多かったです。
 環境は変わりました。プロ仕様のスタジオは減っていき、レコーデイングエンジニアは絶滅危惧種となって若い才能が集まらなくなっています。その処方箋もコーライティングです。エンジニアもコーライティングソングライターになることで活路が見出せます。自分のスキルでデモに使われる音色やミックスのクオリティを上げていき、デモが採用されると作曲家として印税が入るだけではなか、ミックスエンジニアの営業にもなる訳です。参加しない理由はないでしょう?
 作詞家はコンセプターで、エンジニアは音色のクオリティアップとミックスで、アーティストは仮歌シンガーとして、それぞれの強みを活かしながら一曲ごとのプロジェクトを組んでいくというのがこれからの音楽制作になっていきます。欧米のように、ソングライターの実績と人脈からアーティストとしてデビューする事例が日本でも増えてくることでしょう。

コンペも「提案型」が主流になる

 今はまだ、A&Rが作家事務所経由でコンペシートを配って数多くの楽曲を集めるコンペが主流ですが、ここにも変化の芽があります。無駄に膨大な曲数を聴く「コンペ疲れ」を感じるのは当然です。クリエイターサイドが、こういう楽曲がこのアーティストの次のビジョンでは無いか?と提案していく形が増えいくでしょう。アーティストとクリエイターのコーライティングでの作品創りも増えてきています。
 レベルの高いクリエイターが1曲毎のコーライティングマジックを目指して作品を創る。それが生まれるクリエイターのネットワークがある、そのネットワークには日本人だけではなく外国人作曲家も入ってくる。彼らを通じて日本人クリエイターも海外市場にアクセスしていく、そんな時代が訪れています。僕が言うこと、やることは「山口早すぎ」と業界ではよく言われてますが(T_T)、同時に僕が確信したことで起きなかったことが無いのも事実です。 僕が予感した「クリエイターファースト」の世界は。コーライティングをテコに日本でも実現していくんだなと今、ヒシヒシと感じています。


 この変化は、社会環境的な必然性がありますので、必ず来ます、音楽家はこのイメージを持って、自分のキャリアプランを立てることをオススメします。僕は、山口ゼミ〜Co-Writing Farmで一つのモデルを提示しました。やり方はいろいろあり得ると思いますが、セルフマネージメントできる自立したクリエイターがネットワークを作って責任を持って創作、デジタルサービスや海外市場も視野において作品を作っていくそういう時代が来ました。

 それができないクリエイターは少しずつですが、確実に淘汰されていきます。(悩みがある人は相談にのるので、連絡ください!)

デジタル化の進展が音楽制作現場に与えた地殻変動

 異業種の方もわかる表現に替えると、業界という「村社会」、インナーサークルで完結していた音楽原盤制作の世界も、他の分野と同じように、デジタル技術によるパーソナライズ化、インターネットによる情報の民主化、緊密化するグローバル市場という大きなトレンドに覆われ、大きな変化が起きつつあるという、そんな当たり前の話です。そうなるとクリエイティビティ、コンテンツ力の勝負になるはずなので、国際基準に乗っかりさえすればレベルの高い日本人クリエイターには大いにチャンスがあるのです。
 野球に喩えるなら(わかりやすいかどうかわかりませんがww)まだ野茂の渡米以前です。ヒロイズムがLAで日本人作曲家の道を切り拓いてくれています。彼は野茂を超えて、イチローになってくれるかもしれません、そうすると松井秀喜も海外に目を向けるし、ダルビッシュも大谷も必ず出てきます。J-popは野球くらいの国際競争力があるなというのは肌感でいつも感じてきたことです。
 みなさん、これから日本の音楽家、特にソングライター・サウンドプロデューサーにご期待下さい!国際感覚のあるクリエイターが増えると日本人アーティストの作品にも貢献できます。これかラ日本の音楽家は海外で稼ぐ時代です。そして有望です。僕はこの動きが活発になるように引き続き頑張ります。
 こんな問題意識で情報発信は続けています。気になる人は、メルマガやpodcast、twitterをチェックして下さい。コロナ禍で在宅ワークになったので、オンラインイベントとかもやっていこうと思うので、peatixのフォローもどうぞ。

2019年1月1日火曜日

独断的音楽ビジネス予測2019:やっと動き始めた日本デジタル音楽シーン。アジア市場で数値目標を!

 新年あけましておめでとうございます。

 去年は投稿数5と過去最低だった本ブログ、メルマガ[週刊・無料:音楽プロデューサー山口哲一のエンターテックニュースキュレーション]は毎週頑張っているから、許してね(^^)と言いつつ(まだの人は読書登録をお願いします!)、2012年から始めた元旦ブログは今年も書こうと思う。


 から1年たった。2012年から毎年予測と検証をしているけれど、今年はその必要もないくらい「ずっと前から言ったとおりでしょ?」となっているはずだ。興味がある人は見てみて欲しい。
「デジタルコンテンツ白書2018」から
 ただ、実は、去年の春辺りから音楽業界の内部の「空気」はずいぶん変わったと感じた。一言で言うと、デジタルに対するネガティブなムードが無くなった。「変わっているんだよね」「もうそうなるよね」という風に誰もが思うようになった。「空気」っていう言い方もファジーで申し訳ないけれど、「ムラ」的な社会である「業界」では、集合意識的なものがあって、それによって、促進されたり、ブレーキが掛かったりする。日本的な特徴なのだろうけれど、去年までは、僕ら(敢えて言うなら「改革派」の人たち)が海外事例やロジックを尽くして、どんなに説明しても。「とは言っても日本はむにゃむにゃむにゃ」「いろいろなことが絡んで難しいよね。だってさ、、、、。」みたいな非論理的な抵抗を感じることが多かった。1年前のブログのサブタイトルに「メゲずに吠えるぜ」ってなっているのは、自分を鼓舞してたんだと思う。それが変わった。こういうのが空気なんだと思う。

 空気が変わるのにも理由はある。一つは日本のデジタル市場が一定の規模になってきたこと。2017年の数字は約940億円。そして2018年1月〜3月の下半期ではストリーミングがDL市場を抜いたとの情報もでた。パッケージは頑張って、CD と音楽 DVD を合わせで2,964億円 前年比94%だけど、長期低落は免れないから、デジタルを重視しなきゃねということになったようだ。詳細は知らないけれど、2011年設立のTuneCoreJapan社長の野田君が「音楽関係者の僕らへの態度が明らかに変わって、逆に提案をいただけるようになりました」と言っていた。音楽配信サービスへのアグリゲーション機能をきぞんのかい者を使わずに、誰でもできるようにソリューションとして提供するTuneCoreは既存の音楽ビジネスの仕組みは、大まかに言えば"破壊者側"の仕組みだ。そこに対してポジティブになったというのは大きな変化だ。海外配信サービスに対しての利便性と情報源として有益なことがわかったのだろう。
世界のレコード産業売上推移(IFPIデータ)
 グローバルメジャーレーベル経由で海外市場の情報が届いてることも大きいと思う。欧米ではストリーミングサービスが牽引して音楽市場全体が上昇するというトレンドが完全に定着したし、まだしばらくは続くと見られている。ドラスティックに変化するアメリカ市場は3/4がストリーミングだし、日本に近いと言われて、パッケージ比率が高かったドイツでもデジタル市場が過半となった。ユニバーサルやワーナーというグローバルメジャーは、正確な情報とマーケティングプランを持っている。日本法人には、早くストリーミング市場を拡大しろとプレッシャーを掛けているはずだ。(彼らも数年前までは「日本をCD売れてて素晴らしいね」って言ってたらしいけどねwww)

