文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題
下記の仲間。
日本語アレコレの索引(日々増殖中)
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2020.html
日本語アレコレの索引(日々増殖中)【7】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1789673749&owner_id=5019671
mixi日記2011年11月25日から
文化庁が平成19年(2007)2月2日に発表した「敬語の指針」というものがある。
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf
↓
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/sokai/sokai_6/pdf/keigo_tousin.pdf
「形容詞+です」などはそのはるか昔に発表したものなので、いわば集大成的なものなのだろう。敬語の問題などを考えるときには非常に有意義だが、よくわからない記述も多い。
【事例1】【伝言板【板外編7】デス・マス体が書きにくいワケ1】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-277.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1114634130&owner_id=5019671
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〈文化庁は昭和27年の段階で「大きいです」「小さいです」の形を認めています。 〉の根拠になるリンクが2つとも切れている。油断も隙もない(泣)。
代わりになりそうなのは……2007年の「敬語の指針」の28ページの下記の部分かな。
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4 丁寧語
「です「ます」を付ける上で留意を要する点は特にない。( 高いです。」のように形容詞に「です」を付けることについては抵抗を感じる人もあろうが,既にかなりの人が許容するようになってきている。特に「高いですね「高いですよ「高いですか」などという形で使うことに抵抗を感じる人はほとんどいないであろう。)
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【事例2】221)突然ですが問題です【日本語編10】──「~させていただく」【解答編】
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n132890
↓
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1286.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1500159854&owner_id=5019671
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1)相手が所有している本をコピーするため,許可を求めるときの表現
コピーを取らせていただけますか。
2)研究発表会などにおける冒頭の表現
それでは,発表させていただきます。
3)店の休業を張り紙などで告知するときの表現
本日,休業させていただきます。
4)結婚式における祝辞の表現
私は,新郎と3年間同じクラスで勉強させていただいた者です。
5)自己紹介の表現
私は,○○高校を卒業させていただきました。
6)ビストロSMAPでの中居クンの口上
なんでも作らさせていただきます。
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上記の例1)の場合は,ア),イ)の条件を満たしていると考えられるため,基本的な用法に合致していると判断できる。2)の例も同様だが,ア)の条件がない場合には,やや冗長な言い方になるため,「発表いたします。」の方が簡潔に感じられるようである。3)の例は,条件を満たしていると判断すれば適切だが,2)と同様に,ア)の条件がない場合には「休業いたします。」の方が良いと言えるだろう。4)の例は,ア)とイ)の両方の条件を満たしていないと感じる場合には,不適切だと判断される。5)の例も,同様である。ただし,4)については,結婚式が新郎や新婦を最大限に立てるべき場面であることを考え合わせれば許容されるという考え方もあり得る。5)については,「私は,卒業するのが困難だったところ,先生方の格別な御配慮によって何とか卒業させていただきました。ありがとうございました。」などという文脈であれば,必ずしも不適切だとは言えなくなる。
なお,ア),イ)の条件を実際には満たしていなくても,満たしているかのように見立てて使う用法があり,それが「…(さ)せていただく」の使用域を広げている。上記の2)~5)についても,このような用法の具体例としてとらえることもできる。その見立てをどの程度自然なものとして受け入れるかということが,その個人にとっての「…(さ)せていただく」に対する「許容度」を決めているのだと考えられる。
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●第2段階の説明(中級向け)
「敬語の指針」は一応の解説にはなっています。ただ元々の問題が微妙なんで、スッキリしない部分が残ります。
結局どうすればいいのかがわかりません。
よく見る解決策として、「〜いたします」にすればいい、というのがあります。
そのとおりだと思います。↑の「敬語の指針」の例で言うなら、下記のようになります。
1)取る→?
2)発表する→発表いたします
3)休業する→休業いたします
4)勉強した→勉強いたしました
5)卒業した→卒業いたしました
2)〜5)はこの形でOKでしょう。でも1)はどうしますか?
悪い例としてあげられることが多い「歌わせていただきます」場合はどうしますか?
結論としては、「〜いたします」にできるものはそうすればいいことが多い、くらいでしょうか。「誤用」だとか「クドい」だとかメクジラを立てるのはどうかと思います。
「~させていただく」がすべておかしいわけではないので、個々の例で判断するしかないということでしょう。
その際には以下の点に注意するとよいでしょう。
①「許可」「受益」の2つの要件を満たしているか
②「〜いたします」で十分ではないか
③敬語ではない形にして考えてみる
具体例は下記をご参照ください。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13101909118
※なんで削除されたのだろう?
突然ですが問題です【日本語編10】──「~させていただく」【解答編】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1286.html
●第3段階の説明(上級向け)
敬語関連の名著と言われる『敬語再入門』に重要な記述があります。
下記の引用部だけではわかりにくいかもしれません。詳しくは同書をお読みください。
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2327.html
================引用開始
【引用部】
ところが、謙譲語IIの代表選手「──いたす」は、「──する」型(サ変)の動詞でなければ使えない、また、文末以外では使いにくい、という制約があります。つまり、先程の例なら「開発いたしました」と言えますが、「新製品を作りました」は、「──する」型動詞でないので「作りいたしました」と言えないし、「新製品を開発した業者です」も、文末ではないので「開発いたしました業者です」は不自然です。この「いたす」の守備範囲の不足を補うように「作らせていただきました」「開発させていただいた業者です」と言う、という面がありそうです。「守備範囲の広い謙譲語IIの形」を求める心理が潜在的にあって、そこに「させていただく」が入り込もうとしているのです。(P.196)
つまりそのなんだ。こういうのを読んでしまうと、「プチ発見」のはずが単なる勉強不足になるってことだ(泣)。
================引用終了
Yahoo!知恵袋だと下記のBAが参考になると思います。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1362602693
下記もご参照ください。
【法則10 ベタベタ敬語ナンバーワン「させていただく」は控えめに】
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20120416/122404/
【事例3】246)【「やる」 「あげる」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1378.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1523098273&owner_id=5019671
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2 世代や性による敬語意識の多様性
言葉遣いや言葉についての考え方は,世代によって,あるいは性によって異なる場合が少なくない。敬語の使い方や敬語についての考え方もその例外ではない。
例えば,「植木に水をあげる」と言うか「植木に水をやる」と言うかについて,文化庁「国語に関する世論調査」(平成18年2月調査)においては,「あげる」と言う男性回答者の割合は,10代・20代では30~40%台であるのに対して,50代・60代以上では5~10%台であって世代による違いが見られる。同じ質問について女性回答者は,多くの世代において「あげる」と答えた人の割合が男性より高いが,同時に男性と同様の世代差も見られる。また「ふだん「弁当」という言葉に「お」を付けるかどうか」について「お弁当」と言うと回答した人の割合は,すべての世代を通じて,男性は10~30%台にとどまるのに対して,女性はすべての世代で約70~80%台の高い割合である。
こうした敬語の使い方についての世代や性による違いに関して,本指針は以下の2点を指摘する。
