博多駅前陥没事故について(および福岡市政について)


 博多駅前陥没事故で復旧が早かったことに関連して、びっくりしたことがある。
 復旧の早さそのものではない。
 高島宗一郎・福岡市長に対してまで賞賛の声が上がっているのを聞いてびっくりしたのだ。
 異常という他ないので、一言書いておきたい。

事故の最高責任者に「賞賛」?

 具体的な原因究明はこれからであるにせよ、すでに市自身は直接の原因が市の地下鉄(七隈線延伸)工事であることを認めている。いわば市の公共工事が原因で起きた事故であり、その責任は市長自身にあることは明白だからだ。
 事故の最高責任者に「賞賛」を浴びせるという、その意味がわからない。

繰り返される「陥没」と国の「警告」

 しかも福岡市が起こした地下鉄工事をめぐる道路陥没事故は初めてではない。
 まず2000年6月20日には、中央区薬院で今回ほどではないが大規模な道路陥没を起こしている。

陥没三たび生きぬ教訓 福岡市、事前調査で見抜けず 岩盤もろく土砂流入 - 西日本新聞 陥没三たび生きぬ教訓 福岡市、事前調査で見抜けず 岩盤もろく土砂流入 - 西日本新聞

 高島市長になってからの2014年にもやはり七隈線延伸工事で陥没事故を起こしている(博多区祇園)。



※薬院・祇園での陥没の写真(西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/import/national/20161109/201611090004_001_m.jpg




 高島市政が起こした2014年の陥没事故に対して、国土交通省(九州運輸局)は警告書を発している。
 国から警告書まで出されて、またまた、というか「前代未聞」(市長)の規模の陥没を再び起こしたのである。なんということであろうか。
 市の交通局長(交通事業管理者)が「前回の教訓がありながら、結果的に前回よりも大規模な事故が起きたことを深く反省している」と発言したのはまさにそういうことだ。
 ふだんは「高島びいき」ともいうべき保守系の新聞が、過去の教訓が生かされない点を指摘して市の責任をつく社説を展開しているのを、ぼくは興味深く読んだ。

 …看過できないのは、2014年10月にも、この地下鉄工事により、道路の陥没事故が起きていることだ。国土交通省の警告を受けた市は、施工業者と連携し、巡視を強化した経緯がある。
 再発防止策が不十分だったのは明らかだろう。国交省九州運輸局が市交通局への異例の立ち入り検査に踏み切ったのも、当然だ。(読売新聞「社説」2016年11月11日付、強調は引用者)

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20161110-OYT1T50181.html

福岡市営地下鉄の工事では、2年前にも市道が陥没する事故が起きている。今回の現場からは約400メートルしか離れていない。市や施工業者の責任は重大である。2年前の事故の教訓はどう生かされたのか、生かされなかったのか。詳細な報告を求めたい。(産経新聞「主張」2016年11月11日付、強調は引用者)

http://www.sankei.com/column/news/161111/clm1611110001-n2.html

 しかもこういう失態が「異例」であることは、国自身が次のように証言していることから見ても、実にはっきりしている。(まあ、だからこそ立入検査をしたわけだが。)

(九州運輸局は)こういう鉄道運行ではなく工事に関し2度も警告を出したことについて「ほとんど(例が)ない」と語りました。(強調は引用者)

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-11-12/2016111215_02_1.html

 賞賛どころか、市長として基本的な仕事をしていないと言われても仕方がない。
 市長が復旧工事についてシロウト目線のQ&Aを自分のブログに載せて、それがわかりやすいとかナントカ、賞賛の声が寄せられているそうだが、自然災害のケースと勘違いしているのではないか。