2018年上四半期米市場(RIAA)
 ユニバーサルミュージックジャパンの藤倉社長が契約社員330人を正社員にしたというニュースには驚かされたけれど、おそらく彼は本社からの情報で、日本市場で自社のシェアを伸ばして、収益増を図る戦略に自信が持てたのだと思う。スマートスピーカーの普及など新しい市場もできていている。(勝手な推測だけれどおそらくは5年くらいの長期契約を結んで、正社員にしたスタッフを鼓舞して、腰を据えて収益増に取り組まれるのだと思う。注目だ。)

 なので、2020年が過ぎるまでは、変革ができないかなと思っていたデジタル音楽市場には、少なくとも「空気」は変わったので、やりやすくなっている。各事務所やITサービスは、レーベルの変化を活かして欲しい。もう邪魔されることはないと思う。TikTokなんて、普通なら権利侵害の権化になりそうなサービスだけれど、ユニバーサル、ワーナー、エイベックスはいち早く原盤も含めて包括許諾しているようだ。これまで原盤権クリアで二の足を踏んでいたITサービスはTikTokという前例をうまく活用しよう。(「中国の動画共有サービスに許諾出してるんだから、日本のスタートアップにももちろんお願いしますよ」みたいなロジックでね(^_-))
 
 さて数年前から指摘している3つの課題
 ●マーケティングに活用できるオープン型の楽曲及びアーティストデータベースの構築
 ●グローバルプラットフォーマーとの向き合い
 ●中国市場への本格的な取り組み 
  については、正直、進捗は遅い。意識を変えることが難しいようだ。

 そこで一つ年頭に提言したい。一気に状況を変えていくために、経産省と業界団体が旗を振って、数値目標決めるのはどうだろう?

 例えば、2025年にアジアの音楽市場で日本の楽曲のシェアを20%にする。

 2025年だとアジアの音楽(レコード産業)市場は1兆円超が期待できる。北米以上の規模になるだろう。ここで2割を取れれば、単純計算で2000億円。日本のレコード市場が倍近くなるイメージだ。しかも今後も上昇が期待できるマーケットでこの数字は大きい。アジアの音楽市場は、ニアイコールでオンデマンド型ストリーミング市場で、売上以外にもライブや越境ECによるMD(アーティストグッズ)など様々な広がりが期待できる。ファンクラブというビジネスモデルは日本特有のようだけれど、アーティストファンのエンゲージメントを軸にやれるマネタイズ方法はこれから増えていくだろう。
 どの国もその国の言語でその国のアーティストが行ういわゆるドメスティック(内国)音楽が市場の5割〜6割を占め、残り4〜5割を洋楽とK-POPとその他アジアの国の音楽が争うことが予測される。その中でアジア市場であれば、J-POP(+アニソン)が一位になっても全くおかしくない。現状は残念ながら2〜3%位だろう。完全に韓国の後塵を拝している。K-POPは若い世代に届くカッコイイポップスを高いクオリティでになった。サムソンや現代といった企業とも連携、政府も後押しする「オール韓国体制」でマーケティング施策も素晴らしい。ただ、多様性という意味ではまだ日本にかなりのアドバンテージが残っている。アジア人に共通する「郷愁感」みたいなのは日本人音楽家が得意とするところだし、幅広い音楽的な情報とレベルの高い消費者を長年持っている日本のポップスの奥行きは世界レベルで見ても洗練されて、深みがある。アニメという日本発のキラーコンテンツとも連携できる。これまでもアジアの各国で日本の曲がカバーされて広まっている事例はいくつもある。「昴」「恋人」などスタンダード化した楽曲も多い。ただ、これまでは偶然でラッキーなことが多かったように思う。現地のアーティストへのカバー施策を戦略的に仕掛けていくのも有効だろう。ストリーミング再生のデータを元に声を掛けることができるので効率的な時代だ。
 これらを上手に活かして戦えば、アジア市場で20%というのは十分可能な数字のはずだ。観光立国になっていく日本の産業振興の視点でも重要だ。インバウンド活性化にエンターテイメントが果たすべき役割を役割は大きい。リピーター増、滞在期間増には、エンタメが貢献できるはずだ。
 関係各位に検討をお願いしたい。

 さて、「テクノロジーとエンターテインメントの幸せな結びつきは新たなカルチャーを創る」というのは鈴木貴歩さんからの受け売りだけれど、AI、VR/AR、IoT、BlockChainと行ったテクノロジーの急速な進展ですべての産業や生活が再定義されるxtech(クロステック)の時代にエンターテイメント分野が果たすべき役割は大きいと思う。時代の気分を醸造し、技術の普及を牽引する役回りだ。そこにスタートアップへの期待が出てくる。

 最後に僕自身の話をしたい。4年間続けていたエンタメ系のスタートアップを支援するプロジェクト、START ME UP AWARDSは去年は行わなかった。理由は実行委員長の僕が単発のピッチイベントに限界を感じたからだ。始めた頃は、エンタメ✕起業というテーマを掲げているものなど何もなかったから存在だけで意義があったけれど、エンタメ関連のピッチコンテストやアクセラレータープログラムが増えてきた中で、もっと踏み込んでスタートアップ育成に関わりたいと思った。
 そんな時にちょうど1年くらい前に世界で「スタートアップスタジオ」という仕組みが世界的に広がっていることを知った。スタジオという由来はハリウッドで、ハリウッドのスタジオがたくさんの映画を作るように、スタートアップを同時多発的に育てていくというコンセプトに惹かれた。コミュニティ形成という僕が近年取り組んでいる方法論と親和性も感じた。
 去年1年掛けて動く中で、エンターテインメント✕スタートアップにフォーカスして、0〜1のところをハンズオンで育成するスタートアップスタジオをやらせてもらえることになった。会社名は株式会社VERSUS(Visionary, Evangelistic, Revolutionary Start-Up Studio)で11月に設立済みだ。エンターテインメントは広く捉えて、食も美容もファッションも対象にする。詳細は1月中には発表するのでそれを楽しみに待って欲しい。エンタメ関連で起業を考えている人は、発表を待たずに連絡ください

 レコード産業を始めとして、既存の仕組みが有効性を失っているエンタメ分野の業界は多い。仕組み自体を作り直すのは既存のプレイヤーだけででは難しい。スタートアップに好き勝手に頑張ってもらって、既存の仕組みのパーツで有効なものはモジュール的にハメていく。そのバランスを取るのが僕の役目だと思っている。
 
 その時に、忘れてはいけないのは、日本はすでにアジアでのIT後進国になっているという現実だ。一例を言えば「銀行ATMが充実して偽札の心配がないから日本は電子マネーの普及が遅れる」いわゆる「イノベーションのジレンマ」だ。日本はこれまで便利だったことの代償に次のステップへの変化が遅れてしまっている。アメリカだけでなく、中国も先を走っている。おそらく次のイノベーションについてはもう追いつかないだろう。ただ、イノベーションのジレンマはサイクルでやってくる。中国でスマホ決済が広っているので、ユーザー利便性が理想的ではないとQRコードに留まるかもしれない。諦めて何もしないという訳ではないけれど、次の勝負での負けはもう決まっているので、次の次のイノベーションを日本発で起こしていく、概念的にはそんなことだろうと思っている。今からSpotifyには追いつけない(もちろんスタートアップ的にはSpotify生態系を活かしたヤドカリ的な周辺ビジネスにもチャンスはあると思うけれど)から音楽消費のプラットフォームを作るなら、その次の音楽体験は何なのかを考えることだろう。
 デジタルが主役になって時代の変化は驚くほど早い。1年後にどんな独断的予測を書くことになるか楽しみにしながら、2019年を頑張ろうと思う。

 今年もよろしくおねがいしますっ!

