指示語の減らし方(P135〜149)
お品書きは下記。
【赤い本(ここがヘンだよ『日本語練習帳』)からの抜粋一覧】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2336.html
●一文を短くすると指示語は減らせない(赤い本のP135〜149)
【練習問題12】
指示語が目立つ文章がなぜわかりにくくなるのか、理由を考えてください。
多くの「文章読本」のなかには、「指示語を減らしなさい」と書かれています。たしかに、指示語が多い文章はわかりにくくなりがちですが、一文を短くすると指示語は減らせません。
「一文を短くしなさい」という一方で「指示語を減らしなさい」というのは、理不尽なお題目です。本当にそんなことができる方法があるのなら、教えてほしいと思います。
一文が極端に短い文章の例として★ページで取りあげた文章を、もう一度見てみましょう。
〈原文1〉(一文を短くしたために指示語や同語の繰り返しが目立つ)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記します。この「明文」を書くためのヒントを示すことが、本書の目的です。しかも、できるだけ具体的なヒントを示すことを心がけたいと思います。
一文を短くすると、前の文と同じ言葉を繰り返すことが多くなり、文章がクドくてヘンな感じになります。それを避けるために、必然的に指示語を使うことが多くなるはずです。「指示語は使わずに同じ言葉を繰り返せ」と教えている「文章読本」もありますが、さすがにそこまで徹底してしまうのは乱暴でしょう。指示語が目立つ文章よりはマシかもしれませんが、クドい感じになってしまいます。同じ言葉を繰り返すべきか、指示語を使うべきかは一概には決められない問題です。
〈原文1〉を、同じ言葉を繰り返さないように、指示語を使って書きかえてみます。
〈書きかえ文1-1〉(同語の繰り返しをなくすために、指示語にかえた例)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記します。これを書くためのヒントを示すことが、この本の目的です。しかも、できるだけ具体的なそれを心がけたいと思います。
文章の中に指示語が出てくると、指している言葉や内容を前の文章に戻って確認することになります。何を指しているのかが明らかな場合は、ほとんど無意識のうちに確認できるので、指示語を使っても問題はありません。しかし、〈書きかえ文1-1〉のように指示語の数がふえてくると、意識的な確認作業が必要になってきます。
指示語を減らす具体的な方法についてはあとでふれるとして、もう一度〈書きかえ文1-1〉を見てください。指示語が目立つことを別にすれば、さほどわかりにくくはなっていません。これは、一文が短いからです。単純に結合して、一文にしてみましょう。
〈書きかえ文1-2〉(指示語を残したまま、全体を一文にした例)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記し、これを書くためのヒントを示すことが、この本の目的であり、しかも、できるだけ具体的なそれを心がけたいと思います。
「悪文」の見本のような文章で、それぞれの指示語が何を指しているかがわかりにくいため、文全体の意味もわかりにくくなります。ここまで例文で示したことをまとめると、次の2つのことがいえそうです。
・一文が短い文章は、指示語を使っても意味がわかりにくくはならない
・一文が長い文章は、指示語がふえるとわかりにくくなりやすい
このことから、指示語の使い方の原則が推察できます。それは、原則として「一文が長いときにはできるだけ指示語を使わない」ことです。逆にいうと、指示語を使えば、〈書きかえ文1-2〉のように一文をいくらでも長くできます。
●「主述の入れかえ」で指示語を減らす
次の例文を見てください。
〈原文2〉
「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきで、それをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始すると説得力がなく、この点が本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
このように、一文の中に指示語が何回も出てきてわかりにくいときには、指示語が出てくるところで文を分割してしまうと、意味がわかりやすくなります(便宜上、分割した各文に番号をつけて改行します)。
〈書きかえ文2-1〉(指示語が出てくるところで文を分割した例)
1)「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。