一つは,敬語の使い方の違いには,その敬語についての理解や認識の違いが反映していることを考慮すべきだということである。例えば,「植木に水をやる」を適切な言葉として選ぶ人は,「あげる」に謙譲語的な旧来の意味を認め「植木」はその種の言葉を用いるべき対象物ではないと考えている可能性がある。一方,「あげる」を使うと答える人は,この語の謙譲語的な意味が既に薄れていると考え,同時に「やる」という語に卑俗さ・ぞんざいさを感じてこれを避けている可能性がある。現代は,この二つの考え方が言わば拮抗している時代であろう。「植木に水をあげる」という場合の「あげる」は,旧来の規範からすれば誤用とされるものであるが,この語の謙譲語から美化語に向かう意味的な変化は既に進行し,定着しつつあると言ってよい。
敬語の使い方や意見の異なりを考える際,例えば「あげる」と「やる」についての理解や認識にこうした違いがあるように,それぞれの使い方や意見のよりどころとなっている別の理解や認識があること,つまり,自分自身とは異なる感じ方や意見を持つ人が周囲にいることに留意する必要がある。
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ところで、この文化庁の「敬語の指針」はどこまで信用できるのだろう。
少なくとも〈「参る」や「申す」は,謙譲語IIに当たる敬語である〉はおかしい。「申す」は謙譲語のこともあれば、そうでないこともある。「申し上げる」の形にしないと、謙譲語とは言いきれないはず。
「お申し出」の類いが謙譲語でないのは、複合語だからではなく、「申す」自体が謙譲語でないことがあるからだと思う。
【事例4】337)【「ご持参ください」は失礼な言い方か】Yahoo!知恵袋
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1637.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1622163409&owner_id=5019671
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(前略)「参る」や「申す」は,謙譲語IIに当たる敬語である。しかし,「御持参ください」,「お申し出ください」,「お申し込みください」などといった表現の中に含まれる「参る」や「申す」は,謙譲語IIとしての働きは持っていないと言ってよい。したがって,これらの表現を「相手側」の行為に用いるのは問題ない。
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【事例5】413)【「~ない」形の形容詞の迷宮──【2】「とんでもございません」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1814.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1674741224&owner_id=5019671
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実は、H15年度、文化庁が「とんでもございません」が気になるかどうか調査したところ、およそ7割の人が「気にならない」と答えたのです。これらのことから、文化庁はH19年2月「敬語の指針」の中で、【褒められたことに対し、謙遜して否定する場合の言い方としては、問題がない】と発表しました。
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文化庁が認めたのでは、「誤用とはいいきれない」と考えるしかないのでしょう。
しかしながら、個人的には当分は認めたくありません。自分では使わないし、校正の仕事で目にしたら、修正します。ただ、世の趨勢がそこまで来ていることは覚えておくことにします。
個人的には、
「申し訳ございません」は誤用とはいえない(自分で使うのはできるだけ避ける)
「とんでもございません」はほとんど誤用(自分では使わない)
と考えることにします。下記のトピをご参照ください。
【事例6】443)【「召し上がってください」「お召し上がりください」は二重敬語か】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1855.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1691635798&owner_id=5019671
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(2) 「二重敬語」とその適否
一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。例えば「お読みになられる」は「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で,更に尊敬語の「……れる」を加えたもので,二重敬語である。
「二重敬語」は,一般に適切ではないとされている。ただし,語によっては,習慣として定着しているものもある。
【習慣として定着している二重敬語の例】
・(尊敬語)お召し上がりになる,お見えになる
・(謙譲語I)お伺いする,お伺いいたす,お伺い申し上げる
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こんな書き方でわかるのかな。
Wikipedaのように「不規則動詞一覧」をつけてくれないと誤解されるよ。そうでなくても、当方のレベルだと「同じ種類の敬語」ってあたりで躓きかける。
たとえば、「召し上がりました」は「召し上がる」(尊敬語)+「ました」(丁寧語)だから二重敬語ではないってことだろう。
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈2〉
mixi日記2013年01月27日から
【事例7】突然ですが問題です【日本語編2】──「お疲れさまです」「ご苦労さまです」 解答編
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1300.html
================引用開始
3 「ねぎらい」と「褒め」の問題
【27】 時間外に仕事を教えてくれた上司に「どうも御苦労様でした。」と言ったら,「御苦労様はないだろう。」と笑われてしまった。それで,書類作成に追われた上司が帰る時には「御苦労様」以外の言い方を考えてみたのだ が,適切な表現が浮かばず,そのままになってしまった。そういう気持ちを表したい場合には,どうすれば良いのだろうか。
【解説1】仕事について教えてくれた上司に対しては,「どうもありがとうございました。 (大変助かりました。)」と感謝の表現にすれば良い。また,書類作成に追われた上司に対しては,「(本当に)お疲れ様でございました。」などと言えば良いだろう。
【解説2】「御苦労様」は,基本的には,自分側のために仕事をしてくれた人,例えば, 配達をしてくれた店員などに対して,「ねぎらい」の気持ちを込めて用いる表現である。(なお,このような場合に「お疲れ様」と言うのは不自然である。)ねぎらいは, 上位者から下位者に向けたものとなるため,目上の人に対しては,「御苦労様(でし た)」を用いない方が良い。
これに対し,「お疲れ様」は,「ねぎらい」の気持ちを込めて使われる表現ではあるが,一緒に仕事をした後など,お互いに声を掛け合うような場合にも多く用いる表現 である。(なお,このような場合に「御苦労様」と言うのは不自然である。)そのよう な状況であれば,「お疲れ様」ではなく「お疲れ様でございました」などを用いると いうような丁寧な言い方であれば,だれに対しても使える表現である。したがって, 仕事上の上司であっても使うことができる。
要するに,時間外に仕事を教えてくれた上司に対しては,「御苦労様でした」というねぎらいの言葉ではなく,「ありがとうございました」と感謝の気持ちを表す言い方に変えた方が良く,一緒に書類作成に追われていた上司に対しては,「お疲れ様で ございました」と,気持ちを込めて表現すれば良いわけである。
ただし,このような定型的な表現ではなく,例えば「おかげ様で仕事が少し分かる ようになってきました。」などと,別の観点に立った表現を使うことで,上手に自分の気持ちを相手に伝えることも可能である。(P.45~46)
================引用終了
「敬語の指針」の最後の段落部は正論だけど、わざわざこんなことを書く意味があるのだろうか。
「可能ではある」けど、独自の言い方をするのがむずかしいから、こういう「定型的な表現」が求められているのでは。その「定型的な表現」のなかで何が適切か、何が無難かということを説明した結論がこれって……。
「AとBのどちらがいいですか。ほかにいい言い方はありませんか」
という質問に対して、
「そんな紋切り型ではなく、独自の言い方を工夫しましょう」
って答えてるんだよな。スパルタ式だな~。
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈3〉
「敬語の指針」ってあんまりにも長いもんで通してマジメに読む気にならないけど、やっぱいろいろヘンなとこがあるみたい。
【事例8】「敬語の指針」P.39に下記の記述がある。
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf
================================引用開始
4 自分側に「お・御」を付ける問題
【16】自分のことに「お」や「御」を付けてはいけないと習ったような気がするが,「お待ちしています」や「御説明をしたいのですが」などと言うときに,自分の動作なのに,「お」や「御」を付けるのは,おかしくないのだろうか。
これは,どう考えれば良いのだろうか。
【解説】自分側の動作やものごとなどにも,「お」や「御」を付けることはある。自分の動作やものごとでも,それが<向かう先>を立てる場合であれば,謙譲語Iとして,「(先生を)お待ちする。」「(山田さんに)御説明をしたい。」など,「お」や「御」を付けることには全く問題がない。また「私のお菓子」など,美化語として用いる場合もある。
「お」や「御」を自分のことに付けてはいけないのは,例えば,「私のお考え」「私の御旅行」など,自分側の動作やものごとを立ててしまう場合である。この場合は,結果として,自分側に尊敬語を用いてしまう誤用となる。
================================引用終了
【20190407一部を書きかえました】
詳しくは下記をご参照ください。
https://ameblo.jp/kuroracco/entry-12452630150.html
これ相当マズいんじゃない?