●独断的音楽ビジネス予測〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
●独断的音楽ビジネス予測2014〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜
●独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜
●独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜 
独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜 
独断的音楽ビジネス予測2018〜犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

2018年2月7日水曜日

そろそろ2020年代の音楽の姿をCarve outしなくちゃね〜MUSIC HACK DAY TOKYO2018で感じたこと

 日本では3年ぶりとなったMUSIC HACK DAY TOKYO2018をオーガナイズした。音楽好きのエンジニア、デザイナー、そしてテクノロジーに敏感な音楽家などから定員を大きく超える応募があって、申し訳なかったけれど、抽選で絞らざるを得なかった。
MHDTokyo2018発表会の様子
 2月2日金曜日の前夜祭は、海外事情に精通した鈴木貴歩さんにエンターテックの最新状況をセミナーしてもらった後、DJ付きでの懇親会。

 3日朝からはレコチョクと朝日新聞メディアラボの2会場を使って、音楽のリデザインをテーマにして20組の作品がつくられた。4日の16時からの発表会は3時間を超えるものになった、その後はみんなで懇親会。
 今回のMHDTのテーマは「音楽・エンタメのリデザイン」。熱量が高い場で、僕自身が大きな刺激となった。


 メインパートナーのレコチョクは、レコチョクラボを作って、新規サービスのトライアルをされている。VRやクラウドファンディングなど信金サービスに意欲的な取り組み。僕は不勉強で知らなかったけれど50人ほどの社員プログラマーがいるそうだ。ハッカソンにも参加してくれていて面白いプロダクトを作っていた。

 レコチョクは、元はガラケー向けサービス「着うた」のために大手レコード会社が共同で作った会社で、現在の筆頭株主はNTTドコモ。日本の音楽業界デジタル分野の正統派本流だ。 
 着うた全盛の頃は日本の市場シェアの約
15%をレコチョクが持っていた。今はdヒッツの売上がメインになってしまっているようだけれど、今回MHDのメインパートナーになっていただいて、若いやる気にあるエンジニア社員がたくさんいることを肌で感じて、心強く思った。音楽業界にとって大きな財産だと思う。今度も連携していきたい。


チームビルドのためのアイデア出し風景
 テクニカルパートナーの各社も意欲的で嬉しかった。富士通はMuFoというサービスのソースコードを期間限定で公開してくれた。音楽分析系の面白い技術をたくさん持っている産総研(産業技術総合研究所)は、スタッフがハッキングタイムにしっかり張り付いてフォローしてくれた。NTTドコモAPIも魅力的だった。音楽系だとSpotifyGoogleなどのAPIがITの人には一般的だけれど、国産で協業の可能性があるドコモのAPI活用はとても有益だと思う。今後も使っていきたい。他にも協力してくださったパートナーの皆さんには深く感謝したい。

 SNSのインフラ化&影響力増、センサー開発技術の低廉化、人工知能のディープラーニングの進展など、テクノロジーが加速度的に進化していく時代の中で、エンターテインメントが目指すべき方向は明確だ。海外に対して周回遅れ、それも2周位遅れて、最近は中国IT企業にも送れを取っている日本の音楽業界は本格的な再構築が死活的に必要だ。
 再編が起きるX年は2021年と判断しているけれど、そろそろ具体的な像を造形しようと思う。エンターテック・エベンジェリストと名乗る僕としては、クエリエーション(創造)、マネタイズ(ビジネス)、コミュニケーション(プロモーション)の3つの面で、新たなあり方、仕組みをCarve Outする使命感を持って取り組んでいきたい。0から創ると言うよりは、彫刻家が石や材木の中に潜んでいる形を掘り起こす作業に近いような気がしていて、Carve outって言葉がしっくりくる。

参加者全員で記念撮影。笑顔が印象的だ
 今回、MHD Tokyo 2018をオーガナイズしたのは、できたてホヤホヤの会社EnterTech Lab Inc.だ。僕が言い出しっぺで、Co-Founderとして関わっている。残りの2人の創業メンバーの本業はプログラマー。僕が2014年に始めたミュージシャンズハッカソンに当時、福井在住なのに、参加してくれて以来の付き合いだ。  Mashup Awardsを率いてきた伴野智樹さんや、TECHS、ミュージシャンズハッカソンを一緒にやってきた浅田祐介さんと一緒に、今回セミナーで登壇した鈴木貴歩さん、審査員をお願いしたクリプトン伊藤さん、斉藤迅さん、ジェイコウガミさん、アソビシステム中川さんといった面々とも連携していきたい。

 EnterTech Labは、音楽に限らず、日本のエンターテインメントの未来を切り開く、クリエイターやプロデューサーや起業家のレバレッジをする役割を果たしていきたい。初仕事だったMHDTは素晴らしいネットワークとプロトタイプができて、上々のスタートだったと思う。


 人材育成という意味では、未来のエンタメに携わる「ニューミドルマン」を生み出すことにも注力したい。
 ニューミドルマンラボはオンライン+MeetUpのコミュニティーをベースによりネットワーク力を強めたいと思っている。 2014年10月のプレ講座から受講経験者は100人を超えている。時代の音楽ビジネスを志向するという共通認識は持てているはずだから、それぞれのフィールドで蓄えているであろう力を結集することができれば、日本の音楽ビジネスを良い方向に持っていけるかもしれない。

 1月からオンラコインコミュニティを始めている。3月まで無料でテスト運用しているので、是非、参加してみてください。外には出せない情報の共有や、メルマガでPick Upしたニュースを踏み込んだ解説や議論も展開していくつもりだ。



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2018年1月3日水曜日

Z世代に捧げる!2021年以降の日本人サバイバル術〜デジタル音痴なオトナに騙されないで!

 作秋は自分が主宰するセミナー以外に依頼された講座が7つあった。テーマは音楽ビジネスに関するものだったので、自分の中の引き出し、これまで用意した資料のアレンジで対応するつもりだった。著書の出版以来、「講演の依頼は原則的に全部引き受ける」と決めている今の僕は、スケジュールが大丈夫なら、詳細は考えずにお受けしている。2週間位前から、資料作りをはじめるのだけれど、一つだけ困った講座があった。順天高校のGlobal Weekだ。 
これまでの僕は、既存の音楽ビジネスで頭が固くなった人をほぐすような話をする場面が多かった。大学生に対しても音楽業界の現状から話を始める。

 ところが、高校生となると2000年代生まれ、アメリカ社会学者的に言うとGeneration Zだ。2013年に『世界を変える80年代生まれの起業家』というインタビュー集を刊行している僕は80年代、90年代生まれののY世代とは起業家、音楽家を中心に、日常的にコミュニケーションがあるけれど、Z世代は未体験ゾーンだ。一般的な高校生に今の日本音楽ビジネスについて語って何か意味があるのだろうか?
 クラウド化してパッケージではなく、スマホでストリーミングで聴くって話をしても「はい。知ってます」で、何の驚きも発見も無いだろう。
 デジタル環境の変化とコンテンツ消費の方法については、ジェネレーションギャップが大きい。60代と10代では常識が全く違うのが今の時代だ。
 2000年代生まれの高校生に対して僕が語るべきことってあるのだろうか?真剣に考えたら見つかった。「オトナに騙されるな。奴らはデジタルがわかってないから、たいていの場合、判断を間違っている」ということを伝えようと思った。大きなテーマで、消化不良だったかもしれない。改めて年始にこのテーマをブログにまとめておきたい。
 題して、「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル術」 だ

 その前に、今日のテーマとも関連がある、前回の「独断的音楽ビジネス予測2018」に書き落とした中国、アジア市場の話をしたい。2015年12月中国政府の国家計画の発表以来、それまで違法サイト天国だった中国に音楽市場が「出現」したことは前回書いた。中国の「IT財閥」テンセントが運営するQQmusicはSpotifyと同種のフリーミアムモデル、オンデマンド型のストリーミングサービスだが、月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人超したと言われている。寸年で日本市場を規模で凌ぐだろう。

