2014年1月1日水曜日

独断的音楽ビジネス予測2014 〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜

  新年あけましておめでとうございます。更新が間遠なブログですが、本年もお付き合い下さい。

 過去2年続けて、同じテーマで、年頭に音楽ビジネスの年間予測を書いてきたので、今年は3年目になる。昨年は、予測が概ねあたって、胸を張ったのだが。2013年の予測は全くダメだった。音楽とITの専門家を自任する立場としては、面目丸つぶれだけれど、まずは、そのエクスキューズも含めて、2013年の振り返りから始めたい。

『独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜』



 パッケージ売上は現状維持。CD店をネットと連動させて活用
⇒はずれ!
 2013年の音楽パッケージ売上は、前年比8%増を誇ったが、2014年は、10%以上下がることになりそうだ。まだ正式なデータはないけれど、2012年を下回ると言われている。
 昨年は店頭を賑わした大物アーティストのベスト盤などがネタ切れで、秋の売上減が大きいという話をCD店からよく聞いた。商品企画やリコメンドのやり方にも、もっと工夫が必要なのだろう。
 
・ストリーミングサービスが本格開始する
⇒微妙。
 7月からソニーのMusic Unlimited、レコチョクbestKDDIによるKKBOX JAPANとストリーミングサービスは始まった。ただ、欧米でユーザー数を急増させているSpotifyの日本ローンチは無く、始まったサービスもユーザー獲得には苦心しているようだ
 今後の音楽配信の主役になることは間違いないのだけれど、まだユーザーに、魅力を伝えることができずにいるようだ。ストリーミングサービスについては後述する。

・レコード会社がインターネット上に音源を解放し始める
⇒その方向ではあった。ただ、速度はゆっくりだった。

・コンテンツの海外輸出が本格的にはじまる
⇒動き始めているけれど、まだ数字には表れるほどではない。

 総括すると、メジャーレーベルをはじめとした規模の大きいプレイヤーほど、変化への不安がぬぐえずに、スローテンポな2013年だったと思う。もう、誰もブレーキは踏んでいないけれど、怖くてアクセルを踏めないので、エンジンブレーキが効いてしまっている感じ。正直、僕のイメージしたテンポの30%位の速さだった。

 それでも、目指す方向性のベクトルは定まってきていると思う。メジャーレーベルの中からも変化のバイブレーションを感じることが増えてきた。日本のマネージメントやプロデューサー達の意識は高い。希望は持てると思っている。

 さて、2014年の予測。

●ストリーミングサービスの本格的に普及する
 「来るよ来るよ」と言い続けていると、狼中年に思われてしまうかもしれないけれど、今年こそはストリーミングサービスの普及が本格化すると予測したい。

 日本法人を設立して1年以上経つSpotifyが、今春には日本サービスを始めるようだ。最初はβ版的な打ち出しになるようだけれど、世界で急成長中の人気サービスが、日本で始まるインパクトは大きい。

 異論もあるかも知れないけれど、2013年のパッケージ売上が伸び悩んだのは、端的に言えば、ストリーミングサービスが広まらなかったからだと思っている。今の時代にネットで音楽が聴かれない状態は。ラジオ局無しで楽曲PRをするようなものだ。新しいテクノロジーや情報伝達の変化を取り込まなければ、産業が停滞するのは自明のこと。音楽、特に新しい楽曲との接触の機会を増やし、ユーザーの興味を喚起することが、音楽業界にとって、最重要だ。

 世の中の関心も確実に向いてきている。昨年12月には、KADOKAWAグループの社内向け勉強会と、証券会社の機関投資家向けセミナーの講師に呼ばれた。いずれも、「音楽配信サービスがどうなるのか?海外事情と国内の今後を知りたい」というオーダーだった。異業種からの方がよく見えているのかもしれない。流行に敏感な日本で、ストリーミングがブームになる日は、そう遠くない。

O2O活用でCD店が活性化する
 音楽配信サービスが広まると、CDが必要なくなるという誤解は今でも大きいけれど、僕は全然違う観点で捉えている。確かに、iTunesなどのダウンロード型の配信サービスは、パッケージに取ってかわるような側面もあった。主要な音楽配信がクラウド活用のストリーミング型、課金が定額(サブスクリプション)型になることで、パッケージとの棲み分けは明確になっている。

 ユーザーのニーズとしても、色んな音楽をスマフォなどのデバイスで楽しみにたいという気持ちと、好きなアーティストの作品をコレクションしたいという欲望は、種類が違う。CD店が生き残っている日本では、ストリーミングが広まることで、パッケージの役割は残ると思う。

 ストリーミングサービスの普及で、負の影響を受けるとしたら、CDレンタル店だろう。まだ500億円以上の市場があるレンタルCDのマーケットは、置き換えられる可能性が高い。マジョリティの消費者行動は保守的なものだから、今年中とは言わないけれど、レンタル店の動向がストリーミングサービスの一般層への本格普及の目安になると僕は思っている。

 CD店活性化のキーワードはO2O。オンライン・トゥ・オフライン、ネットからリアルへの送客というのは、マーケティングの世界では耳にタコだろうけれど、音楽ビジネスでも重要だと思う。ネットラジオ的なサービスも含め、インターネットサービスでユーザーの興味喚起をリアル店舗に活用するというのが、これからのCD店の肝になる。CD店内でのデジタルサービス(オフライン・トゥ・オンライン)も含めて、ネットとリアルの連動という世の中では当たり前のことが、音楽の世界でも重要になっていく。音楽とデジタルは元来、相性が良いので、面白い施策が出てくることだろう。
 
●ストリーミングサービス発のヒット曲が出る
 新しいメディアの台頭は新しいスターを産むのが歴史の必然だ。YouTubeが無ければ、有名にならなかったかもしれないYouTubeクリエイターもたくさんいる。Twitterが買収したことで注目の6秒限定動画共有サービスvineは、米国では大人気のようんだ。今年は日本でも広まるだろう。新しい人気者がvineからも出てくるはずだ。

 音楽ストリーミングサービスからのヒット曲も欲しい。スウェーデンのEDM系のユニットCAZZETTEは、当初、Spotifyだけで楽曲を発表し、人気者になった。地元スウェーデンだけでなく、米国でもビルボードチャートにランクインした。

 僕の本業はITサービスの評論ではなくて、音楽プロデューサーなので、今年は、本腰をいれて、新人アーティストを夜に出そうと思っている。ちょうど、機は熟した気がしているので期待して欲しい。自分だけが成功したいわけではなくて、新しいフォーマットでの成功例を出していくことが、日本の音楽シーンの活性化になると信じているので、いろんな人とも連携していきたい。デジタルや海外をテーマに取り組むマネージャーやプロデューサー、アーティストは、是非、相談に来て欲しい。

 ちなみに、昨年書いた「極私的音楽ビジネス予測・続編」は、(残念ながら)、今も有効な提言になっていると思う。


 興味のある人は、読んでみて欲しい。ITベンチャーの音楽サービスには、本当に期待している。この問題意識から出版したのが『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)だ。若い起業家達から僕自身、たくさんのことを教わった。
 今年こそは、音楽とITの蜜月が始まり、新たなテクノロジーやメディアが音楽シーンと音楽業界を活性化することを期待するし、僕自身、頑張りたい。

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できることからコツコツと。でも、機は逃さずに、大胆に。そんな2014年にしたい。音楽業界は「change or die」だとメッセージを出すのは去年で終わりにする。今年は「change to survive」生き残っていくために変わることが必要な時代なのだ。

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