大前提として、自分の行動や持ち物につく「お/ご」は2種類あることを説明するべきでは。
まず、動詞について謙譲語になる場合。
もうひとつは、名詞について謙譲語や美化語になる場合。
↑の説明が悪いのは、美化語と謙譲語の説明がないこと。
「結果として,自分側に尊敬語を用いてしまう誤用」がどういうことか、この説明でわかるのだろうか。
たとえば、「お考え」。「先生のお考え」なら尊敬語で問題がないだろう。「私のお考え」の場合は美化語とも謙譲語とも考えにくい。そうなると、「自分側に尊敬語」を用いているような感じになるので「誤用」になるということなんだろう。
かなり言葉足らずだと思う。
名詞につく「お/ご」は尊敬語、謙譲語、美化語の3通りがある。いずれの場合も「お/ご」がつきにくい言葉がある。これはある程度は理屈をつけられるが、最終的には「慣習」によるとしか言いようがない。詳しくは『敬語再入門』の詳細なリストを見てほしい。
ただ、名詞につく「お/ご」は、尊敬語か美化語か不明のものや、謙譲語か美化語か不明のものもある。さらに言えば、美化語の適否は使い手の性別やキャラクターにかかわってくるので、一概には判断できない。
■相手側の事物につく場合
基本的には、尊敬語と考えるのがわかりやすい。美化語とまぎらわしいものもある。
■自分側の事物につく場合
1)相手に関わる事物
基本的には、謙譲語と考えるのがわかりやすい。これも美化語とまぎらわしいものもある。「相手に関わる事物」はやや曖昧だけど、ほかに言いようがない。
「敬語の指針」の〝<向かう先>を立てる場合〟がわかりやすいと思う人は、そちらで考えてもいい。
『敬語再入門』は〈「主語」「補語」「高める」をキーワードにして説明〉している。こちらのほうがわかりやすいと思うが、あまりにも長すぎて引用できない(泣)。
2)相手に関わらない事物
謙譲語ではないので美化語になる。美化語の適否は相当微妙な例が多数ある。
少しだけ具体例をあげておく。
たとえば、「敬語の指針」に出てくる「私の御旅行」(「御」は相当イヤなので、以下は「ご」と書く)。
たしかに「私のご旅行」は基本的に×だろうが、下記ならどうだろう。
「わたくし、来月お友達とご旅行にいきますのよ」
言葉遣いの丁寧な(ある程度の年の)女性なら、この程度の言葉は使うのでは。
「お友達」も「ご旅行」美化語だろう。「敬語の指針」が「私の御旅行」を誤用としている理由はわからない。
あるいは、「おビールをお持ちしました」。
外来語に「お/ご」をつけるのは間違いと主張する人もいる。原則的にはそうだと思うが、客商売では「おビール」のほうがフツーでは。「お酒」もフツーだろう。しかし、「おウイスキー」「お焼酎」 とは言わない。このへんは「慣習」としか言えない。
で、「おビール」の「お」はなんなのか。
一般には美化語だろう。「暑い時期のおビールはホントにおいしい」と呟く人もいるだろうしね。
しかし、「お客様のおビール」と考えるなら尊敬語だろう。
支払いが済むまでは、店に所有権があると考えるなら謙譲語?
正体は不明だが、小料理屋の女将さんやクラブのママさんが「おビールをお持ちしました」と言うなら、別に不自然とは思わない。
でもね。苦み走った板さんや、バーの渋いマスターが「おビールをお持ちしました」と言ったら、相当不気味だろう。まぁ、それでも間違いではないだろうが。
名詞につく「お/ご」だけでもこんな感じになる。動詞につく「お/ご」に関してはもっとたいへんなことになる。それは↑に書いた【自分の行動などにつく「お/ご」】 あたりで許してほしい。
下記の「おみやげ」とか「手紙」との違いを説明するのはけっこうむずかしいかも。
【自分の行動などにつく「お/ご」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2437.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1859751167&owner_id=5019671
2)名詞につくもの
名詞につく「お/ご」も尊敬語と考えられがちだが、謙譲語のときと、美化語のときがある。
たとえば、「先生からのお手紙」の「お」は尊敬語。これが「先生へのお手紙」になると手紙を書いたのは自分だから、「お」は謙譲語になる。
「近頃の若い方はメールばかりで、お手紙なんてお書きにならないようです」なら、美化語だろう。これは過剰敬語気味か。
『敬語再入門』のP.124に、もっと適切な例がある。
================================引用開始
なお、一つの語がいくつかの用法をもつ場合もあります。§48では、「お手紙」のように尊敬語・謙譲語I両方の用法をもつ主な語をリストしましたが、その中でも「おみやげ」などは、「先生からのおみやげ」(尊敬語)・「先生へのおみやげ」(謙譲語I)のほか「子どもへのおみやげ」のように美化語としても使います(あるいは、初めの二つも美化語と見てしまったほうがよいのかもしれません)。(P.124)
================================引用終了
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈4〉
「敬語の指針」に関するメモ。
一般に「敬語の指針」と呼ばれているもののほかに、「叩き台」「答申案」がネット上に転がっているらしい。どこがどう違うのかは知りません(笑)。
■「敬語の指針(たたき台)」(平成18年11月○○日 文化審議会国語分科会報告案)
http://www.bunka.go.jp/1kokugo/pdf/keigo_shouiinkai181002_siryou_2.pdf
■「敬語の指針(答申案)」(平成19年1月15日 文化審議会国語分科会)
http://www.bunka.go.jp/1kokugo/pdf/kokugo_bunkakai190115_siryou2.pdf#search='%E6%95%AC%E8%AA%9E%E3%81%AE%E6%8C%87%E9%87%9D+%E7%AD%94%E7%94%B3%E6%A1%88'
■「敬語の指針」(平成19年2月2日 文化審議会答申)
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf
「敬語の指針」に基づいてつくられたと思われるサイトが下記。動画が見られなくなったのは残念だが、動画部分の下の〈「敬語の基本」理解度チェック〉をたどるとわかりやすい解説がある。
■敬語おもしろ相談室
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/keigo/index.html
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈5〉
Googleのコーパス?的な利用法 直裁 直截 お揃いですか お運び漏れ〈1〉~〈3〉
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3020.html
(2014年05月29日)
【事例9】
1)【「敬語の指針」】(P.50)平成19年(2007年)2月
検索でヒットするのは、【第五話「間違いやすい敬語(2)」 ~尊敬語あれこれ】だが、ほぼ同じ内容なので、「敬語の指針」をひいておく。
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/keigo/guide.pdf
================引用開始
6 いわゆる「マニュアル敬語」の問題
【解説1】「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか。」という表現は,敬語が誤っ て使われている。「お......になる」というのは尊敬語の形であるため,「おそろいにな る」では「御注文の品」を立てていることになってしまうからである。したがって, 「御注文の品は,そろいましたでしょうか。」,あるいは「御注文の品は,以上でよろ しいでしょうか。」などと言えば良いだろう。
【解説2】マニュアル敬語は,言葉の上のサービスの質を,ある水準に保つために考えら れている。したがって,そのような敬語を使う人が,それぞれの言葉に,どのような 気持ちが込められているのかをよく考えれば,その有効性が期待できるものである。 ただし,それを真に生かすためには大切な条件がある。使う側,また指導する側が, マニュアルという「型」を基礎としながらも,絶えず表現について考え,工夫を重ね ていく姿勢を持つことである。マニュアル敬語にかかわる問題の多くは,この実践の 欠如に起因すると言えるだろう。
しかし,こうしたマニュアル敬語は,アルバイトの若者や,彼らが働くレストラン やコンビニエンスストアなどだけに特有の問題では決してない。敬語の使い方に問題 はなくても,お客の顔を全く見ないまま接客を済ますなど,態度が言葉を裏切ってい る大人も世の中には少なくない。形だけの敬語では,敬意は伝わらない。相手の表情 や動作ににじみ出た気持ちを察知する,相手の言葉にしっかり耳を傾ける,そしてそ の場面の意味と相手の気持ちを十分に踏まえた上で,敬意を言葉に乗せて表す,その ような姿勢を持つことが何よりも大切だと言えよう。
================引用終了
さらに根本的なことを書くと……。
1)【「敬語の指針」】(P.50)平成19年(2007年)2月 の書き方はあまりにもホニャララじゃないか?
