2018年8月22日水曜日

3大メジャーレーベルとMerlinとTuneCoreと〜グローバル視点で音楽ビジネスを俯瞰すると〜

 久しぶりの更新になってしまった。このブログはエンターテック領域を中心に自分が私的に関心をもったトピックを、個人的に書くことにしているので、気楽に書けるはずなのだけれど、責任や締切が無いとなかなか手が付かないものだなと思う。
 今日書くことは、半年くらい前から思っていることなので、このタイミングで一旦まとめておきたい。 

 これからのアーティスト、マネージメント、レーベルマネージャーの活動領域、パートナーの組み方に関するビジョンの持ち方にかんする一般論だ。

 まず、前提として確認したいことは、音楽ビジネスはグローバル化が進んでいくこと。もちろん言語や文化やメディア(放送局は各国の政府が仕切るからドメスティックになる)などの壁がなくなっているわけではないけれど、以前に比べれば障壁は低く、薄くなっている。SpotifyやYoutubeで世界中の人に自分の音楽をアピールすることができるようになっているのは誰もが実感していることだと思う。一方で人口が減り始めた日本で市場拡大は難しい。世界市場に活路を見出そうとするのは音楽に限らず、当然の発想だ。

 そんな時代にこれから音楽ビジネスをする際は、俯瞰してみると以下のような構造なのだと知ってほしい。
 グローバル市場で一番超えやすいのは音(と映像だ)。まず音源(原盤ビジネス)について考えたい。
 原盤ビジネスについては、以下の3つのレイヤーがあるころを知り、それをアーティストの状況によって時期ごとに乗り換えていくようなイメージを持つのが良いと思う。

1)3大メジャーのレイヤー

 グローバル視点で見た時の、メジャーレーベルは3社だ。ユニバーサル。ワーナー、ソニーミュージックの三社。以前は、BMGとEMIがあったけれど、合併して3社になった。いうまでもなく彼らは巨大な資本と資金と情報を持っている。契約する機会があれば、活動範囲は広がり、ファンベースを大きく拡大するチャンスになるだろう。ただ、彼らは可能性に投資して、育成したりはしないから、一定のレベルまでは下記の2および3のレイヤーで成果を出す必要がある。

2)ドメスティックレーベルからマーリン活用

日本ではまだ「メジャーデビュー」という言葉が使われている(僕もいまだに使うことがありますwwwすいません)が、エイベックスやビクターやトイズファクトリーからのリリースは、グローバル基準でいうとメジャーデビューではなく、これらの会社はインディーズレーベルだ。ドメスティックメジャーという言い方が適切かもしれないけど、グローバルメジャーとは全く違う。アーティストを売り出す時に、価値観が共有できるA&Rスタッフと一緒に組み立てることの重要性は昔も今も変わらない。レコード会社との契約には意味があるだろう。
 ただ、海外への視点を忘れてはいけない。日本のドメスティックメジャーは海外市場に進出する意欲もノウハウも持っていない。その時に知っておきたいのがマーリンの存在だ。
 マーリンはヨーロッパを中心に世界中のインディーズレーベルの配信事業者との交渉を代行する組織で、既に大きな成果を上げている。GoogleやApple、Spotifyといった配信事業者は、3大メジャーの寡占が進むと、レーベル側の発言力が強くなるので、そこへの対抗策の意味もあって、インディーズレーベルに対して融和的な方針を持つことが多い。マーリーンはそこも上手く利用して、卓越した交渉力で、メジャー以上の好条件を引き出すケースもあるようだ。手数料も驚くほど安い(3%程度)。日本のドメスティックメジャーも、徐々にマーリンを活用する流れが出てきている。数年以内に、ほとんどの会社が契約関係を持つだろう。マーリーンは交渉代行を行うだけだけれど、デジタルマーケティングの会社と属人的に近かったり、情報共有をするなどの活動も行っているので、アーティストやマネージメントに有益だろう。
 個人会社の規模でも頑張ればマーリーンと契約することはできるかもしれない。でも日本のドメスティックレーベルと契約して、海外は直接とやるのはあまりおすすめできない。マーリーンと契約させて、海外収益もシェアするやり方の方がフェアで、ストレスが無いだろう。おそらくは少ないリソースで戦っているみんなには、リソースの集中は大切だ。

