野又穫の空想建築
そのうちNHK BSでも放送されるだろうと思っていましたら、6月2日にやっと。もちろん録画しました。
この大好きな横尾さんのドキュメンタリーのなかに、気仙沼との縁を感じたシーンがありましたので紹介します。
番組紹介で〈2年前心筋梗塞に倒れ、生死の境をさまよった。ほかにも難聴、視力の低下、五感が衰えつつある〉とされる横尾さんが、お世話になっている病院をたずねる場面。わずかな秒数なのですが、応接スペースの壁にかけられた一枚の絵に目がとまりました。

野又穫(のまた・みのる)さんの絵だと思うのですが。原画なのか複製なのか、あるいはリトグラフかなど詳しいことはわかりません。
◎「野又穫の空想建築」展
野又さんは気仙沼との縁があるのです。1995年 6月21日から8月20日まで、リアス・アーク美術館での展覧会「野又穫の空想建築」が開催されました。同美術館は1994(平成6年)10月25日に開館しましたから、7カ月後の展覧会ですね。
私は30年前、1994年の夏、気仙沼への帰省時にこの展覧会を見ています。できて間もないリアス・アーク美術館を見てみようということだったのでしょう。
図録も買いました。

リアス・アーク美術館「野又穫の空想建築」展(1995)図録
なかなかいい感じ。表紙デザインを担当したのはアキタ・デザイン・カンと記してあります。グラフィックデザイナー秋田寛さんの事務所です。田中一光デザイン室から独立して事務所を設立して3年後の仕事。秋田さんは2012年に逝去。53歳でした。
展覧会もそうですが、この図録にしても結構ぜいたくな印象を受けます。リアス・アーク美術館は、宮城県によって整備されました。開館間もないころですから、予算も潤沢だったのかもしれません。同美術館は、その後2004年に現在の管理運営者である気仙沼・本吉地域広域行政事務組合に譲渡されています。
◎「野又穫 想像の語彙」展
その野又さんの東京での展覧会がありました。「野又穫 Continuum 想像の語彙」。東京オペラシティ アートギャラリーで2023年7月から9月までの開催でした。Continuum(コンティニュアム)とは、連続するつながりといった意味のようです。
私が訪れたのは9月下旬。酷暑が続く毎日のなかで少し暑さがおさまったかなという雨の日でした。
この展覧会では作品撮影やその画像のSNS投稿も許可されており、これ幸いと結構な枚数の写真を撮りました。そのなかから3点を紹介します。紹介しやすい横長の絵を選んだら、期せずして球体が描かれたものになってしまいました。これはこれで面白い。



この3点で野又さんの世界を知ることはできませんね。どうぞネットで画像検索などしてご覧いただければと。
◎リアスの「ノアの方舟」
最後にもう1点。「Skyglow-H5」という2008年の作品。

Skyglowとは、都会の夜空の輝きといった意味のようです。絵のモチーフとの直接的な関連は感じません。H5とあるので、シリーズ作品名なのでしょう。
作品名はともかくも、この絵を見た多くの人が、「ノアの方舟」を連想するのでないかと。野又さんには、ノアの方舟と同様に旧約聖書「創世記」に登場するバベルの塔をモチーフにした複数の作品があります。展覧会図録の表紙にはそのひとつ「Babel 2005」が使われていました。
そんなこともあって、この絵から「ノアの方舟」を連想するのはごく自然なことに思えます。そして「方舟」といえば、リアス・アーク美術館ですね。同美術館サイトの館名紹介では〈アーク〉をつぎのように説明しています。
〈《アーク》とは《方舟》(はこぶね)を意味し、旧約聖書に記されている洪水伝説中に登場する《方舟》と共通するイメージを持っています。つまり、荒波にも似た時代の流れ、変化の中にある圏域の文化資源を《地域の記憶=無二の財産》として調査研究、収集し、後世に伝えていく当館の使命を象徴しています。〉
〈洪水伝説〉という言葉に〈津波〉を連想してしまいますが、それはまた別の話。
「横尾忠則 87歳の現在地」からずいぶん遠いところに流れついたような気がします。この辺にしておきましょう。
リアスの海辺にある造船場で建造されている、あるいは建造されていた方舟の絵。人の姿はありません。過去の遺物なのか、あるいは未来の遺物のイメージか。
野又さんが描いたこの絵は、旧約聖書の「創世記」ではなく、遠い未来の新世紀にリアスの浜辺で建造されているアーク美術館かもしれません。
以上、私の「空想建築」妄想解説ということで。今週はこれにて。
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