さよなら、渡辺恒雄さん 記者に届いた「人たらし」の手紙

在りし日の渡辺恒雄さん。学生時代からの愛読書、カントの「純粋理性批判」の原書を手に取りながら大笑いした=東京都千代田区の読売新聞東京本社で2007年5月25日、丸山博撮影
在りし日の渡辺恒雄さん。学生時代からの愛読書、カントの「純粋理性批判」の原書を手に取りながら大笑いした=東京都千代田区の読売新聞東京本社で2007年5月25日、丸山博撮影

 ナベツネこと渡辺恒雄さん(失礼ながら、普段はナベツネと呼び捨てでしたけれど)、ちょっと好きでした。手紙をいただいたことがあるんです。訃報を知って、引き出しにしまっていた手紙を読み直し、私はニヤリとしました。やっぱり天下の人たらしだな、と。「マスコミのドン」「政界のフィクサー」などおっかない異名はあれど、根はやんちゃで好奇心いっぱいの新聞記者だった気がします。ちゃめっけある文面からは相手の懐に飛び込み、特ダネをつかむ極意がにじんでもいました。

「おちおち死んではいられない」

 あれは2007年、本紙夕刊「特集ワイド」の名物企画「この国はどこへ行こうとしているのか」が10年を迎えるときです。人生をまっとうしつつある著名人の胸に去来するものを探ろうと考えました。サブタイトルは「おちおち死んではいられない」。1番手が渡辺さん。さほど好きだったわけではありません。彼の主導する論調は政権に寄り添い、しかもエラソー。新聞に憲法改正試案まで発表する。でも、興味津々、会いたかった。かくして関西人でもあるアンチ巨人の私は敵地、東京・大手町にある読売新聞東京本社の7階主筆室に乗り込むのですが、そこは神保町の古本屋かと見まごうばかり、カントやヘーゲルなどの哲学書が並んでいる。「隣に書庫まであるよ。アハハ」。81歳の言論人は愉快そうでした。

先の戦争に思うこと

 インタビューで私の印象に残ったのは戦争にまつわる率直な発言です。「僕は少年時から反戦でね。先の戦争も悪質な侵略戦争だと思っている」「A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国には参拝しない」。そう言い切るには理由がありました。東…

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