だって、テーマは「マニュアル敬語」でしょ? なぜ「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか。」の話になる。これだけを対象に、「マニュアル敬語」について語る気か? まさか。
しかし【解説2】を読むに、その「まさか」らしい。これって、「マニュアル敬語」の解説になっているのかな。〈マニュアルという「型」を基礎としながらも,絶えず表現について考え,工夫を重ね ていく姿勢を持つことである〉……ある意味名言だな。そのとおりだと思う。で、マニュアルってどういうものだかわかっているのだろうか。そんな姿勢が必要だと、マニュアルにならないと思うよ。
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈6〉
747)【「ご挨拶にお伺いさせていただきます」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2357.html
mixi日記2012年04月03日から
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1835110167&owner_id=5019671
テーマサイトは下記。
【これって正しいですか? 「ご挨拶にお伺いさせていただきます」】
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1383384438
テーマトピは下記。
【「ご挨拶にお伺いさせていただきます」はなぜヘンな言い方ですか】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=68622653
当方が立てたテーマトピの「0」を一部省略して転載する。
================================引用開始
「ご挨拶にお伺いさせていただきます」はなぜヘンな言い方ですか
下記のサイトを読んで疑問に思いました。
【これって正しいですか? 「ご挨拶にお伺いさせていただきます」】
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1383384438
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
2)ご挨拶にお伺いいたします
3)ご挨拶にお伺いします
4)ご挨拶に伺わせていただきます
1)~4)のうち、どれがダメな二重敬語で、どれが許容されている二重敬語で、どれが「くどい言い方」なのでしょうか。
================================引用終了
テーマサイトに出てきた4つの例文について考える。どれも「間違い」ではないはず。当然どれが「正しい」という問題でもない。ただ、細かく見ていくとちょっと(では済まない?)違いがあって、どこまで許容できるのかは個人差があるだろう。
Yahoo!知恵袋を読んでやや混乱した。2)~4)は修正案として提示されているのだが……。
トピにいただいたコメントを読んでかなりわかったような気がする。いただいたコメントを参考(誤用?)にしつつ(「いいとこ取り」とも言う)、例によってクダクダと書いていく。
「原形」とも言えるのが「伺う」。
■Web辞書『大辞泉』から
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=%E4%BC%BA%E3%81%86&stype=0&dtype=0
================================引用開始
うかが・う〔うかがふ〕【伺う】
[動ワ五(ハ四)]《「窺う」と同語源。目上の人のようすをうかがいみる意から、その動作の相手を敬う謙譲語となる》
1 「聞く」の謙譲語。拝聴する。お聞きする。「おうわさはかねがね―・っております」
2 「尋ねる」「問う」の謙譲語。「この件について御意見をお―・いします」
3 「訪れる」「訪問する」の謙譲語。「明朝、こちらから―・います」
4 神仏の託宣を願う。「御神託を―・う」
5 《「御機嫌をうかがう」の意から》寄席などで、客に話をする。また、一般に、大ぜいの人に説明をする。「一席―・う」
[可能] うかがえる
================================引用終了
例文になっているのは〈3 「訪れる」「訪問する」の謙譲語。〉だろう。より厳密に言うと謙譲語I。
これを謙譲語Iの「お~する」と組み合わせたのが「お伺いする」。通常ならバキバキの二重敬語だが、一般には許容されている。
629)【文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1798665663&owner_id=5019671
「敬語の指針」p.30から====================引用開始
(2) 「二重敬語」とその適否
一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。例えば「お読みになられる」は「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で,更に尊敬語の「……れる」を加えたもので,二重敬語である。
「二重敬語」は,一般に適切ではないとされている。ただし,語によっては,習慣として定着しているものもある。
【習慣として定着している二重敬語の例】
・(尊敬語)お召し上がりになる,お見えになる
・(謙譲語I)お伺いする,お伺いいたす,お伺い申し上げる
================================引用終了
「お伺いする」だけではなく「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」まで許容されている。「習慣として定着している」か否かの基準は不明。
2)ご挨拶にお伺いいたします
3)ご挨拶にお伺いします
は文化庁が許容したものを丁寧語(~ます)にした形なので、「許容されている二重敬語」ってことになる。
ちなみに「お伺いいたす」は「伺い」+「お~する」+「~いたす」の三重構造と考えることもでき、この段階でクドいと言えば相当クドい。
二重敬語のうえに三重構造は×、と考えることもできる。その一方で、文化庁が許容しているから○、と考えることもできる(たしかに「定着している」って気はするし)。
「お伺いいたす」を〈「お伺いする」+「~いたす」〉と考えると、「拝見いたす」(「拝見する」+「~いたす」)と同様と言えなくはない。三重構造の「お伺いいたす」に相当するなら「ご拝見いたす」ではないのか、って話は無視する。
4)ご挨拶に伺わせていただきます
「伺う」+「させて」+「いただく」+「ます」
これは「ご挨拶に」を除くと「拝見させていただきます」と同様と言ってもよいだろう。
伺う→「訪れる」の謙譲語I
させて→使役などの意味の助動詞「させる」の連用形+助詞「て」
いただく→「もらう」の謙譲語I
ます→丁寧語
「敬語連結」であって「二重敬語」でさえない。その意味では非難される理由はない。
悪名高き「させていただく」が使われているが、「訪れる」ことに関する許可を求め、そのことによって「受益」がありそうだから問題はないだろう。ただ、これがオススメできるかと言うと疑問。
【関連トピ紹介】10──敬語の話2 「~させていただく」は是か非か
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=45983063
2)と4)に関しては、「拝見いたします」「拝見させていただきます」と微妙に関係していると思う。下記のコメント[4]までを参照してほしい。[5]以降はお好みで……。
【「拝見する」の使い方──「拝見いたします」「拝見させていただきます」は二重敬語?】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=67150294&comm_id=398881
最後は元々の例文。
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
これは4)の「伺う」を「お伺いする」(許容されている二重敬語)にかえたもの。
文化庁が許容しているのだから、「間違い」とは言えない。ただ、これは4)よりもさらにクドい(はず)。
ここから先は当方の主観(いえその、ここまでも主観が入っているけど……)。
質問したトピでは、ほぼ全員が「ご挨拶に伺います」派。Yahoo!知恵袋に出てきた例文は全滅(笑)。みなさん厳しい。「ご挨拶に」が影響している観もある。
最もシンプルな形とも言える「5)ご挨拶に伺います」を加えて比べてみる(Yahoo!知恵袋にこの形が出ていないのはなぜなんだろう)。
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
2)ご挨拶にお伺いいたします
3)ご挨拶にお伺いします
4)ご挨拶に伺わせていただきます
5)ご挨拶に伺います
このうち、1)2)3)は許容されている二重敬語を含む。たとえ許容されていても二重敬語は避けるべき、という考え方もアリだろう。
クドさの程度で考えると、たぶん以下のようになる。下に行くほどクドくなるという意味。二重敬語を使っていない4)の位置づけは微妙かも。
5)ご挨拶に伺います
↓
3)ご挨拶にお伺いします
↓
2)ご挨拶にお伺いいたします
↓
4)ご挨拶に伺わせていただきます
↓
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
個人的な感覚では、3)が許容できるか否かの境界線で、2)はアウトだろう。このへんはかなり微妙で、過剰気味の敬語が蔓延していると、5)では敬度不足ととられかねない。
これが「ご挨拶に」を「明日、(読み方は「みょうにち」もしくは「あす」。この文脈だと「あした」はちょっとヘン)」にすると、敬語の重複感が軽減するのでちょっと事情がかわる。「明日、」だったら、3)は許容範囲で、2)も相手によってはアリかも、って気になる。
敬語の重複感に関して『敬語再入門』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1824714512&owner_id=5019671は下記のように書いている。著者は「敬語の指針」を作成した(主要)メンバーのひとり。この本は信頼してるんだけどさぁ……。
================================引用開始
このように、各語がそれぞれ敬語になり、それをつなげただけのものは、二重敬語と呼ぶべきものではありません。実際、「お読みになっていらっしゃる」は正しい敬語です。「お嬢様はお手紙をお書きになっていらっしゃる」も、四つの別の敬語をつなげただけで、四重敬語などとは言いません。この文も、多少くどくはありますが、問題のない敬語で、言葉の丁寧な人なら、この程度の敬語は使います。(P.148)
================================引用終了
やはり個人差は大きい(笑)。こういう風に言われちゃうと……たぶん「言葉の丁寧な人」なら「ご挨拶にお伺いさせていただきます」程度の敬語も使うんだろうな。
少なくとも「敬語の指針」や『敬語再入門』を見る限る、「お伺いいたす」は許容範囲だし、「ご挨拶」や「させていただきます」との併用を×にする根拠はない気がする。そうなると、「クドい」「クドくない」は個人の好みで判断するしかない、ってことになるのだろうか。
「ご挨拶にお伺いさせていただきます」は相当クドくて相当ヘンだと思う。Yahoo!知恵袋でもmixiのトピでも、細かい点は別として、これを支持している人はいない。でも……ちゃんと説明するにはかなりの力業が必要になりそう。なんかハガユい。
結論。
やっぱり文化庁の「敬語の指針」は嫌いだ。(←オイ!)
