2012年1月14日土曜日

最近観た映画『マネーボール』『モテキ』『ピアノマニア』『Pina』『ミラノ愛に生きる』『ゴーストライター』『ミッションインポッシブル』

年の瀬の慌ただしさに更新できずに、新年を迎えてしまったけど、映画評を7本。相変わらず、雑食感満載ですが。

『マネーボール』
原作はずいぶん前に読んだ。野球好きとして、アスレチックスのGMの存在は注目だ。気付いたら松井秀喜も在籍するようになった。そしたらブラッド・ピッド主演による映画化。プロデューサーも兼任。もちろん観に行きました。

投手を三振や球速では無く、与四死球の少なさで、打者を本塁打や足の速さ、肩の強さではなく、出塁率の高さで評価するという「マネーボール」理論は、原作で読んだときから、興味深かった。近年では、他チームでも採用されるようになったそうだ。アスレチックスの優位性が崩れてしまったという皮肉な話。
『メジャーリーグ』みたいな、単純明快なスポーツ映画とは全然違う。大リーグのGMやスカウトもリアルに登場するけど、基本的には、大人の男を描く人間ドラマ。含蓄のある良い映画だった。
興行的には苦戦してるみたいだけど、とてもいい映画ですよ。スポーツ映画では無く、人間ドラマだというのを宣伝的にも打ち出しせばよいのになと思った。

『モテキ』
すごく良かった!「J-popミュージカル」というキャッチコピーもあったけど、懐かしい曲をちりばめている、「反則!」と思うくらいの堂々たる盛り上げ方。大根監督とは、まだ彼が、堤幸彦さんのアシスタントだった頃に、仕事をご一緒したことがある。何かを秘めている印象は若い頃からあったけど、素晴らしく才能が開花!
ツイッターの使い方が、こんなにリアル(ピント外れで無い)のは、テレビドラマなど含めて、初めてじゃ無い?若者の生態を押さえているよね。ナタリーのTAKUYA社長は、あんな女好きじゃ無いけどね^^

ホイチョイプロダクションが、流行の真ん中にいた頃の『私をスキーに連れてって』を思い出した。2011年の東京のカルチャー&ライフを知りたければ、これを観ればいいという映画。この映画を観て、理解できない部分があれば「オジサン」という踏み絵にもなっているね。
興行的にも成功しているようだけれど、宣伝的な打ち出しで、4人の主要女優を同列に打ち出して、「美女達に翻弄されるモテキが突然きた主人公」というイメージにしたのは正解だったと思う。実際は、長澤まさみとのラブストーリーなんだけどね。前述の『マネーゲーム』は人間ドラマなのに、スポーツ映画っぽい打ち出しにして、苦戦しているのと好対照。

『ピアノマニア』
ウィーンに住む超一流、ピアノ調律師のドキュメンタリー映画。素晴らしい。ピアノが好きな人は、是非、観て欲しい。1月21日公開

ピアニストにとって、調律師というのは特別の存在だ。よほどのことが無い限り、クラシックの著名ピアニストでも、自分のツアーにピアノを持ち運ぶことは珍しい。山下洋輔さんがエッセイの中で、会場にあるピアノに「折り合いをつけなければいけない」ピアニストは、自分の楽器を偏愛する管楽器奏者やギタリストとは、違う性格が形成されると書いていた。
演奏する楽器別の性格の違いは三谷幸喜さんの舞台『オケピ』でも描かれていたのを思い出した。
この映画では、レコーディングの様子も丹念に紹介されていて、興味深い。ピアニストと調律師の会話は、別世界の話のようで、目の前で聞いていても魔法使いの言葉のような感じがする。以前、ジャズピアニストのマネージメントをしていたので、何度も立ち会っているけれど、ピアニストと調律師の関係は独特だ。でも、確かに音が変わっているのはわかる。でも、一流料理人の食事を食べても「おいしい」しか言えないように、「いい音だな」としか表現できないけど。
試写会会場のトッパンホールの音響も素晴らしかった。こういう素晴らしいホールがあるのが東京の文化力の高さだなと、改めて確認した。

『Pina〜ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
音楽を生業にしていなければ、アート鑑賞を趣味にしていたのではないかと思う。「フィリップジャンティカンパニー」「ブルーマングループ」「山海塾」は好きです。ポピュラーミュージックを作って売るという商売をやっていると、アート作品を観ていても、なにか「盗める」ところがないか、ポップスに応用できないかと、知らず知らすに考えてしまうし、趣味とは思いづらい。ちょっと「卑しい」けど、仕方ないなぁ。

