きのうのブログ「モネのなまり指導」を書きながら思いだしたのは、2013年に書いた記事「たんがいでけんね」です。
たとえば、台本にモネのセリフとして「誰か持ち上げてください」とあったとして、これを気仙沼の言葉で「だれがたんがいでけんない」と書き換えても、全国放送では通じませんよね。そんなことを書こうとも思ったのですが、長くなるので省略しました。
付け加えると、書き換えるにしても、〈たんがいでけんね〉とか〈たんがいでけんねすか〉のほうがよくはないかという新たな〈翻訳問題〉が発生します。また、脚本家がその評価というか判断をできないということも大きな問題となるでしょう。
といったことで、その「たんがいでけんね」ブログを以下にふたたび。
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2013年6月25日ブログ再掲
たんがいでけんね防潮堤問題についての〈コンクリート〉な話が続いておりましたので、本日は気仙沼弁の話題でしばしリラックス。
気仙沼の南町で育った妻から聞いた話です。私が適当につくり直しているところがありますが、つぎのようなことでした。
気仙沼市魚町出身のAさんが東京の大学で音楽を学んでおりました。そしてある日のこと、演奏会の準備のために楽器を運んでいたとき、回りの人に声をかけます。
〈誰か、一緒にたんがいでくれませんか〉
そしてその声に〈は〜い〉といって手伝ってくれたのが、山形出身の女子学生だったというのです。
この話を聞いたのは20年以上も前のことなのですが、いま思い出してもかなり笑えます。〈たんがぐ〉とは、〈持ち上げる、移動する〉。『けせんぬま方言アラカルト』(菅原孝雄編)では、用例として「こいづ、重(おも)でがらたんがえですけらいん」を掲げています。〈すけらいん〉は〈助けてください/手伝ってください〉。
Aさんは〈たんがぐ〉を標準語と思っていたのですね。地元気仙沼では〈誰か、一緒にたんがいでけんねすか〉というところを、ちょっとすまして〈誰か、一緒にたんがいでくれませんか〉と。
そのお願いにすぐに反応した山形出身の人。〈たんがぐ〉は山形と〈共通語〉だったのですね。とってもいい感じ。やさしい人柄がしのばれます。
東京に出てきた人の口からこぼれでる故郷の言葉。これをとっても好ましく感じるのは還暦を過ぎたからなのでしょうか。
気仙沼出身のシンガー畠山美由紀さんはいま、毎週土曜日の午前11時から2時間、FMヨコハマの〈Travelin' Light〉という番組でDJをつとめています。なかなか楽しい番組で私も聴いているのですが、美由紀さんのおしゃべりの中に、時として気仙沼の〈なまり〉というか〈かおり〉を感じることがあります。けっして〈たんがぐ〉みたいな言葉を使うということではなく、微妙なイントネーションなのですが、わかる人にはわかる、うれしい瞬間です(笑)。
このFM番組、ネットの〈radiko〉でも聴けますので、是非みなさんも、美由紀さんの語りのなかに気仙沼の〈かおり〉を感じてとってみてください。じゃなかった、〈聴イデミデケンネ〉か。(再掲内容は以上)
なお、ブログ中で紹介した三陸新報社の『けせんぬま方言アラカルト』(菅原孝雄編)の表紙はこんな感じ。

さて、モネの台本中のセリフとして「誰か持ち上げてください」があったとして、佐藤千晶さんならどう書き換えるのでしょうか。私の推測では、「だれが もぢあげでください」かな。〈れ〉と〈げ〉にアクセント記号をつけて。〈もぢ〉か〈もち〉かは微妙なところです。
標準語から方言への〈翻訳〉も難しいけれど、その〈表記〉もなかなかに。つまり、音声を文字としてどう定着させるかということ。
さらに言えば、逆に、方言の表記をどう読むかということも。たとえば、宮澤賢治の「永訣の朝」を朗読するときに〈あめゆじゅとてちてけんじゃ〉のところをどう読むか。これもやっかいなテーマであることがわかるでしょう。
そんなことを考えながら、「おかえりモネ」の宮城ことば指導を担当する鹿野浩明さん、佐藤千晶さんの仕事の奥深さ、そして難しさが少しわかったような気がしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
6月30日ブログ「モネのなまり指導」
テーマ : 気仙沼
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