さて、有料音楽ストリーミングサービスが中国で広まっていることで、起きていることがもう一つある。御存知の通り、中国はスマートフォンの普及率が高く、決済などもすべてスマホで完結する仕組みができあがっている。中国の音楽ファンは、QQmusicで聴いた楽曲がきっかけでアーティストが好きになると、そのアーティストの詳細を知り、コンサートに行きたいと思えば、電子チケットを買い、コンサート会場に行き、SNSで感想を述べつつ、感動した勢いでアーティストグッズを買う。これが全部、自分のスマホ内で完結する。おそらく多くの中国人にとっては、自然な行動だろう。

 でも、もし日本人のアーティストが好きになったらどうだろうか?コンサート情報が日本語以外で得られることはめったにない。スマホ決済もできないので、コンサートチケットが買えない。コンビニ受け取りって言われても。それでも数々の障壁を超えて、コンサートを観た後に思うだろう「日本ってなんてITの遅れた国なんだろう」。音楽を聴いたり、アーティストの情報を得るのに障害が多過ぎる。正月に、ウエブ上にジャニーズ事務所のタレントの写真がアップされたことを驚きとともに伝えるニュースがあったけれど、いくらなんでも時代にズレすぎだ。

 一方で、日本人の普通の感覚として、ITサービスで、中国やASEAN諸国に大きく遅れを取っているという認識はないのではないか?少なくとも音楽ビジネスにおいては、日本はアジアで最も遅れた国になってしまっているかもしれない。僕は音楽業界人の端くれとして、そのことが心の底から恥ずかしいし、悔しい。これは、「このままだとそうなってしまうから警笛を鳴らす!」という近未来の話ではない。まだ顕在化されてないだけで、2018年1月現在「既にそうなってしまっている」事態だ。
 僕が主張しているように、インバウンドの分野でコンサートが貢献できるとしたら、この問題をクリアにしなければならない。ユーザー向けのITサービスの後進国日本、そんな時代に僕らは生きている。
そして、ついでにいうと、日本は中国市場を無視してビジネスすることがあり得ない時代だというのも常識と言ってよいだろう。
 ネット言論に多い、無知と偏見に満ちた「嫌韓論」は、反吐が出るほど大嫌いだけれど、クールに考えれば、韓国とは付きあわないという選択肢はあり得ると思う。市場も小さいし、経済的な補完関係もあまり大きくない。文化的、政治的に摩擦があるなら、避けて通ってもそれほど大きな損失があるとは思わない。でも、中国は違う。
 世界最大の消費市場が、すぐ近くに存在していて、その国とは文化的な共通項も多く、日本のポップカルチャーに魅力を感じる若い世代もたくさんいる。日本が培ってきた、西洋型のルールやカルチャーを東洋流に昇華している、いわゆる「和魂洋才」なやり方は、アジア各国に参考になるはずだ。著作権ルールや新しいポップスの創り方など、日本流がリファレンスとしてアジアで貢献できることは多い。中国と連携できたらメリットは計り知れない。
 
 さて、今日のテーマはZ世代の日本人サバイバル術だ。 僕が2000年代生まれの彼らと向き合って伝えたかったことは、以下の通りだ。当日の投影資料を並べてみよう。

 テーマ1「オトナ達はわかってないことを知る」

 ・情報のデジタル化、インターネットの発展、IoT、人工知能(AI)など、近年に起きている社会、産業の変化は、本質的かつ不可逆的な人類史上でも稀にみる大きなものである。
 ・ところが、(特に日本の)大人達は、気づいてなかったり、認めたくなかったりする。
 ・企業もメディアも(学校も)そんな大人達が制御しているので(特に年功序列型の日本においては)これまで起きてきた過去が未来も続くという前提の言説が広まっている


自分達の当たり前が、大人には驚異的変化だと知っておこう。


 彼らの親や教師や働き始めた時の上司で、デジタル化に対して適切な言説を持っている人は日本では少数派だろう。素直な子だと、オトナの多数派の意見を正しいと思ってしまうかもしれないと心配になった。


テーマ2:未来は予測できないが、予見はできる

・半導体やコンピューター、センサリング、人工知能などの発展は、20年位先までは、どんな方向に世の中が進むことは予見できる時代になっている
・世界各国の人口構成や産業規模も20年位先までは、予見可能だ。自分の頭で考えて、きちんと未来を見通そう


未来を予見して、行動を決めることが重要な時代になっている


 これは僕の持論で、今は未来予見が可能な時代だ。20年はちょっと言いすぎかもしれない。10年位の世の中の流れは自明なことが多い。


実例:エンタメ産業視点で今起きている3つの変化

 •クラウド化 ⇒「所有」から「利用」にユーザー行動が変化
 モノのオンライン化(IoT)⇒ リアルとネットが繋がり、一体化
 ソーシャルメディアの発展 ⇒ すべてのユーザー行動が可視化

 この3つの変化によって、
あらゆるエンタメ・コンテンツ産業が、自らの役割や社会における意義を「再定義」し、ビジネススキームやノウハウを「再構築」する必要に迫られている。

これはいつも言っていることだ。Z世代向けに付け加えたのは以下だ。


今日のテーマ3:旧世代の価値観を理解し、受け入れる

 •クラウド化 ⇒ エンタメコンテンツはパッケージメディアで楽しみたい。そこに思い入れ、深み、記憶、愛情を感じる
 •モノのオンライン化(IoT)⇒ なんでもネットでやることに抵抗感がある。物をネットで動かすことがピンとこない 
 •ソーシャルメディアの発展 ⇒ オンラインだけの人間関係は偽物だ

できれば変化を忌避したい、一時の流行だと思いたい。少なくとも自分は関係なく生きていたい

 こういう価値観、行動原理になっている日本人ビジネスパーソンをたくさん見る。日本の病巣と言ってもよい。僕らは必要に応じて、説明したり、説得したり、無視して進めたりできるけれど、若者たちはどうだろう?理解不能で、すごいストレスを感じるのではないだろうか?
 パッケージを愛好することは嗜好だから良い。(音楽プロデューサー的に言うなら、とてもありがたいことだ。)でも、そこに過剰な意味を求めて、音楽を愛好することを宗教の宗派のようにすることは間違っている。多様なエンタメの楽しみ方を許容するべきだし、そこに新たな可能性を感じるべきだ。

 ちなみにプロジェクター資料には書かなかったけれど、口頭では、「君らの年齢なら、日本を離れて仕事するという選択肢はあるよ。サンフランシスコでもニューヨークでも、シンガポールでも、ベルリンでも、その選択肢も持って良いと思う。でも日本に生まれた日本人なら、今日の話は意味がある。そして日本社会で仕事をするなら、知っていた方が良いと思う、と。

 その後に、自動車がエンジンにハンドルとシートが付いた乗り物から、OSでコントロールされる乗り物に変わるという話や、ブロックチェーンの可能性などを実例として挙げた。

 その上で、

今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜国際的に見た日本社会の特徴は?

 •コンセンサス積み上げ型の社会⇒「みんなで話し合って、良き落とし所を見つけましょう」な仕組み
 •性善説の考え方、仕組みが好き
 •年功序列で、目上の人を敬うという東洋的文化がある
 •同質性が高く、島国であることと、言語の壁があることで国際競争から守られている(ように見える)
 •社会的インフラが整備され、勤勉でマナーがよく清潔で安全な国。

 必ずしも悪いことばかりとは思わないけれど、過剰に同質性を求める日本社会の功罪は客観的視点で理解しておいた方がよいだろうと思う。例えば、学校での「いじめ問題」には個人的にはあまり興味無いけれど、根っこには同じものを感じる。


今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜確実に訪れる日本の危機は?チャンスは?