 高島市長は、今回の事故について最初の記者会見で「グローバルなビジネスの中心部で起きてしまったが、どう見直すのか」と記者に問われて、

気持ちで言えば腹わたが煮え繰り返っていると。せっかくこうやって都市が成長してきていると。そんな中で事故が起きてしまうということは非常に憤りがある

https://www.youtube.com/watch?v=Q4zcXapv968

と答えている。
 一体彼は誰に対して「腹わたが煮え繰り返っている」のであろうか。



 以上が、直接今回の陥没事故についてのこと。
 以下は、余談めいたこと。
 余談が長いので、ヒマな人だけ付き合ってほしい。

規制緩和と大型開発を進める高島市政

 高島市長が福岡市で血道をあげてやっているのは、国家戦略特区にもとづく規制緩和(「グローバル創業・雇用創出特区」)と、それをテコにした大型開発(「天神ビッグバン」「ウォーターフロント地区再整備」)である。
 都市を「成長」させるという触れ込みで、規制緩和と大型プロジェクトを遮二無二にすすめている。“そんなボクの輝かしい栄光街道まっしぐらのもとで、なんだ、こんな事故を「起こし」やがって!”――記者会見で市長が記者に言われたこと、市長が言ったことはそういう話ではないか。ひねくれてではなく、素直に読めばそう読めてしまう。



 「スピード感をもってとりくむ」というのは高島市長が好んで使う言葉だが、「警告」を軽んじ“猛スピード”で突き進んだあげくに大陥没を起こしたというのが今回の事故ではないのか。

公園なのか、「レストランの庭」なのか

 高島市政が福岡市都心の再開発のカナメと位置付けている「天神ビッグバン」では、その手始めに天神にある「水上公園」のリニューアルをやった。2016年7月にレストランがオープンした。

福岡市 『天神ビッグバン』始動! 福岡市 『天神ビッグバン』始動!


 全景写真がないので、西鉄のプレスリリースの図を引用させてもらうが、見ての通り、もはや公園ではなく「レストランとその庭」である。

引用元:http://www.nishitetsu.co.jp/release/2015/15_109.pdf

公園内施設は公園面積の2%のはずなのに30%超える!?

 都市公園法では、公園内施設は公園面積の2%と決められ、福岡市の公園条例でも一応原則はそうなっている。
 国土交通省の「都市公園法運用指針」でも次のようにうたわれている。

都市公園は、本来、屋外における休息、運動等のレクリエーション活動を行う場所であり、ヒートアイランド現象の緩和等の都市環境の改善、生物多様性の確保等に大きな効用を発揮する緑地を確保するとともに、地震等災害時における避難地等としての機能を目的とする施設であることから、原則として建築物によって建ぺいされない公共オープンスペースとしての基本的性格を有するものである。このような都市公園の性格から、公園敷地内の建築物によりその本来の機能に支障を生ずることを避けるため、都市公園の敷地面積に対する建築物である公園施設の建築面積の許容される割合(以下「建ぺい率基準」という。)について、100分の2としてきたところである。(強調は引用者)

http://www.mlit.go.jp/crd/townscape/pdf/koen-shishin01.pdf


 ところが規制緩和によって「地域の実情に応じて」という看板で、自治体ごとの条例で事実上自由に決められるようになってしまった。福岡市では22%までオッケーという途方もないものだ。
 ところが、この水上公園ではこのレストランはこの「三角州」っぽい土地面積の3割を超えている。
 なぜこんなことが可能なのか。
 実は、川向こうにある「西中洲公園」を廃止して、水上公園と急きょ合併してしまい、「新・水上公園」となって公園面積を「水増し」して、この規制をクリアしてしまったのだ。
 いくら何でもやりすぎではないだろうか。
 事情を知らない人から見れば、いつもは「何もない公園」だったけども、おしゃれなレストランができてるじゃん、というほどのことであろう。これ、高島市長がやったの? へぇ、すばらしいね! と。公園が「空き地」に見える、したがって「ムダ」に見える人にはムダに見えるに違いない。ココ空いてるじゃん、そこに商業施設建てれば経済的価値を生むのにさあ、などと。こんな卑俗な意識に付き合っていたら、都市の安全設計はどうなるのか。


 おまけに、このレストランが入っているビルは西鉄が建設し、西鉄系の会社が管理する。
 賃料は平米あたり900円である。
 天神の一等地とは思えない安さ。このあたりで市が、例えば保育園などに土地を貸す場合は路線価の3%が基準となるので、平米単価4500円になる(これは市議会でもそう答弁している)。


 規制緩和で特定企業はもうかり、市民にとっても何だかよさそうな「にぎわい」が演出されているけども、見えないところで重大なコストを押しつけられている――高島市政のもとでおきているのはそういうことではないのか。

「解雇指南」じゃねーの?