日本語アレコレの索引(日々増殖中)
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2020.html
日本語アレコレの索引(日々増殖中)【7】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1789673749&owner_id=5019671
mixi日記2011年11月25日から
文化庁が平成19年(2007)2月2日に発表した「敬語の指針」というものがある。
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf
↓
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/sokai/sokai_6/pdf/keigo_tousin.pdf
「形容詞+です」などはそのはるか昔に発表したものなので、いわば集大成的なものなのだろう。敬語の問題などを考えるときには非常に有意義だが、よくわからない記述も多い。
【事例1】【伝言板【板外編7】デス・マス体が書きにくいワケ1】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-277.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1114634130&owner_id=5019671
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〈文化庁は昭和27年の段階で「大きいです」「小さいです」の形を認めています。 〉の根拠になるリンクが2つとも切れている。油断も隙もない(泣)。
代わりになりそうなのは……2007年の「敬語の指針」の28ページの下記の部分かな。
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4 丁寧語
「です「ます」を付ける上で留意を要する点は特にない。( 高いです。」のように形容詞に「です」を付けることについては抵抗を感じる人もあろうが,既にかなりの人が許容するようになってきている。特に「高いですね「高いですよ「高いですか」などという形で使うことに抵抗を感じる人はほとんどいないであろう。)
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【事例2】221)突然ですが問題です【日本語編10】──「~させていただく」【解答編】
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n132890
↓
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1286.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1500159854&owner_id=5019671
================================
1)相手が所有している本をコピーするため,許可を求めるときの表現
コピーを取らせていただけますか。
2)研究発表会などにおける冒頭の表現
それでは,発表させていただきます。
3)店の休業を張り紙などで告知するときの表現
本日,休業させていただきます。
4)結婚式における祝辞の表現
私は,新郎と3年間同じクラスで勉強させていただいた者です。
5)自己紹介の表現
私は,○○高校を卒業させていただきました。
6)ビストロSMAPでの中居クンの口上
なんでも作らさせていただきます。
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上記の例1)の場合は,ア),イ)の条件を満たしていると考えられるため,基本的な用法に合致していると判断できる。2)の例も同様だが,ア)の条件がない場合には,やや冗長な言い方になるため,「発表いたします。」の方が簡潔に感じられるようである。3)の例は,条件を満たしていると判断すれば適切だが,2)と同様に,ア)の条件がない場合には「休業いたします。」の方が良いと言えるだろう。4)の例は,ア)とイ)の両方の条件を満たしていないと感じる場合には,不適切だと判断される。5)の例も,同様である。ただし,4)については,結婚式が新郎や新婦を最大限に立てるべき場面であることを考え合わせれば許容されるという考え方もあり得る。5)については,「私は,卒業するのが困難だったところ,先生方の格別な御配慮によって何とか卒業させていただきました。ありがとうございました。」などという文脈であれば,必ずしも不適切だとは言えなくなる。
なお,ア),イ)の条件を実際には満たしていなくても,満たしているかのように見立てて使う用法があり,それが「…(さ)せていただく」の使用域を広げている。上記の2)~5)についても,このような用法の具体例としてとらえることもできる。その見立てをどの程度自然なものとして受け入れるかということが,その個人にとっての「…(さ)せていただく」に対する「許容度」を決めているのだと考えられる。
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●第2段階の説明(中級向け)
「敬語の指針」は一応の解説にはなっています。ただ元々の問題が微妙なんで、スッキリしない部分が残ります。
結局どうすればいいのかがわかりません。
よく見る解決策として、「〜いたします」にすればいい、というのがあります。
そのとおりだと思います。↑の「敬語の指針」の例で言うなら、下記のようになります。
1)取る→?
2)発表する→発表いたします
3)休業する→休業いたします
4)勉強した→勉強いたしました
5)卒業した→卒業いたしました
2)〜5)はこの形でOKでしょう。でも1)はどうしますか?
悪い例としてあげられることが多い「歌わせていただきます」場合はどうしますか?
結論としては、「〜いたします」にできるものはそうすればいいことが多い、くらいでしょうか。「誤用」だとか「クドい」だとかメクジラを立てるのはどうかと思います。
「~させていただく」がすべておかしいわけではないので、個々の例で判断するしかないということでしょう。
その際には以下の点に注意するとよいでしょう。
①「許可」「受益」の2つの要件を満たしているか
②「〜いたします」で十分ではないか
③敬語ではない形にして考えてみる
具体例は下記をご参照ください。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13101909118
※なんで削除されたのだろう?
突然ですが問題です【日本語編10】──「~させていただく」【解答編】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1286.html
●第3段階の説明(上級向け)
敬語関連の名著と言われる『敬語再入門』に重要な記述があります。
下記の引用部だけではわかりにくいかもしれません。詳しくは同書をお読みください。
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2327.html
================引用開始
【引用部】
ところが、謙譲語IIの代表選手「──いたす」は、「──する」型(サ変)の動詞でなければ使えない、また、文末以外では使いにくい、という制約があります。つまり、先程の例なら「開発いたしました」と言えますが、「新製品を作りました」は、「──する」型動詞でないので「作りいたしました」と言えないし、「新製品を開発した業者です」も、文末ではないので「開発いたしました業者です」は不自然です。この「いたす」の守備範囲の不足を補うように「作らせていただきました」「開発させていただいた業者です」と言う、という面がありそうです。「守備範囲の広い謙譲語IIの形」を求める心理が潜在的にあって、そこに「させていただく」が入り込もうとしているのです。(P.196)
つまりそのなんだ。こういうのを読んでしまうと、「プチ発見」のはずが単なる勉強不足になるってことだ(泣)。
================引用終了
Yahoo!知恵袋だと下記のBAが参考になると思います。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1362602693
下記もご参照ください。
【法則10 ベタベタ敬語ナンバーワン「させていただく」は控えめに】
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20120416/122404/
【事例3】246)【「やる」 「あげる」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1378.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1523098273&owner_id=5019671
================================
2 世代や性による敬語意識の多様性
言葉遣いや言葉についての考え方は,世代によって,あるいは性によって異なる場合が少なくない。敬語の使い方や敬語についての考え方もその例外ではない。
例えば,「植木に水をあげる」と言うか「植木に水をやる」と言うかについて,文化庁「国語に関する世論調査」(平成18年2月調査)においては,「あげる」と言う男性回答者の割合は,10代・20代では30~40%台であるのに対して,50代・60代以上では5~10%台であって世代による違いが見られる。同じ質問について女性回答者は,多くの世代において「あげる」と答えた人の割合が男性より高いが,同時に男性と同様の世代差も見られる。また「ふだん「弁当」という言葉に「お」を付けるかどうか」について「お弁当」と言うと回答した人の割合は,すべての世代を通じて,男性は10~30%台にとどまるのに対して,女性はすべての世代で約70~80%台の高い割合である。
こうした敬語の使い方についての世代や性による違いに関して,本指針は以下の2点を指摘する。
