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珠玉の名曲たち、クラシック音楽を楽しむブログ。クラシック音楽の楽曲をテーマに、短いエッセーを書いています。

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ブリテン シンプル・シンフォニー:「古き良きイギリス」と「前衛」のバランス

弦楽のためのイギリス作品集弦楽のためのイギリス作品集
(2006/09/27)
ブリテン(ベンジャミン)

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ブリテン シンプル・シンフォニー 作品4

ここでいうシンプルというのは「単純」ではなく、「純真」という意味である。
英国の作曲家ブリテンの魅せる、どこまでも純真な美しさと、その中に光るテクニカルでシニカルなブリテンらしさ。
この「シンプル・シンフォニー」は、美しいメロディあり、ユーモアあり、聞いていて楽しい音楽であることは間違いない。
ブリテンと同時代の作曲家は、ちょうど保守と前衛の入り交じり出した時代であり、また戦禍を被った音楽家も多く、やや不遇と言われる。
そんな中で成功した前衛的作曲家にアメリカのジョン・ケージがいるが、一方の英国で、そのお国柄の保守的気質を上手く活かして大成した作曲家が、ブリテンであると言える。
彼はイギリス音楽の魅力を世界に知らしめた大功労者なのだ。
もちろん彼の作品には、前衛的なものも勿論含まれるのだが、この曲はそういう小難しい部分はほんのちょっとスパイス程度に含まれるだけ。
それがいい味となって、どんどん食欲をそそられるような、そんな曲なのだ。
1933年から1934年に書かれた4楽章のシンフォニーで、弦楽オーケストラや弦楽四重奏で演奏される。メインとなるほとんどの旋律は、1923年から1926年に書かれた、ブリテンの若かりし頃のピアノ曲から取られている。ブリテンが13才から19才の頃の音楽を元にしている訳だが、まったく恐ろしい才能である。

1楽章は「騒々しいブーレ」(Boisterous Bourrée)。古典的な舞曲だが、擬古典風の興味深い和声やおどけたパッセージは、まさしくブリテンの音楽。
プロコフィエフの「古典」と近い雰囲気も感じるが、いっそう懐古的・保守的なところがイギリス音楽の、ひいてはブリテンの魅力だ。
2楽章は「おどけたピツィカート」(Playful Pizzicato)。1曲通して全てピツィカートで演奏される楽章。ノンストップで駆けまわるピツィカートは聞いていて心地良い。
イギリス民謡風の親しみやすいメロディが低弦の伴奏に乗って現れる中間部もまた楽しい。ただ、メロディが単純であれば、伴奏は複雑な和音であったりと、細部のこだわりもブリテンの職人技だ。
3楽章は「感傷的なサラバンド」(Sentimental Sarabande)。ただただ美しい、哀愁漂う弦奏にはため息が漏れる。2楽章との対比も見事なことこの上ない。
いかにもイギリス音楽らしい、渋さも湛えたこの旋律は、ブリテンが10才のときの作品であるとのこと。情熱的な主題と感傷的な主題に耳を傾けていただきたい。
最後の4楽章は「浮かれたフィナーレ」(Frolicsome Finale)。1楽章と同じくソナタ形式で、古典的な面持ち。どこか浮き足立った様子は、古典を真似ているつもりになってはいるが何故かいき急ぐ現代そのもののようだ。
フィナーレらしい壮大さがあるが、聴いているとなぜか不安になるような不気味さはなんなのだろう。コーダの一歩手前で入る全体のピツィカートには思わず「なるほど!」。
デクレッシェンド・クレッシェンドで終わるクライマックスまで飽きることなく楽しめる音楽だ。
ブリテンの音楽は、エルガーやホルスト、ヴォーン=ウィリアムズのようないかにも古き良きイギリスという雰囲気と、ブリテンも憧れていたベルクらの前衛的な音楽と、そのどちらともつかないような独特の雰囲気を持っている。
複雑怪奇な現代音楽は聞いて楽くない人が多いだろう。もちろんそれも芸術だし、そこに美を見出すのも良い。実際ブリテンの音楽も、聞いていてすぐに楽しいと感じられる曲というのは、あまり多くはないように思う。
この「古き良きイギリス」と「前衛」のバランスで言うと、「シンプル・シンフォニー」はかなり聴きやすい部類に入る、「古き良きイギリス」の割合が多い作品なのだ。
パーセルから主題を借りた「管弦楽入門」に比べれば割合には差があるが、「シンプル・シンフォニー」はこのブレンドが絶妙。
そういった聴きやすい旋律にどっぷり浸かるのも良いし、もし前衛的な部分に「!?」と思い、ブリテンの光る技を見出したらそれは素晴らしいことだ。
そうしたら是非、一見複雑怪奇に思えるような、とっつきにくいブリテンの他の作品群も手にとってみてほしい。

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| ブリテン | 18:43 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ブリテン 戦争レクイエム:演奏家の為しうる全てを

Britten: War RequiemBritten: War Requiem
(2006/05/16)
Dietrich Fischer-Dieskau、

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ブリテン 戦争レクイエム 作品66

反戦主義者であるブリテンの、約1時間半に渡るレクイエム。
1961年の作品であり、第二次世界大戦中にドイツ軍の空爆を受けたコヴェントリー大聖堂の復興献堂式祝賀会のための音楽である。
長大な作品であると同時に、管弦楽に室内楽、混声四部合唱と児童合唱、そしてソリストと、巨大な編成を要する作品でもある。
スケールの大きさに比例するように、この曲は非常に強いメッセージを持っている。
器楽伴奏が表す戦争と祈りの情景、声楽が運ぶその圧倒的な精神性、これは聴く方にも相当の覚悟を要求する。
ブリテンの精神を最高に表現した、彼の作品中でも傑作と言える「芸術」である。

歌詞に用いられるのは、ミサ用の典礼文と、イギリスの詩人オーウェンの詩である。
入祭唱、怒りの日、奉納唱、サンクトゥス、アニュス・デイ、リベラ・メという構成。
あまり細かいことを言うのも難だが、個人的には、サンクトゥスの「Pleni sunt caeli et terra gloria tua」(主の栄光は、天と地を満たす)という歌詞の部分が歌われるところが圧倒される。
飛び交う声とグローリアへ向かう群、ここだけ聴いてもなかなか凄みがある。
この音楽の凄さというのは、存在価値の大きさはもちろん、それを演奏することの意義深さにある。
僕があるところでピアノの小品を演奏することは、それ自体が僕以外の世界に与えるものはほとんどない。
しかし、「戦争レクイエム」は、演奏される度に、どんな演奏であろうとも奏者・聴衆・音楽に関わる全ての者に、必ず何かしら重要な示唆を与えるのだ。
ブリテンのスコアの表紙には、オーウェンの言葉が書き記されている。
『私の主題は戦争であり、戦争の悲しみである。詩はその悲しみの中にある。詩人の為しうる全てとは、警告を与えることにある』
作曲家の為しうる全てを、ブリテンはこの曲で体現しているのだ。

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