 •少子高齢化社社会で、人口が減る、消費市場と労働人口は下落していく
 •なのに、制度的にもマインド的にも、移民受入れの準備ができていない
 •日本の強みだった、従来型の製造業では勝ち目がない
 イノベーションのジレンマを知る(Apple 対 Spotify、中国のスマホ向けサービスの方が日本より便利)
 •1500年以上の歴史と伝統が世界中(のインテリ層)から尊敬されている

 観光立国を意識して、食やファッションも含めた文化を売り物にする〜消費者(ユーザー)の質が高いことを如何に活用するか(UGM、二次創作等)が重要だ。


 人口が減り、従来型の産業構造のままでは国際競争に敗れて、プレゼンスが下がっていくこと。カルチャーとインバウンドが日本の武器になっていくことは理解して欲しい。


今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜Z世代に必要なマインドセットは?

 •組織依存しない、インディペンデントに自分の価値を磨く
 •就職と起業を同列で検討する。スタートアップ生態系が日本でも経済構造の(重要な)一部を占めるようになってきている
 •海外市場の視点と、そこにおける日本人としての優位性を意識する

 •英語はマストスキル。必ずしも英語ネイティブスピーカーになる必要はない。翻訳技術は臆さずに活用する
 インターネットとデジタル技術による「民主化」という概念を知る

 おそらく彼らの親世代は、今でも大企業への就職が安全という固定概念から抜けられない人が多いだろう。人生観は自由だし、公務員になれば、安全かもしれない。(彼らの世代だとそれすら怪しいとも思う。)でも、30年前とは様々な前提が変わっていること、親世代はその変化に自分の価値観をアップデイトできてない場合が多い。きちんと自分の頭で判断して欲しい。
 英語はできるにこしたことないけれど、Google翻訳もどんどん便利になっているので、技術も活用してコミュニケーションすることが大事だ。

 推薦図書として、池上彰、佐藤優、野口悠紀雄の3人の名前を上げた。気になるテーマについて書かれている入門書的な本の時に、きちんと本質を書く信頼できる書き手だからだ。
 40人くらいの高校生が僕のメッセージをどんな風に受け止めたかはわからない。でも話していて手応えはあった。5年後くらいに、何人かの役に少しでも立てたら嬉しい。

 そして、僕が最終的に語りたいのは世代論ではない。70代でもデジタルの変化をわかっている方はいるし、20代でも鈍感な人もいる。日本のピンチとチャンスを共有して、グローバル化したコンテンツ市場で、サバイブしていく仲間を増やしていきたい。
 実はZ世代だけの課題ではない。人生100年のライフシフト時代と言われている中、すべての日本人がグローバル化した世界でどのようにサバイブしていくのか?切実な問題として、引き続き考えていきたい。

 2月から始まるニューミドルマン養成講座のテーマは「超実践アーティストマネージメント篇」だけれど、基本姿勢としての中国市場への向き合い、日本のデジタル化の遅れによる課題はしっかり話し合いたいと思っている。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

2018年1月1日月曜日

独断的音楽ビジネス予測2018:犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

 全然勤勉ではないこのブログだけれど、2012年から毎年元旦に、音楽ビジネスの予測を書いてきた。毎年PVも高く、ご意見なども伺うので、励みになって続けている。
 昨年は、1年間の予測は意味が無いと書いた。世界的に音楽、エンタメビジネスのトレンドは7年くらい先までは明確で、周回遅れで走っている感じの日本は、五輪景気に甘えて、構造的な変化が遅れるけれど、方向は同じ。世界のトレンドの後を、ゆっくり追いかけていくことになると思ったからだ。この予測については1年経って、確信を深めるばかりだ。
 昨年の元旦のブログではこんなこと書いている。

 2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、
1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。
2)   パッケージは微減しながらも健在
3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく
といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 上記の1と2はまったくそうなっている。3については補足説明が必要だ。2016年のコンサート入場料売上は10年ぶりに微減した。「2016年問題」の影響でコンサート入場料収入が微減したことだ。「2016年問題」とは2020年の東京五輪の余波でコンサートに使える大型スタジアムやホールが同時期に改修に入ってしまい、コンサート会場が不足するという問題だ。音楽業界団体は問題提起をしたものの、その声は届かなかったようだ。

 正直を言うと僕は、各社の創意工夫でなんとかやりくりし、コンサート売上が減りはしないのではないと思っていたが、甘かったようだ。スタジアム運営側は、スポーツ最優先で、「空いている時にコンサートも使っていいよ」くらいの認識なのだろう。コンサートが日本の産業文化にとって大きな価値があるということを日本社会全体に認識してもらう必要がある。音楽業界側もその努力が足らなかったように思う。2017年の国内重大ニュースの1位に上げた「チケット二次流通問題」で、業界が一団結して、ユーザー、行政、警察、司法をきちんと動かすことができた。風営法改正からナイトエンターテイメントへの関心を高める運動も進展している。大規模コンサート会場の運営者の意識変革を図ることもできるのではないか?

 さて、1年前に僕が本コラムで問題提起した2021年までやっておくべきこと3つについては、残念ながらほとんど進展はない。暗澹たる気持だけれど、確認しよう。

●データベース構築
 音楽に関するあらゆるデータ、楽曲、原盤、アーティスト、コンサートなどを一元管理および多言語化して、事業者に従量課金で使用を自由に認めれば、素晴らしい音楽関連情報サービスはたくさん競い合ってくれるだろう。音楽事情の活性化に必ずつながる。僕は10年位前から叫んでいるのだけれど進んでいない。音制連、音事協、MPAで始めた海外向けのアーティスト情報プラットフォームSync Music JapanがCiP協議会に移管されて、Artist Commonsという動きにまとめられているけれど、too much slowだ。まだ実業レベルで稼働していない。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

●中国市場への本格的な取り組み
 については、まだ手付かずの状態だ。ビジネスの主戦場を海外に向けるという意識改革ができてない。

 残念ながらという前置きをつけたいけれど、僕が2015年9月に出版した新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』は、2018年になった今読み直しても、全く古びてない。それは僕が著者として素晴らしかったのではなく、日本の変化が遅すぎるからだ。音楽ビジネスの現状と未来に興味のある人で未読の方は、是非、読んでみてください。「残念ながら」まだ有益な本です(笑)。
 一番の問題は2021年に先送りしたツケが全部噴出だろうことで、そろそろ底に向かって準備をしておかないと、本当に日本の音楽業界が壊滅的なことになるなと危機感を持っている。そんな愚痴ばかり言っても仕方ないので、少しは読者に有益と思える未来予測を書こうと思う。

 作秋は様々なところからセミナーのお声がけを頂いて、7つほど講演を行った。

韓国のBupyeong Music Conference
大阪電気通信大学 総合情報学部
大阪工業大学 知的財産学部
順天高校 Global Week
電機連合組合
コンテンツビジネスラボ
知的財産技能士会

 新しい出逢いがあり、刺激をいただく場で感謝している。2011年に初めて著書を刊行して以来、講演などの依頼は原則断らないという方針を続けているけれど、書籍やウエブで僕の存在を知って、呼んでくださるのはありがたい。自分が主宰するセミナーもあって、本業もある中でお受けしているので、正直時間的には厳しいこともあるけれど、エネルギーをいただいて、疲れが吹っ飛ぶ。
 その経験も踏まえて、今後の音楽ビジネスについて、年頭にポイントをまとめておきたい。キーワードはX-techだ。
 X-techとは、IT技術の活用で産業が再定義、再構築されていくことだ。背景にあるのは、以下のような時代の変化だ。

