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2017年6月11日日曜日

誰がJASRACをカスと呼ばせるのか?〜状況整理と幾つかの提言

 音楽教室からの著作権使用料徴収問題が世間を騒がせている。AbemaTVなどのメディアからもコメントを求められることが多くなってきた。以前、本ブログで「JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理」という記事を書いたけれど、その後もあまりにも内向きで、後ろ向きの議論が多く感じている。多少の提言を含めて、改めて本件について言及したいと思う。




●JASRACのガバナンス不全という問題 



 ネット上では、「カスラック」と呼ばれることも少なくない。JASRACへの批判や不満は、誤解や無知によるものも多いのだけれど、JASARACが説明責任を果たそうとしないので、どんどん誤解が広がるという側面もある。昨今、ここまで自らのブランディングができていない団体は珍しいのでは無いだろうか?
 改めて言うけれど、JASARACは、日本の音楽業界に大きな貢献を果たしてきている団体だ。日本での音楽著作権の徴収分配は世界的に高い水準で行われてきた。過去10年以上約1100億円の著作権料を徴収し、作詞作曲家に分配し続けている。
 ただ、歴史が古いということは、ルールを決めた時期が古いということで、そのルールのアップデートがインターネットとデジタルの時代に追いついてないことは事実だ。一言で言えば、透明性が足りない。そこが批判の一番の原因だろう。そこから「悪の権化」のようなJASRACのイメージが拡散されている。実態は、JASRACの事務方は、正義を持って、真面目に仕事に取り組んでいると思う。ただ、その「正義」がもうカビが生えていて、その自覚が薄いことが問題なのだ。

 今回の騒動でも、僕は「JASRACが全音楽教室にセンサーを取り付けて全データを集めて徴収分配するという姿勢なら、断固支持する」と何度も言っている。実際は分配コストが高すぎで難しいのはわかるけれど、その位の姿勢じゃないと世の中からは認められないという認識をJASRACに持って欲しい。

 認識が甘い理由は何か?理事会が機能不全なのだと僕は思う。役人が国会議員や大臣の方を見て仕事をするように、JASRACの職員も理事を見て仕事をするのは止むを得ない、というか当然だ。彼らは職業的良心に則って真面目に仕事をしてくれていると思う。理事会に、音楽家から信頼され、ユーザーから支持されないとJASRACという団体は存在できないという意識が足らず、既得権益のように思ってしまっているのではないか?デジタル時代は、全量報告で完全透明な徴収分配が技術的に可能なのだから、透明性を担保しないと社会的に許されないという認識を持つべきだ。おそらくJASRACの理事会にその理解は無い。
 JASRACの理事の2/3は作詞家作曲家の代表で、会員作家からの選挙で選ばれている。個々人の方はよく存じ上げない。もちろん見識のある方もいらっしゃるのだろうけれど、僕に見えてくるのは悲惨な有様だ。デジタルに対する理解も、日本社会、産業界への貢献という意識も感じられない。
 政府も、音楽教室からの著作権徴収を認めるような見解を出す前に、JASRACのガバナンスを改善する要望を出すべきだと思う。理事会の2/3が作詞家作曲家という組織の構造が音楽ユーザーから意識が離れる元凶になっている。理事選任の方法から考え直すべきだろう。
 選出方法を変えるのに時間がかかると言うのなら、すぐにできることがいくつかある。まずは情報公開だ。JASRACの内部で語られたことや、使用者団体との交渉経緯をしっかり公開するのだ。ニコ生で生中継しろとまでは言わないが、きちんと議事録公開をすることがユーザーからの理解を得る一番の方法だろう。そもそもJASRACは密談的な交渉が好きなカルチャーがある。事業会社と本音と建前をぶつけ合いながら、お互いの落とし所を探っていき、公開されている使用料規程とは別に細則、補則をつくって対応し、そこは非公開にしておく、みたいなやり方の良さも日本人的な感覚で理解はできるけれど、さすがにもう時代に合わない。

 理事長か会長の直轄で諮問委員会みたいな組織をつくるのも一案だ。事業社やユーザーに近い立場の人から定期的に提言を受けるような形だ。例えば、津田大介君に、3ヶ月に1回意見を聞いて、その経緯を公開すれば、世間からの印象は大きく変わるはずだ。
 音楽業界村の中だけで通用する感覚で運営する時代ではないし、それが許されないくらJASRACの存在は日本の中で大き過ぎると知るべきだ。

●音楽教室業界への提言 


 今回は心情的に音楽教室に肩入れする人が多いようだけれど、彼らのロジックも相当、貧弱に感じる。YAMAHAやKAWAIなどがやっている音楽教室は、どこから見ても商売で、少なくも保護を主張するような業態ではない。
 ただもし、JASRACから著作権使用料の支払を求められた時に、 こんな切り返しがあったらなら、尊敬できる。
 「JASRACの管理楽曲の楽譜を全てクラウド上で管理するシステムを作って、それに基づいて著作権使用料を払いたい。ユーザーの利便性も上がって、音楽全体が活性化するはずなので、その開発費の半分をJASRACで出してくれないか?」

著作権支分権一覧
引用元:http://www.jasrac.or.jp/copyright/outline/index.html#anc05

 音楽教室から著作権を取る根拠に、演奏権のルールを当てはめているのは、個人的に「筋が悪い」と感じている。楽譜出版の支分権準拠にして、クラウド上の楽譜使用のアクセス権型に読み替えて、著作権使用料を取る方式が、音楽教室というビジネスの利用実態に近い。著作権法の運用という意味でもスマートなやり方だと僕は思う。
 音楽教室に通うユーザーも、タブレットや家のTVで楽譜が自由に見ることができるのなら、レッスン受講料が少しくらい上がっても納得してくれるかもしれないし、そもそも別料金で楽譜使用に関する著作権使用料を徴収することも可能だろう。
 このような音楽市場を活性化する発想をそれぞれの立場から出し合って欲しい。著作権を払う払わないだけの話は醜悪だし、後ろ向きだ。 時代に即した新サービスをスタートアップと組んでやる位のフットワークの軽さと発想の柔軟さを持っていたい。