でも、ピナバウシュは、特別にリスペクトしている。人間の根源的な生命を感じさせる舞踊、そのまま凍らせて、美術館に飾りたいような美しい構図。
眼鏡を掛けて観ていると頭痛がしてくる気がして、3D映画はあまり好きじゃ無いけど、この作品は3Dでつくってくれてよかった。
日本の舞踏家、故大野一雄さんについても語られていて、故人の評価の高さを確認する。
2月24日公開。清流で心が洗われる気持になります。激オススメ

『ミラノ、愛に生きる』
大人の映画。美しさに溢れている。
名家の婦人が、息子の友人と恋に落ちるというと下世話な話のようだけれど、ミラノの名家のお屋敷でのパーティや、サンレモ郊外の風景など、うっとりするほど美しい。
食事とセックスには共通点があるというのは、文化人類学でよく語られているけれど、料理を作ること、食べることが、非常に官能的に描かれているところがすごく良かった。
以前、読んだ本で、アフリカのある民族の習慣では、未婚の男女のセックスは認められているけれど、一緒に食事をすることは禁忌とされている、と書いてあったのを思いだした。
ヨーロッパのカルチャーや絵画的な美しさを持った映画が好きな人には、強くお薦めします。年末から公開中。

『ゴーストライター』

観た映画は、ツイッターやフェイスブックだけでなく、ブログにまとめて書くのを去年から始めている。
この映画は、たまたまた書き忘れてた。
重厚で良質な映画。昨年の映画のベスト3に挙げている人が多いのもうなずける。

個人的には英国首相とその自伝のゴーストライター、そこに起きる陰謀という設定のリアリティに今ひとつ入り込めなかったけど、観る価値のある映画だと思います。

ちなみに、2011年の僕のベスト3は、
1)『ブラックスワン』
2)『マイバックページ』
3)『ゲンズブールと女達』
にしてみました。

その他の昨年観た映画はこちら。2011年は豊作だった気がする。

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル


そして、年明け一本目に観た。豊島園のiMAXシアターに初めていったけど、迫力満点だね。スクリーンが大きくて、こういう映画にはぴったりだと思う。
若い頃のトムクルーズは興味なかったけど、最近は、徹底したプロ根性をリスペクトしたいと思う。これぞ、ハリウッド映画という感じの大仕掛けでスリル満点。こういう楽しみも映画の醍醐味だと思った。


今年もよい映画をたくさん観たいと思います!

2012年1月1日日曜日

独断的音楽ビジネス予測 〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜

 新年、明けましておめでとうございます。昨年の震災で、日本中が喪中みたいな年だけど、そんな時だけに、新年を迎えた喜びを分かち合いたいと思います。

2011年は、個人的にも、日本にも、国際的にも大きな事件があった年なので、いろいろなことを考えさせられた。年末から経済分析などを読み、考えてきたので、2012年予測を記しておきたい。

マクロ的には世界経済が不安定だ。ユーロは崩壊寸前の危機。ヨーロッパ経済が破綻すれば、中国に波及し、米国、日本への影響が拡大していくという世界恐慌の悪夢。これは、さすがに酷すぎるので、各国の指導者達が何とか避けると信じるしか無い。「人類を何回も殺せるくらいの爆弾があっても、核戦争が起きなかった」的な希望的観測。
いずれにしても、相対的(消去法的?)に、日本の国債と円の価値は上がるので、日本政府の財政は維持され、円高は進んでいく。
今年は世界主要国(米国・ロシア・中国等々)で選挙☞指導者交代があるので、政策的な大きな変化は起きにくい。求心力をもったリーダーが2013年にどのような変革を起こすか、おそれまでは、去年までの傾向が継続して、傷には絆創膏を貼るという感じの対応になるというのが、一般的な予測だと思う。

そんな中で日本の音楽ビジネスについて考えてみた。
ざっくり言うと、今年は、大きな変化は起きないと予測する。近年続いている傾向は続くだろう。CD売上減少、着うたの減少、スマフォ&PC配信の微増などは、環境的に変わりようが無い。ただ、ぞれぞれ緩やかな変化で、根本的な構造変化は今年は起きないと思う。
日本も早く変わるべきだと思っている僕にとっては、不本意な予測だけれど、、。

CD売上は、前年比一割以内の減少に留まる
2011年の統計はまだ出てないけれど、震災があったのに5%程度の減に留まりそう。「ほとんどAKB48でしょ?」「同じ人が何枚も買っているんでしょ?」という声が聞こえそうだけど、本質的じゃ無くても、理由はともあれ売上が維持されれば、ビジネススキームは温存されるという道理。