・コンピューターの処理能力の飛躍的な進化
・センサー技術進化による、軽量化、コモデティ化
・AI(人工知能)、機械学習の飛躍的向上
・SNS普及によるユーザー行動の可視化(いわゆるビッグデータ分析)

 ポイントは、本質的で不可逆的な変化であることだ。人間は、昨日まで自分がやってきたことが明日以降も続くと思いたい。それが10年、20年とやってきた仕事であれば尚更だ。「一時的な流行にすぎない」「自分には直接関係ない」ということにしたくてたまらない。日本の音楽業界、メディア業界はまさにその典型で、レコード会社の経営者は、自分の定年まで大枠を維持する「逃げ切り」作戦に終止している。これが結果として業界全体、ひいては日本の国力を下げているのだ。
 僕がエンターテック・エバンジェリストと名乗り始めたのも、社会が変わる一番重要ポイントで、そこを自分のアイデンティティにすべきと思ったからだ。
 ちょっとシニカルな言い方をさせてもらえば、日本の業界の多数派が、「見ないふり」をしているので、「きちんと未来を見据えて予見」すれば優位性を持って、先回りできるとも言える。 
 本ブログの読者には、そんな発想で、先回りできる5つの視点を共有したい


●ストリーミングサービスが音楽消費の中心になると起きる変化は?


 ビジネスとして一番大きいのは、新譜旧譜の比率の変化だろう。従来の原盤ビジネスは売上の9割が1年以内に発売された新譜だった。だから小プレーションアルバムとかベスト
盤とか、過去作を「新譜」扱いにする必要があったのだけれど、これが大きく変わるおそらく新譜は5割以下の比率に鳴るだろう。これは良い作品をつくれば長期間収益があるということであると同時に初期投資の回収に時間がかかるということでも。功罪はあるだろうけれど、対応スべき変化だ。
 併せて、ユーザー行動が可視化されて、蓄積されることに寄って、レコメンデーションの精度が上がっていく。5年くらい前から海外のサービスのテーマは「ディスカバリー」だ。ユーザーと新しいアーティスト、楽曲の幸せな出逢いを作ることに注力している。これは主にアルゴリズムだけれど、属人的なリコメンデーションがプレイリストだ。人気ラジオ番組でパーソナリティが思い入れを持って薦めることヒットしたみたいなことがストリーミングサービス内でどんどん起きている。従来に比べれば、政治力、宣伝資金力などの入る余地が少なくなり、楽曲の力が求められるようになるので、アーティストにとっては大まかには良い変化と思うべきだろう。
 そして、パッケージは音楽聴取の主力ではなくなるけれど、アーティストの証を示す「記念品」、コレクションの喜びを満たす役割を果たすようになっていく。現にアメリカでは、CDは落ち続ける中、アナログレコードの売上が伸び続け、パッケージ市場の3割を占めるようになっている。日本は今のところCDがまだまだ元気だけれど、似たような傾向に向かうことになるだろう。

●VR/AR/MRと音楽ビジネス


 エンタメ全体で言えば、VR/AR/MRの存在感は傑出している。軍事技術との関連もあって、多額の資金がつぎ込まれて開発されてきた分野だ。現状はビジネス的にはゲームとエ
ロの分野が牽引しているけれど、音楽ビジネスでの存在感は大きくなっていく。
 みんな忘れがちだけれど、Music Videoというのは80年代のMTVの隆盛とともに広がったフォーマットだ。表現はメディア環境で変化していく。ハードの進化や普及、プラットフォームが整備されていく中で、MVの進化系、インタラクティブ性のある作品を楽曲に合わせて制作する流れは増えてくるだろう。
 Bjorkが2016年にVR型のMVをつくって日本科学未来館で展示した時の名言が忘れられない。「テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているの。」VR演出自体は、彼女の楽曲力を大きく拡張するところまではできてなかったと思うけれど、パイオニアが切り拓いた道があることで、表現は進化していく。
 ライブビューイング的な活用もどんどん増えるだろう。東京五輪に向けでスポーツのリアルな中継に皆さんご執心だけれど、コンサートへの応用も間違いなく広がっていく。収益性がポイントになるけれど、通信規格が5Gになり、通信会社がこの企画を活かしたコンテンツを積極的に求めるという追い風もある。
 既にリアルとバーチャルは対立概念ではない。東京ドームの2階席でプロジェクターに映し出されたパフォーマンスを観るのがリアルで、目の前に立体的に再現されているアーティストを他の観客と一緒に見て盛り上がる体験がバーチャルだという区別は、おそらく意味がなくなっていく。ユーザー体験としてどちらが楽しいかがポイントになる。
 いずれにしても、音楽家や音楽プロデューサーにとって、VR/AR/MRは必修科目と捉えるべきだ。


●アジア市場とインバウンド


 違法ダウンロードサイト天国で海賊版も作られなくなったと言われていた中国に音楽市場が「出現」したのは驚異だ。正直言って、僕が現役の音楽プロデューサーの間にあるのかどうかと思っていた。2015年12月の国家計画の発表から2年でQQ Musicの月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人などという数字が聞こえてくる。信頼できる知人たちの意見を総合して考えると、控えめに言っても3年以内に日本の3000億円を中国は抜くだろう。僕のイメージでは、5年後位に、朝鮮半島からミャンマーまでの東アジアの音楽市場は日本の5倍位になっていると思う。そして成長余地はまだある。この場合のポイントは、この地域ではJポップ、アニソンに競争力があることだ。
 その国も自国語のドメスティックポップスが市場の5割は占めるものだ。残り5割あるとして、そこを洋楽とJポップとKポップが争う図式になる。アニソン含めたJポップが一番人気になる潜在的な力はあるはずなのだが、今のままだとKポップの後塵を拝する可能性は高い。ストリーミングサービスはいわゆるロングテールが長く、多様性と蓄積のある日本に本来はアドバンテージがある。僕らがよく言う「歌謡曲な大衆性」は東アジアでは共通する感覚だ。個人的にはアジア各国は「渋谷系前夜」みたいな状況だと思う。様々なジャンルの音楽を取り込んだJポップライクなポップスが広く受けいられる土壌はできている。経産省などが旗を振って、アジアのストリーミングサービスにおけるJポップシェアを2割にするという目標を立てたいところだ。やり方は簡単だ。メタデータをつけて、過去の全カタログをアジアのストリーミングサービスに許諾すればよい。半年から1年様子を見て、反応のある楽曲をその国の影響力のあるアーティストにカバーを促す。それだけでヒット曲が生まれる可能性があるのだから挑戦するべきだ。5年後にベトナムで松田聖子の楽曲が大人気みたいなことは全然あり得ることだと僕は思っている。
 ストリーミングサービスが生まれたことで、音楽ビジネスのマネタイズポイントを多様化できることも大きなメリットだ。これまで中国は、いわば出稼ぎ的に、現地で入場料を稼いで、グッズを売って、以上という商売になっていた。ストリーミングサービスがあることでライブの前後で楽曲が流れで、それも売上になり、越境ECふくめた幅広いチャネルでのマーチャンダイジングが期待できる。そして、本当に好きになってくれたら、日本まで「本場のコンサート」を観に来てくれるかもしれない。日本のインバウンドのこれからの課題は、リピーターと滞在日数の延長のはずだけれど、そこに音楽業界が果たす役割は大きい。
 単純計算だけれど、5倍のマーケットで2割取れたら、日本の音楽市場は二倍になるということだ。このチャンスを逃してはいけない。

●ポストスマホのコンテンツプラットフォームは?


