龍神様と蓮の花。
東京に40年ほど住んでいるがこれまで上野の不忍池に一度も訪れる事はなかった。子ども達がまだ幼い頃には上野動物園に家族4人で時々出掛ける程度だった。不忍池に特別な興味もなかったのだが、SNSに投稿された写真の中に蓮の花が多く目立っており、その清らかで神秘的な美に魅入られてしまい自分もカメラに収めたくなった。チューリップの時もそうだった様に蓮の花を私はまだ一度も撮った事がない。何処へ行けばあの美しいピンクの花を撮る事が出来るだろうかと、その日から頭の中は蓮の花で一杯になった。
ネットで調べるとトップに表示されたのが不忍池だった。蓮自体は私の故郷である藤枝の『蓮華寺池』が地元では有名で、子どもの頃、池に入り蓮の実を取ってオヤツ代わりに食べていた事を思い出す。極貧でその日の食事もままならないいつも腹を空かせて涙を流していた小学生だった私。蓮の実を生のまま口に放り込んでいたが、それだけで空腹が満たされる訳もなく乞食のような日々だった。それでも栄養価の高い蓮の実のお陰で苦難を乗り切る事が出来た部分もあったのだろう。まさに『仏様の花』である。
天気も上々で申し分のない撮影日和。レンズを2本携えて不忍池へと出掛けた。初めて眼にする池は想像していたより遥かに広かった。池一面に蓮の緑で埋め尽くされて、肝心の蓮の花が見つからない。「時季が早すぎた?遅すぎた?」とイメージ通りの花を発見出来ず途方に暮れてしまった。それでも折角ここまで来たのだからと、辯天堂に寄ってお参りしてから帰ろうと思った。
辯天堂の少し手前の左の方に手水舎があるのに気付き、その龍神に向けてシャッターを切った。撮影を終えた後、龍の口から流れ出る水で手を洗い口に含み身体を清める気分に浸った。ここで花音痴である私の無知がまたもさらけ出てしまったのだが、蓮の花は午前中に開花し、午後には閉じてしまう事を初めて知った。こちらの都合に合わせて咲いてくれる花ばかりではない事を改めて痛感した。
因みにアップした蓮の花の写真は不忍池ではなく『小石川後楽園』にて撮影したものである。近づいてアップで撮りたかったが池に入る訳にもいかず、タムロンの300mm望遠レンズで撮影した。レンズの圧縮効果が前ボケ後ボケを演出してくれており、まさに神秘的・幻想的な蓮の花となってくれた。