 他にも、おさえておくべきポイントを2つ加えたい。

●NexToneの存在が貴重


 日本の第2JASRAC法人二社が昨年合併してNexToneという会社になった。この会社は、前述の透明な分配の重要性を理解しているし、デジタルサービスを研究し、海外事情にも精通した経営陣による会社だ。
 JASRACを批判していて、NexToneを知らない人は、是非、ウォッチして欲しい。いわゆる第2JASRACと言われる会社の存在があることで、これまでJASRACの改革が進んできたし、今後、NexToneの影響力が増すことが、日本にとってプラスだと僕は思っている。

●そして最後は、ブロックチェーンの時代になるんだよ。

アーティストへの適正なロイヤリティ支払いのため、Spotifyがブロックチェーン開発のMediachainを買収 (「TechCrunch Japan」より)

 Spotifyがブロックチェーンの会社を買収して話題になっている。いずれにしても近い将来、音楽著作権の分配の仕組みにブロックチェーンが使われるようになることは間違いないと言っていいだろう。インターネットの世界は様々な分野を「民主化」してきたけれど、音楽著作権の民主化を担うのがブロックチェーンだ。普及するには10年以上かかるだろうけれど、クリエイティブ・コモンズで提唱された音楽家主導の音楽流通が商業化できる時代がきている。ルールが曖昧なことが障害になっているリミックスや二次創作も活性化されるだろう。
 そして、ブロックチェーン到来の時代は、著作権の集中管理の有効性そのものが問われる時代だ。そういう意味で今のJASRACは2周遅れを走っているランナーのような状態なのだ。組織としてもっと危機感が必要だ。

 こんな環境下で今やるべきことは、大きく変わった市場環境に対して、新しいテクノロジーを使って、新たな産業を創出、市場を活性化することだ。今あるパイの取り合いにエネルギーを使っているのは無駄で無益なことだ。そんな余裕は今の日本の音楽業界には無いはずだ。JASRACも音楽教室側も日本政府も未来志向で考えて欲しいと心底、願っている。

関連投稿
●「JASRAC音楽教室から著作権徴収」に関する論点整理

●日本の音楽ビジネスを進化させる、JASRACの対抗軸、NexTone設立の期待

●JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配

2017年5月5日金曜日

コンテンツ&エンタメビジネスを考えるための必読書紹介

 GWは真鶴町でコーライティングキャンプに参加しつつ、ニューミドルマン養成講座第6期の開講に向けて、資料をブラッシュアップしている。推薦図書をまとめて紹介するのはブログにもアップしようと思いついた。

 前回のブログでも書いたけれど、ニューミドルマンラボの目的は、
時代の変化に合った(できれば先取りした)、
次世代の音楽ビジネス(という領域自体を疑いつつ)を
再構築する方法を考え、実践していくこと。
 なので、そんな問題意識がある人にオススメしたい本だ。

 まずは、基本中の基本の拙著。日本で音楽ビジネスに関わる際に知っておくべきことを、2021年までの間に起きることの予見も含めて、総論的にまとめている。僕としては、「一旦、書き切った」という気持ちだ。大学や専門学校の教科書としても使われるようになっているそうで、とても嬉しい。重版が決まった。電子書籍でも読まれているらしい。まだ人は是非、読んでみて欲しい。


 実は、必ず読んで欲しい一冊だ。この10年間に起きている時代の変化を、ビジネスパーソン向けに、平易まとめている。扱う分野も、音楽、映像、放送、新聞、出版、自動車、IoT、UGMと章があり、幅広く横断的に捉え、デジタル化による大きな潮流の変化がわかるはずだ。僕が自動車やテレビについて語るようになるとは思わなかった。まさにそれが変化の証左なのだろう。



 音楽制作、レコーディングについて興味がある人は、一読しておいて欲しい。この本が後押して、日本でもコーライテイングが広まっていった。この延長線上に業界でのプロの音楽の作り方とシステムが変わる予兆がある。5年後に起きるだろうクリエイター主導の音楽制作について、この続編をそろそろ書きたいと思っている。

 起業を視野に入れている人にはオススメしたい。1980年代生まれの起業が10人のインタビュー集。3年前に書いた本だけれど、すでに何人かは「EXIT」し始めている。この10人に今の活躍ぶりを見ると、僕の審美眼やアクセラーレーターとしてのスキルがあることが証明できるなと、鼻が高い。

以上は、拙著。
ここからは、推薦書籍。
 いろんなところで紹介しているけれど、この本は傑作だ。ビルボード1位をとった「SUKIYAKI」誰もが知っている「上を向いて歩こう」の誕生からヒットの様子を丁寧にまとめたノンフィクション。戦後すぐの日本の芸能界の草創期の様子がよくわかる。著者は尊敬する業界の先輩だ。THE BOOM「島唄」やiTunesでUS一位になった由紀さおりさんのジャズアルバムなどをプロデュースされている。その後も、執筆活動を意欲的にやられているので楽しみにしている。



 関西電通時代にradikoを生み、今は関西大学教授の三浦さんは、時折、情報交換をさせ
ていただいている。以前ニューミドルマン講座の講師もお願いしたこともある。日本、韓国、アメリカの音楽業界事情を、ビジネス論と文化論を上手に交えながら分析している。
 業界側の人が音楽ビジネスについて書くと、浅薄になり、認識の間違いがあるケースが多いんだけど、この本は見事に的を射ている。


『儲けたいなら科学なんじゃないの?』 堀江貴文  (著), 成毛 眞  (著)
 この本は一読を薦めたい。Technologyが時代を先導している昨今、科学について俯瞰した視点と、常識を持つことは重要な事がよくわかる。僕も刺激を受けた本だ。
 著書が多い、ホリエモン本の中でも格段に意義のある本だと思う。
元マイクロソフト日本代表の成毛さんは、時代に即した見識を持っている。彼らの話を聞いて理解できるように、自分のアンテナをチューン・アップしておく必要がある。

『超整理法』などの実用的なベストセラーと、先駆的な経済学者の2つの顔を持つ筆者の両面が活かされた名著だと思う。カリフォルニアの150年前のゴールドラッシュと、近年のシリコンバレーの隆盛を重ね合わせている。読み物としても面白い。
 歴史が教えてくれる事象のエッセンスを学ぶための方法というのがわかるようになる。