 現在、世界中でコンテンツプラットフォームの主戦場がスマートフォンであることに異
論がある人はいないだろう。これから発展途上国を含めて、まだまだスマホ普及率は伸びるから、普及率が100%に近づいていくことの社会的インパクトも大きいと思うけれど、未来を見据える人たちの興味は、既にポストスマホのプラットフォームだ。ひと頃はウェアラブルデバイスだと目されていただけれど、グーグルグラスのようなメガネ型も、アップルウォッチのような腕時計型も広まる様子は見えていない。2018年1月現在、ポストスマホの本命はスマートスピーカーだ。
 2017年は各社の商品が出始め、お手並み拝見という状況になっている。音楽業界にとっては、リビングルームにある「世の中との窓口」がスピーカーであるというのは大きなチャンスだ。音楽が流れることが自然で、接点が増えるはずだから。
 個人的にはこのままポストスマホがスマートスピーカーになるかどうはか微妙なところだと思っている。IoTということでいえば、鏡がついているクローゼットがスマート化して、洗濯機や冷蔵庫ともつながり、買うべき服やレシピもレコメンドされる。スマートクローゼットも例えば有力だと思ったりする。次のフェーズで来る在宅型ロボットの普及が本命ということになるかもしれない。
 現状では。音声認識+クラウド上のAIというのがポストスマホの第一候補になったということを理解して、推移を見守っていきたい。一番大事なことは、スマホのときのように、外資系グロバール企業にこのプラットフォームを完全に牛耳られて、日本のコンテンツホルダーがゲームのルール設定に参加できないような事態にならないことだ。そういう意味でも、LINEやSONYも頑張って欲しい。日本語音声認識はNTTが世界一の技術を持っているはずだ。しっかり戦略を持って対峙したい。

●ブロックチェーンの衝撃。音楽への応用は?


 分散型台帳技術、ブロックチェーンは、インターネットが広まった時に勝るとも劣らない大きな変化を社会にもたらすそうなので、音楽だけでどうこういう話ではない。契約のあり方、取引における信用担保の構造を根本からひっくり返すような技術だ。あまりにも大きな変化すぎて予測が難しい。20年後は、今のブロックチェーン技術の思想をベースにした世界になっていることは、ほぼ間違いないのだけれど、それまでの過程は予測不能だ。
 音楽に関してだけ言えば、著作権、原盤権の徴収分配の仕組みが今の国ごとの集中管理というやり方から変わることは間違いないだろう。10年位はかかると思う。
 僕が個人的に一番関心があるのは、リミックス、二次創作への応用だ。初めてブロックチェーンの存在を知ったときから、「クリエイティブ・コモンズ」の考えかたがビジネスに持ち込める機会がやっときたのだと感じた。一般的になっているようで、リミックス、サンプリング、二次創作には、きちんとしたルールはシステムが無く、個別の相対でやるしかないのが現状だ。原則OKのオプトアウト型のルールが広まれば、新しい表現と市場が大きく伸びることが期待できる。今年は本格的にこの可能性を探る年にしたいと思う。

 ニューミドルマンも3年経って、よいネットワークになっている実感がある。今年からコミュニティ化を図りたい。ニューミドルマン養成講座と並行してオンライン+OFF会のサロンもやっていこうと思うので、興味のある人は是非、参加して欲しい。このブログを読んで面白いと感じる人には意味のある場になっていると思う。
 音楽ビジネスに興味のある人は、まずは2月の「超実践アーティストマネージメント篇」の受講からどうぞ!

 元旦から長くなってしまったので、この辺で終わりにしたい。
 次回は作秋、高校生に話すために考えた「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル〜オトナに騙されるな」をテーマに書こうと思います。お楽しみに。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

●独断的音楽ビジネス予測〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
●独断的音楽ビジネス予測2014〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜
●独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜
●独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜 
独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜 

2017年12月31日日曜日

アジアデジタルアート大賞展で優秀賞受賞!〜音楽プロデューサーがメディアアート作品をつくった理由

 年末に嬉しい報せがあった。「2017アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA」のインタラクティブ部門で優秀賞をいただいた。TECHS2で披露したSHOSA/所作 〜a rebirth of humonbody』という作品だ。 
 僕が生まれて初めてクリエイティブディレクターと表記された作品だ。音楽プロデューサーとして長年活動してきた中で、「エンターテック・エバンジェリスト」とも名乗るようになったのは自然な流れだった。日本の音楽業界がデジタル社会への変化に臆病で、業界的にも国際的にも取り残されていくという危機感の中で、書籍を出版したり、人材育成のセミナーや音楽家が参加するハッカソン、エンタメ系のスタートアップのアワードなどの場つくりのオーガナイザーをやりはじめるようになって、音楽プロデュサーという職域からははみ出す活動が増えた。大企業の新規事業のアドバイザーをやって、異業種間を、特にスタートアップと結びつけたりするような活動もやらせていただいている。

 新しいテクノロジーでエンタメが変わるポイントは3つだ。マネタイズシステム、ユーザーとのコミュニケーション(従来の言葉を使えばプロモーション)、そしてクリエーションだ。表現そのものもテクノロジーで変化、拡張していく。電化(トランジスタ)がエレキギターをつくって、ロックやポップスが生まれた。デジタル化は、電化以上のインパクトのある変化で、音楽制作を安価にした。民主化されたと言ってもいいだろう。以前なら、10坪以上のスペースと1億円に近い機材が無ければできなかったことが、今や1ルームのパソコンで100万円以下の投資で可能になった。もちろんプロフェッショナル制作システムが無効になったわけではないけれど、少なくとも1/100のコストでの代替案が生じているのは紛れ見ない事実だ。ところが表現を変えるような楽器という観点だとまだ成果は乏しい。強いて言えばボーカロイド。初音ミクというバーチャルスターを生み、新しい音楽シーンと市場を作った。でもエレキギターとアンプに比べれば、まだ影響力は軽微で、これから様々なテクノロジーの進化に伴う新しいツール(楽器)が出てくるはずだと僕は思っている。


 メディアアートへの関心は、そんなところは始まった。実は80年代に高校生だった頃からメディアアートには興味はあった。ナム・ジュン・パイクの作品やエピソードを聞いて友人たちと話題にしていた記憶がある。でもその程度の関心。自分の仕事とは無縁な世界だと思っていた。

ダミン・ハーストの作品
 ところがエンターテックエバンジェリストと名乗り、テクノロジーで表現をエクスパンドするみたいなコンセプトを掲げて表現を眺めていくと、未来への道を切り拓いているのは現代アート、メディアアートの分野のアーティストたちだった。エンターテックとメディアアートは出自が違うだけで、現在地点はほぼ同じ処、右から説明するか、左から語るかみたいな違いしかないなと気づいた。遠い憧れの存在だったARS electronicaには去年、今年と行ってみた、メチャメチャ刺激的だった。従来からのメディアアートの文脈に埋もれて輝かない作品と、時代の息吹を感じられる作品の違いも明快で勉強になった。
 ベネツアビエンナーレも素晴らしかった。アートが時代の先端を走り、未来を牽引しているのだと感じた。世界の最高峰の場所で観て感じることは大切で、NYでオフブロードウエイを観る、パリでクラシックバレエを観る(多分、ウィーンでオーケストラを聴くとか、イタリアでオペラを観るとかも)ことは芸能の神様に謙虚でいつつ、刺激を受けるために必要なことだと常々思ってきたけれど、ベネツアビエンナーレもそれらと同列以上だった。2年後も絶対行きたい。

 そんな中で、1年くらい前から「メディアアート的な発想で作品化してアワードに応募する」という活動をやってみようと思うようになった。ミュージシャンズハッカソン、クリエイターズキャンプ、TECHSと継続的な取り組みをしてきたので、テクノロジスト、クリエイターの人的ネットワークは出来ている。僕が一番の役割である「場つくり」を加速することもできるだろうと考えた。「賞を取る」というわかりやすさは何かを進める時に有効だ。


