年末に嬉しい報せがあった。「2017アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA」のインタラクティブ部門で優秀賞をいただいた。TECHS2で披露した『SHOSA/所作 〜a rebirth of humonbody』という作品だ。
僕が生まれて初めてクリエイティブディレクターと表記された作品だ。音楽プロデューサーとして長年活動してきた中で、「エンターテック・エバンジェリスト」とも名乗るようになったのは自然な流れだった。日本の音楽業界がデジタル社会への変化に臆病で、業界的にも国際的にも取り残されていくという危機感の中で、書籍を出版したり、人材育成のセミナーや音楽家が参加するハッカソン、エンタメ系のスタートアップのアワードなどの場つくりのオーガナイザーをやりはじめるようになって、音楽プロデュサーという職域からははみ出す活動が増えた。大企業の新規事業のアドバイザーをやって、異業種間を、特にスタートアップと結びつけたりするような活動もやらせていただいている。
新しいテクノロジーでエンタメが変わるポイントは3つだ。マネタイズシステム、ユーザーとのコミュニケーション(従来の言葉を使えばプロモーション)、そしてクリエーションだ。表現そのものもテクノロジーで変化、拡張していく。電化(トランジスタ)がエレキギターをつくって、ロックやポップスが生まれた。デジタル化は、電化以上のインパクトのある変化で、音楽制作を安価にした。民主化されたと言ってもいいだろう。以前なら、10坪以上のスペースと1億円に近い機材が無ければできなかったことが、今や1ルームのパソコンで100万円以下の投資で可能になった。もちろんプロフェッショナル制作システムが無効になったわけではないけれど、少なくとも1/100のコストでの代替案が生じているのは紛れ見ない事実だ。ところが表現を変えるような楽器という観点だとまだ成果は乏しい。強いて言えばボーカロイド。初音ミクというバーチャルスターを生み、新しい音楽シーンと市場を作った。でもエレキギターとアンプに比べれば、まだ影響力は軽微で、これから様々なテクノロジーの進化に伴う新しいツール(楽器)が出てくるはずだと僕は思っている。
メディアアートへの関心は、そんなところは始まった。実は80年代に高校生だった頃からメディアアートには興味はあった。ナム・ジュン・パイクの作品やエピソードを聞いて友人たちと話題にしていた記憶がある。でもその程度の関心。自分の仕事とは無縁な世界だと思っていた。
ダミン・ハーストの作品 |
ベネツアビエンナーレも素晴らしかった。アートが時代の先端を走り、未来を牽引しているのだと感じた。世界の最高峰の場所で観て感じることは大切で、NYでオフブロードウエイを観る、パリでクラシックバレエを観る(多分、ウィーンでオーケストラを聴くとか、イタリアでオペラを観るとかも)ことは芸能の神様に謙虚でいつつ、刺激を受けるために必要なことだと常々思ってきたけれど、ベネツアビエンナーレもそれらと同列以上だった。2年後も絶対行きたい。
そんな中で、1年くらい前から「メディアアート的な発想で作品化してアワードに応募する」という活動をやってみようと思うようになった。ミュージシャンズハッカソン、クリエイターズキャンプ、TECHSと継続的な取り組みをしてきたので、テクノロジスト、クリエイターの人的ネットワークは出来ている。僕が一番の役割である「場つくり」を加速することもできるだろうと考えた。「賞を取る」というわかりやすさは何かを進める時に有効だ。
ちょっと乱暴な言い方になるけれど、現代アート作品で一番大切なのはフィロソフィーだ。今の社会をどのように捉えて、切り取って形にするのか、どんなメッセージや問題提起を込めるのか、その姿勢も含めて、評価されるのがアートの世界だ。
