アフォーダンスを拡張する「数学でつまずくのはなぜか」
あなたが数学でつまずくのは、かなりパラドキシカルなメッセージだが、最後まで読んだならば、ウソではないことが明らかになる。むしろ、この文をテーマとした一種のミステリとして読むこともできる。
数学があなたの中にすでにあるからだ
数学講師としての経験を踏まえ、それぞれの「つまずき」の根っこをズバリつかみとって見せてくれる。「どこに引っかかっているのか?」を推理しながらの問診は探偵じみてて面白いし、「犯人はそこだ!」と見つけ出すのは、代数なら代数の、幾何なら幾何の本質そのもの。
代数でのつまずき 規範としての数学 幾何でのつまずき 論証とRPG 解析学でのつまずき 関数と時間性
いわば、中学高校における数学の、タネ明かしをしてくれる一冊。
しかも熱血なトコがいい、体温高いよ、このセンセ。ラストの「プレゼント講義(3時間)」の件はじんときた。数学のセンセって、もっと冷静なイメージだったけれど、この人は真逆だね。アツくしつこく「数学なんて大嫌い」に付き合ってくれる。
著者は、ワケ知り顔のオトナとは違う。「数学は役に立つよ」とか「数学はファンタスティックだよ」などと言わない。子どもたちが直面している「数学の忌々しさ」を肌身で感じているから。
非常にユニークに感じたのは、アフォーダンスの観点から数学を問い直しているところ。アフォーダンスは、環境に実在し、人が生活していく中で獲得する意味(価値)と定義されているが、これを数学にまで拡張している。
たとえば、ドアノブは「まわして引く・押す」ことを促している。これはドアノブに手が届くほど成長した子どもが知る「意味」だ。これと同様に、七曜日と七匹の魚を「同じ7」だと判る、数学的認識が獲得されているのではないか、と問うのだ。
そして、その仮説を、「ユークリッド公理系とは、ロープレのようなもの」という子どもの気づきや、「xy座標の説明の前に、すでに場所を示す方法(行と列、経度と緯度)を知っていた」エピソードで裏づけしている。
この考え方はスゴく納得が入った。小学生(低学年)の息子に「なぜ10で一桁くりあがるのか」と訊いたとき、「指が10本だから」と答え、さらに「もしも指が16本だったら」には、「16でくりあがる」と言ってたしwww
ただ、とても残念だったのが5章。
第1~4章とていねいに解説してきたのに、かなり端折って書いている。紙数が尽きたのだろうか、まるで別人向けのように飛ばしている。
しかもこのテーマがとてつもなく面白く、かつ最初の「すでに自分の中にある数学」に直結しているネタなので、二重三重にもったいない。可能無限と実無限、カントールの挑戦、デデキントの無限は、合わせ鏡の深遠を覗き込んでいる気になってゾっとする一方、ラストで「すでに自分の中にある数学」を鮮やかに解き明かしている。
最後に。この本と出会えたのは金さんのおかげ(レビューは[Personal_NewsN]、もっと深い思索をしてます)。金さん、ありがとうございます。得るところの多い、すばらしい一冊でした(MIUゲームの説明が本家GEBの10倍分かりやすかったですな!)。

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コメント
早いので驚きました。自分もこういう風に紹介したかったです。
投稿: 金さん | 2008.06.23 14:36
>> 金さんさん
スピードは、図書館のなせるワザです(買ったら積読になるでしょうし^^;)
投稿: Dain | 2008.06.24 00:32
『世界の測量』を読みました。
ガウスとフンボルトの出会いが主題の小説ですが、奇人変人の知の巨人の二人の生い立ちや冒険?等、抱腹絶倒でした。
私にはフンボルトは理解不能(兄に殺されそうになったり、アマゾンで制服をキッチリ着込んで探検するとか)、でも、ガウスには、『おお、同類(頭の回転の速さ以外)』、『現代人すぎたんじゃねぇの?』という感想でした。やっぱり紹介が下手だ。騙されたと思って読んでみてください。
投稿: 金さん | 2008.07.07 12:59
>> 金さんさん
なんというシンクロニシティ、「世界の測量」どうしようかなー、と思っていた矢先にオススメされるなんて…
オススメありがとうございます、騙されたと思わずに読みますね。
投稿: Dain | 2008.07.08 01:37
新聞を取らないので気づきませんでしたが、「無類に面白い小説を読んだ」(日本経済新聞6月15日 書評欄・佐藤亜紀氏)だそうです。
投稿: 金さん | 2008.07.09 11:27
>> 金さんさん
おっ
それは本そのものと同じくらい興味津々になります。
佐藤亜紀氏のレビューを読んでみたいですな。
投稿: Dain | 2008.07.09 22:21