2025-05-05

君はYouTubeで最も再生されたボカロ曲を知っているか

突然ですが、YouTubeで最も再生されたVOCALOID楽曲Nyan Catのような二次創作を含まない)を知っていますか? ボカロ出身有名人である米津玄師やAyase(YOASOBI)のボカロ曲のどれかでしょうか? ボカロブームきっかけとなった「みくみくにしてあげる♪」「メルト」でしょうか?

ハチ米津玄師)さんの曲では「Persona Alice」が一番好きです。「マトリョーシカ」以降は、メジャー作品を含めて正直苦手です。アルバムとか買えば昔のような落ち着いた作風楽曲もあるのでしょうか?

メルト」は好きですが、当時の荒れたボカロ界隈に独特なサムネを引っ提げて颯爽と表れた「ハト」の方が印象に残っています。可愛らしいメロディに加え、リズミカルでいて意味深歌詞、それをどこか間の抜けた初音ミク歌声で響かせる動画雰囲気が好きでした。元動画は消されてしまいましたが……。

正解は椎名もたさんの「少女A」です。再生回数は2025年5月時点で1.4億回以上。その経緯はいくつか分析がありますのでそちらに譲りますが、初見で当てられる人はほとんどいないのでは。

私は2008年から2016年までの長きにわたってボカロにドハマりし、10,000曲以上を聴いてきましたが、「少女A」あるいは椎名もたさんはその中でも特別意味を持ちます。私の中でうまく消化できなかった澱みのような何かについて言語化する機会も場所もなかったのですが、「少女A」という文字列YouTubeでの再生数とともに私のXのタイムラインに流れつき、当時の想いが蘇ってきたのでここに供養します。


話は2008年まで遡ります。当時の私はニコニコ動画の魅力に取り憑かれつつも、「みくみくにしてあげる♪」に代表される最初期の初音ミクブームを白い目で見ていましたが、「メコノプシス・ベトニキフォリア」(2008年・ちゃぁさん)を聴いた瞬間に衝撃が走りました。エレクトロニカというジャンルすら知らなかった私には、嗜好を捻じ曲げるだけの破壊力がありました。それから狂ったようにエレクトロニカタグを追い、「Parallel Lines」(2008年・ボッチさん)などを四六時中聞いているうちに「Chaining Intention」(2008年・Treowさん)「虹」2008年・CleanTearsさん)と、関心領域が広がっていきます

追い打ちをかけるように、「snow knows」(2008年・zddnさん)を聴いて二度目の衝撃を受けました。電子音のようなボカロ声をロックに合わせる試み。完成度の高いギター洪水。これに参らないわけがない。「参月の雨」(2009年えこまるさん)などを経て、射程はシューゲイザーからオルタナティブロックさらにはロック全般へと到達し、気づけば四つ打ちポップから前衛音楽まで全てを守備範囲とするボカロオタクの完成です。

毎日のように知らない扉が開く日々はまさしく青春。今思えば、レコードショップCDショップで一日中試聴して過ごす若者はこんな想いだったのでしょう。当時のマイリストを見ると、私のボカロ熱の最盛期は2009年2012年頃だったようです。わかりやす学生時代です。なんと自堕落な。


私が椎名もた(ぽわぽわP)さんを知ったのは、「ストロボハロー」(2010年)でした。主張しすぎない落ち着いたオケの中で、繊細かつ内向的言葉選びにオリジナリティを感じました。「Equation+**」(2010年)「そらのサカナ」(2010年)と、音と言葉の引き出しが増えていき、「ストロボラスト」(2011年)にて一種の到達点とも言える完成度となります

その後、少し間を空けて「怪盗・窪園チヨコは絶対ミスらない」(2011年)が発表されましたが、バンドサウンドを強調した音作り、あっけらかんとした歌詞と、急に作風が変わったことに驚きました。もちろんところどころに椎名もたさんを感じるのですが、興奮や称賛よりも、心配が勝ったのを覚えています。ただし「パレットには君がいっぱい」(2012年「Q」2013年)といった、エレクトロニカロック絶妙バランスと、飛び抜けた言語センスが光る楽曲が続き、私のお気に入りは増えていきました。

大好きだったのは冒頭の「少女A」(2013年)です。後期の作風が色濃く出つつも、歌詞は切れば血のでるような生々しい若者の歪みが見事に表現され、特にサビの緩やかな入りからの叩きつけるような叫び思春期のもの。当時は(椎名もたさんの他の楽曲に比べれば)再生数が伸びないのが不思議でした。そしてその後、仕事が忙しくなってニコニコ動画を開く時間が少なくなり、だんだん新曲を探す機会は減っていきました。


椎名もたさんの訃報に接したのは、2015年Twitterタイムラインでした。情報源は噂話などではなく、椎名もたさんの所属レーベルからリリース。疑う余地はありません。1年ほど椎名もたさんの新曲を聴いていなかったことに気づき椎名もたさんのマイリストアクセスすると、遺作となった「赤ペンおねがいします」が。さらなる衝撃。椎名もたさんのものとはとても思えない、雑で単純な捻りのないオケ初音ミクの気の抜けた調声。抽象的というより意味不明な歌詞素人感想ですが、私にはそう感じました。精神的または肉体的な崩壊を感じました。椎名もたの崩壊を確かに感じました。椎名もたは死んだ。これほど他人の死を強く感じたことはありません。ただ、「死」を感じました。

さらにショックだったのが友人のツイート。「ぽわぽわPの死亡というニュースは、不謹慎だが頭をPの文字表現された漫画上の人物が死んだというニュースのようで笑ってしまう」。それまでの人生思索の全てを音楽昇華して注ぎ込んできた人間への言葉としてとても受け入れ難く、とはいえ普段ボカロを聴かない友人に悪意はなく、ただただやるせなさのような、哀しさのような、共感してくれる人のいない思いだけが残りました。

その後、仕事はひと段落しましたが、以前のようなボカロ熱が復活することはありませんでした。


結婚して子供ができて、人生観とワークライフバランスが大きく変わった今、改めて「少女A」を聴いてみて、とても良い曲だと感じました。椎名もたさんの動画説明文のとおり、タンバリンを叩いて楽しみたい。カラオケでも配信されているようなので、家庭が落ち着いたら、いつの日かカラオケに行ってみようと思います。大声で歌いながら、タンバリンを叩きながら、少しだけ自分青春と、椎名もたさんの生涯に思いを馳せて。


僕が僕であるために

  • 中森明菜じゃないのか… 『ストロボライト』しか知らない(聴かない)や 次は円盤P(鈴鳴家)さんのことを書いてください

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