 著作権の基本を学ぶ本として、一冊上げておきたい。筆者は知財の弁護士で、ポジションは中道左派的。リベラルだけれどバランスがとれた主張をする人だと思う。リットーミュージ行くから出ているロングセラーの『よくわかる音楽著作権ビジネス』シリーズは、音楽家側の立場に寄りすぎていて、権利ばかりで、義務、責任に関する目配りが無いので、薦めない。これを若い音楽家が真に受けると、勘違いして損をすると心配だ。

 オタキングこと岡田斗司夫さんは、著作権に関しては、極左的過激派だ。僕ら権利ベースのビジネスをする職業から見ると、明らかに「敵」だけれど、その論理には見るべきものがある。インターネットが主流になった時代の本質を付いている。この本を読んだ時に、『だからコンテンツにカネを払うのさ』という本を前期のニューミドルマンラボの講師をお願いした知財とスポーツの専門弁護士FieldRの山崎卓也さんと組んで書きたいと思って、内容を考えているのだけれど、まだ企画書がまとめられていない。クラウド上のアクセス権がビジネスのメインになり、複製権ベースの著作権が有効性を失っている時代の著作権の在り方については、しっかりまとめないといけないと思っている。

『ルポ風営法改正 踊れる国のつくりかた』神庭亮介
 朝日新聞記者による、クラブ摘発問題〜風営法改正に関するルポ。クラブカルチャー側の人々の立場に立って書かれているが、正確な記述でためになる。知己の名前がたくさんでてきているけれど、本当にみんな頑張ってくれて感謝だ。日本の音楽文化にとって大きな貢献をした皆さんだと思う。市民運動的に始まったものが実効性を持つことが少ない日本では、今回の風営法改正は偉業と言えると思う。
 ニューミドルマン講座第一期受講生の齋藤貴弘弁護士の活躍ぶりもよくわかる本。彼の存在はニューミドルマンラボの誇りだ。

次世代のエンタメ・音楽ビジネスを育てる講座の名前を「ニューミドルマン」にしたのは、田坂さんの著書&講演がきっかけだ。
 従来型のビジネススキーム、発想なら不要だけれど、音楽ユーザーとアーティストの間に仕事はあるということを、田坂さんは俯瞰した一般論として論破されていて、膝をたたきまくった記憶がある。感動して「俺ってニューミドルマンだったんだ」と思った時の衝撃が大きく、名乗らせてもらった。前述の『新時代ミュージックビジネス最終講義』では、対談もしていただいて、めちゃめちゃ嬉しかった。凄い方だった。後付だけれど、「ニューミドルマンラボ」を名乗るご許可もいただいた。田坂さんの本はどれも素晴らしいけれど、「社会は螺旋状に発展する」という視点は本当に卓見だと思う。是非、読んでみて欲しい。

 さて、以下は、今回のゲスト講師の著書。


『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)柴那典
 大ヒットになっているようだ。音楽界の現状を業界街の人や音楽ファンに伝えた功績は大きい。音楽編集者から音楽ライターという経歴で音楽が詳しく、大好きな柴さんが脚光を浴びるのは嬉しい。今回の講座では、受講生参加型の仕組みをやりたいと意欲的に考えてくれているようで楽しみだ。
 ヒットの意味や在り方が変わった今、音楽でビジネスをする際に、知っておくべきこと、示唆してくれるだろう。


 国際的に活躍するクリエイターであると同時に、実は優秀なビジネスパーソンという顔があるのを知っているので、今回の講座では「お金の稼ぎ方」について話してもらうつもりだ。貴重な機会になると思う。
 ちなみに、彼の、『DJ選曲術 何を考えながらDJは曲を選びそしてつないでいるのか? 』 という本は、音楽とは何か?という本質について考える機会になる名著だ。DJが曲を選ぶhow toの深さが凄い。


 きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカが所属する音楽事務所「アソビシステム」社長の著書。外国人は入場無料のマルチカルチャーなイベント「もしもしにっぽん!」を主催するなど、クールジャパンカルチャーを牽引する旗手である中川悠介さんは、世界における日本人のポジションと今後の展望を語るべき言葉を持っている人だ。


 さて、5月11日から始めるニューミドルマン養成講座第5期「音楽を広める、稼ぐ、その先へ〜日本の音楽ビジネス生態系の再構築を目指して」。まだ申し込みが間に合います。
こちらからどうぞ。

第1回 2017年5月11日(木)山口哲一「新時代ミュージックビジネスを識るための地図」
第2回 2017年5月18日(木)沖野修也+山口哲一「沖野流音楽マネタイズ術」
第3回 2017年5月25日(木)柴那典+山口哲一「ヒットの崩壊の次にやってくること」
第4回 2017年6月1日(木)矢島由佳子+鳴田麻未+山口哲一 キャンプファイヤー「アーティストとクラウドファンドの最適解」
第5回 2017年6月8日(木)ジェイ・コウガミ+山口哲一「2017年音楽地図」
第6回 2017年6月29日(木)中川悠介+山口哲一「原宿から世界へKawaiiの先へ」
第7回 2017年7月6日(木)梶望+山口哲一「宇多田ヒカルPRの秘訣」
第8回 2017年7月13日(木)山口哲一「重要性を増すニューミドルマンの役割」

蛇足:
以前は、読書メモを残していた。最近電子書籍で読むことも増えて、Kindle内のメモで済ますようになってしまったけれど、過去の読書歴をまとめているので、興味のある人はここで僕の乱読がチェックできる。

2017年2月6日月曜日

JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理

JASRACが音楽教室から著作権を徴収するというニュースが出て、ネット上で話題になっている。 


 アーティストやクリエイターから反対の声も上がっている。



 作詞家作曲家や音楽出版社からJASRACに管理が信託されている楽曲については、アーティストの個別の希望を反映することは制度的にできないけれど、アーティストやクリエイターの発言には影響力がある。


 一方で、JASRAC関係者からも発言もあったようだ。


 いつものことながら著作権のことになると誤解や思い込みによる言説も多いので、僕なりにポイント整理したい。JASRACはネット界隈でパブリックイメージが悪すぎて、正当に評価されていない部分もあり、擁護したい部分もある。

 僕なりにまとめた論点は以下だ。


1)少人数、しばしば1対1の音楽教室で「演奏権」を適用するのが適切か?


 狭く捉えれば、この件のポイントはここになる。ただ法律論になると思うので、弁護士などの専門家の見解を待ちたい。個人的には、無理筋な印象を持っている。


2)音楽教室の音楽ビジネス生態系の効用を認識しているのか?


 当たり前のことだけれど、音楽はファンがいてはじめて成り立つビジネスだ。楽器の演奏を習っているユーザーは、音楽好きが多いだろう。その世界に制約を課すことが音楽ビジネス生態系を俯瞰して見た時に本当にプラスなのか?

 また、例えば音楽教室の先生がJASRAC管理外楽曲を選んで指導することになった場合のJASRAC会員へのマイナスなどへの想像力はあるのか?

 このまま強行すると、クラシックなどの著作権切れの楽曲と、JASRACに預けてない楽曲を選んで音楽教室が行われることもあり得る。縛りすぎると、使われなくなるという構造は理解しておくべきだろう。


3)演奏権の徴収分配がJASRAC独占で、高い手数料が放置されている。


 実業者としては、これを一番強調したい。カラオケとコンサートをセットにしてか信託できず、JASRACが独占状態で高い手数料(23%)が据え置かれているのは大問題だ。JASRACの論理は、田舎のレーザーディスクカラオケの事業社からまで徴収しようとしてコストが掛かっているみたいな話なんだけれど、それなら、通信カラオケ事業社(もう第一興商とエクシングの2社しか無い)の案件の徴収だけに絞るとか、コンサートは自己管理するとかいう「メニュー」を用意するべきだ。

 昨年合併してできたNexToneがまもなく演奏権も取り扱い始めるだろうから、そうすれば解決する方向にいくだろう。JASRACが今の著作権使用料規定を続けるなら、まともな音楽事務所は、演奏権をJASRACの管理から外すことを選ぶはずだ。

 演奏権に関しては、それほど多額になるとは思えない「音楽教室に手を付ける前にやることあるよね?」というのが、一般的な音楽業界人の感覚だろう。


4)JASRACは21世紀のビジョンがあるのか?


 音楽著作権は、既に国際競争が始まっている。音楽視聴がAppleSpotify、グーグル、アマゾンなどのグローバルプラットフォーマーが中心になっていて、おれまでの国ごとの著作権徴収分配という仕組みが、時代遅れになり始めている。有料ストリーミングサービス、ネットラジオ、YouTubeなどサービスの形態ごとに、著作権と著作隣接権(レコード会社やアーティストの権利)の料率が違うこともあって、パワーゲームでの戦いが実は既に始まっている。そんな中で、日本人の音楽をきちんとビジネスするために、海外でも稼げるためにやるべき課題は大きい。シュリンクする国内市場で「新商品」を無理くり作ろうとするJASRACの姿勢は、「経営的な」視野の狭さを感じて残念だ。

5)著作権信託とは「信じて託されている」という意味

 前述の外部理事の方も、発言自体は正しいけれど、全体的なトンマナに大きな欠如を感じる。それは、JASRACは著作権を「信託」されているという事実だ。信託とは、「信じて託する」という意味で、JASRACに預ければ、正しく徴収し、分配するという信頼があったから、これまで多くの音楽家は楽曲管理を託し、事業社は使用料を支払ってきた。3年に一度(※注)しか変更できないけれど、JASRACから管理を外すことはできる。音楽家と音楽ファンから信頼を得ないと、作詞作曲から信じて託されることがなくなる(管理楽曲が減る)ことを知るべきだろう。今回の騒動は、現在のJASRACの方針にそういうリスクがあることを示したと思う。

 そもそもJASRACの理事会は、2/3が作詞家作曲家が務める(1/3は音楽出版社)高齢作家の方が多く、意思決定が保守的になりがちな構造を持っている。1939年設立だから、インタネットなど関係ない時代に作られたルールが積み重ねられている。著作権徴収分配を「取れるところからできるだけ沢山とって、アンフェアにならない程度に大体で分ける」というカルチャーを持つようになった理由は理解できるが、もう時代が許さない。全曲報告で完全透明な分配ができないなら徴収しないくらいの姿勢(合併前のJRCは実際そういう方針だった。)がないと、今の時代は支持をされないだろう。JASRACのネットユーザーの不信の根っこには、分配が完全透明でないことに起因している。

 JASRACには歴史的に大きな功績があるし、力が弱くなることは日本の音楽家、音楽ファン、音楽ビジネスに携わる者にみんなにとってマイナスだ。時代にアップデートした戦略的視点を持たないと自らが衰退するという危機感をJASRAC関係者は持ってほしい。



●ニューミドルマンラボ
 最後は告知。次世代の音楽ビジネスの活性化と人材育成のために、僕が継続して取り組んでいるいるのがニューミドルマンラボだ。4月1日には、ジェイコウガミ(音楽ブロガー / All Digital Music)、柴那典(音楽ライター / 「ヒットの崩壊」著者)、梶望(ユニバーサルミュージック / 宇多田ヒカル、AI、GLIM SPANKYなどの宣伝プロデューサー)の3氏を迎えた座談会を予定しているので、興味のある人は足を運んで欲しい。間もなく情報公開予定なので、このサイトでチェックしてください!


追記(2017年2月8日):JASRACからの管理変更は3年に一度に変更になっているとの指摘があったので、訂正します。
また、演奏権の手数料に関してもご指摘ありましたが、規定では26%ですが、実効料率は23%と記憶していたので(こういうわかりづらさもJASRACのよくないところですね)書いています。正確な情報をお持ちの方がいたら教えて下さい。

2016年1月2日土曜日

今、日本でプロの音楽家になるということ。そして、CWFが目指すこと

 長らく音楽事務所社長をやっているので、20年以上、若いミュージジャン志望者と会うことが仕事の一部になっている。最近は、僕の活動エリアが広がって、Tech系やスタートアップに近い人と話す機会が多くなってきたせいもあるだろうけれど、ミュージシャンとしての成功に夢を持つ人が減ったという残念な実感がある。「音楽では食っていけないかもしれないけれど、好きなからやりたい」という音楽家志望者も少なくない。同時に、相反的に感じることは、「音楽の力って強いなあ」ということ。僕が会う起業家やIT関係者は多少、バイアスがかかっているだろうけれど、音楽へのリスペクトや、音楽がユーザーに与える影響力への評価はとても高い人が多い。
 これは日本だけではなくて、Twitterの2007年のブレイク以来、テクノロジーとスタートアップのイベントみたいに思われているSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)も、行ってみればわかるけれど、音楽へのリスペクトが街中に溢れている。世界一ヒップなカンファレンスのど真ん中には音楽が存在していると感じられるのは嬉しい。
 
 音楽家に夢が持ちづらくなっているのは、誤解もある。一例を挙げるなら、JASRACの著作権使用料は減っていないというデータ。作詞作曲家に支払われる印税は、2015年も微増だった。これまではレコード会社が音楽ビジネス生態系の中心にいて、そこの仕組みがヘタっているから、音楽は儲からないという印象を呼んでいるのだと思う。
クリエイターズキャンプ真鶴の打上げ

 起業して株式公開すれば、大きなお金が手に入る。社会を変えるイノベーションを提供するのは素晴らしいことだ。そこに夢を持って頑張る日本人ももっと増えてほしいけれど、音楽家には事業家では手に入らない快感がある。自分が作った楽曲を沢山の人が歌ってくれる喜び。スタジアムで数万人の合唱と拍手。音楽で成功することは、お金と名声とカタルシスを同時に手に入れられる稀有な方法なのだ。ついでに言うと異性にもモテるよ。

「野心的で才能のある若者がプロの音楽家を目指して欲しい。」
 僕が、プロ作曲家育成を掲げて、2013年に「山口ゼミ」を始めた理由はそれに尽きる。「山口ゼミを続けている理由」は1年前にこのブログに書いたので、興味のある人は読んで欲しい。ここでは繰り返さない。
 「山口ゼミ」は2ヶ月+6ヶ月の約8ヶ月で修了するシステムになっているのだけれど、修了時に、プロで通用すると判断された作曲家だけが入会できるCoWritingFarm(CWF)という集団がある。入会資格者はその都度、僕と副塾長の伊藤涼さ
んと二人で話し合って決めている。

 2016年1月現在で会員は67人。これだけの人数の作曲家が集まっている集団は世界でも珍しいだろう。しかも、ただ登録されているということではなく、一つのコミュニティとして機能している。DTMの普及で作曲が孤独な作業になったからだろうか、山口ゼミ受講生同士のコミュニケーションは濃密だ。マネージャー体質の僕は、ゲスト講師がいれば必ず打上げ、イベントやれば飲み会付とやるので、そういうことも関係しているのかもしれない。昨年末の「山口ゼミ望年会」は12月23日の祝日という日程にも関わらず、80人以上の受講経験者が集まっていた。

 いわゆる「作家事務所」がコンペ情報とデモテープを右から左に(メールで)やりとりするだけで、バカ高いエージェントフィーを取っていることを知って、業界慣習をしっかり教えた山口ゼミ修了生には「作家事務所に入らなくてもコンペに参加できるようにする」というのも目的の一つだった。もちろん作家事務所の存在を否定しているわけではない、良い出会いがあれば事務所に入って欲しいし、CWFは専属契約的な拘束は一切しないので、メンバーのままで問題ない。実際、何人かのメンバーは僕らが紹介して事務所所属している。
 
 ただ、CWFの本質はコンペ情報を得るかどうかではない。3年前に「山口ゼミ」を始めるときに、伊藤涼と決めたテーマは2つ。
 「コンペに勝つ」「コーライティングのメッカにする」だ。この2つには因果関係もある。昨今の大型コンペで求められるデモクオリティは高く、歌だけ録り直したらすぐリリースできるようなデモじゃないと選ばれなくなっている。一人で全部をやって、年間数十曲を作り続けるのは困難だ。駆け出しの作曲家は年間100曲作るのはマストだし、これまでの作曲家は必ず通っている道だけれど、これを一人でやると煮詰まるし、物理的にも至難の業だ。コーライティングはコミュニケーションを取りながら創作するので、失敗もあるけれど、自家中毒は避けられる。得意な分野を活かした、高いクオリティのデモ量産も可能だ。CWFメンバーは、コーライティングを行なうときのマインドセットとスキルを持っているのは最低条件なので、外部の作家とも一緒に作れるし、実際、海外の作家を含めて、たくさんのコーライティングをやるように既になっている。

 昨年9月のクリエイターズキャンプ真鶴では、3人×17組=51人という大規模なコーライティングキャンプを行った。30時間で初めて会った人と0からデモを完成させるという場は、クリエイターにとって刺激的だ。僕が嬉しかったのは、20人以上参加した、第一線のゲスト作曲家とCWFメンバーが遜色なかったことだ。まだ実績の乏しいメンバーもいるけれど、コーライティングにおいての経験では引けをとらない。

 去年の4月に『コーライティングの教科書』(リットーミュージック)を出版して、2016年は日本での「コーライティング元年」になるのでは無いかと期待している。「コーライティングって共作でしょ?これまでと何が違うの?」と思う人は拙著を読んでみて欲しい。
 元旦のブログでも触れたけれど、日本の音楽制作の現場が変わるという予感がある。その時にコーライティングというムーブメントとクリエイターのマインドが肝になると思っている。音楽制作における、レコード会社のイニシアティブのあり方が変わって、クリエイターが作品作りに、今まで以上に中心になるようになるからだ。欧米型に近づくと言えるかもしれない。クリエイター側でアイデアを出し合って、アーティストに対して新たな作品を「提案」する。楽曲の完成度はどこまでも高く、A&Rやマネージャーはその「提案」からチョイスするだけでOK。自作自演のバンドやシンガーソングライター以外のプロジェクトでは、そんな制作スタイルが主流になっていく。
 ワンハーフ(イントロ+ABメロ+サビ+エンディング)でプレゼンするという日本の習慣も減って、フルサイズでのデモ制作が増えていくかもしれない。
 コーライティングによる作品提案⇒レーベルA&Rやアーティストマネージメントによるセレクション⇒ボーカル録音⇒プロフェッショナルエンジニアによるミックス⇒作品リリース
 という流れの音楽制作が増えていくだろう。

 もちろんこの「提案」型デモを一人で作れる音楽家もいる。ただ、音楽は本質的なところでコミュニケーションをしながら作るものだ。A&Rなどとのコミュニケーションが希薄になった時に、一人で作り続けていると行き詰まりやすい。クリエタイターが、数曲単位でチームを組んで「創作」する方が、良い作品ができる確率は圧倒的に高いし、時間も効率的だ。

 加えて、アーティスト志望者、シンガーにもコーライティングも呼びかけたい。僕は著作や講座で、「アーティストはB to C、作曲家編曲家はB to Bのビジネス。目指す山は同じでも、登り方は全く違う。そもそもお金をもらう理由が違うのだから、別の職業だと考えるべき」と教えてきた。その考えは変わらい。ただ、アーティストとして成功したいと若い音楽家にとっても、コーライティングによる楽曲提供は目的に近づく有効な方法だと伝えたい。

 アーティストがB to Cな職業ということは、「人気者になればOK」ということだ。「ファンの数×熱量」が高いことが最大の価値で、必ずしも音楽に詳しくなくてもいいし、歌や演奏が上手なら良い訳でもない。ファンからの支持を得られることが最大の価値基準になる。社会常識に疎くてもスタッフがフォローしてくれる。この構造は変わらない。
 但し、楽曲や歌の表現力で勝負したいと思っているアーティスト志望者にとって、コーライティングでプロフェッショナルレベルの創作に加わることは有益だ。創作の過程で勉強になることが必ずあるだろう。採用されれば、アーティストとしての価値も上がる。採用に至らなくても、自分の声や作品を業界関係者に真剣に聴いてもらい、興味を持たれる機会になるのだ。欧米では、ブルーノ・マーズメイガン・トレイナーなど、コーライティングによる作曲家活動がキッカケで、アーティストデビューした成功例がたくさんある。日本でも増えてくるだろう。

 YouTuberやニコ生主として、人気者になることに適性があるのなら、そこに特化してくのも良いけれど、「本当は音楽の中身で勝負したい。できるはず」と思っているのなら、今、始まりつつある、コーライティング・ムーブメントに身を投じることをオススメしたい。
 シンガーについて補足すると、去年はツイキャスでの活動がキッカケのデビューがあったけれど、今年はnanaとSHOWROOMに注目したい。おそらくメジャーシーンで活躍する人気者が出てくるだろう。ユーザーとのコミュニケーションの中で磨かれたシンガーがコーライティング・ムーブメントにも加わってくれるとよいなと思っている。

ヒロイズム
お正月なので、もうひとつ予言めいたことを言わせて欲しい。今年は日本人作曲家のアメリカでの成功例が出るだろう。ここでもキーワードは「コーライティング」だ。現地の作曲家とのコーライティングを通じて、日本人クリエイターのセンスを活かしたヒット曲がいつ出てもおかしくない状況になっている。日本で数々のヒット実績があるヒロイズムを先頭に、バリバリの第一線の若手作曲家がLAで勝負を始めている。
 僕は数年前から、「ヒロイズムが作曲家界の野茂英雄になる」と予言しているけれど、この喩えは、彼の努力をパイオニアである野茂と比するのと同時に、野茂の出現をきっかけに、イチローも松井秀喜もダルビッシュも田中将大も出てくるという意味も込めている。日本人クリエイターがグラミー賞で見かける日もそんなに遠くないかもしれない。

 ガラパゴス的だと思われていた「野球」が、本場のベースボールでも高評価されたことと、歌謡曲〜ニューニュージック〜Jポップと独自進化した日本のポップミュージックは、似ているように感じる。「上を向いて歩こう」ビルボード1位は、沢村投手のドロップが大リーガーをきりきり舞いさせたという伝説のようだ。日本人作曲家には、世界中で成功するポテンシャルを持っている。
懐かしいトルネード投法
著作権使用料は落ちていないと冒頭に書いたけれど、日本市場だけでは限界はある。これからの作曲家は海外でも稼がないと駄目だ。TTPは知財にとっては功罪両面あると思われるけれど、アメリカや伸張著しいASEAN諸国などでも印税収入で稼ぐ機会としたいものだ。

 本ブログでも何度か書いてきたけれど、日本のクリエイターやエンジニアのレベルは世界的にトップ水準だ。2020年以降、日本が先進国でいるための貴重な資産だ。環境の変化に合わせて、個性を活かして、グローバルにアジャストすれば、日本人に夢を届ける役割を担ってくれるはずだ。スポーツ選手だけに任せてはいられない。

 山口ゼミとCWFから、そんな人材を輩出したい。音楽プロデューサーとして彼らと一緒に世界を席巻することを、僕の今年の初夢とさせて欲しい。
 山口ゼミも続けていくので、プロ作曲家になりたい人は門を叩いてみてはいかが?

●「山口ゼミ〜プロ作曲家になる方法」公式サイト
●作曲家育成セミナー「山口ゼミ」を続けている理由
●CoWritingFarmOfficial
●『最先端の作曲法・コーライティングの教科書』(リットーミュージック)

2015年12月19日土曜日

日本の音楽ビジネスを進化させる、JASRACの対抗軸、NexTone設立の期待

 9/28付のイーライセンスとJRCの経営統合から3ヶ月、早くも合併が発表された。期間の短さに関係者の熱意を感じる。


 著作権関連のニュースは、誤解されていることが多い。この件も報道を見ているだけだと、意義が理解しにくいと思うので、見解をまとめておきたい。僕は、3つの理由で強く支持したい。


1)JASRACへの明確な対抗軸が生まれて、健全な管理手数料競争が起きること


 著作権信託の分野で大切なのは、「確実な徴収とガラス張りの分配が、リーズナブルな手数料で行われること」だ。

  仲介業務法改正(著作権等管理事業法制定)で、著作権管理業務は、JASRACの独占ではなくなったけれど、実態としてはJASRAC取扱の比率が異常に高い状態が続いている。著作権は、支分権と呼ばれる区別に沿って定められている。利用方法ごとに著作権使用料や管理手数料が決められている。録音(CDとか)、インタラクティブ(配信等)は、他社の参入によって手数料競争が起きたけれど、他の分野はJASRACの寡占状態が続いている。


 放送については、NTTデータのフィンガープリント技術を活用して、全曲報告ができる仕組みができあがった。今年になってJRCが放送分野への進出を決めたのは、透明性が担保されたからだ。

左が阿南雅浩CEO、右がJ荒川祐二COO
 一方、演奏(コンサート、カラオケなど)については、まだJASRACの独占状態の改善のメドが経っていない。音楽プロデューサーという立場で問題視したいのは、26%という手数料が高すぎるからだ。
 しかも、某洋楽アーティストが日本でコンサートをした時に著作権料が安すぎると問題提起したことで、コンサートの著作権料はこの10年間で2倍近くにあがっている。当然下がると思っていあ管理手数料率がそのままというのはどう考えても不合理だ。
 JASRAC的な言い分としては、片田舎のカラオケスナックにまでスタッフを派遣して著作権料を徴収しているのですというロジックなのだろうが、だとしたら少なくとも、カラオケとコンサートは分けて管理することを可能にするべきだ。既に 通信カラオケは日本は第一興商とエクシングの二社に集約されている。店舗に関するカラオケ徴収についても、この通信カラオケの二社経由で徴収できる範囲だけで良しとする代わりに手数料が10%となるなら、多くの権利者がそちらを選ぶだろう。シンガーソングライター系の事務所にとっては、コンサートも自分たちがやっているので、自分のアーティストが自分の曲を歌ってコンサートした時の著作権使用料の26%JASRACにとられるという、めちゃくちゃ不合理な状況になっている。コンサートが重要になっている昨今、著作権を自己管理する大手事務所が出てきてもおかしくない。権利者側に選択肢がない今の状態は間違っている。

 NexToneは、演奏権については当面は管理せず、数年以内の管理を目指すとのこと。 一日も早く取り組んで、JASRACと競争して欲しい。この機会に全支分権での取扱を希望す
る。


2)デジタル・サービスに対してポジティブで対応力が高い著作権管理会社が生まれたこと


 僕にSpotifyの存在を最初に教えてくれたのは、JRC荒川社長だ。デジタル系の音楽関連サービスに対する高い見識の国際的な情報収集力を持っている。Spotify日本法人ができるずっと前に、テストアカウントを使って、僕にサービスを見せてくれた。YouTubeやニコニコ動画、USTREAM ASIAのローンチの時に、先駆的に動いて、IT事業者と音楽家のwin/winの絵を描くことに取り組んでくれている。僕がやっているセミナーにもゲスト講師をお願いしているけれど、「破壊者」的なスタンスではなく、幅広く目配りをして、既得権者と新規参入者の双方のメリットが考えられる人だ。彼が中心に立っていることのプラスはとても大きいと思う。

 海外輸出に関しても追い風だ。コンテンツ輸出とインバウンドが日本の国策になっている昨今、著作権についての改革は必須になっている。現在、海外で日本の楽曲が使用された場合の徴収方法は、JASRACが相互契約を結んでいる海外の管理団体経由で集めるか、日本の音楽出版社が国別に委託した音楽出版社(サブパブリッシャー)を使うかのどちらかになっているが、いずれの方法も既に時代遅れになりつつある。

 AppleSpotifyGoogleといった音楽配信がグローバスサービスになっているのに、著作権徴収方法が内国型(ドメスティック)なのが有効なはずがない。プラットフォーム事業者としっかり向き合うグローバルエージェントが活躍している時代に、日本はどうすべきかを真剣に考えるタイミングなのだ。日本の音楽が世界にどうやってビジネスしていくかを国策として取り組むべき時代にNexToneが、グローバルエージェントと提携するのか、対抗するのか方針はわからないけれど、期待感は持てる。できれば、パワーゲームが始まりつつある海外の著作権管理会社を買収するくらいの攻めの姿勢を持って欲しい。


3)旧イーライセンス経営陣の「正義の味方」路線が明確に修正されること


 見逃せないのが、旧イーライセンスの経営方針が明確に否定、修正されるだろうということ。個人的にはこれも重要と思っている。これまでのイーライセンスは、JASRACを仮想敵に見立てて、メディア的に「正義の味方」を装って、訴訟を含む乱暴な方法で著作権管理の仕組みを変えようとしていた。基本的な認識が違うとは思わないけれど、手法については、全く間違っていたと思うし、日本のメディア業界、音楽業界にとっては、マイナスの方が圧倒的に大きかった。このことは、以前もコラムに書いたので、ここでは繰り返さない。興味のある人は、これを読んで欲しい。



 旧イーライセンスは、正義の味方キャラを打ち出す一方で、ボリュームディスカウントなどで著作権使用料を割引する行為をJASRAC以上に行っていて、音楽家の権利を真摯に守っているようには到底見えなかった。そのためか近年は、明らかに戦略的に行き詰まっていたと思う。今回の合併でこれまでのような無為な訴訟が行われることはなくなるだろうから明らかにプラスだ。
 今だから正直に言うと、イーライセンスの経営が立ちゆかなくなって、信託している音楽家の作品が宙に浮くようなことになるのではないかと密かに心配していた。そういう事態もこの合併で回避できる。ほっとしたというのが正直な気持ちだ。


 現在の著作権徴収額全体でいえば、まだ1割以下の存在だけれど、NexToneに期待される役割はとても大きい。業界内政治みたいな色眼鏡な見方はあまりしたくないけれど、エイベックスと日本音楽制作者連盟加盟の大手音楽事務所が手を組んだ意味は大きい。この20年間のヒット曲を生み出したプロデューサーの多くがそこに集結しているからだ。経営統合のニュースについて、フジテレビのネット番組「ホウドウキョク」で速水健朗さんの電話出演に答えたように、今回のエイベックスの動きは、「音楽業界はこうあるべき」という思想的な行動に見える。普段のエイベクスは、機を見て敏に、自社の収益メリットを最大化しようとする、いわば「暴れん坊」な会社だけれど、時折、思想的行動をする。著作権管理業務というのは、とても大切だけれど、縁の下の力持ち的な地味な分野だ。戦略に行き詰まったイーライセンスを救済し、JRCと組んだ今回の判断は、日本の音楽業界にプラスな、ちょっとおおげさに言えば国益に資する英断だと思っている。


 音楽ビジネスは、世界的にみて生態系の再構築が必要になっている。デジタル化という観点では、4〜5年遅れてしまっている日本だけれど、潜在力はある。NexToneの設立が、新しい音楽ビジネスの潮流を後押しする契機になることを期待したい。


 拙著『新時代ミュージックビジネス最終講義』でも明確に指摘したけれど、レコード産業を中心とした従来のノウハウは、既に陳腐化している。
 出版記念イベントとして始めた無料の対談イベント「ニューミドルマンリレートーク」Vol.4のゲストはハウリング・ブルの小杉茂さんだ。彼は、音制連の理事時代の友人だ。Hi-STANDARDなどを輩出した名マネージャーで、多くの人に愛される人柄が知られているけれど、実は鋭い視点をもった論客だ。「デジタルになったら著作権分配はウエブマネーでやらないとダメ」とか「弁護士資格も会計資格も持っていないのに、俺達はマネージャーなんていつまで言ってられるかな?」と発言していて、目からうろこが落ちたし、大きな刺激を受けた。

 実際、彼は心理学トレーナー資格を持って、新しいマネージャー像を作り始めている。音楽ビジネスの近未来に興味のある人は、遊びに来て欲しい。


2015年4月30日木曜日

ミュージシャン・クレジットは、クリエイター・リスペクトへの第一歩だ!

 第一線の作曲家、サウンドプロデューサーをゲストにお招きするトークイベント「作曲家リレートーク」。長らく中断していけど復活した。Vol.11のゲストは島崎貴光さん、今回初対面だったけれど、とてもちゃんとした人だった。作品も緻密で、きちんとプロの仕事をしているのだけれど、事前のアンケートに対する答えも適切
島崎貴光さんは話も上手だった。
で、「クリエイターは、少し社会性に欠けるところがあるもの」という僕の感覚は「人による」と付け加えて、修正しなければいけないと思わされた。島崎さんは1978年生まれ。僕から見ると完全に一つ下の世代だけれど、自己責任の意味がきちんとわかっている大人だった。

 「良いことは自分の手柄で、お金はもらえて当然。困ったことは、事務所やレコード会社や世間のせいにする」都合の良く考える自己中心的な音楽家も見てきただけに、とても気持よかった。島崎さんがイベントの中でも言っていたように、そういう人は結局は続けられずに、「元プロ」か「自称音楽家」になっていく。僕が世に出したアーティストの中にも、そんな風になってしまった輩がいるのは本当に残念だけれど、島崎さんみたいな人が残って活躍してくれているなら、日本の音楽界も捨てたもんじゃないなと思えて嬉しい。
 トークの内容は、リットーミュージックの連載WEB版・職業作曲家への道」に掲載されるからそちらを見て欲しい。


 さて、楽屋で聞いた話。「最近のレコード会社A&Rは、ミュージシャンクレジットを出すことを嫌がる」と聞いて、心の底からびっくりした。理由は「面倒くさいから」「ジャケットのデザイン的に見栄えが悪いから」だそうだ!!!!意味がわからないよ????
 一番、危機感を持ったのは、若いアレンジャーが「音楽業界はそういうものだ」と受けて入れてしまっているという話。全然「そういうもの」じゃないよ!!!!


 日本の音楽業界に課題もたくさんあるけれど、音楽が好きな人が多くて、音楽家をリスペクトするという考え方がベースにあるのは、素晴らしいところだと僕は思っている。今のレコード会社や事務所の上層部も音楽家へのリスペクトは強くお持ちの方ばかりだ。若手のA&Rが「面倒だから」ミュージシャンクレジットを嫌がっていると聞いたら、僕の100倍激怒する業界の重鎮方の顔が目に浮かぶ。


 音楽を売る側が、音楽家をリスペクトしなくなったら、音楽ビジネスは終わりだ。本当に死んでしまう。作曲家、編曲家、参加ミュージシャンなどをジャケット中面に載せるというのは、リスペクトとして最低限の当然の行為だ。音楽ファンの中には、このドラムは誰なんだろうという興味を持つような人もたくさんいる。音を聞いて「!」と思って、ジャケットを見て、「やっぱり**だ」とほくそ笑む、そんな音楽ファンを増やしていかなければいけないのに、「面倒だから載せない」とか言語道断だ。


(もし、そういう例があったら、本当に教えて下さい。日本のレコード会社は、そこまで腐っていないはずです。そのA&Rが勘違いをしているだけだと思います。考えを改めてもらいましょう。)


 コーライティングを推進している立場としては、作詞作曲者がたくさんいると著作権分配が面倒だという意見も懸念だ。「日本人ならユニット名にしてまとめてほしい」と乱暴なオーダーをするA&Rもいるそうだ。ユニット名にしたからって、分配の手間は変わらないので、論理的には成り立っていないし、そもそも作曲家として名前が載ることが、どれだけ彼らの励みになるのかわかっているのだろうか?プロはどんな環境でもきちんと仕事をするのが当然だけれど、一方でクリエイティブな作業にはモチベーションは大切だ。


 音楽出版社も作曲家が何人もいると分配作業が大変だなと忌避したりはしないで欲しい。国際基準で見ても、日本の音楽出版社の取り分は決して少なくない。代表出版社の矜持(プライド)として、「もちろんしっかり分配しますよ。どんどん良い曲を作ってください。」と言って欲しい。そういう意味でも、コーライティングした時の著作権料は「参加人数で等分」にするといううルールは重要だ。それ以外の変則的な分配率を出版社に押し付けるのは、作家側がやり過ぎだと思う。

 工業製品が国際競争力を失いつつある日本で、日本人のクリエイティブ力というのは、貴重な資源のはずだ。コンテンツ輸出に可能性があるのは、日本のクリエイターが高いレベルにあることが前提だ。クリエイターをリスペクトして育てていくことは国策に合致している。大げさに言えば、ジャケットのミュージシャン・クレジットを面倒がるレコード会社のA&Rは、政府の方針にも反しているし、日本の国力を下げている。クリエイターに高いプロ意識を求めて、切磋琢磨していかなければならない職業だと自覚して欲しい。

 そこで気になるのは、音楽配信だとクレジットが無いこと。作詞作曲編曲、参加ミュージシャン、レコーディングエンジニア、マスタリングエンジニアなどが誰でも簡単に見れるようなサイトが必要になっているのかもしれない。CDDBもそこまではフォローしていないから、WIKIPEDIA的なやり方でJポップだけでも作ることはできないだろうか?誰かやってくないかな?もちろん僕も協力します!

 テクノロジーの進化で変わらなければならいこともたくさんあるけれど、パソコンがあれば誰でも簡単に音楽が作れる時代に、真のプロの高いスキルは、むしろ重要性を増している。クリエイティブが日本人の価値だと改めて声高に言っておきたい。


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