2015年4月30日木曜日

ミュージシャン・クレジットは、クリエイター・リスペクトへの第一歩だ!

 第一線の作曲家、サウンドプロデューサーをゲストにお招きするトークイベント「作曲家リレートーク」。長らく中断していけど復活した。Vol.11のゲストは島崎貴光さん、今回初対面だったけれど、とてもちゃんとした人だった。作品も緻密で、きちんとプロの仕事をしているのだけれど、事前のアンケートに対する答えも適切
島崎貴光さんは話も上手だった。
で、「クリエイターは、少し社会性に欠けるところがあるもの」という僕の感覚は「人による」と付け加えて、修正しなければいけないと思わされた。島崎さんは1978年生まれ。僕から見ると完全に一つ下の世代だけれど、自己責任の意味がきちんとわかっている大人だった。

 「良いことは自分の手柄で、お金はもらえて当然。困ったことは、事務所やレコード会社や世間のせいにする」都合の良く考える自己中心的な音楽家も見てきただけに、とても気持よかった。島崎さんがイベントの中でも言っていたように、そういう人は結局は続けられずに、「元プロ」か「自称音楽家」になっていく。僕が世に出したアーティストの中にも、そんな風になってしまった輩がいるのは本当に残念だけれど、島崎さんみたいな人が残って活躍してくれているなら、日本の音楽界も捨てたもんじゃないなと思えて嬉しい。
 トークの内容は、リットーミュージックの連載WEB版・職業作曲家への道」に掲載されるからそちらを見て欲しい。


 さて、楽屋で聞いた話。「最近のレコード会社A&Rは、ミュージシャンクレジットを出すことを嫌がる」と聞いて、心の底からびっくりした。理由は「面倒くさいから」「ジャケットのデザイン的に見栄えが悪いから」だそうだ!!!!意味がわからないよ????
 一番、危機感を持ったのは、若いアレンジャーが「音楽業界はそういうものだ」と受けて入れてしまっているという話。全然「そういうもの」じゃないよ!!!!


 日本の音楽業界に課題もたくさんあるけれど、音楽が好きな人が多くて、音楽家をリスペクトするという考え方がベースにあるのは、素晴らしいところだと僕は思っている。今のレコード会社や事務所の上層部も音楽家へのリスペクトは強くお持ちの方ばかりだ。若手のA&Rが「面倒だから」ミュージシャンクレジットを嫌がっていると聞いたら、僕の100倍激怒する業界の重鎮方の顔が目に浮かぶ。


 音楽を売る側が、音楽家をリスペクトしなくなったら、音楽ビジネスは終わりだ。本当に死んでしまう。作曲家、編曲家、参加ミュージシャンなどをジャケット中面に載せるというのは、リスペクトとして最低限の当然の行為だ。音楽ファンの中には、このドラムは誰なんだろうという興味を持つような人もたくさんいる。音を聞いて「!」と思って、ジャケットを見て、「やっぱり**だ」とほくそ笑む、そんな音楽ファンを増やしていかなければいけないのに、「面倒だから載せない」とか言語道断だ。


(もし、そういう例があったら、本当に教えて下さい。日本のレコード会社は、そこまで腐っていないはずです。そのA&Rが勘違いをしているだけだと思います。考えを改めてもらいましょう。)


 コーライティングを推進している立場としては、作詞作曲者がたくさんいると著作権分配が面倒だという意見も懸念だ。「日本人ならユニット名にしてまとめてほしい」と乱暴なオーダーをするA&Rもいるそうだ。ユニット名にしたからって、分配の手間は変わらないので、論理的には成り立っていないし、そもそも作曲家として名前が載ることが、どれだけ彼らの励みになるのかわかっているのだろうか?プロはどんな環境でもきちんと仕事をするのが当然だけれど、一方でクリエイティブな作業にはモチベーションは大切だ。


 音楽出版社も作曲家が何人もいると分配作業が大変だなと忌避したりはしないで欲しい。国際基準で見ても、日本の音楽出版社の取り分は決して少なくない。代表出版社の矜持(プライド)として、「もちろんしっかり分配しますよ。どんどん良い曲を作ってください。」と言って欲しい。そういう意味でも、コーライティングした時の著作権料は「参加人数で等分」にするといううルールは重要だ。それ以外の変則的な分配率を出版社に押し付けるのは、作家側がやり過ぎだと思う。

 工業製品が国際競争力を失いつつある日本で、日本人のクリエイティブ力というのは、貴重な資源のはずだ。コンテンツ輸出に可能性があるのは、日本のクリエイターが高いレベルにあることが前提だ。クリエイターをリスペクトして育てていくことは国策に合致している。大げさに言えば、ジャケットのミュージシャン・クレジットを面倒がるレコード会社のA&Rは、政府の方針にも反しているし、日本の国力を下げている。クリエイターに高いプロ意識を求めて、切磋琢磨していかなければならない職業だと自覚して欲しい。

 そこで気になるのは、音楽配信だとクレジットが無いこと。作詞作曲編曲、参加ミュージシャン、レコーディングエンジニア、マスタリングエンジニアなどが誰でも簡単に見れるようなサイトが必要になっているのかもしれない。CDDBもそこまではフォローしていないから、WIKIPEDIA的なやり方でJポップだけでも作ることはできないだろうか?誰かやってくないかな?もちろん僕も協力します!