2)それをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始すると、説得力がなくなります。
3)この点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
こうすれば、〈原文2〉よりもマシになります。
本書で繰り返してきたように、一文を短くすると問題が出ることがありますが、〈書きかえ文2-1〉のようにそれぞれの単文がある程度の長さをもっている場合には、このままでも問題はないと思います。指示語が目立つことが気になるなら、消してしまうことも可能です。
〈書きかえ文2-2A〉(1)2)を結合して指示語を消した例)
1)2)「文章読本」は、まっ先に取りあげるべき「文章の内容」のことをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始すると、説得力がなくなります。
3)この点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
〈書きかえ文2-2B〉(2)3)を結合して指示語を消した例)
1)「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。
2)それをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始しているために説得力がない点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
〈書きかえ文2-2A〉では、1)と2)を結合するために、1)の文の語順を入れかえています。本書をここまでお読みいただいたかたならお気づきでしょうが、これは文末に変化をつけるときに使った「主述の入れかえ」です。〈書きかえ文2-1〉の1)の文をいったん次のような形にすれば、もっとはっきりします(この場合は、「主述の入れかえ」をしても文末は両方ともデスになっています)。
〈原文3〉
「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。それをないがしろにして……
〈書きかえ文3〉(はじめの文の「主述の入れかえ」をした例)
「文章読本」がまっ先に取りあげるべきなのは、「文章の内容」のことです。それをないがしろにして……
この変形ができれば、あとは少し言葉を修正するだけで、次の文のはじめにある「それ」が消せます。
この場合は、「それ」が「文章の内容」なので、この手続きが必要でした。仮に次の〈原文4〉ように指示語が前の文全体を指しているなら、「主述の入れかえ」をする必要はありません。
〈原文4〉
「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。そのわかりきったことをないがしろにして、文章のことは語れません。
〈書きかえ文4〉(前の文全体を受けていた指示語を消した例)
「文章読本」は「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべき、というわかりきったことをないがしろにして、文章のことは語れません。
〈原文2〉の話に戻ります。
〈書きかえ文2-2B〉で2)と3)を結合した方法は、とくに説明しなくてもわかるはずです。
〈書きかえ文2-2A〉と〈書きかえ文2-2B〉の手法を併用して少し言葉をかえれば、指示語のない一文にすることもできなくはありません。
〈書きかえ文2-2C〉(1)2)3)を結合して指示語を消した例)
1)2)3)「文章読本」がまっ先に取りあげるべき「文章の内容」のことをないがしろにして、小手先のテクニックの解説に終始しているために説得力がない点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
しかし、この場合は一文が長めの3単文で構成されることになるので、多少わかりにくい文になります。言葉づかいももたつき気味なので、少し言葉を削って一文を短くする工夫が必要です。それほどの手間をかけるぐらいなら、指示語を2つとも残して全体を3つの文のままにしておくか、指示語を1つ消して2つの文にするほうがよいと思います。
ここでは、説明のために指示語のところでいったん文章を分割してから結合しました。実際には、文中の指示語を消すのにこのようなめんどうな手続きを踏む必要はありません。慣れてくると、実に簡単な作業であることがわかるはずです。文章を書いていて「指示語が多くなった」と感じたらぜひやってみてください。
最後に、この項のはじめにあげた〈書きかえ文1-1〉と第2章の冒頭の文をもう一度並べて見ます。〈書きかえ文1-1〉も、指示語を消してムダな言葉を削っていくと、第2章の冒頭の文に戻ります(もともとはこの文を細かく分割して作ったのが〈書きかえ文1-1〉ですから、当然のことです)。基本的にはこの項で書いた「主述の入れかえ」などを繰り返せばよいのですが、細かな説明は煩雑になるので省略します。