僕がやるなら、取り上げるべきは表現とテクノロジーの関係性だ。ライブ表現のシズル感にフォーカスして、「アルゴリズムに支配されたダンスの解放、身体性の復権」をコンセプトにすることにした。高い身体能力と日本女性のしなやかな美をもつSpininGReenに合致したコンセプトでもある。近年はプロジェクションマッピングなどの映像表現とダンスの融合はたくさんあって、素晴らしい作品も多いけれど、「予めプログラミングされた内容、時間軸に演者が合わせる」ものがほとんどで、完成度は上げやすいけれど、ライブのドキドキ感につながりにくいと常々残念に思っていた。時代としてもロボットが人間の職を奪うのではないかと不安が語られていて、人と技術の共存、美しい相互互恵関係が重要になっている。人が技術をリードし、活用して表現を拡張するというアート作品は、そんな時代へのメッセージにもなるはずだ。
僕がやるなら、取り上げるべきは表現とテクノロジーの関係性だ。ライブ表現のシズル感にフォーカスして、「アルゴリズムに支配されたダンスの解放、身体性の復権」をコンセプトにすることにした。高い身体能力と日本女性のしなやかな美をもつSpininGReenに合致したコンセプトでもある。近年はプロジェクションマッピングなどの映像表現とダンスの融合はたくさんあって、素晴らしい作品も多いけれど、「予めプログラミングされた内容、時間軸に演者が合わせる」ものがほとんどで、完成度は上げやすいけれど、ライブのドキドキ感につながりにくいと常々残念に思っていた。時代としてもロボットが人間の職を奪うのではないかと不安が語られていて、人と技術の共存、美しい相互互恵関係が重要になっている。人が技術をリードし、活用して表現を拡張するというアート作品は、そんな時代へのメッセージにもなるはずだ。
なんでもそうだけれど、言うは易しで作品にするのは大変だった。沢山の人の知恵と汗でなんとか形になった。賞をいただいたことで、少しだけど、報いることができた気がして、実はそれが一番嬉しい。一緒にこの作品をつくった時間に社会的な価値がついてくれたから。
クリエイティブディレクターをやったのは、この分野の「師匠」である大岩さんのアドバイスだ。僕が弟子を名乗るのがおこがましいほど、輝かしい実績のある方だけれど、僕がこんな事やりたいと協力のお願いをした時に「この分野はクリエイティブディレクターをやらないと評価されない。僕がアドバイスするから山口さんがやりなさい。」と背中を押された。僕は今更、自分自身に名誉欲は無いし、クレジットがなんであっても作品が良くなるたまなら自分がやれることは全力でやる。具体の作業はほとんど変わらないのだけれど、それでもクリエイティブ全体に責任がある立場を宣言することは、紙一重だけれど、やはり気持が違う。僕にとっても貴重な経験になった。大岩さんがいてくれるからやれことなので感謝という言葉では表現できない。
(ちなみに、大岩直人さんの最初の著書は昨年「ニューミドルマン養成講座」にゲスト講師にいらしていただいた時の講座内容をベースにした電子書籍+POD『スーパードットなひとになる。〜コミュニケーションとテクノロジーの"今"』(PHP研究所)なのだけれど、2冊目が最近出版された。『おとなのための創造力開発ドリル 〜「まだないもの」を思いつく24のトレーニング』は、掛け値なしに名著だ。ジャンルを問わずクリエイティブな仕事に関わる人は是非、読むべきだ。ロボット工学の石黒浩大阪大学教授のブレイクのキッカケとなったマツコロイドの生みの親としても有名なアイデアマンの大岩さん。この本を読むと、クリエティブな思考回路について学ぶことができる。激オススメ)
『SHOSA』は「EnterTechLab+SpininGReen」の作品となっている。EnterTechLabは、ミュージシャンズハッカソン、TECHSでできたネットワークをベースに法人設立準備中の団体だ。代表の伴幸祐は、4年前の第一回ミュージシャンズハッカソンに福井から参加してくれたのが出逢い。優秀なプログラマーであるだけでなく、ビジネスセンスも併せ持ち、弁説もたち、周りを俯瞰する能力に長けている。彼と一緒にEnterTechLabを作ることで、日本のエンターテック分野をレバレッジしていきたい。次世代型のクリエイターを支援していく仕組みが主なサービスになると思う。
ETLの法人としての初仕事は、2月3日4日に日本で3年ぶりに行われるMusic Hack Day Tokyo2018だ。現在申込み受付中。音楽に興味のあるプログラマー、デザイナーは是非参加して欲しい。
