リスト 愛の夢 ― 3つのノクターン:3つの愛のかたち
山本実樹子 リスト・アルバム第2集 ~愛の夢・死の舞踏~ (2008/10/07) 山本実樹子 商品詳細を見る |
リスト 愛の夢 ― 3つのノクターン
フランツ・リスト生誕200周年となる2011年、リストの記事として最初に書くのは、彼の作品中で最も有名と言っても過言ではない「愛の夢」にしようと思う。
特に第3番は、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。このロマンティックで美しい旋律は胸をときめかせる。
もとは歌曲であり、それをリスト自身がピアノに編曲したものである。この旋律の浮かび上がるわかりやすい曲調からは、歌曲であったことも肯けるだろう。
第1番、第2番はウーラントの詩「高貴な愛」「私は死んだ」に曲を付けたもので、第3番はフライリヒラートの詩「おお、愛しうる限り愛せ」に曲を付けたもの。
この3曲をまとめて「愛の夢 ― 3つのノクターン」というピアノ曲として、1850年に発表された。
1850年というと、リストがピアニストとしての活動をやや抑え、ヴァイマル宮廷楽長として作曲活動に本腰を入れ始めた時期である(ヴァイマル時代とも言う)。
リストの描く「愛の夢」はどのようなものなのか。第3番が非常にロマンティックで印象深い上、第1番、第2番の知名度が低いため、どうしても第3番のものしかイメージがわかず、ついつい甘い恋愛のようなものを想像してしまいがちである。
3曲とも、その歌の歌詞からすれば本来は恋愛的な愛ではなく、宗教的な愛を描いた作品である。だが、このピアノ編曲された3つのノクターンからは、もう少し違った奥行きを持った愛が見られるようにも思う。
これらの3曲のすべてにあたると、リストが描く「愛の夢」(Liebestraum)が、少しはっきり見えてくるような気がするのだ。
第1番も第3番に負けず劣らずの美しい旋律が魅力だ。むしろややあっさりしているため、第3番より好みの人も案外いるかもしれない。
どことなく東欧らしさも漂う旋律を、宝石のようにきらめく高音が飾る部分は、目を閉じて聴いてもまるで光が見えてくるようだ。くどい感じはなく、まさに「高貴な愛」である。
第2番はリストの一流ピアニズムが発揮された曲と言える。旋律に耳が捉われることなく、ピアノの多面的な美しさを見せてくれる。
その分第1番や第3番と比べると、やや人気は劣るのかもしれない。しかし、静かな空間を生み出しながら確かに愛を語るこの曲は、最も夜想曲らしいとも言える。
有名な第3番の詩は「おお、愛しうる限り愛せ」というものだ。
「おお、愛しうる限り愛せ! その時は来る その時は来るのだ 汝が墓の前で嘆き悲しむその時が」という歌詞からも感じられる、強い愛。
主張する旋律からは、全身全霊をもって愛するという強い力を感じる。この愛のベクトルは判断しかねるが、スカラーは尋常でないことがわかる。
この3つのノクターンは、雅に美しく想う愛と、清く静かに想う愛と、強くひとすじに想う愛と、3つの愛の形が見られる。
夜に想う曲と言うが、その想いは実に様々で、それ故に「愛の夢」というのも実に趣深い。
夢の中で見えるものは、演奏家、聴衆、また作曲家にとっても、きっとそれぞれの愛のかたちなのだろう。
ついつい静かな夜を思い浮かべるが、愛で胸が最も熱くなるのは夜なのかもしれない。そんなことを思った。
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