History

2007年7月 1日 (日)

『歴史とは何か』

ケンブリッジで行われたE.H.カーの、歴史的講演録、『歴史とは何か』歴史学のエレメント。

古典中の古典、定番中の定番だけに、かなり以前に一読したままになっていました。

アクトン、ヘーゲル、マルクスはもとよりパーソンズマンハイム、トクヴィル、ホパー、サルトル、ドラッカー、フロイトまでフォローし吟味するE.H.カーの、学際的良心に溢れる書だったことを今更のように再発見することとなった次第です。

E.H.カーは語ります。「現在と過去との尽きることのない対話」「歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程」のだと。歴史とは、まず選択であり、かつ歴史家の哲学思想が色濃く反映された物語化による解釈であると、語ります。

現在的問題意識・視点と密接に関係せざるを得ない。客観性のある歴史的真理は存在しないという懐疑主義、もしくはどの解釈にも優劣なしとの相対主義、何れをもE.H.カーは棄却する。これは、近代歴史学の超克であり、現代歴史学を拓くものです、以下のように-。

E.H.カーは歴史に客観性を与えるもの、それは、歴史家の未来および目的へのヴィジョンだと断ずる。未来のみが、過去を解釈する客観性を担保することが可能であるから。

ここに客観性とは、事実と解釈の間にたいして、また過去と現在と未来との間にたいして、重要性の正当な基準を用いることを指す。

ゆえに、歴史とは「過去の諸事件と、次第にあらわれてくる未来の諸目的との間の対話である」。これがE.H.カー、希代の名講義の真骨頂かと思慮します。

T.D.

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2007年5月20日 (日)

『メッテルニヒの回想録』

この本が刊行されたのは僥倖であったと思わずにはいられない。神聖ローマ帝国・オーストリアの外交官であったメッテルニヒは、ウィーン会議を文字通り「躍らせた」。

正統主義の立場から欧州の安定を画策し、自由主義・国民主義を抑圧する悪しき反動とも目されつつ、いわば激動期の保守主義を示したメッテルニヒの見識が余すところなく述べられている。

ウィーン体制、メッテルニッヒ体制とも呼ばれた安定の礎を構築したメッテルニヒは、時代の要請であるとともに、時代から理解されない人物であったのかもしれぬ。ナポレオンをはじめとするメッテルニヒによる人物評も秀逸。大部ですが、お勧めです。

T.D.

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