『SHOSA』には、他にも山口ゼミ1期生でCWFキャプテンのhanawaya、同じくCWFメンバーで、安室奈美恵「Hope」の作編曲で今年ブレイクしたトラックメイカーTOMOLOW。アニソン分野で大御所作詞家になりはじめているこだまさおりなどがクリエイターとして参加してくれている。着物は国際的なコスチュームデザイナー谷川幸さんのオリジナルデザインで、映像とした舞う蝶々も谷川さん作で『SHOSA』の世界観の中核を担っている。田中セシルに似合うデザインだったし、セシル自身による着物を活かした振付も良かったと思う。
たくさんの優秀なクリエイターの皆さんにお力をお借りしたことで、一つの成果を上げることが出来ました。改めてこの場を借りて、心からの感謝を述べたいと思います。本当にありがとうございました。
技術的にはマイクロソフトのKInectに加えて、富士通が開発中のセンサーシューズという技術を使っている。富士通さんにも多大なる協力をいただいて本当に感謝です。
技術的にはマイクロソフトのKInectに加えて、富士通が開発中のセンサーシューズという技術を使っている。富士通さんにも多大なる協力をいただいて本当に感謝です。
そして、次の作品も構想準備中なので、ご期待下さい!。
改めて思うのは、従来いろんなジャンルを区別してきた「壁が溶けている」ということだ。僕がメディアアート作品のクリエイティブディレクターをやるなんてまったく想像していなかった。自分が育った音楽業界を再生させるために、エンターテックエバンジェリストとして、異業種や異分野の架け橋となる場をつくっているうちに、いつの間にか、でも自然に、こんなことになった。
海外のカンファレンスイベントに行って感じるのは、「全部同じ方向を向いている」ということだ。家電の見本市から始まったCES、音楽にはじまってITサービスのインキュベーションの場となったSXSW、広告祭だったCANNES LIONS、メディアアートの総本山であるARS
electronica、どのイベントでも、「社会のイノベーションとは?」、「テクノロジーと人の関係とは?」MedTech(医療技術)、BioTech(生物工学技術)を取り込んで様々な議論、実験が行われている。行ったことは無いけれど、通信会社によるMobile CongressもクラブミュージックのフェスだったはずのSonarもそうみたいだ。スタートは全然違ったはずが、今は同じ方向を向いている。将来はまだ分化を始めるのだろうけれど、今は一旦、すべての壁を溶かして、シームレスになって、ガラガラガッチャンと古いものが壊れ、新しいものが生まれていくと世界中の人が思っている。その原因も、未来のツールも進化し続けるテクノロジーだ。そんな時代に、人々をワクワクさせ、時代の気分を醸造し、文化を作るエンターテックの役割は大きいと思う。
そんな時代に内国の一業種の価値観、いわゆる業界の村的な論理で行動することは弊害が非常に大きい。良い部分をモジュールとして活かして再構築するべきというの僕の意見だけれど、それには新しい発想と熱量を持った人材が必要だ。
僕が約3年前にニューミドルマンラボを始めた動機が「マジで超アタマにきた」からだというのはこのブログに書いているけれど、世界中の意識の高い人たちが同じ方向を向いているということと「ニューミドルマン」という概念も軌道を同じくしている。従来の壁が溶けていくなら、未来志向のエンタメビジネスを実践的に探っていく運動だ。2018年からはもっとコミュニティ的な動きをしていこうと思っている。オンラインサロン(+OFF会)も作る予定なので、興味のある人は参加して欲しい。音楽ビジネスに興味がある人は、2月に行う『超実践アーティストマネージメント篇』は最適だ。音楽ビジネスをリロードする人たちの参加を心待ちにしています。
更新が不定期すぎるブログで、そして今年もブログタイトルを決められないままでしたたが、2017年はこれで終わります。私的なスタンスで見解表明をすることは続けますので、今後もお付き合いください。