イチロー、カムバック!
馬に乗って去って行く男の背中に向けて少年が叫ぶ「シェーン、カムバック」。西部劇の名作『シェーン』のラストシーンであるが、このシーンにつては様々な捉え方が存在する。
つまりシェーン死亡説の話しであるが、それは置いといて、イチローの電撃移籍で多くのファンやそうでない人たちも一様に驚いていた。
イチローのファンからしてみれば「イチロー、カムバック!」に違いない。シアトルのセーフコフィールドで行われた移籍会見を見て、彼の頭が余りにも白い事にも驚かされたが、38歳にしてこれほど白髪が多いのはメジャーリーグで活躍して来た11年間がわたしたちの想像を遥かに超える過酷なものだった事を窺わせている。
身体の大きな大リーガーの中にあって、イチローはどちらかと言えば、小柄で華奢な体格であるが、その彼の何処に年間200本も安打を打つエネルギーがあるのだろうか。
もちろん彼の優れたバッティングセンスと、ボールを獲物の如く狙い撃つ野生の鋭い眼光を持ち合わせているからであるが、それ以上に彼自身を支えて来たのは、人並みならぬ練習量にあるからだ。
天才バッター、安打製造機と異名を取るその背景に、人には見せない彼の涙ぐましい努力があったからこそである。
ヤンキースへの電撃移籍は、若手投手2人と金銭による交換であるが、会見では自らトレードを希望したと話している。
然しながらその実情は若干異なっている。地元紙がイチローに対するアンケートを実施したところ、1番起用が28%、下位打順で使うが38%、クビ或いはトレードに出すが30%もあったと言う。
地元での評価がそれだけ低いのが現実だったのである。ある意味でプライドが高い故、自分からトレードに出るという結果になったものと思われる。
ブラッド・ピット主演の映画『マネーボール』を最近観る機会があったのだが、イチローが活躍しているシーンが盛り込まれていた。
2000年代初頭のメジャーリーグに於いて、財力のある球団と貧困球団の格差を描いたストーリーであるが、日本のプロ野球に例えれば、読売巨人軍が一時、金にものを言わせ優良な選手ばかりを集めて選手全員が4番バッターと言う、打線重視のチームになったが優勝は出来なかったという苦い経験があり、9人野球のチームワークが如何に重要かを見せ付ける結果となった。
つまり金の力で優れた選手を集めても、チーム全体が力を発揮する訳ではない事を実証しているのである。
連続200本安打、ゴールドグラブ賞も途切れたイチローは、確かに衰えを隠す事は出来ない。年齢に付いて回る体力や気力などはスポーツの場合、顕著な形でそのプレーに反映されてしまう。
されど、11年間マリナーズに貢献して来た彼の功績は揺ぎ無いものであり、誰も彼のプレーを真似する事は出来ない。
今季で契約が切れるマリナーズにとってみれば、イチローのトレード志願は『大海で浮木に出会う』心境であった筈だ。
球団は違えど、新天地のヤンキースでヒットを重ねて行く彼の姿を誰もが見たい筈である。イチローにとっての野球人生第3ラウンドのゴングが今、鳴ったのである。
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