法師のやうにねりさまよふ
学力テストのデータ活用
岩波講座社会学第11巻「階層・教育」(岩波書店)は、期待したほどデータに基づく政策に役に立つ分析が提示されていません。これが、今の計量社会学の限界だと受け取って良さそうです。かねてから、学力テストのデータの公開(個人との紐づけを外した上で)を願ってきましたが、ますますその思いを強くしました。地域の特性と学力テストの結果を重ね合わせてみれば、様々な問題点が浮き彫りにできるはずです。階層による学力格差の状況も、より大量のデータで追えるでしょう。社会学者からも、明確に要求すべきですが、そうした記述は見当たりませんでした。文系の学問は役に立たないと揶揄されるのは、折角の貴重なデータを国が抱え込んでいるからです。早く活用して、国および地域の教育施策に生かすべきだと思います。活用しないのなら、学力テストに今ほどの財政支出を行う必要も感じません。
覇権阻止の防衛戦略
コルビ―「拒否戦略」(日本経済新聞出版)は、アメリカの国防問題の調査研究で指導的立場にあった専門家による、中国覇権阻止への戦略を解説した作品です。興味深い点を幾つか紹介します。まず、アメリカとして取るべき戦略は、「拒否的防衛」だとしています。要は、中国に対して優位に立つことを目指す必要はなく、反覇権連合の国を既成事実化によって従属させようとする中国の企てを拒否する(失敗させる)ことが肝要だという見立てです。拒否のオプションとして、主要な領土を奪取する能力、奪取した領土を占領する能力を拒否するという戦略が示されています。台湾有事を例に取れば、沿岸部に上陸を許したとしても、内陸部の前線を維持して反撃するというシナリオです。沖縄戦でも、内陸部での日本軍の反撃でアメリカ軍はコストが高い戦いを強いられたとしています。最適な戦略は、拒否とコスト賦課の組み合わせだというわけです。日本に関する記述では、戦後の防衛モデル(非軍事化、アメリカへの不平等な依存)からの大転換だとしています。岸田内閣が進めている防衛予算増を、漸進的に過ぎないと表現しています。北朝鮮の核武装に対しては、ミサイル防衛システムによる拒否戦略を基本としつつ、コストが高くなり過ぎれば、韓国・日本への核拡散を検討せざるを得ないと記しています。両国が報復手段を持てば、北朝鮮の核攻撃を抑止しうるとしています。ただ、核拡散は、中国はもちろん、グローバルな戦略的反響を巻き起こすに違いないと述べています。少なくとも日本については、核保有は考えられないと思います。広島。長崎の悲惨な経験の記憶が、核兵器への絶対的拒否という強い心情を支えています。アメリカの核の傘にいることと矛盾していますが、核兵器を自ら持つという選択肢はないでしょう。同盟国であるアメリカ軍による核兵器の持ち込みさえも支持されないはずです。
アメリカの金融所得
日経新聞に、アメリカと日本の個人消費の差は、金融所得の差が影響しているとの記事がありました。アメリカの家計には、年率換算で540兆円もの所得があるというのです。日本と比較して、40倍の規模です。アメリカの家計の金融資産は、過去20年で3倍以上となっていますが、その間、日本では、漸く1.5倍程度になっただけです。その構成を見れば、アメリカは、株式や投資信託が5割を占めているのに対して、日本は、現預金の割合が5割を超えています。日本では、株高が所得に結びつかないために、個人消費が弱い状態から脱することが難しいのです。貯蓄から投資への転換は、安定的に金融所得が伸びて行く環境なくして、実現しません。日本の家計からの投資が、アメリカの投資信託へ向かっているようでは、日米の格差はさらに拡大するのではないでしょうか?株式相場の不安定さは、素人が安心して投資をするような状況とは程遠いと感じます。長期的に投資することが、豊かさの源泉になると分かれば、自然と投資が普通の行動になっていくでしょう。日銀には、政策転換に際して、タイミングを誤らぬように、慎重な判断を求めたいと思います。
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