一つは,敬語の使い方の違いには,その敬語についての理解や認識の違いが反映していることを考慮すべきだということである。例えば,「植木に水をやる」を適切な言葉として選ぶ人は,「あげる」に謙譲語的な旧来の意味を認め「植木」はその種の言葉を用いるべき対象物ではないと考えている可能性がある。一方,「あげる」を使うと答える人は,この語の謙譲語的な意味が既に薄れていると考え,同時に「やる」という語に卑俗さ・ぞんざいさを感じてこれを避けている可能性がある。現代は,この二つの考え方が言わば拮抗している時代であろう。「植木に水をあげる」という場合の「あげる」は,旧来の規範からすれば誤用とされるものであるが,この語の謙譲語から美化語に向かう意味的な変化は既に進行し,定着しつつあると言ってよい。
敬語の使い方や意見の異なりを考える際,例えば「あげる」と「やる」についての理解や認識にこうした違いがあるように,それぞれの使い方や意見のよりどころとなっている別の理解や認識があること,つまり,自分自身とは異なる感じ方や意見を持つ人が周囲にいることに留意する必要がある。
================================
ところで、この文化庁の「敬語の指針」はどこまで信用できるのだろう。
少なくとも〈「参る」や「申す」は,謙譲語IIに当たる敬語である〉はおかしい。「申す」は謙譲語のこともあれば、そうでないこともある。「申し上げる」の形にしないと、謙譲語とは言いきれないはず。
「お申し出」の類いが謙譲語でないのは、複合語だからではなく、「申す」自体が謙譲語でないことがあるからだと思う。
【事例4】337)【「ご持参ください」は失礼な言い方か】Yahoo!知恵袋
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1637.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1622163409&owner_id=5019671
================================
(前略)「参る」や「申す」は,謙譲語IIに当たる敬語である。しかし,「御持参ください」,「お申し出ください」,「お申し込みください」などといった表現の中に含まれる「参る」や「申す」は,謙譲語IIとしての働きは持っていないと言ってよい。したがって,これらの表現を「相手側」の行為に用いるのは問題ない。
================================
【事例5】413)【「~ない」形の形容詞の迷宮──【2】「とんでもございません」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1814.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1674741224&owner_id=5019671
=====================================
実は、H15年度、文化庁が「とんでもございません」が気になるかどうか調査したところ、およそ7割の人が「気にならない」と答えたのです。これらのことから、文化庁はH19年2月「敬語の指針」の中で、【褒められたことに対し、謙遜して否定する場合の言い方としては、問題がない】と発表しました。
=====================================
文化庁が認めたのでは、「誤用とはいいきれない」と考えるしかないのでしょう。
しかしながら、個人的には当分は認めたくありません。自分では使わないし、校正の仕事で目にしたら、修正します。ただ、世の趨勢がそこまで来ていることは覚えておくことにします。
個人的には、
「申し訳ございません」は誤用とはいえない(自分で使うのはできるだけ避ける)
「とんでもございません」はほとんど誤用(自分では使わない)
と考えることにします。下記のトピをご参照ください。
【事例6】443)【「召し上がってください」「お召し上がりください」は二重敬語か】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1855.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1691635798&owner_id=5019671
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(2) 「二重敬語」とその適否
一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。例えば「お読みになられる」は「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で,更に尊敬語の「……れる」を加えたもので,二重敬語である。
「二重敬語」は,一般に適切ではないとされている。ただし,語によっては,習慣として定着しているものもある。
【習慣として定着している二重敬語の例】
・(尊敬語)お召し上がりになる,お見えになる
・(謙譲語I)お伺いする,お伺いいたす,お伺い申し上げる
================================
こんな書き方でわかるのかな。
Wikipedaのように「不規則動詞一覧」をつけてくれないと誤解されるよ。そうでなくても、当方のレベルだと「同じ種類の敬語」ってあたりで躓きかける。
たとえば、「召し上がりました」は「召し上がる」(尊敬語)+「ました」(丁寧語)だから二重敬語ではないってことだろう。
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈2〉
mixi日記2013年01月27日から
【事例7】突然ですが問題です【日本語編2】──「お疲れさまです」「ご苦労さまです」 解答編
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1300.html
================引用開始
3 「ねぎらい」と「褒め」の問題
【27】 時間外に仕事を教えてくれた上司に「どうも御苦労様でした。」と言ったら,「御苦労様はないだろう。」と笑われてしまった。それで,書類作成に追われた上司が帰る時には「御苦労様」以外の言い方を考えてみたのだ が,適切な表現が浮かばず,そのままになってしまった。そういう気持ちを表したい場合には,どうすれば良いのだろうか。
【解説1】仕事について教えてくれた上司に対しては,「どうもありがとうございました。 (大変助かりました。)」と感謝の表現にすれば良い。また,書類作成に追われた上司に対しては,「(本当に)お疲れ様でございました。」などと言えば良いだろう。
【解説2】「御苦労様」は,基本的には,自分側のために仕事をしてくれた人,例えば, 配達をしてくれた店員などに対して,「ねぎらい」の気持ちを込めて用いる表現である。(なお,このような場合に「お疲れ様」と言うのは不自然である。)ねぎらいは, 上位者から下位者に向けたものとなるため,目上の人に対しては,「御苦労様(でし た)」を用いない方が良い。
これに対し,「お疲れ様」は,「ねぎらい」の気持ちを込めて使われる表現ではあるが,一緒に仕事をした後など,お互いに声を掛け合うような場合にも多く用いる表現 である。(なお,このような場合に「御苦労様」と言うのは不自然である。)そのよう な状況であれば,「お疲れ様」ではなく「お疲れ様でございました」などを用いると いうような丁寧な言い方であれば,だれに対しても使える表現である。したがって, 仕事上の上司であっても使うことができる。
要するに,時間外に仕事を教えてくれた上司に対しては,「御苦労様でした」というねぎらいの言葉ではなく,「ありがとうございました」と感謝の気持ちを表す言い方に変えた方が良く,一緒に書類作成に追われていた上司に対しては,「お疲れ様で ございました」と,気持ちを込めて表現すれば良いわけである。
ただし,このような定型的な表現ではなく,例えば「おかげ様で仕事が少し分かる ようになってきました。」などと,別の観点に立った表現を使うことで,上手に自分の気持ちを相手に伝えることも可能である。(P.45~46)
================引用終了
「敬語の指針」の最後の段落部は正論だけど、わざわざこんなことを書く意味があるのだろうか。
「可能ではある」けど、独自の言い方をするのがむずかしいから、こういう「定型的な表現」が求められているのでは。その「定型的な表現」のなかで何が適切か、何が無難かということを説明した結論がこれって……。
「AとBのどちらがいいですか。ほかにいい言い方はありませんか」
という質問に対して、
「そんな紋切り型ではなく、独自の言い方を工夫しましょう」
って答えてるんだよな。スパルタ式だな~。
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈3〉
「敬語の指針」ってあんまりにも長いもんで通してマジメに読む気にならないけど、やっぱいろいろヘンなとこがあるみたい。
【事例8】「敬語の指針」P.39に下記の記述がある。
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf
================================引用開始
4 自分側に「お・御」を付ける問題
【16】自分のことに「お」や「御」を付けてはいけないと習ったような気がするが,「お待ちしています」や「御説明をしたいのですが」などと言うときに,自分の動作なのに,「お」や「御」を付けるのは,おかしくないのだろうか。
これは,どう考えれば良いのだろうか。
【解説】自分側の動作やものごとなどにも,「お」や「御」を付けることはある。自分の動作やものごとでも,それが<向かう先>を立てる場合であれば,謙譲語Iとして,「(先生を)お待ちする。」「(山田さんに)御説明をしたい。」など,「お」や「御」を付けることには全く問題がない。また「私のお菓子」など,美化語として用いる場合もある。
「お」や「御」を自分のことに付けてはいけないのは,例えば,「私のお考え」「私の御旅行」など,自分側の動作やものごとを立ててしまう場合である。この場合は,結果として,自分側に尊敬語を用いてしまう誤用となる。
================================引用終了
【20190407一部を書きかえました】
詳しくは下記をご参照ください。
https://ameblo.jp/kuroracco/entry-12452630150.html
これ相当マズいんじゃない?