 福岡市は、高島市長になってから安倍政権と一体になって「グローバル創業・雇用創出特区」という国家戦略特区の指定を受けているが、そこで始まったのが「雇用労働相談センター」の事業である。


 これまでも、労働者が駆け込むような相談窓口は、各地の労働局(厚生労働省の出先機関)にあった。「総合労働相談センター」というのがそれである。*1
 わざわざ、福岡市のような国家戦略特区(「グローバル創業・雇用創出特区」)で作ったのは、使用者・事業主のための相談機能が必要だからである。
 もともと近代以降、労働法がつくられ、使用者と労働者の対決に際してストライキ権や組合の結成権など労働者に「ゲタ」がはかされているのは、労働者の立場が弱いと見なされてきたからである。
 それを、わざわざ使用者のために便宜を図ってやるというのが、この「雇用労働相談センター」なのである。
 国家戦略特区法(37条)で「個別労働関係紛争の未然防止等のための事業主に対する援助」として、次のように定められている。*2

国は、国家戦略特別区域において、個別労働関係紛争(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第一条に規定する個別労働関係紛争をいう。次項において同じ。)を未然に防止すること等により、産業の国際競争力の強化又は国際的な経済活動の拠点の形成に資する事業の円滑な展開を図るため、国家戦略特別区域内において新たに事業所を設置して新たに労働者を雇い入れる外国会社その他の事業主に対する情報の提供、相談、助言その他の援助を行うものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25HO107.html


 ここでやられるのは、ベンチャー企業の事業主が相談にやってきて「こいつを解雇したいけど、どうしたらいいですかね?」みたいな相談になるのではないか? そういう危惧があった。
 そうしたら、まさにその種のセミナーをやっていたというのである。

 …厚労省が運営する「福岡雇用労働相談センター」が2014年末に開催したセミナーで、同センターの代表弁護士が「解雇指南」とも呼ぶべき内容の講演を行ったことを批判し、政府の認識を問いました。
 田村氏は、「(労働者への制裁は)減給よりも出勤停止が役立つ」「勤務考課では(評価の低い)1と2をつけろ」「やめていただくうまい方法を見つけていく。センターに相談してください」などの講演内容は「解雇指南そのものだ」と批判し、雇用の規制緩和は特区構想にはなじまず、これでは「解雇特区」を引き継ぐものだと指摘。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-30/2015053004_04_1.html

雇用特区で解雇指南/田村氏が批判/参院内閣委 雇用特区で解雇指南/田村氏が批判/参院内閣委


通院も中3まで無料化を、解雇指南をするセンターと特区をやめよ|2015年予算議会|日本共産党福岡市議団 通院も中3まで無料化を、解雇指南をするセンターと特区をやめよ|2015年予算議会|日本共産党福岡市議団


 高島市政がすすめている規制緩和(国家戦略特区)と、大型プロジェクトの陰でこうした市民犠牲が進んでいるのではないか、という危惧を捨てることはできない。

高島市政のもとで「成長」は起きているのか

 さらに言えば、高島市政のスローガンは「都市の成長と生活の質の向上の好循環」であり、典型的なトリクルダウンの考え方に立っている。
 都市が「成長」すれば、市民にもおこぼれがある、だからいいではないか、という考え方になるのか。
 陥没事故の記者会見時に高島市長が思わず口走った「せっかくこうやって都市が成長してきている」のにこんな「事故が起きてしまう」ことに「腹わたが煮え繰り返っている」というのは、こうした考えが思わず漏れてしまったのではないかと思える。

