端緒は浅田彰あたりなんでしょうかね。
「ポストモダン」という言葉が一般化したのは、彼が『構造と力』でニューアカデミズムの旗手として鮮烈にデビューしたあたりからなのかな、という印象があります。
元々はフランス現代思想の流れの中で出てきたキーワードだけど、それが日本に根づいたのはニューアカブームを無視しては語れないでしょう。
現代社会はポストモダンである、と。
所詮は後追いなので、当時の雰囲気がどういうものだったか、私が知るよしもありませんが。
多分、完全に理解して使用としている人ってそんなにいないと思うけど、なんとなく「ポストモダン」と言ってみると時代を的確に捉えているような幻想を抱くことができるようです。
それに続く『逃走論』ではそうした状況から読者に「逃げろや逃げろ」と煽っていたんだけど、逃げた先にあるのも現代社会です。
大月隆寛は「80年代はスカだった」と喝破して、一部で反響を呼んだのですが、少なくとも日本の文化に限って言えば、70年代に発生した文化よりも80年代に発生した文化のほうが根強く残っています。
ネットでは週刊マガジン、フォークソング、ピンクレディー、山口百恵などよりも、少年ジャンプ、ファミコン、80年代アイドル、バンドブームのが言及される機会が多い。
『巨人の星』より『キン肉マン』です。
宮台真司は現代社会は「終わりなき日常」であると唱え、援交女子高生の生き方を肯定して脚光を浴びたのですが、ブームが過ぎ去ると天皇がどうしたこうしたと言い始めました。
でもって「絶望から出発しよう」などという本を出したのだけれども、要するにどうすれば世の中がよくなるかわからない、ということですよね。
東浩紀は「ポストモダン」が動物化しているとし、データベース消費が云々と言っていたけれども、多分、真に受けている人はあまりいないでしょう。
最近は「民主主義2.0」「一般意志2.0」というキーワードでネット時代の民主主義のあり方を説いているけど、それが実現した先にどのような幸福があるか、具体的なものは何一つ提示できていません。
岡田斗司夫はこれからは「評価経済社会」である、と打ち出したんだけど、だからといってそれで人々が幸せになるかというと、そんなことは説いていません。
ゼロ年代と言い出したのは誰か知りませんが、宇野常寛と東浩紀周辺あたりでしょう。なんで零(れい)年代とか2000年代とかじゃなくて英語で言っているのかよくわかりませんが、決断主義が云々だそうだけど、結局「ゼロ年代」という言葉だけが内容のないままにひとり歩きしてしまって、決断主義でどうやって幸せになるんだかよくわかりません。
浅羽通明は現在を「成長しない時代」であるとし、その中で幸せを見つけていかなければならない、と述べていたのだけれども、時代が成長しようがしまいが、生存権が脅かされている状況はどうにかしなければならないわけで、いたずらに今の時代を肯定したところで幸せになれる人は限られたごく一部です。
こういう論壇的な知識人のやることって、物語を読み解くようなノリで現実を語っているだけなんじゃないか、という気がしてならないんですよね。
現実世界は物語ではないので、アニメやマンガを読み解くノリで語られても大衆を惑わすだけです。
その時代の価値観の要約、分析という意味では優れた能力を持っている人たちなのかもしれないけど、時代を切り拓く方法論、打開策を見つけられないからといって、適当な解釈で時代にレッテルを貼るのはいかがなものかな、と最近思うようになりました。
所詮、価値観などというものは時代状況や制度によって形成され、変転するものです。
状況が変われば価値観も変わる。
そういう適当で曖昧な価値観に共感しても世の中よくなりゃしないです。
価値観の要約だけしていれば、多くの人の共感を得ることはできるかもしれないけど、歪んだ状況、歪んだ制度のもとで育まれた価値観の枠内で世の中にレッテルを貼ってもそれで我々の生活が向上するわけではない。
我々の価値観や生活が変わるためにはどのような「制度」や「状況」が必要なのか、というアイデアを打ち出すことこそ知識人の役割だろうと思うんだけど、あまりそういう人って見かけません。
逃げろとか、データベースで消費しろとか、終わりなき日常を生きろとか、成長しない時代でボチボチ生きていきましょうとか、決断しなければならないとか、思想家が思想(イデオロギー)を語らず、処世術を語るようになったのも「価値観の変化」ではありますが、肝心の思想家・言論人の人たちはどこまでそれを自覚的にやっているんでしょうかね。
ただ、閉塞感を助長するだけの言説や、現実を無視して読者の人生を肯定する言説を繰り返すだけじゃなくて、世の中をマシなものにする「方法論」と、その「方法論の先にある人々の幸福」をもう少し真摯に考えてもいいんじゃないですかね。
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