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銀英伝の受容のされ方~民主主義の神話へ~

[ 2012/12/10 ]
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こないだ岡田斗司夫のニコ生放送を見ていたら、選挙に行くべきか否か、みたいな話の中で「民主主義は最高ではないけど一番ましな政治体制だということは『銀河英雄伝説』という小説でも言っているからね」と発言していました。

ニコ生岡田斗司夫ゼミ「エヴァQを観た・次回作を予想する・投票権を放棄する」

50歳オーバーでそれなりの影響力を保持する岡田斗司夫でも、政治を考えるときのガイドラインとして銀英伝が機能しているのか、ということに少し驚きました。
たしか以前にも彼は銀英伝に言及した上で政治について何か述べたことがあったように記憶しています。
ちなみに、西部邁だったら「民主主義は文明の敵」だし、橋爪大三郎なら「民主主義はやっぱり最高の政治制度」だし、呉智英だったら「民主主義は最低の政治制度」と言ってたりします。

あるいは2010年、ミッターマイヤーという実在の動物学者の話題がニュース速報+板でスレ立てされた際、ミッターマイヤー氏と同名のキャラがいる、という関連から、銀英伝の話でスレッドが異常な盛り上がりを見せたことがありました。

【国際】ミッターマイヤー氏「霊長類の危機的状況は環境破壊の象徴」 霊長類303種が絶滅危機に-国際自然保護連合★

その祭りは4日間(同一記事によるスレ立ての上限期間)に渡ってかなりの勢いで続いたのですが、ネトウヨの巣窟たるニュース速報+板で、銀英伝の話がこれほど盛り上がるのはちょっと違和感がありました。
原作者の田中芳樹氏は明らかにリベラル思想の持ち主ですからね。
まあ、そうした思想は『創竜伝』のほうがより強く出ていて、銀英伝ではそれほどでもないですけど。

さらにあるいは、私は以前、要人テロによって開かれる未来という記事を書いたのですが、その記事を書いた背景には銀英伝でヤン・ウェンリーが主張していた「テロで歴史は動かない」が念頭にありました。
まあ、元は司馬遼太郎『幕末』における以下の文章だと思いますが。

「暗殺という政治行為は、史上前進的な結果を生んだことは絶無といっていいが、桜田門外の変だけは、例外といえる。明治維新を肯定するとすれば、それはこの桜田門外からはじまる。」

記事の内容は要人テロでしか今の世の中変えられないんじゃないの?という趣旨で、ヤンや司馬遼太郎の考えとは真逆の話ですが。
ただ、この言葉ってわりと印象的だったようで、ネット上いたるところでこの言葉に影響を受けたとおぼしき政治的文章を見つけることができます。
それも司馬遼太郎が使った「暗殺」という言葉ではなくテロ、という言葉です。
右翼左翼問わないし、オタクでない人の文章にも現れることがあります。
なんの根拠もない願望なんだけどあの物語空間においてヤン・ウェンリーというキャラクターの口を通して言われると不思議な説得力が出てしまう。
作中ですらきっちりテロで歴史が動いているのに(笑)


てな感じで、銀英伝は完結してから25年も経つ作品ですが、今だに根強い人気があって、それが政治思想的に強い影響力を持っている、という点は「通常の」傑作と異なる点です。
しかもネットで政治的な発言をする際、ある程度、共通認識となっていて、銀英伝における民主主義理解をベースにした発言が多くみられる、というのは興味深い現象です。
銀英伝で民主主義がどういうものかを理解した、という人は意外に多いんじゃないでしょうか。
政治思想自体が広義のフィクションであるわけだけれども、物語というフィクションで語られた思想がここまで現実に人々の心に根ざしていく様子が観察される、というのは意識しないとわからないことだけど、なかなかすごいことですよね。
四半世紀の時を経て、銀英伝は日本において、民主主義の神話になりつつあるということでしょうか。

その物語としての魅力と思想的説得力の強さ故に、わりと強烈なアンチも生まれていて、批判専門サイトがあったり、揶揄されたりするケースも多々あるし、銀英伝や田中芳樹、ヤン・ウェンリーの思想がどうであろうと、ネット空間は保守的言論のほうが優勢だったりするんですが、それでも私たちの多くは民主主義社会の中で生きることにそれほど疑問を抱いていないし、政治思想書を読み込んだ人でもなければ、民主主義のあり方を語るとき、銀英伝をベースにして語ってしまうケースが多々見られる、と。

それはちょっと恥ずかしいことではあるのかもしれないけど、この政治参加意識の低い日本においては貴重なモデルではあるんじゃないかな、とも思ったり。


続編がつくられることもないのに、これだけ長い間、人々の話題から途切れたことがない作品というのも珍しいです。
最近では舞台化、ミュージカル化したりパチンコになったりなど、メディアミックスもいい加減、やり尽くした感がありますが、それでも、あるいは10年後、20年後くらいにはアニメが再びリメイクされたりするんじゃないかな、と。
それほど先まで残るような作品であるのならば、ますます銀河英雄伝説は「日本の民主主義の神話」としての存在感を増していくことでしょう。

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