代官山エリアで始まったデジタル時代の新型ミュージックフェスティバル「THE BIG PARADE」。その幕開けにして、メインイベントの一つで有る佐野元春さんのキーノートスピーチにモデレーターとして登壇した。
音楽性や文化論ではなく、メディアやビジネスについてアーティストに語ってもらうというスタンス。
TBPのお手本の一つであるSXSWでは、毎年ビッグアーティストのスピーチが注目されている。今年もLady GAGAのキーノートや、Neil YoungのPONOに関するセッションが話題を呼んだ。僕も会場で見ていたけれど、大物アーティストが、ビジネスも含めて本音で語っていて面白かったし、聴衆に刺激を与えていた。
佐野元春さんは、いち早くセルフマネージメントを始めたアーティストだし、テクノロジーへの取り組みも先駆的だった。アーティストが独自のデジタルチームを持ったのは日本初だったと思う。当日知ったことだけれどniftyのBBSで集まったファンと一緒にインターネットの研究をしたのが、今のMotWebServerの源流だという話や、その頃のブラウザは日本語表示ができないNetscapeだったという、佐野さんの先進性を思い知らされるお話しだった。
惜しまれながら昨年亡くなったヤングジャパングループの細川健さんのお話しができたのも嬉しかった。佐野さんを見いだして、裏で支えていた方だ。僕もお世話になった。昨秋に渋谷公会堂で行われた細川さんのお別れ会での佐野さんの引き語りは感涙ものだった。佐野さんが自分の意思を貫けたのは細川さんのバックアップが大きかった。
丸山茂雄さんのお話も興味深かった。佐野さんが育ったEPIC/SONYをつくった人だ。プロ野球で言えば長島茂雄みたいな存在で、みんなの憧れ。「2割8分じゃ巨人の4番はつとまらないように、この業績ではソニー(Sony Music Entertainment)の社長として失格だ」と、メチャカッコイイ発言で退社して、mf247という音楽配信サイトをつくった。
佐野さんを取り巻く人達は多彩だったのだと改めて実感した。
パッケージと音楽配信、ストリーミングや高音質など、テクノロジーについての話は弾んだ。
佐野さんはアーティストとしてのスタンスを保ちながら、堂々とビジネスを語り、テクノロジーに対する高い見識を見せてくれた。横で聞いていてすごく格好良かったし、TBPらしさを示せたように思う。
来年のツアーで「18歳以上は無料にする」という宣言がメディアには拾われていたけれど、テクノロジーへの見識やアーティストとしての矜持や社会性の持ち方についての発言が僕には刺さった。
何年後かにTHE BIG PARADEが広く認知されるイベントになった時に、語り草になるような、そんな1時間だったと思う。レジェンドとなる場に同席できて、光栄だ。
企画が立ち上がった去年からずっと関わってきたけれど13日14時に僕の仕事は終わり、そこから三日間はこのイベントを堪能した。ファウンダーの鈴木さん、牧野さんを始めとした関係者の皆さんに心からの敬意と賛辞を捧げたい。今回のことが、日本の音楽業界のターニングポイントにできるかもしれない。
場にバイブレーションがあったと思う。本家SXSWには、規模は遠く及ばないけれど、同じ種類のワクワク感があるなと、旧山手通りを歩きながら思った。デジタル化の進展によって、様々な業界の障壁を溶かして、ビジネスモデルの再構築、再定義が求められている。殊更に、音楽とITは欧米では密接に関係して発展している。そのためには、業種の壁を越えてコミュニケーションをとり、考える場が必要だ。
音楽とITの美しい関係ができるために、このパレードは、来年へと続いていく。僕も一緒に歩いて行きたい。