〈書きかえ文1-1〉(同語の繰り返しをなくすために、指示語にかえた例)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記します。これを書くためのヒントを示すことが、この本の目的です。しかも、できるだけ具体的なそれを心がけたいと思います。
〈第2章の冒頭の文〉
本書の目的は、わかりやすくて読みやすい「明文」を書くためのヒントを、できるだけ具体的に示すことです。
【Coffee Break】
「同じ文の中の言葉を指す指示語は使わない」を原則にしたいが……
本文では、指示語の使い方の原則を「一文が長いときにはできるだけ指示語を使わない」にしました。これはあいまいさが残る表現です。当初は「前の文の言葉や内容を指す指示語以外は使わない」を原則にする予定でした。同じ文の中の言葉や内容を指す指示語が諸悪の根源なので、すべて消してしまえばよいと思ったからです。しかし、これを原則にするとあまりにも例外が多くなるので、断念しました。
たとえば、無理に指示語を消そうとすると、ヘンな文になってしまうことがあります。
〈原文1〉
彼はヘンだと言うが、私はそうは思いません。
〈書きかえ文1-1〉(指示語を消すためにわかりにくい文になった例)
彼が言うようにヘンだ、とは私は思いません。
〈書きかえ文1-2〉(指示語を消すために大幅に書きかえた例)
「ヘンだ」という彼の意見に、私は同意できません。
〈書きかえ文1-1〉はかなりヘンで、こんな書きかえをするぐらいなら、もとの文のままにしておくほうがマシです。〈原文1〉のように短い文なら、指示語を使っても何も問題はありません。
〈書きかえ文1-1〉で彼の意見の内容がわかりにくくなっている原因は「ように+否定形」が使われていることです。〈書きかえ文1-2〉と書けば誤解される心配がない、と説明するためには、「ように+否定形」の話をしなければならなくなり、横道にそれてしまいます(「ように+否定形」に関しては★ページ参照)。
ヘンな文にはならなくても、ニュアンスがかわってしまうので、単純に指示語を消してはいけないと思われる場合もあります。
〈原文2〉
指示語は悪文の原因ともいわれますが、それは誤解です。
〈書きかえ文2〉(指示語を消した例)
指示語が悪文の原因ともいわれるのは誤解です。
〈原文2〉を〈書きかえ文2〉にするとなぜニュアンスがかわるのかは、うまく説明できません。おそらく、〈原文2〉にある強調の意味合いがなくなってしまうからです。
ところが、文が長くなるとこのように書きかえてもよい気がしてきます。
〈原文3〉
指示語は悪文の原因ともいわれますが、それは誤解で、使い方さえ間違えなければそうはなりません。
〈書きかえ文3-1〉(「それ」を消した例)
指示語が悪文の原因ともいわれるのは誤解で、使い方さえ間違えなければそうはなりません。
〈書きかえ文3-2〉(「そう」も消した例)
指示語が悪文の原因ともいわれるのは、不適切な使い方をされることが多いために生まれた誤解です。
〈書きかえ文3-1〉は、〈書きかえ文2〉ほどニュアンスがかわっていない気がします。
〈原文3〉には2つの指示語が使われていて、〈書きかえ文3-1〉ではまだ残っている「そう」を消すのは困難です(「そう」が「使い方……」で始まる文の文頭にはなく、文中に埋もれているためと思われますが、正確なところはわかりません)。強引に〈書きかえ文3-2〉の形にはできても、書きかえ方がうまく説明できません。
ほかにも例外はありましたが、決定打になったのは、次のような用例です。
〈原文4〉
指示語が悪文の原因になるとはいっても、その便利さを考えるとやみくもに排除はできません。
〈書きかえ文4〉(指示語を消した例)
指示語が悪文の原因になるとはいっても、便利さを考えるとやみくもに排除はできません。
ここで使われている「その」は、文頭の「指示語」のことを指しています。このまま消して〈書きかえ文4〉にしても、文の意味はかわりません。それなら意味のない指示語として取り除いてしまえばよいとは思います。しかし、困ってしまうのは〈原文4〉のほうが〈書きかえ文4〉よりも文の「リズム」がよく感じられることです。
「リズム」の善し悪しの話は感覚の問題なので、論理的には説明できません。かといって、「なくても意味が通じるなら取り除いたほうがいい」と主張することにも無理を感じました。
「同じ文の中の言葉を指す指示語は使わない」ほうがよいとは思っています。しかし、こんなに例外が多いと原則にすることもできず、奥歯にものが挟まっているような説明になってしまいました。
「主述の入れかえ」の応用例として下記をあげておく。
