「何かの間違いと保健所に…」コロナ自宅療養死の兄は訴えていた

新型コロナウイルスに感染し自宅療養中に亡くなった北端明さんのお墓に手を合わせる妹の久保田純子さん=兵庫県尼崎市で2023年6月9日午後2時35分、村田拓也撮影
新型コロナウイルスに感染し自宅療養中に亡くなった北端明さんのお墓に手を合わせる妹の久保田純子さん=兵庫県尼崎市で2023年6月9日午後2時35分、村田拓也撮影

 明るくて強くて、いつも笑っていた兄。しかし、あの時ばかりは、絶望の淵にいて、どうしようもなく真っ暗な気持ちだったと思うのだ。

 新型コロナウイルスに感染し、自宅で療養していた兄。パルスオキシメーターで血中酸素飽和度を測定すると、命の危機に直面していることを示す値が出た。

 助けを求めた先の保健所の職員は電話口で告げた。「機械が壊れているか何かの間違いです」。そして自力で医師に連絡を取るよう求めた。

 兄を亡くした女性は、何度も保健所に問おうとした。「なぜ兄を信じなかったのか。なぜ、はねつけたのか」

遺族は記録開示を求めた

 2021年8月下旬、デルタ株の感染「第5波」は、東京都では新規感染者数でピークを迎え、重症者用病床の使用率は連日90%を超えていた。その頃、板橋区の会社員、北端(きたはた)明さん(当時57歳)は1人暮らしのマンションで亡くなった。

 「亡きがらにも会えず、荼毘(だび)に付す時にも立ち会えず、つらい別れになりました」

 妹の久保田純子さん(56)=兵庫県西宮市=は振り返る。

 遺骨は宅配便で久保田さんの自宅に届いた。

 「陶器」と書かれた段ボール。箱を開けると、母は膝から崩れ落ちた。

 「ああっ」

 短く声を上げると、骨つぼを抱きかかえた。声にならない声を上げて泣き、息子の名前を叫んだ。

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