3)TuneCore活用でDIY的に配信する

 自分でやりたいなら、TuneCoreJapanを使えばいい。日本でもかなり認知度が上がってきた、ソリューション提供型のアグリゲーション会社だ。要するにアーティストやマネージャーが自分でアップロードすると、世界中のほとんど全部の配信会社で配信することができるということ。使用料は1年間1曲約1000円、売上は全額バックというのが売りだ。自分たちがやった分が、全部もどってくる。ほぼリアルタイムに売上情報もわかるので、この国のこのサービスで再生回数が上がったから、そこを補強しつつライブに行くことを考えるみたいなことが機敏にできる。フットワーク軽く自分たちでコントロールしてやりたいならベストの方法だけれど、その分、広がりに欠けるキライはある。他人の力を使わないことの是非はあるだろう。

これからのアーティスト、マネージメント、自分でレーベルやりたい人などは、この3レイヤーを使い分けるというイメージが大切だ。1つのレイヤーに固執する必要はない。もちろん、原盤契約を同時に複数の会社と結ぶことはできない。しかし、期間や作品単位で切り替えることは可能だ。現実的には。数年単位でこのレイヤー使い分けていくイメージを持つと発想が広がるだろう。

 「やっぱユニバーサルとやるとノウハウとか資金力あるから活動範囲は広がりますね。でも利益率考えて、来年のアルバムではTuneCore使ってやってみようと思ってます。」みたいな話ができるマネージャーが増えて欲しい。

 この発想は、コンサートツアーについても同様なことが言える。コンサートプロモーターの場合は、地域で契約を分けることができる。日本は自分たちでプランニングして日本のプロモーターと一緒にやり、海外は現地のプロモーターと契約するのがよいだろう。
 日本アーティストを呼んでくれるフェスティバルは世界中にたくさんあるのでSpotifyやYouTubeでの再生状況を見て、反応の良い国にコンタクトして、フェス型イベントに出ることから始めるのが現実的だ。
 アジアについては、MCIPやZEPPがライブハウスネットワークを作り始めている。PAや控室などで、日本型のステージクオリティが担保されるので安心だ。
 音源におけるユニバーサルやワーナーに当たるのは、LIVE NATIONやAIGなどの超大規模プロモーターだろう。彼らはアジアでもネットワークを作って、グローバルにコンサート市場での勝者になろうとしている。相当の知名度、動員力になるのが前提になるけれど、ワールドツアーをする日本人アーティストが増えてほしい。

 そんな思いで地道な活動を続けていたSYNC MUSIC JAPANががCip協議会の中でステップアップしたようで嬉しい。海外活動に関する情報、ノウハウが集約されているところなので、みんな活用して欲しい。

 アーテイストの音楽活動をプランニングする時に、必要なのは目標であり、ビジョンだ。これまでは「Mステに出て、オリコン1位になって、紅白に出たいです。サマソニやフジロックも常連になりたいです」だったと思うし、それがダメなわけじゃないけれど、「SpotifyのBUZZチャートでグローバル1位になって、クランストンベリーに出演して、マジソン・スクエア・ガーデンでメインアクトになる」という目標で活動を始めるアーティストが日本にももっともっと増えて欲しい。

  2年前に僕が書いた入魂の一作『新時代ミュージックビジネス最終講義』は、”残念ながら"いまだ有効だ。日本の音楽ビジネス、音楽界の歩みが遅いのが古くならない理由なので、素直に喜べないことだけれど、このブログを読んで興味を持ったら、まだの人は読んでみてください。
 そんな問題意識で2014年から続けてきたニューミドルマンラボは、今年からコミュニティにすると宣言して、活性化してきていると思う。今週から始まる養成講座夏期は、まさにアジア市場をテーマに、今のリアルを知っているゲスト講師をお願いした。僕自身が勉強になるはずで楽しみだ。毎月MeetUpイベントもやっているので、興味のある人は覗きにきて欲しいな。
  

 2018年8月現在の記録して、グローバル音楽市場の3レイヤーについてまとめていました。異論反論、質問など歓迎です! 

<関連情報>


0 件のコメント: