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英国医学研究留学記

London Snap, Barbican

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GRD2 ISO100 f3.5 1/440s
今日は暖かいどころか、日向に居るとやや汗ばむような陽気です。
最高気温は多分25℃を越えていると思います。
ようやくロンドンは一年の中で最高に良い季節を迎えています。
8月に入るととたんに寒い日が多くなって来ますので、良い季節は短いです。

金曜日の夕方に入って、ようやくちょっと一息つけるくらいの時間が出来ました。
研究活動は時間配分や作業の進捗具合を自己管理しないと行けませんから、ちょっとオーバーワーク気味だったかも知れません。
でも、10年前だったら平気なはずの作業量だと思うので、やはりちょっと年齢的な事を感じざるを得ないですね(寂しい事ですが)。

昨日の記事にも書きましたが、現在は米国のUCSFの教授でいらっしゃるElizabeth Blackburnさん(2009年度ノーベル医学生理学賞受賞の女性研究者)のセミナーが、ロンドンの一流大学であるUCLで昨日有りました。とても聞きに行きたかったのですが、すでに1ヶ月以上も前から準備していた実験をしないと行けなかったため(予定を組んだときには、セミナーの情報が無かったのです)、断腸の思いで参加は断念しました。同僚の英国人ポスドクS君や日本人ポスドクのS先生(循環器内科医)が聞きに行って来たのですが、なかなか刺激的で良かったそうです。特に、セミナー後の懇親会には20人くらいしか参加が無かったそうで(なんで?ノーベル賞受賞者が来ているのに?)、英国人ポスドクのS君は、ワイン片手にしゃべりまくって来たそうです(益々、悔しい!!!)。今日のS君は、僕を見つけるなり、「めっちゃしゃべって来たで~。めっちゃ良かった!」と興奮気味にわざわざ報告に来ました(←もちろん、大阪弁じゃなくて、英語でですが、笑)。そりゃそうやろ。ノーベル賞受賞者と和やかに歓談なんて、そうそう機会はないもんね。

彼女の研究対象は、染色体の端っこの構造体であるテロメア(Telomere)の生物学的な役割の解析で、この分野のパイオニアです。この業績が認められてノーベル賞に繋がった訳です。現在のテロメアの研究の第一人者達の多くが彼女のお弟子さんでもあります。研究畑に馴染みのない方にちょっとだけ解説しますと、テロメアと言う染色体の端っこにある構造体は、細胞分裂の際に染色体を2つの娘細胞に分配する際に染色体を壊さずに済むように「保護する」役割をになっています。ですから無かったり壊れると、増殖している細胞は生きて行けなくなります。また、この役割をうまく利用すると、人工的な染色体を酵母菌などの中に作ったりもできます。テロメアは、今では発生、老化現象、ストレスに対する耐性や癌とも密接な関係がある事が判っていますので、この研究領域がいまや如何にhuman health careにとって重要かは容易に理解できると思います。

ここで、テロメアの重要な知見のかなりの部分は、酵母菌やテトラヒメナと言う人類からは一見すると遥かにかけ離れた生物を用いた解析から明らかになって来た事を強調したいと思います。生命にとって重要なメカニズムと言うのは、種を越えて共通に保存されている事がとても多いのです。ですから、一見してヒトとはかけ離れた生物(例えばショウジョウバエとか線虫とか、酵母菌など)を用いた研究を「なんでそんなもんで、せんといかんの?ヒトと違うやん!」と思われるかも知れませんが、ヒトやマウスでは複雑過ぎて抽出できなかった重要な知見が、そういったもっと単純な「モデル生物」を用いる事で解決する事はいくらでもある訳です。「ほ乳類とは違うもので研究なんか、医学部には不要」、という論調の意見を良く聞くことがあるのですが、これは大変に「視野の狭い」意見だと思います。しかしながら、残念ながらそのように考える「医学部で研究活動を行っている医師」はとても多いと感じています。最近は研究費の配分も医学的応用に強くシフトしている傾向を顕著に感じますが、応用するための「基礎的な知見」が無ければ応用もへったくれも無い訳で、研究畑の片隅に身を置く者として、先進国であるならば、生物種に拠らず「生命現象の本質に迫る研究」にはひろく研究費がキチンとファンドされる世の中であってほしいと、強く願っています。

テーマ:雑記 - ジャンル:日記

  1. 2010/05/21(金) 17:45:34|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

こんにちわ~

ノーベル賞2009年って...ついこの前受賞された方じゃないですかv-405
ロンドンだとそんなチャンスがあるんですねーっ
もしかしら来年もあるかも
それどころかロンドンの街を普通に歩いてるかも
  1. 2010/05/22(土) 07:39:16 |
  2. URL |
  3. yo #vYXebdWU
  4. [ 編集]

街角スナップは、、、これはコックさんですか?
ちょっと日本人の板前さんのように見えます。

ノーベル賞受賞者と懇親ですか~。
すごい事ですね。参加出来なかったのはめちゃ残念でしたね。
うちの家の近所に島津があるので、ノーベル賞取られた方も通勤されているはずです。。会ったことないですけど^^;

記事を読んでいると高校の生物を思い出しました。
細胞の絵がなんとなく浮かんできました。人間の身体って複雑で繊細で不思議ですね。

あ、Van Halenのjump好きでしたね(笑)
  1. 2010/05/22(土) 15:52:52 |
  2. URL |
  3. kaotti1 #Oob10Koc
  4. [ 編集]

Re: こんにちわ~

yoさん
外国に居ると、海外の研究者との距離感がとたんに狭く感じられます。
海外にいる研究者の醍醐味と言えるでしょうね。
日本にいたら、なかなかこうは行かないんですよね。
それにしても、惜しいことをした.....、無理してでも行けば良かったかなあ。
  1. 2010/05/22(土) 22:26:04 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #-
  4. [ 編集]

Re: タイトルなし

kaotti1さん

白い服の人、中華料理のレストランの料理人が休憩がてらタバコを吸いに外へ出て来た所ですね。
英国では、飲食店の中での喫煙は法で禁止されています。

島津製作所にノーベル賞受賞者が出たのは、驚きましたが、ご本人がひょうひょうとしていたのがいい感じでしたね。狙って取れる賞ではないですし、何が何での取りたかったと脂ぎった人よりも、「真理を追究」し続けた結果といった研究者に魅力を感じます。

あ、Van Halen、聞いておられたんですね。アメリカン・ロックの最高峰かも知れません。
マイケルジャクソンのBeat Itのギターソロ、当時、「ブラコンで、何じゃこのすごいギターは?」と思ったら、Edward Van Halenなんですよね。
高校時代はめちゃめちゃハードなものから古いもの(それこそ、Led Zeppelinなど)まで、何でもござれで聞いてましたね。懐かしいです。Jazzっぽいサウンドが大人っぽく感じたTOTOが好きだったかな。
  1. 2010/05/22(土) 22:32:48 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #-
  4. [ 編集]

そりゃ、惜しいことを!

こんにちは。こちらの今日の気温は華氏95度、つまり摂氏35度! そちらより10度高いのですよ。参ります。

いやー、もったいないことをしましたね。さぞかし口惜しかったことでしょう。でも懇親会に20人なんて、みんなどうしちゃったんでしょうね。

医学に限らずどの分野でも、一流の人の話には鼓舞される事が多いですよね。

それにしても残念でした。
  1. 2010/05/23(日) 18:25:18 |
  2. URL |
  3. surgeon24hrs #xJW3mR9c
  4. [ 編集]

Re: そりゃ、惜しいことを!

surgeon24hrsさん
> こんにちは。こちらの今日の気温は華氏95度、つまり摂氏35度! そちらより10度高いのですよ。参ります。

先生、そりゃたまらないですね。暑過ぎます。さすがアラバマ(って何がさすがなのだか、汗)。ロンドンは、急激にまた冷え込む様です(さすが英国!)。

> 医学に限らずどの分野でも、一流の人の話には鼓舞される事が多いですよね。
> それにしても残念でした。
仰せの通り、成功した人から学べる事がどれだけ有るのかと言う良く聞く議論はさておき、「科学者として一流の態度」を示している方は、無条件で尊敬できますし、気分を高揚させてくれますし、その生き様は個人的にはcoolだと思います。
やっぱりなんとかやりくり付けて、参加すべきだったかなあ......
  1. 2010/05/24(月) 17:46:08 |
  2. URL |
  3. Dr Ken #-
  4. [ 編集]

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Dr Ken

Author:Dr Ken
元小児科医。ある日より、医師としてのキャリアではなく、研究者としてのキャリア・パスを志す。2007年の8月よりロンドンにある某大学医学部に講師として赴任。なかなか上達しない英語が、少し歯がゆい。万年筆と銀塩フィルムカメラが好き。縁があってやって来たこの国での貴重な体験や日々感じた事を、写真と一緒に記事にしています。

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