大前提として、自分の行動や持ち物につく「お/ご」は2種類あることを説明するべきでは。
まず、動詞について謙譲語になる場合。
もうひとつは、名詞について謙譲語や美化語になる場合。
↑の説明が悪いのは、美化語と謙譲語の説明がないこと。
「結果として,自分側に尊敬語を用いてしまう誤用」がどういうことか、この説明でわかるのだろうか。
たとえば、「お考え」。「先生のお考え」なら尊敬語で問題がないだろう。「私のお考え」の場合は美化語とも謙譲語とも考えにくい。そうなると、「自分側に尊敬語」を用いているような感じになるので「誤用」になるということなんだろう。
かなり言葉足らずだと思う。
名詞につく「お/ご」は尊敬語、謙譲語、美化語の3通りがある。いずれの場合も「お/ご」がつきにくい言葉がある。これはある程度は理屈をつけられるが、最終的には「慣習」によるとしか言いようがない。詳しくは『敬語再入門』の詳細なリストを見てほしい。
ただ、名詞につく「お/ご」は、尊敬語か美化語か不明のものや、謙譲語か美化語か不明のものもある。さらに言えば、美化語の適否は使い手の性別やキャラクターにかかわってくるので、一概には判断できない。
■相手側の事物につく場合
基本的には、尊敬語と考えるのがわかりやすい。美化語とまぎらわしいものもある。
■自分側の事物につく場合
1)相手に関わる事物
基本的には、謙譲語と考えるのがわかりやすい。これも美化語とまぎらわしいものもある。「相手に関わる事物」はやや曖昧だけど、ほかに言いようがない。
「敬語の指針」の〝<向かう先>を立てる場合〟がわかりやすいと思う人は、そちらで考えてもいい。
『敬語再入門』は〈「主語」「補語」「高める」をキーワードにして説明〉している。こちらのほうがわかりやすいと思うが、あまりにも長すぎて引用できない(泣)。
2)相手に関わらない事物
謙譲語ではないので美化語になる。美化語の適否は相当微妙な例が多数ある。
少しだけ具体例をあげておく。
たとえば、「敬語の指針」に出てくる「私の御旅行」(「御」は相当イヤなので、以下は「ご」と書く)。
たしかに「私のご旅行」は基本的に×だろうが、下記ならどうだろう。
「わたくし、来月お友達とご旅行にいきますのよ」
言葉遣いの丁寧な(ある程度の年の)女性なら、この程度の言葉は使うのでは。
「お友達」も「ご旅行」美化語だろう。「敬語の指針」が「私の御旅行」を誤用としている理由はわからない。
あるいは、「おビールをお持ちしました」。
外来語に「お/ご」をつけるのは間違いと主張する人もいる。原則的にはそうだと思うが、客商売では「おビール」のほうがフツーでは。「お酒」もフツーだろう。しかし、「おウイスキー」「お焼酎」 とは言わない。このへんは「慣習」としか言えない。
で、「おビール」の「お」はなんなのか。
一般には美化語だろう。「暑い時期のおビールはホントにおいしい」と呟く人もいるだろうしね。
しかし、「お客様のおビール」と考えるなら尊敬語だろう。
支払いが済むまでは、店に所有権があると考えるなら謙譲語?
正体は不明だが、小料理屋の女将さんやクラブのママさんが「おビールをお持ちしました」と言うなら、別に不自然とは思わない。
でもね。苦み走った板さんや、バーの渋いマスターが「おビールをお持ちしました」と言ったら、相当不気味だろう。まぁ、それでも間違いではないだろうが。
名詞につく「お/ご」だけでもこんな感じになる。動詞につく「お/ご」に関してはもっとたいへんなことになる。それは↑に書いた【自分の行動などにつく「お/ご」】 あたりで許してほしい。
下記の「おみやげ」とか「手紙」との違いを説明するのはけっこうむずかしいかも。
【自分の行動などにつく「お/ご」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2437.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1859751167&owner_id=5019671
2)名詞につくもの
名詞につく「お/ご」も尊敬語と考えられがちだが、謙譲語のときと、美化語のときがある。
たとえば、「先生からのお手紙」の「お」は尊敬語。これが「先生へのお手紙」になると手紙を書いたのは自分だから、「お」は謙譲語になる。
「近頃の若い方はメールばかりで、お手紙なんてお書きにならないようです」なら、美化語だろう。これは過剰敬語気味か。
『敬語再入門』のP.124に、もっと適切な例がある。
================================引用開始
なお、一つの語がいくつかの用法をもつ場合もあります。§48では、「お手紙」のように尊敬語・謙譲語I両方の用法をもつ主な語をリストしましたが、その中でも「おみやげ」などは、「先生からのおみやげ」(尊敬語)・「先生へのおみやげ」(謙譲語I)のほか「子どもへのおみやげ」のように美化語としても使います(あるいは、初めの二つも美化語と見てしまったほうがよいのかもしれません)。(P.124)
================================引用終了
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈4〉
「敬語の指針」に関するメモ。
一般に「敬語の指針」と呼ばれているもののほかに、「叩き台」「答申案」がネット上に転がっているらしい。どこがどう違うのかは知りません(笑)。
■「敬語の指針(たたき台)」(平成18年11月○○日 文化審議会国語分科会報告案)
http://www.bunka.go.jp/1kokugo/pdf/keigo_shouiinkai181002_siryou_2.pdf
■「敬語の指針(答申案)」(平成19年1月15日 文化審議会国語分科会)
http://www.bunka.go.jp/1kokugo/pdf/kokugo_bunkakai190115_siryou2.pdf#search='%E6%95%AC%E8%AA%9E%E3%81%AE%E6%8C%87%E9%87%9D+%E7%AD%94%E7%94%B3%E6%A1%88'
■「敬語の指針」(平成19年2月2日 文化審議会答申)
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf
「敬語の指針」に基づいてつくられたと思われるサイトが下記。動画が見られなくなったのは残念だが、動画部分の下の〈「敬語の基本」理解度チェック〉をたどるとわかりやすい解説がある。
■敬語おもしろ相談室
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/keigo/index.html
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈5〉
Googleのコーパス?的な利用法 直裁 直截 お揃いですか お運び漏れ〈1〉~〈3〉
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3020.html
(2014年05月29日)
【事例9】
1)【「敬語の指針」】(P.50)平成19年(2007年)2月
検索でヒットするのは、【第五話「間違いやすい敬語(2)」 ~尊敬語あれこれ】だが、ほぼ同じ内容なので、「敬語の指針」をひいておく。
http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/keigo/guide.pdf
================引用開始
6 いわゆる「マニュアル敬語」の問題
【解説1】「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか。」という表現は,敬語が誤っ て使われている。「お......になる」というのは尊敬語の形であるため,「おそろいにな る」では「御注文の品」を立てていることになってしまうからである。したがって, 「御注文の品は,そろいましたでしょうか。」,あるいは「御注文の品は,以上でよろ しいでしょうか。」などと言えば良いだろう。
【解説2】マニュアル敬語は,言葉の上のサービスの質を,ある水準に保つために考えら れている。したがって,そのような敬語を使う人が,それぞれの言葉に,どのような 気持ちが込められているのかをよく考えれば,その有効性が期待できるものである。 ただし,それを真に生かすためには大切な条件がある。使う側,また指導する側が, マニュアルという「型」を基礎としながらも,絶えず表現について考え,工夫を重ね ていく姿勢を持つことである。マニュアル敬語にかかわる問題の多くは,この実践の 欠如に起因すると言えるだろう。
しかし,こうしたマニュアル敬語は,アルバイトの若者や,彼らが働くレストラン やコンビニエンスストアなどだけに特有の問題では決してない。敬語の使い方に問題 はなくても,お客の顔を全く見ないまま接客を済ますなど,態度が言葉を裏切ってい る大人も世の中には少なくない。形だけの敬語では,敬意は伝わらない。相手の表情 や動作ににじみ出た気持ちを察知する,相手の言葉にしっかり耳を傾ける,そしてそ の場面の意味と相手の気持ちを十分に踏まえた上で,敬意を言葉に乗せて表す,その ような姿勢を持つことが何よりも大切だと言えよう。
================引用終了
さらに根本的なことを書くと……。
1)【「敬語の指針」】(P.50)平成19年(2007年)2月 の書き方はあまりにもホニャララじゃないか?