【「主述の入れかえ」の応用例〈1〉〈2〉】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3378.html
【赤い本(ここがヘンだよ『日本語練習帳』)からの抜粋一覧】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2336.html
●一文を短くすると指示語は減らせない(赤い本のP135〜149)
【練習問題12】
指示語が目立つ文章がなぜわかりにくくなるのか、理由を考えてください。
多くの「文章読本」のなかには、「指示語を減らしなさい」と書かれています。たしかに、指示語が多い文章はわかりにくくなりがちですが、一文を短くすると指示語は減らせません。
「一文を短くしなさい」という一方で「指示語を減らしなさい」というのは、理不尽なお題目です。本当にそんなことができる方法があるのなら、教えてほしいと思います。
一文が極端に短い文章の例として★ページで取りあげた文章を、もう一度見てみましょう。
〈原文1〉(一文を短くしたために指示語や同語の繰り返しが目立つ)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記します。この「明文」を書くためのヒントを示すことが、本書の目的です。しかも、できるだけ具体的なヒントを示すことを心がけたいと思います。
一文を短くすると、前の文と同じ言葉を繰り返すことが多くなり、文章がクドくてヘンな感じになります。それを避けるために、必然的に指示語を使うことが多くなるはずです。「指示語は使わずに同じ言葉を繰り返せ」と教えている「文章読本」もありますが、さすがにそこまで徹底してしまうのは乱暴でしょう。指示語が目立つ文章よりはマシかもしれませんが、クドい感じになってしまいます。同じ言葉を繰り返すべきか、指示語を使うべきかは一概には決められない問題です。
〈原文1〉を、同じ言葉を繰り返さないように、指示語を使って書きかえてみます。
〈書きかえ文1-1〉(同語の繰り返しをなくすために、指示語にかえた例)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記します。これを書くためのヒントを示すことが、この本の目的です。しかも、できるだけ具体的なそれを心がけたいと思います。
文章の中に指示語が出てくると、指している言葉や内容を前の文章に戻って確認することになります。何を指しているのかが明らかな場合は、ほとんど無意識のうちに確認できるので、指示語を使っても問題はありません。しかし、〈書きかえ文1-1〉のように指示語の数がふえてくると、意識的な確認作業が必要になってきます。
指示語を減らす具体的な方法についてはあとでふれるとして、もう一度〈書きかえ文1-1〉を見てください。指示語が目立つことを別にすれば、さほどわかりにくくはなっていません。これは、一文が短いからです。単純に結合して、一文にしてみましょう。
〈書きかえ文1-2〉(指示語を残したまま、全体を一文にした例)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記し、これを書くためのヒントを示すことが、この本の目的であり、しかも、できるだけ具体的なそれを心がけたいと思います。
「悪文」の見本のような文章で、それぞれの指示語が何を指しているかがわかりにくいため、文全体の意味もわかりにくくなります。ここまで例文で示したことをまとめると、次の2つのことがいえそうです。
・一文が短い文章は、指示語を使っても意味がわかりにくくはならない
・一文が長い文章は、指示語がふえるとわかりにくくなりやすい
このことから、指示語の使い方の原則が推察できます。それは、原則として「一文が長いときにはできるだけ指示語を使わない」ことです。逆にいうと、指示語を使えば、〈書きかえ文1-2〉のように一文をいくらでも長くできます。
●「主述の入れかえ」で指示語を減らす
次の例文を見てください。
〈原文2〉
「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきで、それをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始すると説得力がなく、この点が本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
このように、一文の中に指示語が何回も出てきてわかりにくいときには、指示語が出てくるところで文を分割してしまうと、意味がわかりやすくなります(便宜上、分割した各文に番号をつけて改行します)。
〈書きかえ文2-1〉(指示語が出てくるところで文を分割した例)
1)「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。