 テクノロジーの進化で変わらなければならいこともたくさんあるけれど、パソコンがあれば誰でも簡単に音楽が作れる時代に、真のプロの高いスキルは、むしろ重要性を増している。クリエイティブが日本人の価値だと改めて声高に言っておきたい。


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2015年4月18日土曜日

「コーライティング」を日本の全作曲家に知って欲しい〜『コーライティングの教科書』出版したよ。

 7冊目となる書籍『最先端の作曲法・コーライティングの教科書』が4月17日に出版された。前作『とびきり愛される女性になる。恋愛ソングから学ぶ魔法フレーズ』に続く、伊藤涼さんとの共著。本のテーマ通り2人でコーライティングした著作だ。

 プロ作曲家を超実践的に育成するという目的で「山口ゼミ」を一緒に始めた時から、コーライティングを広めるというのも2人のテーマだった。「山口ゼミ」の卒業生の中で、僕らがプロレベルの実力があると認めた者だけが加入できるチームを「Co Writing Farm」と名づけたのも、彼らが日本のコーライティングブームの中心になると期待していたからだ。


 先月、週刊ダイヤモンドに掲載されていた記事。

嵐にEXILE、少女時代…スウェーデン音楽家が世界の作曲を牛耳る理由


この記事では書かれていないけれど、日本で採用されているスウェーデン作曲家の楽曲は、ほとんどの場合コーライティングされた作品だ。


 実は、日本にスウェーデン作曲家が日本で活躍するキッカケをつくった張本人がジャニーズエンターテイメント時代の伊藤涼だったりする。詳細は『コーライティングの教科書』の中で、本人が書いているのでそれを読んで欲しい。「ざけんな!日本の作曲家」というコラムに、彼の叱咤が込められている


 「山口ゼミ」の受講生は160人を超え、CWFのメンバーも45人になった。3ヶ月毎に卒業生が出て、5〜10人くらいが新メンバーになっていくというパターンが確立して、どんどんメンバーが増えている。月1回は新曲試聴会を兼ねたミーティングをしているのだけれど、そのうちにやる場所に困るようになるかもしれない。


 実は、今週末は熱海市網代で、3回めとなる「コーライティングキャンプ」をやっている。CWFメンバー+ゲスト作曲家で、3人一組で2日間で0から作ってデモを完成させるという企画だ。コーライティングの方が歴史は古いから変な言い方になるけれど、「作曲版のハッカソン」みたいな感じで、めちゃ盛り上がるイベントだ。過去2回のキャンプで作られたデモが採用になったのもでてきているので、今回の楽曲も楽しみだ。金曜日の夜から集まって、日曜日の夕方には完成した曲の試聴会をする。


 今回のキャンプの参加者は30人規模で、ゲストのヒロイズムさんなども含めて、いわば身内だけだけれど、9月にはオープンな形で90人位のコーライティングキャンプをやろうと計画している。START ME UP AWARDSの一環で、昨年盛り上がったMUSICIANS’ HACATHONと同時開催を考えている。速報的に、4月22日の「シブハラミーティング」で情報解禁する予定なので、まだ詳しくは書けないけれど。めちゃくちゃ面白いイベントになりそうで、注目して欲しい。今から楽しみだ。
 「シブハラミーティングVol.2のテーマは、SXSW2015徹底レポート(とても役に立って面白い内容なので、是非来てください!)だけど、9月にやろうとしているイベントは、実は、SXSWで感じる「場の力」からインスパイアされた企画だったりする。


 「コーライティング」は、いつの間にかパソコンに向かった孤独な作業になってしまった「作曲」を、人と人とのコミュニケーションに「復権」する方法でもある。

 コンペで高いクオリティが求められる、プロの作曲家にとっては、死活問題的に有益な方法であると同時に、アマチュア作曲家が音楽を楽しむ手法にもなると思うので、『コーライィングの教科書』では、クレオフーガという作曲家SNSとも連携した。作曲家の出会いがスムーズになるようにタグの仕組みなどを考えてくれている。4月と6月に共同イベントもやる予定だ。

 ちなみに、クレオフーガの西尾社長は『80年代生まれの起業家が世界を変える』(スペースシャワーブックス)で紹介している俊英だ。僕の活動が、色々な形でつながってきていて、そのことも嬉しい。

 所詮、人間が一人でできることは限られている。だから人間関係が大切で、セルフィッシュな裏切り者は、結局は何も成し遂げられないものだ。大袈裟に言うと、人生を豊かに生きるために「コーライティング」の思想は役立つはずだ、と密かに思っている。大風呂敷に感じるだろうけれど、騙されたと思って、読んでみて欲しい。