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グレインジャー 組曲「早わかり」:そのまんま

リンカンシャーの花束(グレインジャー管弦楽曲集)リンカンシャーの花束(グレインジャー管弦楽曲集)
(2006/10/25)
ラトル(サイモン)

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グレインジャー 組曲「早わかり」

オーストラリアの作曲家パーシー・グレインジャーの世界がこの1曲に詰まっていると言っても過言ではない、その名も組曲「早わかり」。
イギリスの民謡の研究に加え、多忙に世界を飛び回っていただけあって、非常に色彩感豊かな音楽を作る人だ。
一応彼は国際派ということになっているが、この組曲では主にオーストラリア、イギリスの雰囲気が楽しめる。
原題は In a Nutshell Suite といい、1916年の作品。もともと1907年から1912年に作られた別々の作品を編纂して組曲にしたものだ。
「到着ホームでうたう鼻歌」、「陽気な、しかし物足りなそうな 」、「田園詩」、「ガムサッカーズ・マーチ」という題名のついた4曲からなる。
In a Nutshell とは、要約すれば、などと言った意味。第4曲の「ガムサッカーズ・マーチ」は吹奏楽に編曲されており、よく単独で演奏される。
しかし「早わかり」とはよく言ったものだ。まったく、グレインジャーの入門者にはうってつけであり、またグレインジャー・ファンにとっても愛し続けられる名曲である。

第1曲の「到着ホームでうたう鼻歌」はグレインジャーが電車を待っている間に思いついた曲で、この曲をグレインジャーの心情表現として考えるならば、おそらくグレインジャーは電車を待つのが嫌いだったのだろう。
「恋人に会いに行こうとして電車を待っているが、電車は遅延、足をトントン動かしながら、何となく伴う鼻唄」とグレインジャーは語る。
原曲はヴィオラ・ソロか複数のヴィオラのためのものだが、その単線音楽らしさを残しつつも、色彩感豊かなのはグレインジャーらしい。
第2曲「陽気な、しかし物足りなそうな」は、ロンドン民謡風の曲。独特の透明感を保ったオーケストレーションが面白い。
可愛らしい少女が現れてくるような、そんな音から始まり、優雅な雰囲気を保ち続けるが、それでいて、弦楽器のソロ・木管楽器・ピッツィカート・パーカッションの組み合わせの仕方が次から次へと移り変わり、時間の経過とともに様々な音色が楽しめる。
ややジャジーなハーモニーは、彼の尊敬する音楽家のひとり、デューク・エリントン流のアプローチとも取れる。
第3曲は「田園詩」、グレインジャーにしては長い音楽で10分近くある。
彼の描写はいつも鮮明で細かく、時に多弁でありすぎる程であるが、この曲は「田園」を、口数少なく、かつじっくりと、そしてやや抽象的に描いている。
重なり合う不協和音と、それに反する美しいメロディー、なんとも言えない感覚だ。
第4曲「ガムサッカーズ・マーチ」。「ガム」とはユーカリの葉のこと。「ガムを吸う人」(オーストラリアのヴィクトリア州の白人の愛称)の行進曲。
グレインジャー自身、ヴィクトリア州生まれである。夏の暑い時期、ヴィクトリア州の人々は、すっとするユーカリの葉を噛んで過ごすという。
非常に聴きやすい、ポップな曲調でありながら、彼のオーケストレーションは当時のポップ・ミュージックとは一線を画するきらめきを与える。
オーケストラの中でひときわ主張するピアノは、グレインジャーのピアノへの慈しみすら感じる。
意外と複雑で、微妙に変化するように聞こえる拍子感やテンポは、ウィットに富んだ面白みある作品に仕立てている。
彼の愛国心と、グリーグへの敬愛が反映されている音楽と言えるだろう。

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