モバイル配信の変化もゆっくり進む
スマートフォンへの買い換えは進んでいくだろうから、「着うた」「着うたフル」は急激に落ちていく。ただ、去年下半期を傾向を見ていると、スマフォになっても、レコチョクやMORAで音楽を買うという習慣はある程度、残りそう。350円〜400円だった着うたフルに対して、スマフォだと1曲200円になるから、売上減は避けられないだろうけれど、DL数はそれほど落ちない気がする。

ストリーミングサービスは本格始動しない
音楽関連の画期的なITサービスの進出は望み薄だ。
レコードビジネスは、クラウド型ストリーミング(聞き放題)サービスがメインになり、CDはアーティストとの関係性を示す記念品として残り、ダウンロードサービスは衰退する、というのが僕の基本的な認識だ。実際、ヨーロッパでは始まっている。音楽ファイルになってしまった音楽は、違法配信サイトやピアトゥーピアサービスを撲滅することが原理的に不可能な以上、ユーザーに快適な音楽再生環境を提供して、音楽制作費を回収する仕組みを確立するしか無い。
でも、残念ながら、今年は日本ではまだ始まらないだろう。
アップル社も、ダウンロード型のiTunesStoreが世界(日本を除く)のデファクトになったためか聞き放題型に切り替えることができずにいる。本命もと言うべき、Spotifyは、米国でのサービスを始めたばかりで、日本上陸は、今年は無理そうだ。
権利ホルダーの中心であるレコード会社が日本の通信会社と組んで始めるべきだと思うけれど、前述の通り、前年比9割程度が維持されれば、守りに入って、攻めに出ることは難しいだろうね(auはLISMOで聞き放題サービスを始めているけれど、聴けるのはほとんど洋楽)
ベンチャーもIT大手も含めて、主役となれる可能性のある事業者が全く見えない。今年は間に合わないと思う。

●つまり、音楽ユーザーの消費行動はまだ大きく動かないということ
ちなみに2011年のCDレンタルの売上は前年比97%程度と言われている。震災のマイナス分を考えると、むしろ微増と言えるかも知れない。TSUTAYAがポスト返却など利便性を高めたり、ゲオが映画DVDの50円レンタル(市場を壊す行為なので大至急やめさせるべきと思うけど)で集客したりして、レンタル市場は維持されている。ユーザーは、CDを借りて聴く、PCにリッピングしてiPodで聴くという消費行動は、定着していてすぐには変わりそうもない。
新しい事をすぐ試してみるいわゆるイノベーター層はともかく、音楽ユーザーのマジョリティ(多数派)は、自分でイメージできて、安心できるサービスしか取り入れない。

日本が足踏みしている間に、欧米ではサービスが進化する。焦る気持ちもあるけれど、視点を変えれば、欧米のサービス状況を吟味して、日本流サービスを考える時間があるとも言える。この時間差を無駄にしないで、しっかり準備したい。
日本市場は、定着し始めると早いという特徴もある。2013年か14年か、一気に、ストリーミングサービスが広がる可能性は高いと僕は思っている。

そんな2012年は、音楽ビジネスは「準備の年」になる。ポイントは3つ。
1)経済的中間層が激増するアジアを中心とした海外輸出の環境整備
2)ソーシャルメディアを活用したプロモーションおよびマネタイズの研究
3)異業種との組み合わせ、企業とユーザーのリレーションに貢献する仕組みの確立

自分自身、昨年からキャッチフレーズにしている、グローバルな視点ソーシャルメディア活用異業種コラボをテーマに、準備を進めておきたいと思う。

付け加えると、ライブエンターテインメントは引き続き堅調、ファンクラブ、グッズなどを加えたアーティストビジネスは、ビックアーティストを中心に微増していくという流れは暫く変わらないだろうね。

年間予測は、高名な評論家も外してばかりだ。僕の予測は、当たるも八卦、当たらぬも八卦、正月のおみくじみたいなものと笑って赦して欲しい。
今年の年末にこのブログを読み返して、自分がどんな感想を持つのか、そんな事を楽しみに、一年間頑張ろう。

<関連投稿>
 「デジタルコンテンツ白書2011」音楽篇を執筆しました。〜日本の音楽ビジネスの現状と課題〜
 スポティファイとフェイスブックが提携してアップル社に対抗!?~クラウド型音楽サービスの近未来は?
 日本の音楽配信事情2011 〜ジャーナリストや評論家に音楽ビジネスの間違った認識が多すぎる!〜