だって、テーマは「マニュアル敬語」でしょ? なぜ「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか。」の話になる。これだけを対象に、「マニュアル敬語」について語る気か? まさか。
しかし【解説2】を読むに、その「まさか」らしい。これって、「マニュアル敬語」の解説になっているのかな。〈マニュアルという「型」を基礎としながらも,絶えず表現について考え,工夫を重ね ていく姿勢を持つことである〉……ある意味名言だな。そのとおりだと思う。で、マニュアルってどういうものだかわかっているのだろうか。そんな姿勢が必要だと、マニュアルにならないと思うよ。
文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題〈6〉
747)【「ご挨拶にお伺いさせていただきます」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2357.html
mixi日記2012年04月03日から
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1835110167&owner_id=5019671
テーマサイトは下記。
【これって正しいですか? 「ご挨拶にお伺いさせていただきます」】
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1383384438
テーマトピは下記。
【「ご挨拶にお伺いさせていただきます」はなぜヘンな言い方ですか】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=68622653
当方が立てたテーマトピの「0」を一部省略して転載する。
================================引用開始
「ご挨拶にお伺いさせていただきます」はなぜヘンな言い方ですか
下記のサイトを読んで疑問に思いました。
【これって正しいですか? 「ご挨拶にお伺いさせていただきます」】
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1383384438
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
2)ご挨拶にお伺いいたします
3)ご挨拶にお伺いします
4)ご挨拶に伺わせていただきます
1)~4)のうち、どれがダメな二重敬語で、どれが許容されている二重敬語で、どれが「くどい言い方」なのでしょうか。
================================引用終了
テーマサイトに出てきた4つの例文について考える。どれも「間違い」ではないはず。当然どれが「正しい」という問題でもない。ただ、細かく見ていくとちょっと(では済まない?)違いがあって、どこまで許容できるのかは個人差があるだろう。
Yahoo!知恵袋を読んでやや混乱した。2)~4)は修正案として提示されているのだが……。
トピにいただいたコメントを読んでかなりわかったような気がする。いただいたコメントを参考(誤用?)にしつつ(「いいとこ取り」とも言う)、例によってクダクダと書いていく。
「原形」とも言えるのが「伺う」。
■Web辞書『大辞泉』から
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=%E4%BC%BA%E3%81%86&stype=0&dtype=0
================================引用開始
うかが・う〔うかがふ〕【伺う】
[動ワ五(ハ四)]《「窺う」と同語源。目上の人のようすをうかがいみる意から、その動作の相手を敬う謙譲語となる》
1 「聞く」の謙譲語。拝聴する。お聞きする。「おうわさはかねがね―・っております」
2 「尋ねる」「問う」の謙譲語。「この件について御意見をお―・いします」
3 「訪れる」「訪問する」の謙譲語。「明朝、こちらから―・います」
4 神仏の託宣を願う。「御神託を―・う」
5 《「御機嫌をうかがう」の意から》寄席などで、客に話をする。また、一般に、大ぜいの人に説明をする。「一席―・う」
[可能] うかがえる
================================引用終了
例文になっているのは〈3 「訪れる」「訪問する」の謙譲語。〉だろう。より厳密に言うと謙譲語I。
これを謙譲語Iの「お~する」と組み合わせたのが「お伺いする」。通常ならバキバキの二重敬語だが、一般には許容されている。
629)【文化庁「敬語の指針」に対する言いたい放題】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1798665663&owner_id=5019671
「敬語の指針」p.30から====================引用開始
(2) 「二重敬語」とその適否
一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。例えば「お読みになられる」は「読む」を「お読みになる」と尊敬語にした上で,更に尊敬語の「……れる」を加えたもので,二重敬語である。
「二重敬語」は,一般に適切ではないとされている。ただし,語によっては,習慣として定着しているものもある。
【習慣として定着している二重敬語の例】
・(尊敬語)お召し上がりになる,お見えになる
・(謙譲語I)お伺いする,お伺いいたす,お伺い申し上げる
================================引用終了
「お伺いする」だけではなく「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」まで許容されている。「習慣として定着している」か否かの基準は不明。
2)ご挨拶にお伺いいたします
3)ご挨拶にお伺いします
は文化庁が許容したものを丁寧語(~ます)にした形なので、「許容されている二重敬語」ってことになる。
ちなみに「お伺いいたす」は「伺い」+「お~する」+「~いたす」の三重構造と考えることもでき、この段階でクドいと言えば相当クドい。
二重敬語のうえに三重構造は×、と考えることもできる。その一方で、文化庁が許容しているから○、と考えることもできる(たしかに「定着している」って気はするし)。
「お伺いいたす」を〈「お伺いする」+「~いたす」〉と考えると、「拝見いたす」(「拝見する」+「~いたす」)と同様と言えなくはない。三重構造の「お伺いいたす」に相当するなら「ご拝見いたす」ではないのか、って話は無視する。
4)ご挨拶に伺わせていただきます
「伺う」+「させて」+「いただく」+「ます」
これは「ご挨拶に」を除くと「拝見させていただきます」と同様と言ってもよいだろう。
伺う→「訪れる」の謙譲語I
させて→使役などの意味の助動詞「させる」の連用形+助詞「て」
いただく→「もらう」の謙譲語I
ます→丁寧語
「敬語連結」であって「二重敬語」でさえない。その意味では非難される理由はない。
悪名高き「させていただく」が使われているが、「訪れる」ことに関する許可を求め、そのことによって「受益」がありそうだから問題はないだろう。ただ、これがオススメできるかと言うと疑問。
【関連トピ紹介】10──敬語の話2 「~させていただく」は是か非か
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=45983063
2)と4)に関しては、「拝見いたします」「拝見させていただきます」と微妙に関係していると思う。下記のコメント[4]までを参照してほしい。[5]以降はお好みで……。
【「拝見する」の使い方──「拝見いたします」「拝見させていただきます」は二重敬語?】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=67150294&comm_id=398881
最後は元々の例文。
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
これは4)の「伺う」を「お伺いする」(許容されている二重敬語)にかえたもの。
文化庁が許容しているのだから、「間違い」とは言えない。ただ、これは4)よりもさらにクドい(はず)。
ここから先は当方の主観(いえその、ここまでも主観が入っているけど……)。
質問したトピでは、ほぼ全員が「ご挨拶に伺います」派。Yahoo!知恵袋に出てきた例文は全滅(笑)。みなさん厳しい。「ご挨拶に」が影響している観もある。
最もシンプルな形とも言える「5)ご挨拶に伺います」を加えて比べてみる(Yahoo!知恵袋にこの形が出ていないのはなぜなんだろう)。
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
2)ご挨拶にお伺いいたします
3)ご挨拶にお伺いします
4)ご挨拶に伺わせていただきます
5)ご挨拶に伺います
このうち、1)2)3)は許容されている二重敬語を含む。たとえ許容されていても二重敬語は避けるべき、という考え方もアリだろう。
クドさの程度で考えると、たぶん以下のようになる。下に行くほどクドくなるという意味。二重敬語を使っていない4)の位置づけは微妙かも。
5)ご挨拶に伺います
↓
3)ご挨拶にお伺いします
↓
2)ご挨拶にお伺いいたします
↓
4)ご挨拶に伺わせていただきます
↓
1)ご挨拶にお伺いさせていただきます
個人的な感覚では、3)が許容できるか否かの境界線で、2)はアウトだろう。このへんはかなり微妙で、過剰気味の敬語が蔓延していると、5)では敬度不足ととられかねない。
これが「ご挨拶に」を「明日、(読み方は「みょうにち」もしくは「あす」。この文脈だと「あした」はちょっとヘン)」にすると、敬語の重複感が軽減するのでちょっと事情がかわる。「明日、」だったら、3)は許容範囲で、2)も相手によってはアリかも、って気になる。
敬語の重複感に関して『敬語再入門』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1824714512&owner_id=5019671は下記のように書いている。著者は「敬語の指針」を作成した(主要)メンバーのひとり。この本は信頼してるんだけどさぁ……。
================================引用開始
このように、各語がそれぞれ敬語になり、それをつなげただけのものは、二重敬語と呼ぶべきものではありません。実際、「お読みになっていらっしゃる」は正しい敬語です。「お嬢様はお手紙をお書きになっていらっしゃる」も、四つの別の敬語をつなげただけで、四重敬語などとは言いません。この文も、多少くどくはありますが、問題のない敬語で、言葉の丁寧な人なら、この程度の敬語は使います。(P.148)
================================引用終了
やはり個人差は大きい(笑)。こういう風に言われちゃうと……たぶん「言葉の丁寧な人」なら「ご挨拶にお伺いさせていただきます」程度の敬語も使うんだろうな。
少なくとも「敬語の指針」や『敬語再入門』を見る限る、「お伺いいたす」は許容範囲だし、「ご挨拶」や「させていただきます」との併用を×にする根拠はない気がする。そうなると、「クドい」「クドくない」は個人の好みで判断するしかない、ってことになるのだろうか。
「ご挨拶にお伺いさせていただきます」は相当クドくて相当ヘンだと思う。Yahoo!知恵袋でもmixiのトピでも、細かい点は別として、これを支持している人はいない。でも……ちゃんと説明するにはかなりの力業が必要になりそう。なんかハガユい。
結論。
やっぱり文化庁の「敬語の指針」は嫌いだ。(←オイ!)