大企業は豊かになったが、市民・労働者は貧しくなった

 だが、そもそも高島市政になってから、福岡市は「成長」をしているのだろうか。
 「市民経済計算」を見ると、高島市政前(2009年)には市内総生産は6兆3530億円だったが、最新の数字(2013年)では6兆4618億円に2%ほどわずかに増えている。つまり、経済全体の果実はほんのわずかだが増えている。
 そういう意味では福岡市は「成長」していると言えるかもしれない。かろうじて。
 ところが、その取り分はどうなっているのか。
 民間法人所得は6873億円から9770億円と42%も増えている。
 他方で、市内雇用者報酬、つまり市内企業が従業員に渡す給料などは3兆5549億円から3兆3904億円へと逆に5%減らしているのである。
 最新の他の統計も見たが(福岡市の個人市民税納税義務者における給与所得者の1人当たりの平均給与収入額など)やはり労働者の給料は減っているので、このトレンドは同じである。資本金10億円超のいわゆる「大企業」についても、福岡市での法人市民税の法人税割額は2009年度と2014年度の比較では1.5倍にもなっている。
 つまり「成長」と言っても大企業ばかり儲かっていて、労働者・市民は逆に貧しくなっているのである。
 うむ、こう書くとひどく類型的かな、という気もしてくるが、あまりにもわかりやすすぎる数字が出ているので仕方がない。そうとしか言えぬのだ。市民実感としてもこんな感じ。


 新しい経済センサスで出した福岡市の2009年と14年の比較をみると、雇用者総数は1人減(!)。正社員は1万4762人減、非正規は1万4761人増である。数字がぴったりすぎ。何かの間違いかとさえ思った。高島市政下で雇用総数はピクリとも増えず(むしろ減った)、正規は非正規にまるまる置き換わったのだ。

 どこから吸い取られ、どこに運ばれていったか、わかる。
 鮮やかすぎる対比。

グローバル経済圏からローカル経済圏へのトリクルダウンは起きない

 アベノミクス支持派であり、経済同友会の副代表幹事である冨山和彦は、『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)の中で、グローバル経済圏でのプレーヤーと、ローカル経済圏のプレーヤーに分けて、両者「直接的な関連性が薄れている」と述べ、

どこに行ってもトリクルダウンは容易には起きないのである。(462/2559)

と断言している。そして

経済性も産業特性も異なる世界を同時に抱えて成長戦略を進めるには、グローバル経済圏とローカル経済圏それぞれで別の戦略を用意し、二つの世界を共存させていくことが望ましい。(同前)

としている。
 高島市政が肝いりで進めている「爆買い」をはじめとする「クルーズ観光」呼び込みは、「経済波及効果が60億円!」とかいって税金をつぎ込み基盤整備を嬉々として進めているが、地元にはちっとも実感がない。それはもう恐ろしいくらいに実感がないのだ。地元の与党市議たちでさえぼやき、焦るほどに。
 実際、国外クルーズ客の福岡市の地元商店・商店街でどれくらい買い物をしているかの調査をしているか議会で聞かれて、福岡市は「していない」と平然と答えている。調査したら買っていないことがバレるから、調査するはずがない。
 東京に本社を持つような大資本が展開する大型店と、中国のブローカーが行く店を決めて儲けている程度で、地元に落ちては来ない。
 冨山の指摘する、「グローバル経済圏」と「ローカル経済圏」の交わらなさは、福岡市でも典型的に現れている(むしろクルーズ客用バスによる交通渋滞、学校行事でのバスの逼迫、規制緩和で酷使されるバス運転手など、市民はコストだけ負担させられている感がある)。


 高島市長がこの路線(グローバル化をもとにした規制緩和と大型プロジェクト推進によるトリクルダウン)を進むこと自体にぼくは賛成できないのだが、仮にその路線を進むにしても、市民にかかる負担・コスト・安全にかなり重きをおくことと、「ローカル経済圏」への独自の循環の手立て・資源の配分をしないと、ひずみは大きくなるばかりだ。

*1:かなり前に定められていた法律「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」第3条にある「都道府県労働局長は、個別労働関係紛争を未然に防止し、及び個別労働関係紛争の自主的な解決を促進するため、労働者、求職者又は事業主に対し、労働関係に関する事項並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての情報の提供、相談その他の援助を行うものとする」がこの既存相談所の根拠である。もう立派な法律があるのだ。労使のための中立的機関がありながら、特区ではわざわざ事業主=使用者のための援助機関を作ったのである。

*2:この法律には付帯決議がつけられ、この相談や援助は事業主だけでなく労働者にも利用できるようにしないといけないとしているが、法律としてはこの通りである。