2)それをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始すると、説得力がなくなります。
3)この点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
こうすれば、〈原文2〉よりもマシになります。
本書で繰り返してきたように、一文を短くすると問題が出ることがありますが、〈書きかえ文2-1〉のようにそれぞれの単文がある程度の長さをもっている場合には、このままでも問題はないと思います。指示語が目立つことが気になるなら、消してしまうことも可能です。
〈書きかえ文2-2A〉(1)2)を結合して指示語を消した例)
1)2)「文章読本」は、まっ先に取りあげるべき「文章の内容」のことをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始すると、説得力がなくなります。
3)この点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
〈書きかえ文2-2B〉(2)3)を結合して指示語を消した例)
1)「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。
2)それをないがしろにして小手先のテクニックの解説に終始しているために説得力がない点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
〈書きかえ文2-2A〉では、1)と2)を結合するために、1)の文の語順を入れかえています。本書をここまでお読みいただいたかたならお気づきでしょうが、これは文末に変化をつけるときに使った「主述の入れかえ」です。〈書きかえ文2-1〉の1)の文をいったん次のような形にすれば、もっとはっきりします(この場合は、「主述の入れかえ」をしても文末は両方ともデスになっています)。
〈原文3〉
「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。それをないがしろにして……
〈書きかえ文3〉(はじめの文の「主述の入れかえ」をした例)
「文章読本」がまっ先に取りあげるべきなのは、「文章の内容」のことです。それをないがしろにして……
この変形ができれば、あとは少し言葉を修正するだけで、次の文のはじめにある「それ」が消せます。
この場合は、「それ」が「文章の内容」なので、この手続きが必要でした。仮に次の〈原文4〉ように指示語が前の文全体を指しているなら、「主述の入れかえ」をする必要はありません。
〈原文4〉
「文章読本」は、「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべきです。そのわかりきったことをないがしろにして、文章のことは語れません。
〈書きかえ文4〉(前の文全体を受けていた指示語を消した例)
「文章読本」は「文章の内容」のことをまっ先に取りあげるべき、というわかりきったことをないがしろにして、文章のことは語れません。
〈原文2〉の話に戻ります。
〈書きかえ文2-2B〉で2)と3)を結合した方法は、とくに説明しなくてもわかるはずです。
〈書きかえ文2-2A〉と〈書きかえ文2-2B〉の手法を併用して少し言葉をかえれば、指示語のない一文にすることもできなくはありません。
〈書きかえ文2-2C〉(1)2)3)を結合して指示語を消した例)
1)2)3)「文章読本」がまっ先に取りあげるべき「文章の内容」のことをないがしろにして、小手先のテクニックの解説に終始しているために説得力がない点が、本書の大きな欠点になっているのかもしれません。
しかし、この場合は一文が長めの3単文で構成されることになるので、多少わかりにくい文になります。言葉づかいももたつき気味なので、少し言葉を削って一文を短くする工夫が必要です。それほどの手間をかけるぐらいなら、指示語を2つとも残して全体を3つの文のままにしておくか、指示語を1つ消して2つの文にするほうがよいと思います。
ここでは、説明のために指示語のところでいったん文章を分割してから結合しました。実際には、文中の指示語を消すのにこのようなめんどうな手続きを踏む必要はありません。慣れてくると、実に簡単な作業であることがわかるはずです。文章を書いていて「指示語が多くなった」と感じたらぜひやってみてください。
最後に、この項のはじめにあげた〈書きかえ文1-1〉と第2章の冒頭の文をもう一度並べて見ます。〈書きかえ文1-1〉も、指示語を消してムダな言葉を削っていくと、第2章の冒頭の文に戻ります(もともとはこの文を細かく分割して作ったのが〈書きかえ文1-1〉ですから、当然のことです)。基本的にはこの項で書いた「主述の入れかえ」などを繰り返せばよいのですが、細かな説明は煩雑になるので省略します。