 ちょっと乱暴な言い方になるけれど、現代アート作品で一番大切なのはフィロソフィーだ。今の社会をどのように捉えて、切り取って形にするのか、どんなメッセージや問題提起を込めるのか、その姿勢も含めて、評価されるのがアートの世界だ。

 僕がやるなら、取り上げるべきは表現とテクノロジーの関係性だ。ライブ表現のシズル感にフォーカスして、「アルゴリズムに支配されたダンスの解放、身体性の復権」をコンセプトにすることにした。高い身体能力と日本女性のしなやかな美をもつSpininGReenに合致したコンセプトでもある。近年はプロジェクションマッピングなどの映像表現とダンスの融合はたくさんあって、素晴らしい作品も多いけれど、「予めプログラミングされた内容、時間軸に演者が合わせる」ものがほとんどで、完成度は上げやすいけれど、ライブのドキドキ感につながりにくいと常々残念に思っていた。時代としてもロボットが人間の職を奪うのではないかと不安が語られていて、人と技術の共存、美しい相互互恵関係が重要になっている。人が技術をリードし、活用して表現を拡張するというアート作品は、そんな時代へのメッセージにもなるはずだ。

 なんでもそうだけれど、言うは易しで作品にするのは大変だった。沢山の人の知恵と汗でなんとか形になった。賞をいただいたことで、少しだけど、報いることができた気がして、実はそれが一番嬉しい。一緒にこの作品をつくった時間に社会的な価値がついてくれたから。


 クリエイティブディレクターをやったのは、この分野の「師匠」である大岩さんのアドバイスだ。僕が弟子を名乗るのがおこがましいほど、輝かしい実績のある方だけれど、僕がこんな事やりたいと協力のお願いをした時に「この分野はクリエイティブディレクターをやらないと評価されない。僕がアドバイスするから山口さんがやりなさい。」と背中を押された。僕は今更、自分自身に名誉欲は無いし、クレジットがなんであっても作品が良くなるたまなら自分がやれることは全力でやる。具体の作業はほとんど変わらないのだけれど、それでもクリエイティブ全体に責任がある立場を宣言することは、紙一重だけれど、やはり気持が違う。僕にとっても貴重な経験になった。大岩さんがいてくれるからやれことなので感謝という言葉では表現できない。

(ちなみに、大岩直人さんの最初の著書は昨年「ニューミドルマン養成講座」にゲスト講師にいらしていただいた時の講座内容をベースにした電子書籍+PODスーパードットなひとになる。〜コミュニケーションとテクノロジーの"今"』(PHP研究所)なのだけれど、2冊目が最近出版された。『おとなのための創造力開発ドリル 〜「まだないもの」を思いつく24のトレーニング』は、掛け値なしに名著だ。ジャンルを問わずクリエイティブな仕事に関わる人は是非、読むべきだ。ロボット工学の石黒浩大阪大学教授のブレイクのキッカケとなったマツコロイドの生みの親としても有名なアイデアマンの大岩さん。この本を読むと、クリエティブな思考回路について学ぶことができる。激オススメ)

 『SHOSA』は「EnterTechLabSpininGReenの作品となっている。EnterTechLabは、ミュージシャンズハッカソン、TECHSでできたネットワークをベースに法人設立準備中の団体だ。代表の伴幸祐は、4年前の第一回ミュージシャンズハッカソンに福井から参加してくれたのが出逢い。優秀なプログラマーであるだけでなく、ビジネスセンスも併せ持ち、弁説もたち、周りを俯瞰する能力に長けている。彼と一緒にEnterTechLabを作ることで、日本のエンターテック分野をレバレッジしていきたい。次世代型のクリエイターを支援していく仕組みが主なサービスになると思う。

 ETLの法人としての初仕事は、2月3日4日に日本で3年ぶりに行われるMusic Hack Day Tokyo2018だ。現在申込み受付中。音楽に興味のあるプログラマー、デザイナーは是非参加して欲しい。


 『SHOSA』には、他にも山口ゼミ1期生でCWFキャプテンのhanawaya、同じくCWFメンバーで、安室奈美恵「Hope」の作編曲で今年ブレイクしたトラックメイカーTOMOLOW。アニソン分野で大御所作詞家になりはじめているこだまさおりなどがクリエイターとして参加してくれている。着物は国際的なコスチュームデザイナー谷川幸さんのオリジナルデザインで、映像とした舞う蝶々も谷川さん作で『SHOSA』の世界観の中核を担っている。田中セシルに似合うデザインだったし、セシル自身による着物を活かした振付も良かったと思う。


 たくさんの優秀なクリエイターの皆さんにお力をお借りしたことで、一つの成果を上げることが出来ました。改めてこの場を借りて、心からの感謝を述べたいと思います。本当にありがとうございました。
 技術的にはマイクロソフトのKInectに加えて、富士通が開発中のセンサーシューズという技術を使っている。富士通さんにも多大なる協力をいただいて本当に感謝です。
 そして、次の作品も構想準備中なので、ご期待下さい!。

 改めて思うのは、従来いろんなジャンルを区別してきた「壁が溶けている」ということだ。僕がメディアアート作品のクリエイティブディレクターをやるなんてまったく想像していなかった。自分が育った音楽業界を再生させるために、エンターテックエバンジェリストとして、異業種や異分野の架け橋となる場をつくっているうちに、いつの間にか、でも自然に、こんなことになった。



 海外のカンファレンスイベントに行って感じるのは、「全部同じ方向を向いている」ということだ。家電の見本市から始まったCES、音楽にはじまってITサービスのインキュベーションの場となったSXSW、広告祭だったCANNES LIONS、メディアアートの総本山であるARS electronica、どのイベントでも、「社会のイノベーションとは?」、「テクノロジーと人の関係とは?」MedTech(医療技術)、BioTech(生物工学技術)を取り込んで様々な議論、実験が行われている。行ったことは無いけれど、通信会社によるMobile CongressもクラブミュージックのフェスだったはずのSonarもそうみたいだ。スタートは全然違ったはずが、今は同じ方向を向いている。将来はまだ分化を始めるのだろうけれど、今は一旦、すべての壁を溶かして、シームレスになって、ガラガラガッチャンと古いものが壊れ、新しいものが生まれていくと世界中の人が思っている。その原因も、未来のツールも進化し続けるテクノロジーだ。そんな時代に、人々をワクワクさせ、時代の気分を醸造し、文化を作るエンターテックの役割は大きいと思う。


 そんな時代に内国の一業種の価値観、いわゆる業界の村的な論理で行動することは弊害が非常に大きい。良い部分をモジュールとして活かして再構築するべきというの僕の意見だけれど、それには新しい発想と熱量を持った人材が必要だ。

 

 僕が約3年前にニューミドルマンラボを始めた動機が「マジで超アタマにきた」からだというのはこのブログに書いているけれど、世界中の意識の高い人たちが同じ方向を向いているということと「ニューミドルマン」という概念も軌道を同じくしている。従来の壁が溶けていくなら、未来志向のエンタメビジネスを実践的に探っていく運動だ。2018年からはもっとコミュニティ的な動きをしていこうと思っている。オンラインサロン(+OFF会)も作る予定なので、興味のある人は参加して欲しい。音楽ビジネスに興味がある人は、2月に行う『超実践アーティストマネージメント篇』は最適だ。音楽ビジネスをリロードする人たちの参加を心待ちにしています。

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 更新が不定期すぎるブログで、そして今年もブログタイトルを決められないままでしたたが、2017年はこれで終わります。私的なスタンスで見解表明をすることは続けますので、今後もお付き合いください。