〈書きかえ文1-1〉(同語の繰り返しをなくすために、指示語にかえた例)
本書では、わかりやすくて読みやすい文章を「明文」と表記します。これを書くためのヒントを示すことが、この本の目的です。しかも、できるだけ具体的なそれを心がけたいと思います。
〈第2章の冒頭の文〉
本書の目的は、わかりやすくて読みやすい「明文」を書くためのヒントを、できるだけ具体的に示すことです。
【Coffee Break】
「同じ文の中の言葉を指す指示語は使わない」を原則にしたいが……
本文では、指示語の使い方の原則を「一文が長いときにはできるだけ指示語を使わない」にしました。これはあいまいさが残る表現です。当初は「前の文の言葉や内容を指す指示語以外は使わない」を原則にする予定でした。同じ文の中の言葉や内容を指す指示語が諸悪の根源なので、すべて消してしまえばよいと思ったからです。しかし、これを原則にするとあまりにも例外が多くなるので、断念しました。
たとえば、無理に指示語を消そうとすると、ヘンな文になってしまうことがあります。
〈原文1〉
彼はヘンだと言うが、私はそうは思いません。
〈書きかえ文1-1〉(指示語を消すためにわかりにくい文になった例)
彼が言うようにヘンだ、とは私は思いません。
〈書きかえ文1-2〉(指示語を消すために大幅に書きかえた例)
「ヘンだ」という彼の意見に、私は同意できません。
〈書きかえ文1-1〉はかなりヘンで、こんな書きかえをするぐらいなら、もとの文のままにしておくほうがマシです。〈原文1〉のように短い文なら、指示語を使っても何も問題はありません。
〈書きかえ文1-1〉で彼の意見の内容がわかりにくくなっている原因は「ように+否定形」が使われていることです。〈書きかえ文1-2〉と書けば誤解される心配がない、と説明するためには、「ように+否定形」の話をしなければならなくなり、横道にそれてしまいます(「ように+否定形」に関しては★ページ参照)。
ヘンな文にはならなくても、ニュアンスがかわってしまうので、単純に指示語を消してはいけないと思われる場合もあります。
〈原文2〉
指示語は悪文の原因ともいわれますが、それは誤解です。
〈書きかえ文2〉(指示語を消した例)
指示語が悪文の原因ともいわれるのは誤解です。
〈原文2〉を〈書きかえ文2〉にするとなぜニュアンスがかわるのかは、うまく説明できません。おそらく、〈原文2〉にある強調の意味合いがなくなってしまうからです。
ところが、文が長くなるとこのように書きかえてもよい気がしてきます。
〈原文3〉
指示語は悪文の原因ともいわれますが、それは誤解で、使い方さえ間違えなければそうはなりません。
〈書きかえ文3-1〉(「それ」を消した例)
指示語が悪文の原因ともいわれるのは誤解で、使い方さえ間違えなければそうはなりません。
〈書きかえ文3-2〉(「そう」も消した例)
指示語が悪文の原因ともいわれるのは、不適切な使い方をされることが多いために生まれた誤解です。
〈書きかえ文3-1〉は、〈書きかえ文2〉ほどニュアンスがかわっていない気がします。
〈原文3〉には2つの指示語が使われていて、〈書きかえ文3-1〉ではまだ残っている「そう」を消すのは困難です(「そう」が「使い方……」で始まる文の文頭にはなく、文中に埋もれているためと思われますが、正確なところはわかりません)。強引に〈書きかえ文3-2〉の形にはできても、書きかえ方がうまく説明できません。
ほかにも例外はありましたが、決定打になったのは、次のような用例です。
〈原文4〉
指示語が悪文の原因になるとはいっても、その便利さを考えるとやみくもに排除はできません。
〈書きかえ文4〉(指示語を消した例)
指示語が悪文の原因になるとはいっても、便利さを考えるとやみくもに排除はできません。
ここで使われている「その」は、文頭の「指示語」のことを指しています。このまま消して〈書きかえ文4〉にしても、文の意味はかわりません。それなら意味のない指示語として取り除いてしまえばよいとは思います。しかし、困ってしまうのは〈原文4〉のほうが〈書きかえ文4〉よりも文の「リズム」がよく感じられることです。
「リズム」の善し悪しの話は感覚の問題なので、論理的には説明できません。かといって、「なくても意味が通じるなら取り除いたほうがいい」と主張することにも無理を感じました。
「同じ文の中の言葉を指す指示語は使わない」ほうがよいとは思っています。しかし、こんなに例外が多いと原則にすることもできず、奥歯にものが挟まっているような説明になってしまいました。
「主述の入れかえ」の応用例として下記をあげておく。
【「主述の入れかえ」の応用例〈1〉〈2〉】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3378.html